感受性確認なしでジベカシン点眼液を出すと、あなたの患者に耐性菌感染を招きます。
ジベカシン硫酸塩(略号:DKB)は、1971年に梅澤濱夫博士らがカナマイシン耐性菌の耐性機構を理論的に追究する中で見出したアミノグリコシド系抗生物質です。 カナマイシンB(ベカナマイシン)の3´、4´位の水酸基を水素に置換した構造を持ちます。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/medical_interview/IF00001242.pdf
筋注用製剤として1974年7月26日に承認された後、点眼剤としては1982年12月15日に承認されました。 2008年には医療事故防止に係る販売名変更により、現在の「パニマイシン点眼液0.3%」という名称で薬価基準収載されています。
「パニマイシン」という名称はPan(抗菌力が広い)+ -mycin(ストレプトマイセス属の産生する抗生物質)に由来します。 さらに、2009年10月には第十五改正日本薬局方第二追補に収載され、保健医療上重要な医薬品として正式に位置づけられました。 開発から50年以上を経た今なお、眼科感染症治療の選択肢として現役であることを認識しておく必要があります。
本剤の適応菌種は、ジベカシンに感性のブドウ球菌属・レンサ球菌属・肺炎球菌・モラクセラ・ラクナータ(モラー・アクセンフェルト菌)・ヘモフィルス・エジプチウス(コッホ・ウィークス菌)・緑膿菌・アシネトバクター属と幅広い範囲をカバーしています。 適応症は眼瞼炎、涙嚢炎、麦粒腫、結膜炎、瞼板腺炎、角膜炎の6疾患です。clinicalsup+1
これが基本です。
全国39施設で集積された501例の疾患別有効率は、急性結膜炎99.2%(259/261例)、慢性結膜炎94.2%(81/86例)、角膜炎100%(15/15例)、麦粒腫100%(28/28例)、涙嚢炎96.9%(31/32例)という結果が確認されています。 多施設二重盲検法によるゲンタマイシン(GM)点眼液との比較試験でも、両薬剤ともに著効率60%以上・有効率95%以上で、臨床成績に有意差は認められませんでした。
つまり、同じアミノグリコシド系であるGM点眼液と同等の有効性を持つということです。
以下に疾患別有効率をまとめます。
| 疾患名 | 有効例数 | 有効率 |
|---|---|---|
| 急性結膜炎 | 259/261例 | 99.2% |
| 亜急性結膜炎 | 47/49例 | 95.9% |
| 慢性結膜炎 | 81/86例 | 94.2% |
| 角膜炎 | 15/15例 | 100% |
| 眼瞼炎 | 14/15例 | 93.3% |
| 麦粒腫 | 28/28例 | 100% |
| 瞼板腺炎 | 15/15例 | 100% |
| 涙嚢炎 | 31/32例 | 96.9% |
用法・用量は「通常、1回2滴、1日4回点眼する。なお、症状により適宜増減する」と設定されています。 規格・含量は1mL中ジベカシン硫酸塩3mg(力価)です。 点眼液の1滴量はおよそ30〜50μL(0.03〜0.05mL)であるため、5mLの容量では約100滴分に相当します。image.packageinsert+2
患者への指導では3つの点が重要です。
「閉瞼と涙嚢部圧迫」という手順は、全身への薬液吸収を減らすためにも重要です。この手順を省略している患者は少なくありません。用法の説明を徹底することが、副作用リスクの低減につながります。
貯法は室温保存で、有効期間は3年間です。 容器はポリエチレン製の本体・中蓋、キャップはポリスチレン製で、包装は5mL×10本(投薬袋同梱)です。
副作用発現率は承認時までの調査(617例)で2.43%(15例/617例)という記録があります。 主な副作用は過敏症(そう痒・接触皮膚炎・アレルギー性結膜炎・アレルギー性眼瞼炎・結膜充血・眼球充血)、その他(刺激感・刺激痛)です。kegg+1
痛いですね。
重大な副作用は現時点では設定されていませんが、使用中に感作されるおそれがある点は要注意です。 添付文書では「使用中に感作されたことを示す兆候があらわれた場合には、使用を中止すること」と明記されています。 アレルギー性眼瞼炎や接触皮膚炎などの症状が続く場合は、別系統の抗菌点眼薬(フルオロキノロン系など)への切り替えを検討することが現実的な対応です。
禁忌は、本剤の成分ならびにアミノグリコシド系抗生物質またはバシトラシンに対し過敏症の既往歴のある患者です。 バシトラシンにも交差感作があるという点は、見落とされがちな禁忌条件です。
参考リンク(副作用情報)。
眼科領域での点眼薬による副作用の種類と対処法が詳しく解説されています。
医療従事者が意外と見落としがちなのが、感受性確認の重要性です。添付文書では「耐性菌の発現等を防ぐため、原則として感受性を確認し、疾病の治療上必要な最小限の期間の投与にとどめること」と明記されています。 これが原則です。
アミノグリコシド系抗生物質は、細菌のリボソームの30Sサブユニットに結合し、タンパク合成の開始反応を阻害することで殺菌的に作用します。 殺菌的作用を持つことから即効性が期待できる一方、AME(アミノグリコシド修飾酵素)産生菌による耐性化が世界的な問題となっています。
実臨床では、以下の3点を意識した処方が耐性菌を生まない運用につながります。
アミノグリコシド系として同効薬にはゲンタマイシン硫酸塩・トブラマイシン・アミカシン硫酸塩があります。 ジベカシン硫酸塩点眼液(薬価31.5円/mL)に対し、ゲンタマイシン点眼液(薬価18.5円/mL)は後発品のみで価格が低い点も選択時の考慮事項です。kegg+2
投薬期間制限に関しては本剤に制限は定められていません。 ただし「制限がない」=「長期投与してよい」ではないことを、処方する医師・調剤する薬剤師の双方が共有しておく必要があります。
参考リンク(適正使用・耐性菌対策)。
医薬品インタビューフォーム全文。薬効薬理・毒性試験データを含む詳細情報が確認できます。
パニマイシン点眼液0.3% 医薬品インタビューフォーム(JAPIC)
眼局所用抗菌薬の臨床評価基準・耐性菌に関するガイドラインが確認できます。
眼局所用抗菌薬の臨床評価方法に関するガイドライン(厚生労働省)