医療現場で「アクアチム軟膏ってステロイドの強さはどれくらい?」という質問が出たとき、まず押さえるべきは“問いの前提”です。アクアチム軟膏1%はステロイド外用薬ではなく、ニューキノロン系の外用抗菌剤(有効成分:ナジフロキサシン)として位置づけられています。
添付文書の「組成・性状」には、1g中ナジフロキサシン10mg(=1%)と記載され、剤形は白色の軟膏であることが示されています。
「効能又は効果」では、適応菌種として本剤に感性のブドウ球菌属・アクネ菌、適応症として表在性皮膚感染症・深在性皮膚感染症が明記されています。
つまり“強さ”を考える軸は、ステロイドの抗炎症作用の強弱ではなく、「抗菌薬として、どの菌・どの病態に、どの期間で、どう効かせるか」に置き換える必要があります。添付文書には、細菌のDNAジャイレースに作用してDNA複製を阻害し、殺菌的に作用する機序が記載されています。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00049700.pdf
また、臨床のリアルな落とし穴として「抗菌薬を塗っているのに赤みが残る=もっと強い薬(=ステロイド)を足したい」という流れがありますが、赤みの原因が感染ではなく、刺激性皮膚炎・接触皮膚炎・湿疹化・酒さ様など別病態にシフトしている可能性も常に頭に置くべきです(この段階で“ステロイドの強さ”の話がやっと意味を持ち始めます)。
「ステロイドの強さ」は日本では一般に5段階(ストロンゲスト、ベリーストロング、ストロング、ミディアム、ウィーク)で語られます。
この5段階は、あくまで副腎皮質ホルモン(ステロイド)外用薬の効力分類であり、抗菌薬であるアクアチム軟膏には適用しません。
現場で役立つのは、強さの暗記よりも「何を治したいか」を分離して設計することです。
例えば、炎症性ざ瘡や毛包炎で膿疱・丘疹が主体なら、まずは抗菌薬(例:ナジフロキサシン外用)で感染/炎症のドライバーを落としに行く、というロジックは理解しやすいです。
一方、湿疹反応が強い、掻破が強い、紅斑が広がるなど“炎症が主体”の皮疹では、ステロイド外用薬のランク選択が治療成否を左右します。
医療従事者向けに、患者説明へつなげる一言の例も置いておきます。
「アクアチムは菌を減らす薬で、ステロイドは炎症を抑える薬。目的が違うので、必要なら別の薬として強さを選ぶ」—この整理だけで、患者側の“ステロイド恐怖”と医療者側の“何となく追加”の両方を減らせます。
添付文書ベースで重要なのは、アクアチム軟膏が「本品の適量を1日2回、患部に塗布」と定められている点です。
さらに、運用上のクリティカルな一文として「1週間で効果が認められない場合は使用を中止すること」と明確に書かれています。
この“1週間ルール”は、単に無効例を切るだけでなく、診断のズレ(例:ざ瘡様皮疹に見えたが実は酒さ/マラセチア毛包炎/接触皮膚炎など)や、薬剤刺激、あるいは切開排膿など外科的介入が必要な感染巣を見逃さないための安全装置として機能します。
また、「重要な基本的注意」には耐性菌発現などを防ぐため、原則として感受性を確認し、治療上必要な最小限の期間にとどめる旨が記載されています。
外用抗菌薬は“塗っていれば安心”ではなく、むしろ長期化すると「効いているようで効いていない」状態(炎症の自然軽快+耐性/菌交代のリスク)を作りやすいため、期限を決めた設計が重要です。
副作用についても、皮膚のそう痒感、刺激感、発赤、丘疹、接触皮膚炎、皮膚乾燥などが挙げられており、刺激やかぶれが「感染の悪化」に見えることがある点は臨床的に要注意です。
ここが“ステロイドの強さ”の議論と混線しやすいポイントで、刺激性皮膚炎を感染の遷延と誤認して抗菌薬を継続→さらに荒れる、という負のループが起こり得ます。
アクアチム軟膏は抗菌薬であり、炎症そのものを直接抑える「ステロイド作用」はありません。
したがって、臨床上「赤い・かゆい・腫れている」を主訴にする患者に対し、抗菌薬単独で押し切るべきか、ステロイド外用薬を別途追加すべきかは、“感染が主か、炎症が主か”を再評価して決めます。
ただし、感染が明らかな部位に強いステロイドを安易に上乗せすると、免疫抑制で局所の感染コントロールを悪化させる懸念が理屈としては残ります(ここは症例ごとの判断になります)。ステロイド外用薬が免疫抑制作用を持ち、適切なランク選択が重要である点は皮膚科専門医向け解説でも強調されています。
このため、医療チーム内のコミュニケーションでは「アクアチムの強さ」ではなく、「今この皮疹で、抗菌を優先するのか、抗炎症(ステロイドのランク選択)を優先するのか」を主語にした方が事故が減ります。
