少量ステロイドでも無菌性骨壊死が起こり、治療継続が必要なケースでも減量は不要なことがあります。
無菌性骨壊死(Ischemic Osteonecrosis / ION)は、骨組織への血行障害によって引き起こされる疾患です。ステロイド剤は非外傷性骨壊死の最も一般的な原因であるとされています 。 note(https://note.com/rheum_ss/n/ncb0051918e70)
大腿骨頭は骨壊死の最も一般的な発生部位であり、血行の終末動脈構造により虚血の影響を受けやすい部位です 。ステロイドによって骨壊死が引き起こされる詳細な機序はいまだ解明されていませんが、脂質代謝異常・骨髄内脂肪細胞の肥大・骨内圧上昇・微小塞栓の関与が主な仮説として挙げられています 。つまり「血管を通じた間接的な破壊」が本疾患の中核です。 minamikyousai.kkr.or(https://minamikyousai.kkr.or.jp/assets/item/pdf/s14/297e0b17953d2d4e90bf19b6de66b8b3.pdf)
ステロイド投与に関連して発症するIONは、多発性骨壊死を伴うことも多く、約50%に膝骨壊死、25%に他部位への波及が見られる場合があります 。両側股関節が罹患する割合は、ステロイド投与歴のある患者では60〜65%と過半数を占めています 。これは臨床的に見落としやすいポイントです。 mhlw.go(https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000013qef-att/2r98520000013r7z.pdf)
SLE患者でのION発症率は約10%と報告されており、同程度のステロイドを投与されても発症しない患者との差は「個体の素因(遺伝的背景)」による可能性が高いとされています 。意外ですね。発症リスクは投与量だけで語れないということです。 minamikyousai.kkr.or(https://minamikyousai.kkr.or.jp/assets/item/pdf/s14/297e0b17953d2d4e90bf19b6de66b8b3.pdf)
| リスク因子 | 内容 |
|---|---|
| ステロイド投与量 | プレドニゾロン換算 平均15mg/日超でリスク約4倍 |
| 経口ステロイド内服歴 | オッズ比20.3(大腿骨頭壊死症) |
| 基礎疾患 | SLE・喘息・ネフローゼ・血液疾患 |
| 性別 | 女性に多い(ステロイド関連) |
| 個体の遺伝素因 | 脂質代謝・血管機能関連遺伝子の関与が示唆 |
参考:ステロイド性大腿骨頭壊死の詳細な危険因子と量的相関について(PierOnline)
ステロイドによる骨壊死リスクを評価する際、「1日投与量」と「総投与量」のどちらが重要かは臨床上の重要な問いです。結論は「1日平均投与量」が基準です。
ステロイドパルス療法(短期・大量投与)においても無菌性骨壊死の発生リスク増加が明確に報告されています 。パルス療法は短期間での超大量投与であるため、平均日量の概念だけでリスクを語ることができない点に注意が必要です。 jsn.or(https://jsn.or.jp/academicinfo/report/IgA_nephrotic_ikoukiguide.pdf)
mhlw.go(https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1m07.pdf)
mikuni-seikei(https://mikuni-seikei.com/orthopedics/%E7%89%B9%E7%99%BA%E6%80%A7%E5%A4%A7%E8%85%BF%E9%AA%A8%E9%A0%AD%E5%A3%8A%E6%AD%BB%E7%97%87/)
minamikyousai.kkr.or(https://minamikyousai.kkr.or.jp/assets/item/pdf/s14/297e0b17953d2d4e90bf19b6de66b8b3.pdf)
mhlw-grants.niph.go(https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2016/162051/201610024B_upload/201610024B0035.pdf)
mhlw.go(https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1m07.pdf)
「少量なら大丈夫」という判断が患者を危険にさらすことがあります。リスクが高い基礎疾患を持つ患者には、投与開始時点から用量管理のプロトコルを設けることが求められます。これは必須です。
参考:厚生労働省 重篤副作用疾患別対応マニュアル(特発性大腿骨頭壊死症)
厚生労働省 特発性大腿骨頭壊死症 医療関係者向けマニュアル(PDF)
無菌性骨壊死は、初期段階では痛みがない場合が多く、X線検査では正常に見えても骨壊死が進行していることがあります 。これが最も見逃されやすいポイントです。 msdmanuals(https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/08-%E9%AA%A8-%E9%96%A2%E7%AF%80-%E7%AD%8B%E8%82%89%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E9%AA%A8%E5%A3%8A%E6%AD%BB/%E9%AA%A8%E5%A3%8A%E6%AD%BB)
