NRSで「10点」を訴える患者の7割以上は、実際には中等度の痛みであることが研究で示されています。
NRS(Numerical Rating Scale)は、痛みの強さを0から10までの数字で患者自身に評価してもらうスケールです。「0=まったく痛みなし」「10=想像できる最大の痛み」と定義し、患者に口頭または紙面で回答してもらいます。
シンプルな構造が最大の強みです。特別な道具が不要で、ベッドサイドでも救急外来でも即座に実施できます。WHO方式のがん疼痛治療ガイドラインでも採用されており、世界的に標準的な痛み評価ツールとして認知されています。
スコアの解釈には一定の目安があります。一般的に、1〜3を「軽度」、4〜6を「中等度」、7〜10を「重度」と分類することが多いです。ただしこの区分はあくまで目安であり、同じ「6点」でも患者によって日常生活への影響は大きく異なります。
数字だけで判断しないことが重要です。NRSはあくまで主観的な指標であるため、患者の表情・体動・バイタルサインと組み合わせて総合的に評価することが臨床では求められます。
日本緩和医療学会のガイドラインでもNRSが推奨されており、疼痛管理の基本ツールとして位置づけられています。
日本緩和医療学会「がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2020年版」(NRSの使用推奨について記載あり)
NRS以外にも、臨床でよく使われる痛み評価スケールがあります。代表的なのはVAS(Visual Analogue Scale)とFPS-R(Faces Pain Scale-Revised)です。
VASは100mmの直線上に患者が印をつける方式で、微細な変化を捉えやすい反面、紙と定規が必要で高齢者や認知機能低下患者には難しい場面があります。研究・臨床試験では精度が高く好まれますが、日常臨床での手軽さではNRSが上です。
FPS-Rは6段階の表情イラストで痛みを表現するスケールです。これは子どもや言語コミュニケーションが難しい患者に有効で、4歳以上の小児から使用できます。成人でも認知症がある患者や、日本語が母語でない患者への使用が推奨されています。
つまり適切なスケール選択が条件です。
| スケール | 対象 | 特徴 |
|---------|------|------|
| NRS | 成人(認知機能正常) | 口頭で簡便、標準的 |
| VAS | 研究・詳細評価 | 精度高いが道具必要 |
| FPS-R | 小児・認知機能低下者 | 表情で直感的に回答 |
認知症患者に対しては、PAINAD(Pain Assessment in Advanced Dementia)スケールという行動観察型の評価ツールも有用です。呼吸・発声・表情・体の動き・慰めやすさの5項目を0〜2点で評価し、合計0〜10点で痛みを推定します。
スケールを場面に応じて使い分けることが、より正確なペインマネジメントにつながります。これは使えそうです。
NRSには重大な限界があります。それは「患者の期待・感情・文化的背景」がスコアに大きく影響するという点です。
ある研究では、同じ術後疼痛の患者でも、医療者への信頼度が高い患者は平均1〜2点低いNRSスコアを報告する傾向があることが示されています。逆に、鎮痛剤をもらえないと思っている患者は実際より高いスコアを報告することもあります。
また、慢性疼痛患者では「痛みへの慣れ」が生じるため、急性期と同じ基準でスコアを解釈するのは危険です。慢性腰痛患者が「3点」と言っても、そのQOLへの影響は急性期の「3点」よりはるかに大きい場合があります。
スコアの変化を追うことが原則です。一時点の絶対値よりも、治療前後の変化量(例:「6点→3点」のように50%以上の減少)をアウトカム指標にする方が、臨床的に意味があります。
さらに「10点をつける患者=最重症」とは限りません。痛みの表現に慣れていない患者や、不安が強い患者が最高点をつける傾向があるため、スコアとともに必ず行動観察を行うことが重要です。
NRSは一度測って終わりではありません。経時的に記録・比較することで初めてその真価を発揮します。
記録のポイントは「いつ・どの痛みを・何点か」を明示することです。例えば「安静時NRS 4点、体動時NRS 7点」のように、状況を分けて記録することで、より詳細な痛みの状態が把握できます。がん疼痛では「突出痛(breakthrough pain)」の頻度や持続時間も合わせて記録することが推奨されています。
電子カルテへの入力では、数値だけでなく「患者が訴えた言葉(pain descriptor)」も一言添えると引き継ぎに役立ちます。「ズキズキする」「締め付けられる」「焼けるような」といった表現は、痛みの性質(侵害受容性か神経障害性か)を鑑別するヒントになります。
治療効果の判定基準も明確にしておく必要があります。一般的に「2点以上の低下」または「初期値から30〜50%の減少」が臨床的に意味のある改善とされています。この基準を事前にチームで共有しておくと、鎮痛剤の用量調整の判断が統一されます。
NSAIDsやオピオイドの投与後は30〜60分後に再評価するのが標準的なプロトコルです。これが条件です。
厚生労働省「がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン」PDF(NRSの経時的記録と評価に関する記載あり)
これはあまり語られない視点ですが、NRSのスコアは「痛みの量」しか測れません。臨床的に重要なのは「痛みの質(nature of pain)」です。
神経障害性疼痛の患者は、侵害受容性疼痛と同じNRS「5点」でも、治療アプローチがまったく異なります。前者はプレガバリンやデュロキセチンが有効で、後者はNSAIDsが効きやすい。スコアだけで薬剤を選ぶと、治療が的外れになるリスクがあります。
そこで有用なのがDN4(Douleur Neuropathique 4 questions)スクリーニングツールです。「灼熱感・しびれ感・電撃様の痛み・触れただけで痛い」などの質問7項目と診察所見3項目、合計10点のうち4点以上で神経障害性疼痛の可能性が高いと判定されます。感度88%、特異度90%という高い精度が報告されています。
NRSとDN4を組み合わせるのが現場での実践的アプローチです。
また、痛みが患者の「睡眠・気分・日常動作」にどう影響しているかを評価する「Brief Pain Inventory(BPI)」も、がん患者や慢性疼痛患者では積極的に使うべきツールです。NRS単独より患者の苦痛の全体像が把握でき、多職種カンファレンスでの共有にも役立ちます。
NRSはあくまで入口です。スコアを起点に「なぜその痛みが起きているか」を掘り下げることが、質の高い疼痛管理への第一歩です。
日本ペインクリニック学会(神経障害性疼痛の評価・治療ガイドラインを公開)
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