また、外用剤の“塗り方の設計”も併用成否に直結します。ステロイド外用薬はFTU(Finger-tip unit)などで塗布量を具体化し、急性期は1日2回、落ち着いたら1日1回などに調整する考え方が提示されています。
このように、抗菌薬を「期限を切って短期で」、ステロイドを「強さと量を設計して」使うと、漫然使用(どちらもダラダラ)を避けやすくなります。
【実務で使えるチェックリスト(医療者向け)】
・抗菌薬(アクアチム)を選ぶ根拠:膿疱、毛包中心、圧痛、黄色痂皮、周辺への感染拡大など、感染所見が主体か。
・1週間評価:改善が乏しければ中止し、鑑別と治療目標を組み直す(培養、外用刺激の評価、酒さ/湿疹/真菌など)。
・ステロイドを検討する根拠:紅斑・鱗屑・浸潤・掻破痕など炎症所見が主体で、感染が主ではない(または感染コントロール後の残存炎症)。
検索上位の一般向け記事では見落とされがちですが、添付文書には外用後の血漿中濃度や尿中排泄率といった薬物動態の情報が具体的に載っています。
たとえば健康成人男性の背部に単回塗布した際に血漿中濃度が24時間で最高値0.172ng/mLを示したこと、また反復塗布(5gを1日2回、7日間)で最終塗布後8時間に最高値1.826ng/mLを示したことが記載されています。
さらに、単回塗布後48時間までの尿中排泄率は0.015%であったこと、反復塗布後96時間までの尿中排泄率は塗布量の0.201%であったことも明記されています。
この数字が臨床にどう役立つかというと、患者・スタッフの不安(「塗り薬でも全身に回って危ないのでは?」)への説明材料になります。もちろん、これらは特定条件下のデータであり、実臨床では皮膚バリア破綻、塗布面積、密封、年齢などで状況が変わり得る点は前提として共有すべきですが、“添付文書に根拠がある説明”は信頼形成に直結します。
また、アクアチムは「皮膚のみに使用し、眼科用として角膜・結膜には使用しないこと」と適用上の注意が明確で、顔周りの患者自己判断にブレーキをかける説明にも使えます。
【医療者向け:現場での伝え方(例)】
・「アクアチムはステロイドじゃないので、ステロイドの強さで比べる薬ではありません。菌を抑える目的の薬です。」
・「1週間で効き目が乏しければ中止して、別の原因(かぶれ、湿疹、真菌など)を疑って組み直すのが添付文書どおりです。」
・「“強さ”が必要なら、炎症を抑える薬(ステロイド外用薬)を別に選びます。日本では5段階のランクで選びます。」
参考:アクアチム軟膏の有効成分・用法用量・中止目安(1週間)・副作用・薬物動態が確認できる(添付文書)
https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00049700.pdf
参考:ステロイド外用薬の強さ5段階、FTU、部位/重症度による使い分け、プロアクティブ療法など臨床運用の要点(専門医監修)
https://hokuto.app/post/wKzFyTNZhmiNOJexMnYd
アクトシン軟膏3%(一般名:ブクラデシンナトリウム)は、褥瘡および皮膚潰瘍(熱傷潰瘍、下腿潰瘍)を適応とする「褥瘡・皮膚潰瘍治療剤」です。
医療従事者向けに「効果」を説明する際は、抗菌薬や消毒薬のように“菌を殺して治す薬”ではなく、創傷治癒過程(血流→肉芽→上皮化)を前に進める薬だと整理すると伝わりやすいです。
臨床成績の数字は、患者・スタッフ教育にも使える「共通言語」になります。たとえば国内臨床試験のまとめとして、褥瘡・皮膚潰瘍310例での有効率(有効以上)が65.5%(203/310)と整理されています。
疾患別では褥瘡61.0%(136/223)、熱傷潰瘍83.6%(51/61)、下腿潰瘍61.5%(16/26)という形で提示されており、「どの病態で手応えが出やすいか」をチーム内で共有しやすくなります。
ただし、適応の表現が似ているせいで、熱傷“そのもの”に使えると誤解されがちです。効能・効果に関連する注意として、本剤は「熱傷潰瘍」を適用としているため、潰瘍がみられない熱傷には他の適切な療法を考慮する、と明記されています。
参考)302 Found
この一文は、院内での適正使用(監査・指導)で重要になるポイントなので、ブログ記事でも強調してよい部分です。
アクトシン軟膏3%の有効成分は、cAMPの誘導体であるブクラデシンナトリウム(DBcAMP)で、細胞内でcAMPとなることで効果を発揮すると説明されています。
機序の骨格は「局所血流改善→治癒環境が整う」+「血管新生・肉芽形成・表皮形成の後押し」です。
もう少し臨床実感に寄せるなら、次の4点で理解すると腹落ちしやすいです。いずれもメーカーの薬効薬理の整理として提示されています。