MRIはX線で検出できる変化が現れる前の早期骨壊死を検出するのに最良の検査であり、特にT1強調画像での「バンド像」が診断の特徴的な所見とされています 。バンド像は骨壊死発生後4〜6週で出現することが確認されており、比較的早いタイミングで診断が可能です 。早期発見が原則です。 mhlw.go(https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/000665788.pdf)
ステロイド大量投与を行ったリスク患者では、投与開始後3〜6か月の時点で無症状であっても股関節MRIによるスクリーニングを実施することが推奨されています 。SLE患者373例を対象とした研究では、1年間の定期的な股関節MRIスクリーニングによって早期骨壊死が確認されています 。スクリーニングの有効性が高いということですね。 mhlw-grants.niph.go(https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2016/162051/201610024B_upload/201610024B0035.pdf)
骨シンチグラムも早期診断に用いられることがありますが、感度が低く小さな病巣では異常所見を呈さないこともあるため、MRIのほうが優れた選択肢です 。画像診断で確定できない場合は、組織学的診断も選択肢に入ります。 mhlw.go(https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/000665788.pdf)
参考:MSDマニュアルにおける骨壊死の診断・検査方法の解説
多くの医療従事者は「骨壊死が発生したらステロイドを即刻減量すべき」と考えがちです。しかし、これが必ずしも正解ではないケースがあります。
一度IONが発生した後は、その骨壊死領域の拡大は見られず、再発が起こることも稀であることが明らかになっています 。これは、骨壊死発生後にステロイドを中止・減量しても骨壊死が縮小するわけではなく、原疾患(SLEなど)の管理上ステロイドを継続する必要があるケースを支持するデータです 。つまりステロイド継続が患者利益になる場合があります。 minamikyousai.kkr.or(https://minamikyousai.kkr.or.jp/assets/item/pdf/s14/297e0b17953d2d4e90bf19b6de66b8b3.pdf)
SLEなどの自己免疫疾患の治療中に骨壊死が判明した際、原疾患のコントロールを優先してステロイドを継続しながら整形外科的管理を並行するアプローチが選択されることがあります。もちろん投与量の見直しは行いますが、「減量ありき」ではなく「原疾患コントロールとの比較衡量」が重要です。痛いところですね。
治療は骨壊死の進行ステージに応じて判断します。
整形外科との連携タイミングを逃さないことが、患者のQOL保全に直結します。連携は早いほど選択肢が広がります。これは覚えておけばOKです。
ステロイド関連IONのリスクは、基礎疾患によって大きく異なります。SLEが最も多く、次いで気管支喘息・ネフローゼ症候群・血液疾患・腎移植後などが続きます 。女性のSLE患者では特にリスクが高く、ステロイド性IONの約10倍の発症率を示すデータもあります 。 mikuni-seikei(https://mikuni-seikei.com/orthopedics/%E7%89%B9%E7%99%BA%E6%80%A7%E5%A4%A7%E8%85%BF%E9%AA%A8%E9%A0%AD%E5%A3%8A%E6%AD%BB%E7%97%87/)
ION患者の約半数がステロイド剤投与と関連しているとされ、近年その患者数は増加傾向にあります 。特に免疫異常を伴う疾患・腎疾患・臓器移植後の患者数増加に伴い、ION患者も増えています。増加傾向という点は重要です。 minamikyousai.kkr.or(https://minamikyousai.kkr.or.jp/assets/item/pdf/s14/297e0b17953d2d4e90bf19b6de66b8b3.pdf)
IONの発症リスクを管理するための臨床的チェックポイントを以下にまとめます。
mhlw.go(https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1m07.pdf)
ステロイドの「吸入薬・外用薬」については、現時点でIONとの関連はおそらくないと報告されています 。外用ステロイドの使用患者を過剰に心配する必要はなく、経口・全身投与が主なリスク対象です。これだけ覚えておけばOKです。 note(https://note.com/rheum_ss/n/ncb0051918e70)
遺伝的背景がION発症に影響するという新たな研究知見もあり、脂質代謝および血管機能関連遺伝子の関与が示唆されています 。将来的にはゲノム情報を活用したリスク層別化が実現する可能性があります。今後の研究の発展が注目される分野です。 biobankjp(https://biobankjp.org/9015)
参考:SLE患者におけるステロイドと大腿骨頭壊死の遺伝的関連についての研究(バイオバンク・ジャパン)
ステロイド剤を服用するSLE患者における特発性大腿骨頭壊死症の遺伝的リスク研究 - バイオバンク・ジャパン