バラシクロビルの重篤な副作用は生命に危険を及ぼす可能性があるため、医療従事者は早期識別と迅速な対応が求められます。最も重篤なアナフィラキシーショック・アレルギー反応では、呼吸困難、血管浮腫、蕁麻疹、血圧低下などが急速に進行します。初回投与後30分以内に発症することが多く、エピネフリン自動注射器の準備と救急対応体制の確立が不可欠です。
急性腎障害は特に高齢者や腎機能低下患者で発症リスクが高く、血清クレアチニン値の上昇、BUN上昇、尿量減少を伴います。投与前後の腎機能モニタリングが重要で、クレアチニンクリアランスが50mL/min以下の患者では用量調整が必要です。
血小板減少性紫斑病では、血小板数の急激な低下により出血傾向、紫斑、点状出血が出現します。定期的な血液検査による血小板数監視と、出血症状の観察が欠かせません。
消化器系副作用はバラシクロビル投与患者の約15-30%に認められ、臨床現場で最も頻繁に遭遇する副作用です。主な症状として腹痛(発症率約5-12%)、下痢(2-7%)、嘔気(5-8%)、腹部不快感が報告されています。
腹痛対応では、まず重篤な合併症(急性膵炎、消化管穿孔など)の除外診断を行います。軽度の腹痛であれば、食後服用への変更、制酸薬やプロトンポンプ阻害薬の併用が有効です。下痢症状では、脱水予防のため経口補水液の摂取指導を行い、重度の場合は電解質バランスの監視が必要です。
嘔気・嘔吐に対しては、制吐薬(メトクロプラミド、ドンペリドンなど)の予防的投与を検討します。食事指導では、刺激の少ない消化しやすい食物の摂取、少量頻回摂食を推奨しています。
症状が持続する場合や重篤化する際は、一時的な減量または中止を検討し、必要に応じてアシクロビル点滴への切り替えを行います。
精神神経系副作用は高齢者、腎機能障害患者、HIV感染者で発症リスクが高く、重篤化しやすい副作用として注意が必要です。主な症状には意識障害(昏睡)、せん妄、妄想、幻覚、錯乱、痙攣、てんかん発作、麻痺、脳症などがあります。
初期症状として軽度の意識低下、見当識障害、不穏状態が現れることが多く、これらの症状を見逃さない観察が重要です。意識レベルの評価にはJapan Coma Scale(JCS)やGlasgow Coma Scale(GCS)を用いた定期的な評価を実施します。
せん妄症状では、環境調整(照明の調整、騒音の軽減)、家族の付き添い、必要に応じてハロペリドールなどの抗精神病薬の慎重な使用を検討します。痙攣発作時は気道確保、酸素投与、ジアゼパムやロラゼパムなどの抗けいれん薬の投与を迅速に行います。
これらの症状が認められた場合は、直ちにバラシクロビルの投与中止と支持療法を開始し、必要に応じて血液透析による薬物除去を検討します。
皮膚科系副作用は軽微なものから生命に関わる重篤なものまで幅広く、適切な識別と対応が求められます。軽度の副作用では発疹、蕁麻疹、そう痒、光線過敏症が報告されており、これらは投与開始後数日以内に出現することが多いです。
光線過敏症対策では、直射日光の回避、日焼け止めの使用、長袖衣服の着用を指導します。軽度の発疹・そう痒には抗ヒスタミン薬の内服や外用ステロイドの適用が有効です。
重篤な皮膚障害として、中毒性表皮壊死融解症(TEN)、皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)があります。これらは発熱、全身倦怠感に続いて、広範囲の紅斑、水疱形成、表皮剥離が急速に進行する致命的な副作用です。
早期診断のポイントは、発症48時間以内の皮膚症状の急速な拡大、粘膜病変(口腔、眼、陰部)の併発、Nikolsky徴候陽性などです。疑診時は直ちに投与中止し、皮膚科専門医への緊急コンサルト、集中治療管理下での全身管理が必要です。
バラシクロビルの腎毒性は臨床上重要な副作用であり、特に透析患者や腎機能低下患者では慎重な管理が必要です。腎機能正常患者でも急性腎障害の報告があり、尿細管間質性腎炎による可逆性の腎機能低下が主な機序です。
腎機能モニタリングでは、投与前のベースライン値測定、投与開始後48-72時間での再検査、長期投与例では週1-2回の定期検査を実施します。血清クレアチニン値が前値の1.5倍以上、またはBUN値の著明な上昇を認めた場合は、用量調整または投与中止を検討します。
透析患者における用量調整は、クレアチニンクリアランス値に基づいて行います。
血液透析によりバラシクロビルは除去されるため、透析後の補充投与が必要です。腹膜透析では薬物除去率が低いため、用量調整はより慎重に行います。
脱水状態は腎毒性のリスク因子となるため、適切な水分摂取指導と輸液管理が重要です。非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、アミノグリコシド系抗生物質など他の腎毒性薬物との併用は可能な限り避けるべきです。