メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)は、多剤耐性菌の中でも最も代表的な存在として医療現場で重要視されています。黄色ブドウ球菌感染症、特にMRSA感染症は治療が困難で死亡率が高い感染症として知られています。
MRSAの特徴的な点は、悪性腫瘍のように血流から各臓器に播種する傾向があることです。この性質により、治療に難渋するケースが多く、感染症専門医の介入により患者予後が改善するという報告も複数存在します。
院内感染型と市中感染型の違いも重要なポイントです。
日本におけるMRSA分離率は減少傾向にありますが、市中感染型MRSA感染症は増加しており、新たな感染制御戦略が求められています。
多剤耐性緑膿菌(MDRP)は、カルバペネム系、フルオロキノロン系、アミノグリコシド系の3系統すべてに耐性を示す緑膿菌として定義されています。
緑膿菌の基本的特性として、病原性そのものは弱く、免疫が正常な人には感染症を起こしにくい細菌です。しかし、免疫不全や低栄養などの易感染状態にある患者では、一度感染すると難治化する傾向があります。
MDRPの耐性機構は多様で複雑です。
MDRPは環境を通して患者間に伝播するため、治療だけでなく感染対策も重要となります。現在、国内でのMDRP分離率は1~数%程度と推定されていますが、施設により状況は大きく異なっています。
多剤耐性アシネトバクター(MDRA)は、土壌や河川水などの自然環境中に常在し、通常は無害な細菌です。しかし、カルバペネム系、フルオロキノロン系、アミノグリコシド系の抗菌薬すべてに耐性を示す株が問題となっています。
アシネトバクター・バウマニが最も多く感染症例から検出され、特に集中治療室の患者や重症患者間での院内感染が問題となります。
最新の研究では、BAM(β-barrel assembly machinery)複合体を標的とした新たな治療アプローチが開発されています。
この新規化合物は、コンピュータシミュレーションを用いて探索され、多剤耐性緑膿菌と多剤耐性アシネトバクター両方に対して抗菌活性を示すことが確認されています。
カルバペネム耐性腸内細菌目細菌(CRE)とESBL産生菌は、ともに腸内細菌科に属する多剤耐性菌ですが、耐性機構と臨床的意義が異なります。
CREの特徴:
ESBL産生菌の特徴:
厚生労働省の実態調査によると、2010年の調査では153株の腸内細菌科多剤耐性菌のうち、IMP-1型が最も多く(72株)、次いでKPC型(2株)、NDM-1型(2株)が検出されています。
AmpC産生菌の独特な特徴:
従来の抗菌薬に対する多剤耐性菌の出現により、新たな治療戦略の開発が急務となっています。汎多剤耐性菌の出現により、ほとんどの抗菌薬が無効となるケースも報告されています。
新規治療標的の探索:
個別化医療アプローチ:
感染制御と治療の統合戦略:
将来展望:
新たな抗菌薬の開発には長期間を要するため、既存薬剤の組み合わせ療法や補助療法の研究も重要です。また、予防医学の観点から、ワクチン開発や宿主免疫力向上に関する研究も進められています。
多剤耐性菌対策は、単一の治療法では限界があり、感染制御、適正な抗菌薬使用、新規治療法開発を組み合わせた総合的なアプローチが不可欠です。医療従事者一人ひとりが最新の知識を習得し、日常診療に活かすことが患者の予後改善につながります。