ACE阻害薬の種類と特徴を医療従事者向けに解説

ACE阻害薬の12種類の特徴、作用機序、適応症、副作用について詳しく解説。ARBとの使い分けや腎保護作用も含めた臨床での選択指針を提供しています。どの症例にどのACE阻害薬を選ぶべきでしょうか?

ACE阻害薬の種類と特徴

ACE阻害薬の基本情報
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現在使用可能な12種類

カプトプリル、エナラプリル、リシノプリルなど多様な選択肢

アンジオテンシン変換酵素阻害

血圧降下と臓器保護の双方を実現する作用機序

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第一選択薬としての位置づけ

Ca拮抗薬、ARB、利尿薬と並ぶ高血圧治療の中核

ACE阻害薬の主要12種類と商品名一覧

現在日本で高血圧治療薬として使用されているACE阻害薬は12種類存在します。これらの薬剤は、それぞれ異なる特徴と適応症を持っており、患者の病態に応じた選択が重要です。

 

プロドラッグタイプのACE阻害薬

  • エナラプリル(レニベース):慢性心不全にも適応を持つ代表的薬剤
  • イミダプリル(タナトリル):1型糖尿病性腎症に適応、空咳の頻度が低い
  • テモカプリル(エースコール):胆汁中・尿中の両方に排泄される特徴
  • デラプリル(アデカット):本態性・腎性・腎血管性高血圧症に適応
  • アラセプリル(セタプリル):本態性・腎性高血圧症に適応
  • ベナゼプリル(チバセン):高血圧症専用の薬剤
  • トランドラプリル(オドリック):高血圧症に適応
  • ペリンドプリル(コバシル):高血圧症に適応

活性型ACE阻害薬

  • カプトプリル(カプトリル):初のACE阻害薬、悪性高血圧にも適応
  • リシノプリル(ロンゲス):慢性心不全にも適応、腎排泄のみ

販売中止薬剤

  • シラザプリル(インヒベース):現在は販売中止
  • キナプリル(コナン):現在は販売中止

各薬剤の選択において、プロドラッグタイプは肝臓で代謝活性化されるため肝機能が重要な考慮点となり、活性型は直接作用するため肝機能低下患者でも使用しやすいという特徴があります。

 

ACE阻害薬の作用機序と降圧効果

ACE阻害薬の降圧作用は、レニン-アンジオテンシン系の阻害による多面的な効果によって発現します。アンジオテンシン変換酵素(ACE)を阻害することで、アンジオテンシンⅠからアンジオテンシンⅡへの変換が抑制され、血管収縮とアルドステロン分泌が減少します。

 

主要な作用機序

  • アンジオテンシンⅡ産生抑制による血管収縮の軽減
  • アルドステロン分泌抑制によるナトリウム・水分貯留の改善
  • ブラジキニン分解抑制によるNO遊離促進と血管拡張
  • カリクレイン-キニン系・プロスタグランジン系の増強

ACE阻害薬は即効性ではなく、有効性の評価は投与開始から4~8週後に行われます。この遅延効果は、レニン-アンジオテンシン系の抑制による血管リモデリングや内皮機能改善が段階的に進行するためです。

 

腎における特殊な作用
アンジオテンシンⅡは腎臓において主として輸出細動脈を収縮させ、糸球体内圧を上昇させます。ACE阻害薬は輸出細動脈を輸入細動脈よりも拡張させる作用があるため、糸球体内圧を減少させて腎保護作用を示します。

 

降圧療法における位置づけとして、「高血圧治療ガイドライン2014」ではACE阻害薬をCa拮抗薬、ARB、利尿薬とともに第一選択薬として位置づけています。

 

ACE阻害薬の適応症と腎保護作用

ACE阻害薬は単なる降圧薬にとどまらず、多様な適応症において臓器保護作用を発揮する薬剤です。特に慢性腎臓病を背景疾患に持つ高血圧症患者では第一選択として選ばれることが多くあります。

 

高血圧症における適応

  • 本態性高血圧症:全てのACE阻害薬に共通の適応
  • 腎性高血圧症:多くのACE阻害薬で適応を持つ
  • 腎血管性高血圧症:カプトプリル、デラプリル、テモカプリルで適応
  • 悪性高血圧:カプトプリル、エナラプリルで適応

