「患者さんに寄り添えば寄り添うほど、看護師のバーンアウトリスクは3倍近く上昇します。」
患者支援とは、患者が療養生活を安全・安心に送れるよう、医療・生活・心理の各側面から包括的に関わることです。看護師はその中心的な役割を担っており、単なる処置介助にとどまらない幅広い支援が求められています。
厚生労働省の「医療機能の分化・連携に関する検討会」資料によれば、入院患者の約6割以上が退院後の生活に何らかの不安を抱えているとされています。つまり、退院してからが本当の意味での支援の始まりです。
看護師が担う患者支援は、大きく以下のカテゴリに分類できます。
これらを単独でこなすのは現実的ではありません。そのため、多職種との連携が基本です。
看護師が患者支援の全体像を把握しておくことは、「何をいつ誰に依頼するか」という判断を素早くできる点で大きなメリットになります。支援が後手に回ると、退院後の再入院や家族のトラブルにつながるリスクがあります。これは時間的コストだけでなく、病院の評価にも直結します。
日本看護協会の「看護師のクリニカルラダー」においても、患者・家族への支援能力は全レベルを通じて評価対象となっています。意識して学ぶ価値は大きいですね。
日本看護協会|倫理・看護実践 – 患者支援に関する基本的な考え方と実践ガイド
意思決定支援は、患者支援の中でも特に難易度が高い領域です。患者が「手術を受けるかどうか」「どこで最期を迎えるか」といった重大な選択を迫られる場面で、看護師はどう関わるべきでしょうか?
重要なのは、看護師が「答えを与える」のではなく「選択を支える」立場であるということです。これが原則です。
意思決定支援のプロセスは、主に以下のステップで構成されます。
特に高齢患者では認知機能の低下により、意思確認が困難なケースがあります。この場合、成年後見制度の活用や、事前指示書(アドバンス・ケア・プランニング:ACP)の導入が有効な選択肢となります。
ACPは「人生会議」とも呼ばれ、厚生労働省が2018年より普及を推進しています。ACPが行われた患者では、望まない延命治療の実施率が約30〜40%低下したという国内研究データもあります。意外ですね。
看護師がACP支援を適切に行うためには、「ACP促進者養成研修」(各都道府県で実施)を受講しておくと、実践的なスキルが身につきます。受講費用は無料の自治体も多く、コスト面でのハードルも低いです。
厚生労働省|人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン(ACP推進の公式資料)
退院調整は、患者支援の中で最も「チーム力」が試される場面です。看護師単独で完結しようとすること自体がリスクになります。
医療ソーシャルワーカー(MSW)・薬剤師・理学療法士・管理栄養士・ケアマネジャー、それぞれが担う役割は明確に異なります。つまり、看護師の役割は「調整役」と「情報のハブ」です。
退院調整における連携の流れは以下のとおりです。
| 職種 | 主な担当領域 | 連携タイミング |
|---|---|---|
| MSW | 社会資源の活用・経済的問題の相談 | 入院早期(1〜3日目) |
| 薬剤師 | 持参薬確認・服薬指導・残薬整理 | 入院時〜退院前 |
| PT/OT | ADL評価・リハビリ計画・自宅環境調整 | 早期介入〜退院前 |
| 管理栄養士 | 栄養状態評価・退院後食事指導 | 嚥下・低栄養リスク時 |
| ケアマネジャー | 介護保険サービス調整・施設調整 | 退院1〜2週前 |
この連携が機能しない病棟では、退院後30日以内の再入院率が統計的に高くなる傾向があります。厚労省の調査でも、退院支援が不十分な患者の再入院率は適切な支援を受けた群と比べて約1.4倍という結果が出ています。
退院支援カンファレンスを「形式的に行うだけ」にしない工夫も重要です。特に効果的なのは、「患者・家族も同席できるオープンカンファレンス」の形式です。患者本人が自分の退院計画を理解・納得した上で退院するケースでは、退院後の生活上のトラブルが明らかに減少するというデータがあります。
退院調整加算(診療報酬)の算定要件にも、多職種連携の実施と記録が含まれています。これは知っておいて損はないです。病院側の収益にも直結するため、積極的な退院調整は組織全体のメリットにもなります。
厚生労働省|令和4年度診療報酬改定 退院支援関連の算定要件と多職種連携の記載(PDF)
ピアサポートとは、同じ病気や状況を経験した「仲間(ピア)」が支え合う支援の形式です。患者支援においてその効果が注目されていますが、看護師がどう関わるかが成否を分けます。
ピアサポーターは医療従事者ではありません。これが基本です。
そのため、医療行為や診断に踏み込んだ発言をしないよう、看護師がサポーター自身への教育・調整役を担うことが重要になります。がん患者や精神科患者の領域では特にピアサポートの活用が進んでいます。
国立がん研究センターの調査によると、ピアサポートを受けたがん患者の約70%が「治療継続への意欲が高まった」と回答しています。これは使えそうです。精神的な孤立感が軽減されることで、服薬アドヒアランスや通院継続率にもプラスの影響が出ています。
看護師がピアサポートプログラムに関与する際のポイントは以下のとおりです。
注意すべき点として、ピアサポーターが「なんでも相談してね」と過度に関与すると、境界線の問題が生じるリスクがあります。看護師はこの「適度な距離感」を維持する役割も担います。
精神科領域では「リカバリー志向のピアサポート」という考え方が広まっており、患者が「支援される立場」から「支援する立場」になることで自己効力感が向上するというエビデンスも積み重なっています。この視点を持つと、患者支援のあり方そのものが変わります。
国立がん研究センター|ピアサポートの概要と活用事例(がんサバイバーシップ支援)
患者支援の質を語るとき、支援する側である看護師自身の健康状態が盲点になりがちです。しかし、バーンアウト(燃え尽き症候群)を起こした看護師のいる病棟では、ヒヤリハット件数が平均1.7倍に増加するというデータが日本看護管理学会の研究で示されています。
バーンアウトは「熱心な人ほど陥りやすい」というのが現実です。
患者支援に真剣に取り組む看護師ほど感情労働の負荷が高く、感情的消耗感・脱人格化・個人的達成感の低下という3段階でバーンアウトが進行します(Maslachのバーンアウトモデルより)。患者支援の質が下がることは、結果として患者へのデメリットに直結します。
バーンアウト予防のために現場レベルでできる取り組みは以下のとおりです。
組織的なアプローチとしては、「職場環境改善のためのヒント集」(独立行政法人労働者健康安全機構)が参考になります。看護師のストレスチェック結果を部署別に分析し、対策につなげる手順が具体的に示されています。
バーンアウトのリスクを定量的に把握するには、「日本語版MBI(Maslach Burnout Inventory)」を活用する方法があります。無料で利用できるバージョンも存在し、部署単位でのスクリーニングに使いやすいです。
看護師が適切なセルフケアを行い、心理的安全性の高い職場環境で働くことは、患者支援のクオリティを長期的に維持する最も重要な基盤です。看護師自身を守ることが患者を守ることに直結します。これだけ覚えておけばOKです。
独立行政法人労働者健康安全機構|職場環境改善のためのヒント集(医療現場のメンタルヘルス対策含む)