骨折既往とは何か・定義と臨床での注意点を解説

骨折既往とは過去に骨折した経歴のことですが、その評価が患者の治療方針や手術リスクに直結することをご存じですか?

骨折既往とは何か・定義と臨床での注意点

骨折既往がない患者でも、次の骨折リスクが健常者の3倍以上になるケースがあります。


🦴 骨折既往とは?3つのポイント
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定義

骨折既往とは、患者が過去に骨折した経歴・履歴のことを指す医療用語です。

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臨床的意義

骨折既往は骨粗鬆症の重要なリスク因子であり、次回骨折リスクの予測指標として用いられます。

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評価の重要性

問診時に骨折既往を正確に把握することで、適切な治療介入と再骨折予防につながります。


骨折既往とは:医療現場での正式な定義

骨折既往(こっせつきおう)とは、患者が現在の受診より以前に、骨折を経験した履歴・経歴のことを指します。日常的なカルテ記載や問診票では「骨折の既往はありますか?」という形で確認されることが多い用語です。


「既往」とは医療用語で「過去に経験した疾患や外傷の記録」を意味します。つまり骨折既往は、既往歴(きおうれき)の中の骨折に関する項目です。


臨床現場では単に「過去に骨折したことがある」という事実の記録にとどまらず、その骨折がいつ・どの部位で・どのような原因で起きたかという詳細情報が重要視されます。特に骨粗鬆症の診断や治療方針の決定において、骨折既往の有無と内容は不可欠な情報です。


正確に言えばこうです。骨折既往は「いつ、どこで、どんな状況で折れたか」まで含めて評価するものです。


骨折既往の臨床的意義と骨粗鬆症リスク評価

骨折既往がある患者は、そうでない患者と比べて将来的な骨折リスクが約2〜3倍高いとされています。これは骨密度検査(DXA法)の結果が正常範囲内であっても同様です。


つまり骨密度が高くても油断は禁物です。


WHOの骨折リスク評価ツール「FRAX®(フラックス)」でも、骨折既往は独立したリスク因子として10年間の骨折確率算出に使われます。FRAX®は日本語版も公開されており、50歳以上の患者の骨折リスクを定量的に評価できます。


骨折既往の部位によってもリスクの重みが異なります。特に「脆弱性骨折(ぜいじゃくせいこっせつ)」と呼ばれる、軽微な外力で生じた骨折の既往は、骨粗鬆症の存在を強く示唆します。転倒程度のエネルギーで起きた大腿骨近位部骨折椎体骨折橈骨遠位端骨折の既往は特に重要です。


これが基本です。骨折既往=単なる履歴ではなく、リスク層別化の指標と捉えるのが正しい理解です。


参考:日本骨粗鬆症学会が提示するFRAX®の解説と使い方
日本骨粗鬆症学会 – FRAX®について


骨折既往の問診・記録で医療従事者が見落としやすいポイント

「過去に骨折したことはありますか?」という問いかけに対し、患者が「ない」と答えても実際には骨折していたケースが一定数あります。


なぜそうなるのでしょうか?


理由のひとつは、椎体骨折(背骨の骨折)の約6〜7割が無症候性、つまり自覚症状のないまま発生しているためです。患者本人が「骨折した」と認識していないため、問診で「なし」と答えてしまいます。これを「潜在性椎体骨折」と呼び、腰背部痛の原因として見逃されやすい病態です。


📌 椎体骨折の約60〜70%は自覚症状がないとされています(骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版より)。


もうひとつの見落としパターンは、「昔に肋骨を打って、病院に行ったら骨折と言われた」のような軽微な骨折を患者が「骨折とは思っていない」ケースです。医療従事者側から積極的に「どこかを打って病院に行ったことはありますか」「骨にヒビが入ったと言われたことは?」と細分化した問いを立てることが重要です。


見落としを防ぐには問診の言い回しを変えることが効果的です。


骨折既往とDXA・画像評価の組み合わせ方

骨折既往の有無を確認したうえで、次に行うべき評価が骨密度測定(DXA法)と画像診断です。ただし、骨密度だけで骨折リスクを判断するのは不十分とされています。


実際、大腿骨近位部骨折患者の約半数は、骨密度がT値−2.5以上(骨粗鬆症の診断基準を満たさない範囲)であることが報告されています。これは重要な事実です。


DXAと骨折既往を組み合わせることで、骨質(骨の微細構造・代謝回転の異常)へのアプローチが可能になります。椎体骨折の評価には、胸腰椎のX線正側面撮影またはDXAに付随するVFA(椎体骨折評価)が有用です。





























評価方法 得られる情報 特徴・注意点
DXA(骨密度測定) 骨量・T値・Z値 骨質は反映しない
胸腰椎X線 椎体変形・圧迫骨折 無症候性骨折の発見に有効
FRAX® 10年骨折確率 骨折既往を入力変数として使用
骨代謝マーカー 骨形成・骨吸収速度 治療効果のモニタリングに使用


結論はこうです。骨折既往+DXA+骨代謝マーカーの三点セットが、精度の高いリスク評価の標準形です。


参考:骨粗鬆症の診療における骨密度測定の位置づけ
厚生労働省 – 骨粗鬆症に関する情報


骨折既往がある患者の再骨折予防:医療従事者が介入すべき具体的タイミング

骨折した直後の数ヶ月間は、次の骨折が最も起きやすい「骨折後ハイリスク期」です。これは意外と知られていません。


研究によると、骨折後12ヶ月以内に再骨折するリスクは、その後の期間と比べて約5倍高いとされています。この時期を「イミネント骨折リスク(切迫骨折リスク)」と呼び、2020年代以降の骨粗鬆症ガイドラインで重要視されています。


にもかかわらず、日本では骨折治療後に骨粗鬆症の薬物療法が開始される割合は20〜30%程度にとどまるという報告があります。治療ギャップが大きいということです。


この課題を解決するために設けられた仕組みが「骨折リエゾンサービス(FLS:Fracture Liaison Service)」です。FLSは骨折患者に対して、整形外科・内科・リハビリテーション・看護・薬剤師が連携して骨粗鬆症評価と治療介入を行う多職種連携モデルです。英国では全国的に普及しており、日本でも導入施設が増加しています。


実際にFLSを導入した施設では、骨粗鬆症治療開始率が60〜80%まで向上したというデータもあります。これは使えそうです。


骨折既往のある患者を診た際、整形外科で骨折治療が完結して終わりにするのではなく、骨粗鬆症の評価と薬物療法開始を同時にスケジューリングすることが再骨折予防のです。


📌 具体的なアクション例。


  • 骨折入院中にDXA測定・FRAX®評価を実施する

  • 退院前に骨粗鬆症専門外来または内科への紹介状を作成する

  • 薬剤師と連携して骨粗鬆症治療薬の服薬指導を行う

  • 転倒リスク評価(TUGテストなど)をリハビリ担当者と共有する


再骨折予防は骨折治療と同時に始めるのが原則です。


参考:骨折リエゾンサービスと骨粗鬆症連携の実際
日本整形外科学会 – 骨粗鬆症診療情報