抗ウイルス薬の種類と一覧
抗ウイルス薬の分類と特徴
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作用機序による分類
DNAポリメラーゼ阻害、逆転写酵素阻害、プロテアーゼ阻害など、標的となる酵素によって分類される
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適応症別の薬剤選択
COVID-19、ヘルペス、HIV、インフルエンザなど、対象ウイルスに応じた最適な薬剤選択が重要
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副作用と注意点
腎機能障害、薬物相互作用、耐性ウイルスの出現など、臨床使用上の重要な注意事項
抗ウイルス薬の分類と作用機序
抗ウイルス薬は作用機序によって大きく4つのカテゴリーに分類されます。
DNAポリメラーゼ阻害薬
ヘルペスウイルス系感染症で主に使用される薬剤群です。アシクロビル、バラシクロビル、ガンシクロビルなどが代表的で、ウイルスDNAの合成を阻害することでウイルス増殖を抑制します。これらの薬剤は、ウイルス由来のチミジンキナーゼ(TK)によってリン酸化され、その後DNAポリメラーゼを阻害する特徴があります。
逆転写酵素阻害薬
HIV治療の中核を担う薬剤群で、ヌクレオシド系(NRTI)と非ヌクレオシド系(NNRTI)に分けられます。NRTIには以下のような薬剤があります。
- ジドブジン(AZT)
- ラミブジン(3TC)
- エムトリシタビン(FTC)
- テノホビル(TDF/TAF)
- アバカビル(ABC)
NNRTIには。
- エファビレンツ(EFV)
- リルピビリン(RPV)
- ドラビリン(DOR)
プロテアーゼ阻害薬
HIVの成熟過程を阻害する薬剤で、リトナビル、ダルナビル、アタザナビルなどがあります。これらは他の薬剤との併用により、薬物動態の改善や耐性バリアの向上を図ることができます。
その他の作用機序
インテグラーゼ阻害薬(ラルテグラビル、ドルテグラビル)、侵入阻害薬、成熟阻害薬など、近年開発された新しい作用機序の薬剤も臨床で重要な役割を担っています。
COVID-19治療に使用される抗ウイルス薬一覧
COVID-19治療において、現在日本で承認されている抗ウイルス薬は4種類です。
レムデシビル(ベクルリー®)
- 適応:ハイリスクの軽症~重症患者
- 投与方法:3日間の点滴治療
- 特徴:元々エボラ出血熱治療薬として開発された薬剤で、ウイルスRNAポリメラーゼを阻害
- 効果:肺炎患者の回復期間を5日短縮、軽症者の入院・死亡リスクを抑制
- 妊娠:有益性投与、動物試験で催奇形性なし
モルヌピラビル(ラゲブリオ®)
- 適応:ハイリスクの軽症~中等症Ⅰ患者
- 投与方法:経口薬(初の飲み薬)
- 効果:入院・死亡を30%減少
- 注意:妊婦・授乳婦禁忌、服用中・服用後4日間は避妊推奨
ニルマトレルビル・リトナビル(パキロビッド®パック)
- 適応:ハイリスクの軽症~中等症Ⅰ患者、重症化リスクのある軽症小児
- 効果:入院・死亡リスクを89%減少
- 注意:併用禁忌薬が多数存在、腎機能に応じた用量調整必要
- 妊娠:有益性投与、動物試験で催奇形性なし
エンシトレルビルフマル酸(ゾコーバ®)
- 適応:軽症~中等症Ⅰ患者(重症化リスクなしでも使用可能)
- 特徴:日本初の緊急承認適用薬剤
- 効果:症状回復期間を1日短縮
- 注意:併用禁忌薬多数、妊婦・授乳婦禁忌
これらの薬剤選択では、患者の重症化リスク、腎機能、併用薬、妊娠の可能性などを総合的に評価することが重要です。
ヘルペスウイルス感染症に対する抗ウイルス薬の種類
ヘルペスウイルス感染症に対する抗ウイルス薬は、主にDNAポリメラーゼ阻害薬が使用されます。
アシクロビル(ゾビラックス®)
- 適応:HSV-1/2、VZV感染症
- 作用機序:ウイルス由来TKによるリン酸化後、DNAポリメラーゼ阻害
- バイオアベイラビリティ:15-21%と低値
- 投与量。
- 中枢神経感染症:10mg/kg q8hr
- 単純ヘルペス:200mg 1日5回(内服回数が多い点が課題)
- 副作用:腎機能障害(5%)、アシクロビル脳症
バラシクロビル(バルトレックス®)
- 特徴:アシクロビルのプロドラッグ
- バイオアベイラビリティ:55%(アシクロビルより改善)
- 投与量。
- 帯状疱疹:3000mg/日 7日間(500mg×6錠分3)
- 単純ヘルペス:初回500mg 1日2回、再発1000mg 1日2回
- 利点:服用回数の減少により患者コンプライアンス向上
ガンシクロビル(デノシン®)
- 適応:CMV感染症
- 作用機序:CMV由来酵素とヒト細胞由来酵素でリン酸化
- 投与量。
- 初期投与:5mg/kg q12hr 14日間
- 維持投与:5mg/kg q24hr
- 副作用:骨髄抑制(好中球減少、血小板減少)、中枢神経症状
- 注意:開始後2週間で骨髄抑制出現、中止後1週間で改善
