HFrEF(Heart Failure with reduced Ejection Fraction)は、左室駆出率(LVEF)が低下した心不全を指し、臨床的には「収縮性心不全」「左室駆出率が低下した心不全」とも整理されます。
2025年改訂版の心不全診療ガイドラインの枠組みでは、LVEFによる分類が国際的な基準に合わせて整理され、HFrEFはLVEF≦40%、HFmrEFは41~49%、HFpEFは≧50%とされています。
この分類は「病態の違いを完全に説明する」ためというより、臨床試験の対象集団や薬物治療のエビデンスが、EFで線引きされてきた歴史と相性が良いという実務的な意味合いが大きい点を意識すると、現場の迷いが減ります。
さらに近年は、もともとHFrEFだった患者でLVEFが40%超へ改善し、かつLVEFが10%以上向上した場合をHFimpEF(LVEFの回復した心不全)と定義して扱う流れが明確化されています。
医療現場で「hfrefとは?」と聞かれたときは、①EFの目安(≦40%)と、②“収縮能低下が中心である”という病態の方向性、③“予後改善が期待できる治療が確立している領域”の3点で返すと説明が短くても通じやすいです。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/aa90f018f9741bdafe9d5a071468ec7ab396a4d3
HFrEFの原因として多いのは、心筋梗塞や狭心症など、心筋への血流低下・途絶によりダメージが生じる虚血性心疾患である、という整理が基本になります。
そのほかにも心筋炎や拡張型心筋症など、心筋そのものに炎症や障害が起こる病態が原因になり得ます。
症状は「心拍出量低下」と「うっ血」の2つの方向から出ると捉えると理解しやすく、呼吸困難、動悸、息切れ、胸痛などが問題になります。
さらに、肺うっ血が進むと肺水腫を来して呼吸困難が前景に出ることがあり、全身のむくみや倦怠感など体液貯留を示す所見も増えていきます。
消化管うっ血や低灌流が重なると、食欲不振や栄養吸収不良など“循環器症状に見えにくい訴え”として現れることもあるため、問診で拾う価値があります。
「息切れ=呼吸器」と短絡せず、既往(虚血性心疾患など)と、体重増加・下腿浮腫・起坐呼吸などのうっ血サインをセットで見て、HFrEFの悪化を疑う導線を作るのが安全です。
HFrEFが疑われる場合、心不全診療の中心的な検査として「ナトリウム利尿ペプチド(BNP/NT-proBNP)」と「心エコー」が重要とされ、症状・身体所見・一般検査と組み合わせて診断します。
血液検査ではBNP(心負荷で上昇)やトロポニンT(心筋ダメージで上昇)などを測定し、心不全の評価だけでなく原因検索や全身状態(貧血など)も合わせて確認します。
心エコーは、HFrEFの枠組みでは「左室駆出率が低下している」という所見が診断の柱になり、治療選択や経時評価にも直結します。
画像検査としては胸部X線で心拡大や肺水腫の有無を評価し、原因検索として冠動脈CTなどが検討される場合もあります。
心電図は虚血や左室肥大など原因の手がかりを得る目的で行われ、救急外来・病棟いずれでも初動として有用です。
あまり知られていない“現場の落とし穴”として、心不全の定義が「症状がある」だけでなく、BNP/NT-proBNP上昇または心臓由来の肺/体うっ血の客観的所見の裏付けを重視する方向に整理されている点があります。
そのため、症状が非典型(高齢・認知機能低下・フレイルで訴えが曖昧)な場面ほど、バイオマーカーと客観所見で“診断の芯”を作るのが実務的に役立ちます。
参考:2025年改訂の心不全診療ガイドラインでの定義・BNP/NT-proBNPカットオフ・LVEF分類の変更点
ケアネット:2025年改訂版 心不全診療ガイドライン改訂点まとめ
症候性の慢性期HFrEFでは、予後改善が示されている薬物療法が治療の中心であり、「標準治療を積み上げる」こと自体がアウトカムに直結します。
治療の基本形として、ACE阻害薬またはARBとβ遮断薬に、MRAを追加し、効果が不十分な場合はACE阻害薬/ARBをARNIへ切り替える流れが示されています。
さらにSGLT2阻害薬は、糖尿病の有無にかかわらず考慮するとされており、循環器内科だけでなく多職種チームで“いつ導入され、何をモニターするか”を共有しておくと運用が安定します。
むくみが強い場合には利尿薬を使用し、症状・重症度に応じて用量調整を行う、という対症療法の位置づけも押さえておく必要があります。
薬剤がそろっていても、血圧・腎機能・カリウム・脈拍などの制約で「十分量に届かない」「途中で止まる」ケースが起こりやすいので、処方設計は“導入”だけでなく“増量と継続”を前提に組み立てます。
最大限の薬物療法でも症状が持続する場合にはデバイス治療が検討され、また急性増悪では酸素投与や人工呼吸管理が必要になることがある、という急性期対応も同時に想起できると安全です。
参考:HFrEFの治療薬の全体像(ACE阻害薬/ARB/ARNI、β遮断薬、MRA、SGLT2阻害薬など)の概説
メディカルノート:HFrEF(原因・症状・検査・治療)
近年、HFrEFだった患者が治療でLVEF40%超へ改善し、LVEFが10%以上向上した場合をHFimpEFと定義して扱う流れが示され、分類が“固定ラベル”ではなく“経過で動くラベル”になっています。
ここで現場が悩むのが、「EFが改善した=治った」と患者が理解してしまい、自己中断や通院間隔延長、あるいは医療者側の“減薬したくなる気持ち”が生まれやすい点です。
HFrEFの薬物治療は、単なる症状改善ではなく生命予後の改善を目的に組まれている、という説明軸を維持することで、「数値が良くなったから薬をやめる」短絡を防ぎやすくなります。
また、ガイドラインの改訂では、心不全が症候群であること、そしてうっ血やバイオマーカーなどの客観所見で裏付けるという考え方が強調されているため、EFだけで安心しない説明(体重・浮腫・息切れ・BNP/NT-proBNPなどを含めた再評価)が説得力を持ちます。
医療従事者向けの実務メモとして、HFimpEFの患者では「診断名(分類)が変わる」ことが、紹介状・退院サマリ・薬剤情報提供書・地域連携パスの整合性に影響します。
用語の揺れ(HFrEFのまま記載、HFimpEFへ更新、過去のEF値が書かれていない等)があると、受け手側が“なぜこの薬が必要なのか”を再推論するコストが増えるため、LVEF推移と治療意図を文書で明示するのが結果的に医療安全に寄与します。
| 項目 | HFrEF | HFimpEF |
|---|---|---|
| EFのイメージ | 低下(LVEF≦40%) | HFrEFから改善し、LVEF40%超かつ10%以上向上 |
| 説明の落とし穴 | 「息切れが落ち着いた=完治」と誤解されやすい | 「EFが改善=治癒」と誤解され、自己中断が起きやすい |
| 医療文書の工夫 | 原因(虚血など)と標準治療の意図を明記 | EF推移と“改善後も予防目的で継続”を明記 |

Chronische Herzinsuffizienz mit reduzierter Auswurffraktion (HFrEF) (UNI-MED Science) (German Edition)