イレウス腸閉塞違いは定義と原因の分類

イレウスと腸閉塞は日本では混同されがちですが、厳密には原因と病態が異なります。急性腹症診療ガイドラインで定義された正しい用語の使い分けや診断、治療法を知っていますか?

イレウスと腸閉塞の違い

この記事のポイント
📋
用語の定義

イレウスは腸管麻痺による機能的障害、腸閉塞は物理的な閉塞を指す

🏥
分類の重要性

機械的腸閉塞は単純性と絞扼性に分類され、治療法が大きく異なる

⚠️
診断と治療

絞扼性腸閉塞は緊急手術が必要で、単純性イレウスは保存的治療が原則

イレウスと腸閉塞の定義における違い

 

日本では長年「イレウス=腸閉塞」として同義語のように扱われてきましたが、2015年に出版された「急性腹症診療ガイドライン」では、この2つの用語を明確に区別することが推奨されました。厳密には、イレウスとは腸管麻痺によって腸管蠕動が低下し、腸管内容物の通過が障害された状態を指します。一方、腸閉塞は腸管内腔が物理的に閉塞または狭窄している状態のことです。
参考)概念が新しくなった「腸閉塞」と「イレウス」—その鑑別が重要

PubMedの定義によると、イレウスは「機械的閉塞がない状態(without any mechanical obstruction)」とされており、物理的な閉塞がある場合には使用されません。つまり、本来の意味でのイレウスは「機能的イレウス」または「麻痺性イレウス」を指し、腸管そのものの動きが低下または停止している状態を表します。
参考)「白衣の戦士!」に学ぶ「腸閉塞」と「イレウス」の違い|けいゆ…

この用語の混同は国際的にも誤解を招く可能性があるため、医療現場では正確な呼称を使い分けることが重要です。従来は「絞扼性イレウス」と呼ばれていた病態も、ガイドラインに従えば「絞扼性腸閉塞」と呼ぶべきとされています。
参考)https://www.m3.com/news/iryoishin/836022

イレウスと腸閉塞の原因による分類

腸管通過障害は原因によって大きく機械的腸閉塞と機能的イレウスに分類されます。機械的腸閉塞は、腸管の内腔が物理的に閉塞されて内容物が通過できない状態で、全体の約90%を占めます。主な原因には、腹部手術後の癒着(最も頻度が高い)、大腸癌、腸捻転、腸重積、ヘルニア嵌頓、腸管内異物などがあります。
参考)腸閉塞(イレウス)かも?腹痛・嘔吐・便が出ない症状は和歌山市…

機能的イレウスは、腸管の物理的な閉塞はないものの、腸の蠕動運動が低下または停止して内容物が移動できなくなった状態です。術後腸管麻痺、腹膜炎などの感染症、低カリウム血症などの代謝異常、抗コリン薬や麻薬性鎮痛薬などの薬剤性が原因となります。
参考)https://www.lab2.toho-u.ac.jp/med/ri/syoukakitopics4.html

さらに機械的腸閉塞は、腸管や腸間膜の血流障害の有無によって単純性(閉塞性)腸閉塞と絞扼性(複雑性)腸閉塞に細分化されます。単純性腸閉塞は血流障害を伴わないため比較的緊急性は低く、保存的治療で改善する可能性があります。一方、絞扼性腸閉塞は腸管壁の血管が圧迫されて血行障害が起こるため、腸管壊死に至る危険性が高く、緊急手術が必要です。
参考)腸閉塞(イレウス)|オリンパス おなかの健康ドットコム

イレウスと腸閉塞の症状の違い

イレウスと腸閉塞の4大症状は、腹痛、嘔吐、排ガス・排便の停止、腹部膨満です。ただし、原因や病態によって症状の程度や出現パターンが異なるため、鑑別診断が重要になります。
参考)腸閉塞

