アンジオテンシンII受容体拮抗薬種類一覧と特徴比較

高血圧治療の第一選択薬として広く使用されるアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)の7種類について、作用機序、適応疾患、薬価、配合剤まで詳しく解説します。臨床現場でどのARBを選択すべきか迷っていませんか?

アンジオテンシンII受容体拮抗薬種類一覧

ARB 7種類の概要
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第一選択薬として広く使用

日本で承認されている7種類のARBは高血圧治療ガイドライン2019で第一選択薬に位置づけられています

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AT1受容体選択的阻害

アンジオテンシンIIがAT1受容体に結合するのを阻害し、血管拡張・降圧効果を発揮します

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それぞれ異なる特徴

薬物動態、適応疾患、降圧効果、薬価などで各薬剤に特徴があり、患者に応じた選択が重要です

アンジオテンシンII受容体拮抗薬の基本的作用機序と効果

アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)は、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAA系)を標的とした降圧薬です。アンジオテンシンII(AII)は血管を収縮させ血圧を上昇させる強力な生理活性ペプチドホルモンで、AT1受容体とAT2受容体の2種類の受容体に結合します。

 

ARBの作用機序は以下の通りです。

  • AT1受容体選択的阻害:AIIがAT1受容体に結合するのを競合的に阻害
  • 血管拡張作用:血管平滑筋の収縮を抑制し、末梢血管抵抗を低下
  • アルドステロン分泌抑制:ナトリウム・水分貯留を軽減
  • 腎保護作用:糸球体内圧を低下させ、腎機能を保護

ARBはACE阻害薬と異なり、ブラジキニンの分解を阻害しないため、空咳の副作用が少ないという特徴があります。また、AT2受容体は阻害せず、むしろAIIがAT2受容体に結合しやすくなることで、血管拡張・組織保護作用が期待されます。

 

日本では第2番目に処方数が多い降圧薬として位置づけられており、高血圧治療ガイドライン2019では第一選択薬の一つとして推奨されています。

 

アンジオテンシンII受容体拮抗薬7種類の特徴一覧

日本では2023年7月時点で、以下の7種類のARBが発売されています。
1. ロサルタン(ニューロタン®)

  • 発売順:最初のARB(1998年発売)
  • 代謝経路:肝代謝(CYP2C9、CYP3A4)
  • 特徴:糖尿病性腎症への適応あり
  • 薬価:先発品50mg 81.4円/日、後発品18.7~26.1円/日

2. カンデサルタン(ブロプレス®)

  • 特徴:小児適応(1歳以上)、腎実質性高血圧症、慢性心不全適応
  • 代謝経路:主に腎排泄
  • 薬価:先発品8mg 76.4円/日、後発品14.7~39.7円/日

3. バルサルタン(ディオバン®)

  • 特徴:バランスの取れた薬物動態
  • 代謝経路:肝代謝と腎排泄
  • 薬価:先発品80mg 45.6円/日、後発品18.2~22.8円/日

4. オルメサルタン(オルメテック®)

  • 特徴:承認用量での降圧効果が高い
  • 代謝経路:主に腎排泄
  • 薬価:先発品20mg 58.8円/日、後発品13.1~29.6円/日

5. テルミサルタン(ミカルディス®)

  • 特徴:100%胆汁排泄、CYP2C19の寄与率が低い
  • 半減期:最も長い(約24時間)
  • 薬価:先発品40mg 75.8円/日、後発品11.1~23.7円/日

6. イルベサルタン(イルベタン®)

  • 特徴:良好な薬物動態プロファイル
  • 代謝経路:肝代謝と腎排泄
  • 薬価:先発品100mg 73.0~76.0円/日、後発品16.0~26.9円/日

7. アジルサルタン(アジルバ®)

  • 特徴:日本での最大用量40mgにおいて、他のARBより降圧効果が高い
  • 代謝経路:主に肝代謝
  • 薬価:先発品20mg 140.2円/日(後発品なし)

アンジオテンシンII受容体拮抗薬の適応疾患と選択基準

各ARBは基本的に高血圧症に適応がありますが、一部の薬剤では特定の疾患への適応も承認されています。
高血圧症での選択基準

  • 第一推奨薬:オルメサルタン、テルミサルタン(承認用量での降圧効果が高い)
  • 第二推奨薬:カンデサルタン(小児適応、心不全適応)、アジルサルタン(最高の降圧効果)