「意外と知られていないが説明に使える」情報として、非臨床でウサギ耳介の血流増加、ラット潰瘍モデルでの潰瘍面積縮小・治癒日数短縮など、血流と治癒の両面のデータが並べて紹介されています。
また、添付文書/IF側の言い回しでは、ブクラデシンナトリウムは体内に入ると比較的容易に細胞膜を通過し、脱アシル化酵素によりcAMPに分解されることで末梢血管拡張作用を示す、という“薬理のストーリー”が説明されています。
創傷治癒の促進薬は「効く/効かない」を単純化しづらい領域ですが、機序をこの順番で語ると、患者説明や新人指導でブレにくくなります。
用法・用量は、潰瘍面を清拭後、1日1~2回、ガーゼ等にのばして貼付または患部に直接塗布する、とされています。
現場では「とりあえず塗る」になりやすいのですが、適用上の注意として“抗菌作用はない”ことが明確に書かれており、潰瘍面を清拭消毒後に使用すること、感染があらわれた場合は抗生物質投与など適切な処置を行うことが求められます。
もう一点、創傷管理の基本として重要なのが壊死組織です。本剤には薬理作用上、壊死組織を積極的に融解する作用はないため、必要に応じて使用前に壊死組織を除去する、とされています。
つまり、アクトシン軟膏の「効果」を最大化するには、デブリードマンや洗浄などで“反応できる創面”をつくることが前提で、薬だけで状況がひっくり返るタイプではありません。
治療評価の時間軸も大事です。用法・用量に関連する注意として、本剤による治療は保存的治療であり、約6週間以上使用しても改善が認められない場合は外科的療法等を考慮すること、と書かれています。
この「6週間」をチームの共通ルールにすると、漫然投与を減らし、創処置の見直し(感染、栄養、圧抜き、血流評価)に戻りやすくなります。
副作用は、皮膚疼痛(1~5%未満)、接触皮膚炎(0.1~1%未満)、接触皮膚炎(水疱)や滲出液増加(頻度不明)と整理されています。
臨床で最も遭遇しやすいのは「塗布部位の疼痛」で、承認前調査では488例中21例(4.3%)に副作用があり、主なものとして疼痛2.9%(14件)などが挙げられています。
医療者向けブログで差がつくのは、“頻度”よりも“起きたときの判断”です。疼痛は創の改善で出現することもあれば、刺激・接触皮膚炎のサインであることもあるため、周囲発赤やそう痒、水疱、滲出増加の有無とセットで評価し、必要なら休薬や処置変更を検討する、という流れが実務的です。
さらに重要な注意点として、広範囲な創面に大量かつ長期に使用すると、ブクラデシンナトリウムを全身投与した場合と同様の症状があらわれることがあるため、血圧・脈拍・心電図・尿量・全身状態・血糖値等を観察し、異常があれば休薬等を行う、とされています。
この“外用なのに全身影響を監視する”という注意は、褥瘡・熱傷潰瘍の現場では見落とされがちで、特に乳児・幼児・小児は注意するよう追記されています。
また、潰瘍改善に伴う新生肉芽は軽微な刺激で新生血管が損傷し出血を招くことがあるため、ガーゼ交換は十分注意して行う、という記載もあり、処置手技の教育ポイントになります。
検索上位の説明は「血流改善」「肉芽・上皮化」が中心になりやすい一方で、臨床運用を左右するのが基剤です。インタビューフォームでは、基剤は吸水効果を有し滲出液を吸収除去し、患部の洗浄が容易な水溶性のマクロゴールである、と説明されています。
つまり、アクトシン軟膏は「有効成分で治癒過程を押す」だけでなく、「基剤設計として湿潤環境・洗浄性・滲出対応に寄与する」という捉え方ができます。
この視点が役立つのは、創のフェーズで処置が迷子になったときです。滲出が多い時期に“塗って終わり”にすると、ガーゼ交換の負担や皮膚トラブルが増えやすいですが、基剤の吸水性を理解していれば「交換頻度」「貼付方法」「皮膚保護」の設計に話を戻せます。
一方で、滲出液増加は副作用としても挙げられているため、増悪なのか、単なる創の動き(炎症・感染・処置刺激)なのかを、創全体の所見で評価する必要があります。
さらに“意外な小ネタ”として、名称の由来は筋の収縮性蛋白であるアクトミオシンに由来すると記載されています。
薬理と直接関係はしませんが、院内勉強会や新人教育で記憶フックになり、薬剤名の取り違え防止にも地味に効く情報です。
適正使用情報(効能・用法・注意点まで網羅、一次情報として確認用)
アクトシン®軟膏3% インタビューフォーム(効能・用法・副作用・注意点・薬物動態まで)
薬効薬理の整理(局所血流改善・血管新生・肉芽形成・表皮形成の機序の要点)
マルホ 医療関係者向け:アクトシン軟膏3%の薬効薬理(作用機序と非臨床データの要約)