単純性腸閉塞では、腸管内容物が停滞するため腹部膨満感や嘔気、嘔吐が起こり、徐々に間欠的な腹痛を来すことが多いです。腸蠕動音は亢進し、金属音が聴取されることもあります。一方、絞扼性腸閉塞では腸管の血流障害を伴うため、急激で持続する強い痛みが特徴的で、腹部触診では強い圧痛を認めます。血行障害が進行すると、出血や潰瘍、穿孔、腹膜炎などが生じ、死に至るリスクもあるため早期診断が極めて重要です。
参考)腹痛・嘔吐・うんちが出ない原因 ~イレウス(腸閉塞)~

機能的イレウス(麻痺性イレウス)では、腸蠕動音の低下または消失が特徴的で、腹痛があっても軽度のことが多いです。腹部膨満や嘔吐は認めますが、腹膜刺激症状は通常みられません。術後や炎症性疾患に伴って発症することが多く、原因疾患の治療が優先されます。
参考)イレウス|病気症状ナビbyクラウドドクター

イレウスと腸閉塞の診断方法

イレウスと腸閉塞の診断には、詳細な問診と身体診察に加えて、画像診断が不可欠です。問診では腹部手術歴、排便状況、症状の経過を確認し、身体診察では腹部の視診、触診、聴診を行って腸蠕動音の性状や腹膜刺激症状の有無を評価します。
参考)腸閉塞・イレウス

画像診断では、まず腹部単純X線検査超音波検査を実施します。腹部単純X線検査では、拡張した腸管や鏡面像(niveau像)、腸管ガス像の異常などが腸閉塞を示唆する所見となります。超音波検査では、拡張した腸管や腸管壁の肥厚、腹水の有無などを評価できます。
参考)http://www.igaku.co.jp/pdf/resident0905-2.pdf

CT検査は腸閉塞の診断において最も重要な役割を果たします。腸管閉塞部より口側の腸管拡張と、拡張腸管から虚脱腸管への口径移行部を同定することで機械的腸閉塞と診断できます。さらに造影CTでは、絞扼性腸閉塞の特徴的所見であるwhirl sign(渦巻き状の腸管・血管構造)やclosed loop(閉じた腸管ループ)、腸管壁の造影不良などを検出できるため、緊急手術の必要性を判断する上で極めて有用です。血液検査では、白血球増加やCRP上昇などの炎症所見、脱水による腎機能障害、代謝性アシドーシスなどを評価します。
参考)https://jat-jrs.jp/journal/37-3/37-3osada.pdf

イレウスと腸閉塞の治療法の違い

イレウスと腸閉塞の治療方針は、病態の種類によって大きく異なります。機能的イレウス(麻痺性イレウス)の場合は、基本的に保存的治療が原則で、絶飲食、点滴による水分・電解質補正、経鼻胃管による胃内容の排出などを行います。原因疾患(術後状態、感染症、代謝異常など)の治療が最優先となり、外科手術が必要となることはほとんどありません。
参考)https://medicalnote.jp/diseases/%E3%82%A4%E3%83%AC%E3%82%A6%E3%82%B9/contents/170619-002-PG

単純性腸閉塞に対しても、まず保存的治療を試みます。絶飲食と補液に加えて、経鼻胃管やイレウス管を挿入して腸管内容物を排出し、腸管内の圧力を下げる減圧処置を行います。イレウス管は閉塞部まで進めることで、腸管の減圧だけでなく閉塞の原因や状態を調べる効果もあります。保存的治療で1~2日間経過観察し、改善傾向がみられない場合は手術治療を考慮します。
参考)https://clinicalsup.jp/jpoc/contentpage.aspx?diseaseid=1540

絞扼性腸閉塞は腸管壊死のリスクが高いため、診断がつき次第、緊急手術の適応となります。壊死腸管を早急に切除しなければ全身状態が悪化し、敗血症多臓器不全に至る可能性があるため、迅速な外科的介入が生命予後を左右します。手術では絞扼の解除、壊死腸管の切除、癒着剥離などが行われます。​
済生会:イレウス(腸閉塞)の詳細な症状と治療法の解説
メディカルノート:腸閉塞の手術と保存的治療の選択基準