現在日本で高血圧治療薬として使用されているACE阻害薬は12種類存在します。これらの薬剤は、それぞれ異なる特徴と適応症を持っており、患者の病態に応じた選択が重要です。
プロドラッグタイプのACE阻害薬
活性型ACE阻害薬
販売中止薬剤
各薬剤の選択において、プロドラッグタイプは肝臓で代謝活性化されるため肝機能が重要な考慮点となり、活性型は直接作用するため肝機能低下患者でも使用しやすいという特徴があります。
ACE阻害薬の降圧作用は、レニン-アンジオテンシン系の阻害による多面的な効果によって発現します。アンジオテンシン変換酵素(ACE)を阻害することで、アンジオテンシンⅠからアンジオテンシンⅡへの変換が抑制され、血管収縮とアルドステロン分泌が減少します。
主要な作用機序
ACE阻害薬は即効性ではなく、有効性の評価は投与開始から4~8週後に行われます。この遅延効果は、レニン-アンジオテンシン系の抑制による血管リモデリングや内皮機能改善が段階的に進行するためです。
腎における特殊な作用
アンジオテンシンⅡは腎臓において主として輸出細動脈を収縮させ、糸球体内圧を上昇させます。ACE阻害薬は輸出細動脈を輸入細動脈よりも拡張させる作用があるため、糸球体内圧を減少させて腎保護作用を示します。
降圧療法における位置づけとして、「高血圧治療ガイドライン2014」ではACE阻害薬をCa拮抗薬、ARB、利尿薬とともに第一選択薬として位置づけています。
ACE阻害薬は単なる降圧薬にとどまらず、多様な適応症において臓器保護作用を発揮する薬剤です。特に慢性腎臓病を背景疾患に持つ高血圧症患者では第一選択として選ばれることが多くあります。
高血圧症における適応
心血管系疾患における適応
糖尿病性腎症における特殊な適応
イミダプリル(タナトリル)は「1型糖尿病に伴う糖尿病性腎症」に適応を持つ唯一のACE阻害薬です。ただし、2型糖尿病性腎症には適応がないことに注意が必要です。
腎保護作用のメカニズム
ACE阻害薬の腎保護作用は、糸球体内圧の低下による糸球体硬化の抑制が主要な機序です。アンジオテンシンⅡは輸出細動脈を収縮させて糸球体内圧を上昇させ、メサンギウム細胞の増殖やTGF-βを介して糸球体硬化を進展させますが、ACE阻害薬はこれらの過程を抑制します。
一方で、輸出細動脈の拡張による内圧低下は濾過機能の低下にもつながるため、急性腎障害を引き起こす一つの要因になることもあります(トリプルワーミー)。
ACE阻害薬には特徴的な副作用があり、患者指導と定期的なモニタリングが重要です。特にアジア人では欧米人と比較して空咳の発現頻度が高いことが知られています。
特徴的な副作用
禁忌・慎重投与
薬物相互作用の注意点
利尿薬との併用では、利尿薬のナトリウム排泄低下により代償的にレニン-アンジオテンシン系が亢進するため、ACE阻害薬併用時に過度の血圧低下が起こる可能性があります。このため、ACE阻害薬と利尿薬の合剤が開発され、臨床で有効性が確認されています。
特殊な薬剤における注意点
テモカプリル(エースコール)は胆汁中および尿中の両方に排泄されるため、腎機能・肝機能の両方を考慮した用量調整が必要です。イミダプリル(タナトリル)は海外用量の1/2で使用されており、空咳の発現頻度が低いという特徴があります。
ACE阻害薬とアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)は、いずれもレニン-アンジオテンシン系を標的とする降圧薬ですが、作用点と副作用プロファイルが異なるため、適切な使い分けが重要です。
エビデンスと効果の違い
エビデンスの量と心筋梗塞抑制効果の観点では、ACE阻害薬の方がARBに比べて優位性があります。これは、ACE阻害薬の方が臨床研究の蓄積が多く、心血管イベント抑制効果が確立されているためです。
副作用プロファイルの比較
空咳や血管浮腫の副作用を考慮すれば、ACE阻害薬よりもARBの方が優位性があります。特にアジア人では空咳の発現頻度が高いため、この点は重要な考慮事項となります。
ARBの降圧力の序列
ARBには報告されている強さの順に以下の序列があります。
より強い降圧を求める場合はアジルバを選択し、高齢者で強い降圧を求めない場合にはニューロタンを選択することが多くあります。
臨床での使い分け指針
両者に共通する注意点として、妊娠中の服用禁忌、血清カリウム上昇によるしびれ症状の発現があります。また、どちらも即効性ではなく、4~8週後の効果判定が必要です。