心血管系疾患における適応

  • 慢性心不全:エナラプリル(レニベース)、リシノプリル(ロンゲス)、カンデサルタン12mg以外のブロプレスで適応
  • 心筋梗塞後:エナラプリルなどで心保護作用が期待される

糖尿病性腎症における特殊な適応
イミダプリル(タナトリル)は「1型糖尿病に伴う糖尿病性腎症」に適応を持つ唯一のACE阻害薬です。ただし、2型糖尿病性腎症には適応がないことに注意が必要です。

 

腎保護作用のメカニズム
ACE阻害薬の腎保護作用は、糸球体内圧の低下による糸球体硬化の抑制が主要な機序です。アンジオテンシンⅡは輸出細動脈を収縮させて糸球体内圧を上昇させ、メサンギウム細胞の増殖やTGF-βを介して糸球体硬化を進展させますが、ACE阻害薬はこれらの過程を抑制します。

 

一方で、輸出細動脈の拡張による内圧低下は濾過機能の低下にもつながるため、急性腎障害を引き起こす一つの要因になることもあります(トリプルワーミー)。

 

ACE阻害薬の副作用と注意点

ACE阻害薬には特徴的な副作用があり、患者指導と定期的なモニタリングが重要です。特にアジア人では欧米人と比較して空咳の発現頻度が高いことが知られています。

 

特徴的な副作用

  • 空咳:最も頻度の高い副作用で、ブラジキニン蓄積が原因
  • 血管浮腫:重篤な副作用として注意が必要
  • 高カリウム血症:アルドステロン抑制によるカリウム保持作用
  • 急性腎機能悪化:特に脱水や利尿薬併用時に注意

禁忌・慎重投与

  • 妊娠中の服用は禁忌:催奇形性のリスク
  • 両側腎動脈狭窄:急激な腎機能悪化のリスク
  • 高カリウム血症既往:定期的な電解質モニタリングが必要

薬物相互作用の注意点
利尿薬との併用では、利尿薬のナトリウム排泄低下により代償的にレニン-アンジオテンシン系が亢進するため、ACE阻害薬併用時に過度の血圧低下が起こる可能性があります。このため、ACE阻害薬と利尿薬の合剤が開発され、臨床で有効性が確認されています。

 

特殊な薬剤における注意点
テモカプリル(エースコール)は胆汁中および尿中の両方に排泄されるため、腎機能・肝機能の両方を考慮した用量調整が必要です。イミダプリル(タナトリル)は海外用量の1/2で使用されており、空咳の発現頻度が低いという特徴があります。

 

ACE阻害薬とARBの使い分けポイント

ACE阻害薬とアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)は、いずれもレニン-アンジオテンシン系を標的とする降圧薬ですが、作用点と副作用プロファイルが異なるため、適切な使い分けが重要です。

 

エビデンスと効果の違い
エビデンスの量と心筋梗塞抑制効果の観点では、ACE阻害薬の方がARBに比べて優位性があります。これは、ACE阻害薬の方が臨床研究の蓄積が多く、心血管イベント抑制効果が確立されているためです。

 

副作用プロファイルの比較

  • ACE阻害薬:空咳、血管浮腫の頻度が高い
  • ARB:空咳、血管浮腫の頻度が低く忍容性が良好

空咳や血管浮腫の副作用を考慮すれば、ACE阻害薬よりもARBの方が優位性があります。特にアジア人では空咳の発現頻度が高いため、この点は重要な考慮事項となります。

 

ARBの降圧力の序列
ARBには報告されている強さの順に以下の序列があります。

  • アジルバ(アジルサルタン)> オルメテック(オルメサルタン)> ミカルディス(テルミサルタン)> ブロプレス(カンデサルタン)> ニューロタン(ロサルタン)

より強い降圧を求める場合はアジルバを選択し、高齢者で強い降圧を求めない場合にはニューロタンを選択することが多くあります。

 

臨床での使い分け指針

  • 心筋梗塞既往:エビデンスの豊富さからACE阻害薬を優先
  • 空咳の既往:ARBを第一選択として考慮
  • 慢性腎臓病:どちらも腎保護作用があるが、忍容性を重視してARBを選択することが多い
  • 慢性心不全:ACE阻害薬(エナラプリル、リシノプリル)が第一選択

両者に共通する注意点として、妊娠中の服用禁忌、血清カリウム上昇によるしびれ症状の発現があります。また、どちらも即効性ではなく、4~8週後の効果判定が必要です。