副腎皮質ホルモンの副作用と症状、対策

副腎皮質ホルモンの副作用について、感染症リスクから骨粗鬆症まで医療従事者が知るべき症状と対策を解説。長期使用時の注意点とは何でしょうか?

副腎皮質ホルモン副作用

副腎皮質ホルモンの主要副作用
🦠
感染症リスク

免疫抑制により風邪、肺炎、カビ感染のリスクが増大

🦴
骨粗鬆症

骨密度低下により圧迫骨折、大腿骨頸部骨折が起こりやすい

📈
代謝異常

高血糖、糖尿病、脂質異常症、高血圧などの発症

副腎皮質ホルモンは強力な抗炎症作用と免疫抑制作用を持つ薬剤として、自己免疫疾患やアレルギー性疾患の治療に広く使用されています。しかし、その治療効果の高さと引き換えに、様々な副作用を引き起こす可能性があることから、医療従事者には適切な知識と対策が求められます。
プレドニゾロンなどの合成副腎皮質ホルモンは、生理的に必要な量を超えて投与されると、体内のホルモンバランスを大きく変化させます。特に数週間以上の長期投与では、多系統にわたる副作用のリスクが高まるため、投与開始時から適切な監視と予防策が必要です。

副腎皮質ホルモンの感染症副作用

免疫抑制作用は副腎皮質ホルモンの最も重要な副作用の一つです。通常の免疫反応が抑制されることで、細菌、ウイルス、真菌による感染症のリスクが著しく増加します。
易感染性の特徴:

  • 風邪、インフルエンザ、気管支炎、肺炎への罹患率増加
  • カンジダ症、アスペルギルス症などの真菌感染
  • 通常では感染しにくい日和見感染
  • 結核やヘルペスウイルスの再活性化

感染症は通常の発熱パターンを示さないことが多く、微熱程度でも重篤な感染症の可能性があります。そのため、体温変化や全身状態の細かな観察が重要です。
予防対策:

  • 手洗い、うがい、マスク着用の徹底
  • 人混みの回避
  • 予防接種の検討(生ワクチンは禁忌)
  • ST合剤によるニューモシスチス肺炎予防
  • 結核の陳旧性病変がある場合のINH予防投与検討

副腎皮質ホルモンの骨代謝副作用

骨粗鬆症は副腎皮質ホルモンの代表的な副作用で、投与開始から比較的早期に発症する可能性があります。腸管からのカルシウム吸収阻害と骨形成抑制により、骨密度が急速に低下します。
骨粗鬆症の症状:

  • 腰椎圧迫骨折
  • 大腿骨頸部骨折
  • 肋骨骨折
  • 慢性腰痛
  • 身長短縮

特にステロイド性骨粗鬆症は、一般的な骨粗鬆症とは異なり、皮質骨と海綿骨の両方が同時に影響を受けるため、より重篤な骨折リスクを呈します。

 

予防と対策:

  • カルシウム摂取量1,000~1,200mg/日の確保
  • ビタミンD製剤の併用
  • ビスホスホネート製剤の予防投与
  • 適度な運動による筋力維持
  • 定期的な骨密度測定

副腎皮質ホルモンの代謝系副作用

副腎皮質ホルモンは糖代謝、脂質代謝、電解質バランスに大きな影響を与えます。これらの代謝異常は心血管疾患のリスクを増加させるため、注意深い監視が必要です。
高血糖・糖尿病
インスリン抵抗性の増加により血糖値が上昇し、ステロイド糖尿病を発症することがあります。既存の糖尿病患者では血糖コントロールが著しく悪化する可能性があります。

  • 空腹時血糖値の定期的モニタリング
  • 食事療法の徹底(甘いものや果物の摂取制限)
  • 血糖降下薬の調整
  • インスリン導入の検討

脂質異常症
脂質合成促進作用により、総コレステロールLDLコレステロール、中性脂肪が上昇します。
高血圧・浮腫:
ミネラルコルチコイド様作用により、ナトリウムと水分の貯留が起こり、血圧上昇と浮腫を呈します。

  • 自宅血圧測定の励行
  • 塩分制限
  • 降圧薬の導入・調整
  • 利尿薬の使用検討

副腎皮質ホルモンの皮膚・外観副作用

長期使用により特徴的な外観変化が現れ、患者のQOLに大きな影響を与えます。これらの変化は患者の服薬コンプライアンスにも影響するため、事前の説明と心理的サポートが重要です。
皮膚の変化:

  • 皮膚萎縮(皮膚の菲薄化)
  • 毛細血管拡張
  • 紫斑の出現
  • ストレッチマーク(皮膚線条)
  • 創傷治癒遅延
  • 多毛症

皮膚が菲薄化すると、わずかな外力でも皮下出血や裂創を生じやすくなります。また、免疫抑制により細菌や真菌による皮膚感染症のリスクも増加します。
外観の変化(クッシング様症状):

  • 満月様顔貌(ムーンフェイス)
  • 中心性肥満
  • 野牛肩(バッファローハンプ)
  • 腹部脂肪沈着

これらの外観変化は用量依存性で、高用量・長期使用ほど顕著に現れます。

 

副腎皮質ホルモンの精神神経系副作用と管理法

精神神経系の副作用は予測困難で重篤化する可能性があるため、特に注意深い観察が必要です。これらの症状は用量や個人差により大きく異なります。
精神症状:

  • ステロイド精神病
  • 躁状態、うつ状態
  • 不眠症
  • 不安、易怒性
  • 認知機能障害
  • 幻覚、妄想(重症例)

精神症状は投与開始から数日~数週間で出現することがあり、既往歴のない患者でも発症する可能性があります。軽度の不眠や気分変調から重篤な精神病症状まで幅広いスペクトラムを示します。

 

その他の神経系副作用:

  • 筋力低下(近位筋優位)
  • ステロイドミオパチー
  • 良性頭蓋内圧亢進症
  • けいれん閾値の低下

管理のポイント:

  • 投与前の精神科既往歴の確認
  • 家族への症状説明と観察依頼
  • 睡眠導入剤の適切な使用
  • 必要に応じた精神科コンサルテーション
  • 段階的減量による症状改善

副腎皮質ホルモンの副作用は多岐にわたり、患者の生活に大きな影響を与える可能性があります。医療従事者には、これらの副作用を熟知し、適切な予防策と早期発見・対処法を実践することが求められます。また、患者・家族への十分な説明と心理的サポートも治療成功の重要な要素となります。

 

東京女子医科大学のステロイド治療ガイド - 副作用の詳細な解説と対策
日本腎移植学会のステロイド副作用対策ガイドライン - 免疫抑制薬の作用機序と副作用管理