ホスカルネット(ホスカビル®)
- 適応:GCV耐性CMV感染症、ACV耐性HSV/VZV感染症
- 作用機序:DNAポリメラーゼ直接阻害(リン酸化不要)
- 投与量。
- CMV:初期60mg/kg q8hr、維持90-120mg/kg q12hr
- ACV耐性HSV/VZV:40mg/kg q8hr
- 副作用:腎機能障害(1/3で出現)、電解質異常(低Ca、低Mg血症)
- 禁忌:CCr<0.4ml/min/kg、ペンタミジン併用
ビダラビン(アラセナA®)
- 適応:ACV耐性単純ヘルペス脳炎、帯状疱疹皮膚症状
- 作用機序:細胞由来TKによるリン酸化(ウイルス選択性なし)
- 注意:単純ヘルペス脳炎ではACVと比較して予後不良のため単独使用不推奨
- 副作用:精神神経障害、骨髄抑制
HIV感染症治療における抗ウイルス薬の分類
HIV治療は複数の薬剤を組み合わせたHAART(Highly Active Antiretroviral Therapy)が標準的治療です。
ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤(NRTI)
HIV治療の基盤となる薬剤群で、以下の薬剤が使用されます。
- ジドブジン(AZT):最初に開発されたHIV治療薬、現在は主に配合剤として使用
- ラミブジン(3TC):B型肝炎にも適応、耐性獲得しやすい
- エムトリシタビン(FTC):1日1回投与可能、腎機能による減量必要
- テノホビル(TDF/TAF):TDFは腎・骨毒性、TAFは改良型で副作用軽減
- アバカビル(ABC):HLA-B*5701陽性例では過敏症のリスク
非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤(NNRTI)
- エファビレンツ(EFV):中枢神経系副作用、薬物相互作用に注意
- リルピビリン(RPV):未治療HIV-1感染症に適応、食事と併用必要
- ドラビリン(DOR):2020年承認の新薬、薬物相互作用が少ない
プロテアーゼ阻害薬(PI)
- リトナビル(RTV):現在は主にブースターとして使用
- ダルナビル(DRV):耐性バリアが高い、1日1回投与可能
- アタザナビル(ATV):ビリルビン上昇による黄疸が特徴的副作用
インテグラーゼ阻害薬(INSTI)
- ラルテグラビル(RAL):薬物相互作用が少ない
- ドルテグラビル(DTG):耐性バリア高く、1日1回投与
- ビクテグラビル(BIC):配合剤として使用
配合剤の活用
近年は服薬アドヒアランス向上のため、複数薬剤を1錠にした配合剤が主流です。
- コムプレラ配合錠:RPV/TDF/FTC
- オデフシィ配合錠:RPV/TAF/FTC
- ジャルカ配合錠:DTG/RPV(2剤レジメン)
抗ウイルス薬選択における耐性と副作用の注意点
抗ウイルス薬の臨床使用において、耐性ウイルスの出現と副作用管理は最重要課題です。
薬剤耐性の機序と対策
ヘルペスウイルスにおいて、アシクロビル耐性は主にチミジンキナーゼ(TK)変異により生じます。TK欠損株や変異株では、アシクロビル、バラシクロビルが無効となるため、TK非依存性のホスカルネットが選択されます。HIV治療では、不完全な治療により容易に耐性が獲得されるため、確実なウイルス抑制が重要です。
腎機能に応じた用量調整
多くの抗ウイルス薬は腎排泄性のため、腎機能に応じた用量調整が必須です。
- アシクロビル:結晶性腎症のリスク、投与速度の調整重要
- ガンシクロビル:クレアチニンクリアランスに応じた減量
- テノホビル:慢性腎疾患の進行リスク、定期的な腎機能モニタリング必要
薬物相互作用への対応
- COVID-19治療薬:パキロビッド、ゾコーバは多数の併用禁忌薬存在
- HIV治療薬:特にプロテアーゼ阻害薬はCYP3A4を阻害し、多くの薬剤と相互作用
- 処方前の確認:患者の併用薬リストを必ず確認し、相互作用チェック実施
妊娠・授乳期の使用制限
- レムデシビル、パキロビッド:有益性投与として使用可能
- モルヌピラビル、ゾコーバ:催奇形性のため妊婦禁忌
- ラゲブリオ:服用中・服用後4日間の避妊指導必要
稀少だが重篤な副作用
- アシクロビル脳症:高齢者や腎機能低下例で注意
- ホスカルネット:電解質異常(低Ca、低Mg血症)による痙攣リスク
- HIV治療薬:免疫再構築症候群、心血管イベントリスク
モニタリング項目の設定
定期的な検査項目として以下を設定。
- 腎機能(Cr、BUN、eGFR)
- 肝機能(AST、ALT、総ビリルビン)
- 血球系(白血球、血小板)
- 電解質(Na、K、Ca、Mg、P)
これらの注意点を踏まえ、患者背景を十分評価した上で最適な抗ウイルス薬を選択することが、安全で効果的な治療につながります。
国立成育医療研究センターの新型コロナウイルス感染症治療薬情報
https://www.ncchd.go.jp/kusuri/covid19_yakuzai_medical.html