特定疾患への適応
🔹 糖尿病性腎症

  • ロサルタン:糖尿病性腎症の進行抑制に関するエビデンスが豊富

🔹 小児高血圧症

  • カンデサルタン:1歳以上の小児での使用が可能

🔹 腎実質性高血圧症

  • カンデサルタン:腎機能保護作用が期待される

🔹 慢性心不全(軽症~中等症)

  • カンデサルタン:ACE阻害薬が適切でない場合の選択肢

腎機能・肝機能による選択

  • 腎機能低下患者:テルミサルタン(100%胆汁排泄)
  • 肝機能低下患者:カンデサルタン、オルメサルタン(主に腎排泄)

アンジオテンシンII受容体拮抗薬の薬価比較と経済性

ARBの薬価は先発品と後発品で大きな差があり、医療経済性を考慮した選択が重要です。
先発品の1日薬価(代表的用量)

  • アジルサルタン:140.2円(20mg)- 最も高価
  • ロサルタン:81.4円(50mg)
  • カンデサルタン:76.4円(8mg)
  • テルミサルタン:75.8円(40mg)
  • イルベサルタン:73.0~76.0円(100mg)
  • オルメサルタン:58.8円(20mg)
  • バルサルタン:45.6円(80mg)- 最も安価

後発品の薬価範囲

  • ロサルタン:18.7~26.1円(約77%削減)
  • カンデサルタン:14.7~39.7円(約67~81%削減)
  • バルサルタン:18.2~22.8円(約60~72%削減)
  • オルメサルタン:13.1~29.6円(約50~78%削減)
  • テルミサルタン:11.1~23.7円(約69~85%削減)
  • イルベサルタン:16.0~26.9円(約65~78%削減)

経済性を考慮した選択戦略

  • 後発品使用促進の観点から、アジルサルタン以外の6剤では後発品の選択が有効
  • 同等の降圧効果が期待できる場合は、薬価の安い後発品を優先
  • 患者の病態や併存疾患を考慮し、必要に応じて先発品を選択

アンジオテンシンII受容体拮抗薬の配合剤と組み合わせ療法

単剤での血圧コントロールが不十分な場合、ARBと他の降圧薬の配合剤が広く使用されています。
利尿薬配合剤

  • ヒドロクロロチアジド(HCTZ)配合
  • プレミネント(ロサルタン+HCTZ)
  • エカード(カンデサルタン+HCTZ)
  • コディオ(バルサルタン+HCTZ)
  • ミコンビ(テルミサルタン+HCTZ)
  • レザルタス(オルメサルタン+HCTZ)
  • イルトラ(イルベサルタン+HCTZ)
  • ザクラス(アジルサルタン+HCTZ)
  • トリクロルメチアジド(TCM)配合
  • ロサルヒド(ロサルタン+TCM)
  • ユニシア(カンデサルタン+TCM)

カルシウム拮抗薬配合剤

  • アムロジピン配合
  • エックスフォージ(バルサルタン+アムロジピン)
  • ミカムロ(テルミサルタン+アムロジピン)
  • アイミクス(イルベサルタン+アムロジピン)
  • ジルムロ(アジルサルタン+アムロジピン)
  • アゼルニジピン配合
  • カムシア(カンデサルタン+アゼルニジピン)

3剤配合剤

  • ミカトリオ:テルミサルタン+アムロジピン+ヒドロクロロチアジド

配合剤選択の利点

  • 服薬アドヒアランス向上:1日1回の服薬で複数の機序による降圧効果
  • 相乗効果:ARBと利尿薬、ARBとCa拮抗薬の組み合わせで相加的な降圧効果
  • 副作用軽減:低用量の組み合わせにより単剤高用量よりも副作用を軽減

選択指針

  • 軽度浮腫がある場合:利尿薬配合剤
  • 冠動脈疾患合併:Ca拮抗薬配合剤
  • 重症高血圧:3剤配合剤も考慮

ARBは現在の高血圧治療において中心的な役割を担っており、各薬剤の特徴を理解した適切な選択と、必要に応じた配合剤の使用により、個々の患者に最適な血圧管理が可能となります。