丁寧に疑義照会をした薬剤師より、簡潔に1文で照会した薬剤師のほうが医師からの信頼スコアが高いという調査結果があります。
疑義照会とは、薬剤師が処方箋の内容に疑問や不明点があるとき、処方した医師・歯科医師に確認を行う行為です。薬剤師法第24条により、「処方箋中に疑わしい点があるときは、その処方箋を交付した医師・歯科医師・獣医師に問い合わせて、その疑わしい点を確かめた後でなければ調剤してはならない」と定められています。
これは「できれば望ましい」行為ではありません。義務です。
疑わしい点をそのままにして調剤した場合、薬剤師は行政処分の対象になり得ます。実際、疑義照会を怠ったことが原因で患者に健康被害が生じたケースでは、業務停止処分や損害賠償請求に発展した事例も報告されています。
疑義照会が必要になる主な場面は以下のとおりです。
まず「何を確認しなければならないか」を明確にすることが基本です。
電話でも文書でも、疑義照会の構成は「結論(何を確認したいか)→理由(なぜ疑問を持ったか)→提案(代替案があれば)」の順が最も伝わりやすいです。
医師は1日に数十件の電話対応をしています。冒頭に要件を言わず、背景説明から始める照会は「結局何が聞きたいの?」と思わせてしまい、関係構築にも影響します。
構成の基本は3ステップです。
提案まで用意しておくと医師の判断負荷が下がり、返答が数秒早くなります。これは使えそうです。
また、文書(FAXやシステム上の照会票)で行う場合は、患者氏名・生年月日・処方日・処方薬品名・照会内容・照会者氏名・連絡先を必ず記載します。記載漏れがあると折り返し確認が増え、対応時間が2倍以上になる場合もあります。
ここでは実務でそのまま使える例文を場面別に紹介します。電話での口頭照会を想定した文体にしています。
📌 用量オーバーの場合
> 「先生、〇〇薬局の薬剤師△△と申します。患者様の処方についてご確認させていただきたいのですが、ロキソプロフェン錠が1回2錠・1日3回で処方されており、添付文書の1日上限180mgを超える240mgとなっております。患者様の体重や痛みの程度で意図的な増量でしょうか?それとも1回1錠・1日3回へのご変更でよろしいでしょうか?」
📌 重複投薬の場合
> 「先生、〇〇薬局の薬剤師△△です。本日の処方にアムロジピン5mgが含まれておりますが、患者様は他院でノルバスク5mgを継続処方されているとのことで、Ca拮抗薬の重複が疑われます。今回のアムロジピンの処方はノルバスクからの切り替えのご意図でしょうか?それとも削除すべき記載でしょうか?ご確認いただけますか?」
📌 禁忌薬の疑いがある場合
> 「先生、〇〇薬局の薬剤師△△です。処方されたジクロフェナクについてですが、患者様がアスピリン喘息の既往をお持ちとのお話でした。NSAIDsが禁忌に該当する可能性がございますが、そのままお出しすることに問題はないでしょうか?アセトアミノフェンへの変更はご検討いただけますか?」
📌 用法が不明確な場合
> 「先生、〇〇薬局の薬剤師△△です。プレドニゾロン錠の用法に『適宜』とのみ記載がございます。具体的な服用タイミング(食後・食前・起床時など)と1回量をご確認いただけますか?」
これらの例文には共通したポイントがあります。
例文はあくまで型です。患者の状態や処方意図によって柔軟にアレンジしてください。
疑義照会は実施するだけでなく、内容を正確に記録することが法的に求められています。薬剤師法施行規則第16条に基づき、疑義照会の内容は調剤録に記載しなければなりません。
記録に残すべき項目は以下のとおりです。
記録が曖昧だと後から問題になります。
特に「医師に確認したが記録がない」状態は、実質的に「照会していない」とみなされるリスクがあります。裁判例では、記録の不備が薬剤師の過失認定に影響したケースが複数存在します。
電子薬歴システムを使っている薬局では、疑義照会の入力フィールドを必ず活用してください。紙薬歴の場合は、処方箋の余白や調剤録の専用欄に直接記入し、署名と日時を忘れずに残します。記録が残れば問題ありません。
また、FAXや電子メールで照会した場合は、そのデータまたは印刷物を処方箋とともに保管しておくことが推奨されます。FAXの送信記録と医師側の返信原本がセットで残っていると、監査時に非常に有効な証拠となります。
疑義照会の回数が多い薬剤師は「細かい」「仕事が遅い」と思われるのではないか、という不安を持つ人は少なくありません。しかし実際には、照会の「頻度」より「質」のほうが医師の評価に直結します。
「準備なしで電話してくる薬剤師」より「根拠と代替案を持って1回で解決する薬剤師」のほうが、医師からの信頼が明らかに高い、というのが現場の実態です。
具体的には、以下のような「質の低い照会」が医師の不満につながりやすいです。
逆に、「この患者は腎機能低下があり、eGFR推定30以下のため、メトホルミンの継続に禁忌が生じる可能性があります。グリメピリド0.5mgへの変更はいかがでしょうか」という形で照会すると、医師から「あの薬剤師さんに任せておけば安心」という評価につながります。
照会の質を上げるための準備として、日常的に以下の習慣をつけることが有効です。
質の高い疑義照会が条件です。それが、薬剤師としての専門性を医師に示す最も直接的な機会でもあります。
疑義照会の書き方や例文についてより深く学びたい場合は、日本薬剤師研修センターが提供する研修プログラムや、薬局ヒヤリハット事例収集・分析事業のデータベースが参考になります。実際の照会事例と医師の反応が蓄積されており、現場感覚と照らし合わせた学習に役立ちます。
日本薬剤師研修センター(研修・資格情報)。
https://www.jpec.or.jp/
公益財団法人 日本医療機能評価機構「薬局ヒヤリハット事例収集・分析事業」。
https://www.yakkyoku.jcqhc.or.jp/