腸管出血性大腸菌の症状と診断・治療のポイント

腸管出血性大腸菌感染症は激しい腹痛や血便を引き起こし、重症化するとHUSなどの合併症を発症します。症状の特徴や診断法、治療の注意点について医療従事者向けに詳しく解説します。この感染症への適切な対応法とは?

腸管出血性大腸菌の症状

腸管出血性大腸菌感染症の主な症状
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潜伏期間

3~5日(最短1日から最長14日)と比較的長く、感染拡大のリスクが高い

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初期症状

激しい腹痛と頻回の水様性下痢で発症し、1~2日後に血便へ移行

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特徴的所見

血便は徐々に血液量が増加し、便成分が少なく血液そのものという状態になる

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発熱

多くは37℃台の軽度で、他の細菌性腸炎と比較して高熱になりにくい

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重症合併症

有症者の6~7%でHUSや脳症が発症し、致死率は1~5%

腸管出血性大腸菌感染症の潜伏期間と初期症状

 

 

腸管出血性大腸菌感染症の潜伏期間は通常3~5日ですが、最短で1日から最長14日と幅があり、他の細菌性食中毒と比較して長いのが特徴です。潜伏期間中は無症状であるため、その間に他者へ感染を広げてしまう可能性があります。感染者の約3分の1は無症状もしくは極軽微な症状で終わりますが、小児と高齢者は症状が出現しやすいことが知られています。forth+2
初期症状は激しい腹痛と頻回の水様性下痢で始まり、多くの場合24時間以内に嘔吐や下痢などの消化器症状が出現します。発症初期は風邪のような全身倦怠感から始まることもあります。水様便は1~3日継続した後、約90%の症例において血性下痢へと移行します。sendai-naisikyou+2

腸管出血性大腸菌による血便の特徴的変化

血便は腸管出血性大腸菌感染症の最も特徴的な症状であり、その出現パターンには臨床的に重要な経時的変化があります。血便の初期には血液の混入は少量ですが、次第に増加していき、典型例では便成分が少なく血液そのものという状態になります。この激しい血便とともに右下腹部に激しい痛みが襲うことが特徴的です。id-info.jihs+2
出血性大腸炎の発症は感染から4~8日間の無症状期間を経て、激しい腹痛を伴う頻回の水様便の後に血便が出現します。血便の程度は症例により様々で、肉眼的に血性のこともあれば、軽度の血液混入にとどまることもあります。発熱は軽度で、多くは37℃台の微熱にとどまり、他の細菌性腸炎と比較して高熱になりにくいという点が診断の手がかりとなります。kansensho+4

腸管出血性大腸菌感染症における重症合併症HUSの発症

溶血性尿毒症症候群(HUS)は腸管出血性大腸菌感染症の最も重篤な合併症の一つで、有症者の6~7%において発症します。HUSは下痢などの初発症状発現の数日から2週間以内に発症することが多く、腸管出血性大腸菌感染者の約1~10%に生じます。HUSを発症した患者の致死率は1~5%とされており、急性期の死亡率は約2~5%です。id-info.jihs+2
HUSの3主徴は溶血性貧血、血小板減少、急性腎不全であり、患者の約4分の1から3分の1に何らかの中枢神経症状がみられます。HUSを疑わせる症候としては、乏尿、浮腫、出血斑、頭痛、傾眠、不穏、痙攣、血尿・蛋白尿などがあります。HUSの重篤化因子として、腸管出血性大腸菌感染症時の白血球数増加、HUS発症時の白血球数増加(20,000/μl以上)、低Na血症(130mEq/l未満)、低蛋白血症(5.0g/dl未満)、ALTの上昇(100IU/l以上)が挙げられます。jspn01.umin

腸管出血性大腸菌感染症の年齢別重症化リスク

腸管出血性大腸菌感染症の重症化リスクは年齢により大きく異なります。2018年の感染症発生動向調査では、HUS発症例の年齢は中央値が6歳(範囲:1~79歳)で、年齢群別では0~4歳が27例(39%)で最も多く、次いで5~9歳が多い結果でした。有症者に占めるHUS発症例の割合は全体で2.7%ですが、年齢群別では0~4歳が6.5%で最も高く、次いで5~9歳が4.8%と、小児における重症化リスクの高さが明らかです。id-info.jihs
5歳未満の子どもと65歳以上の高齢者は特に重症化のリスクが高いため注意が必要です。乳幼児や小児、高齢者が感染すると、溶血性尿毒症症候群(HUS)や脳症などの合併症を発症しやすく、重症の場合は死亡することもあります。腸管出血性大腸菌は少量でも食中毒を引き起こし、抵抗力の弱い乳幼児や高齢者では腎臓や脳などに重い障害を生じさせることがあります。脳症は血便出現から4日以内の早期に認めることがあり、意識障害や痙攣重積などの重篤な症状を呈します。mhcl+3

腸管出血性大腸菌感染症における無症状病原体保有者の臨床的意義

腸管出血性大腸菌感染症における無症状病原体保有者の存在は、感染管理上極めて重要な課題です。感染者の約3分の1は無症状もしくは極軽微な症状で経過するため、本人が感染に気づかないまま二次感染の感染源となるリスがあります。調理従事者等を原因とする事例発生のリスクが存在し、無症状であっても業態者検便由来の志賀毒素産生株が検出されることがあります。kansen-wakayama+2
腸管出血性大腸菌の感染力は極めて強く、菌が数個だけ口から侵入しても感染が成立することもあります。そのため、無症状病原体保有者からの二次感染を予防するため、調理従事者に対しては定期的な検便検査が必要とされています。また、下痢が始まってから5日以上経過すると便からの菌検出の可能性が低くなるため、早期の検査が重要です。無症状や軽症であっても、便中に菌を排出している期間は他者への感染源となりうることを認識し、適切な感染予防策を講じることが医療従事者には求められます。biseibutu+2

腸管出血性大腸菌の診断

腸管出血性大腸菌感染症の便培養検査と確定診断

腸管出血性大腸菌感染症の確定診断は、症状の有無にかかわらず、糞便から大腸菌を分離し、分離株の毒素産生性の確認または毒素遺伝子の検出によって行います。便培養では、分離・同定による病原体の検出に加えて、分離菌における毒素産生または毒素遺伝子によるベロ毒素の確認が診断のポイントとなります。大腸菌のベロ毒素(VT)産生性はPCRやラテックス凝集反応(LA)で調べることができます。idsc.tmiph.metro.tokyo+2
検査方法としては、まずベロ毒素(VT)及びO抗原の遺伝子検出法によるスクリーニングを行い、陽性であった場合のみ分離培養法で菌の分離を行って確認試験の結果で判定する方法が用いられます。前培養および遺伝子増幅法(リアルタイムPCRプローブ法)による検査では、1検体ごとに前培養を行い、その上でスクリーニング検査を実施します。スクリーニング検査にて陽性となった場合、病原体検出マニュアルに則って分離培養を行い、病原菌を同定し、さらに血清型検査および薬剤感受性検査を行います。toholab+1
下痢が始まってから5日以上経過すると、便からの菌検出の可能性が低くなるため、早期の検体採取が重要です。場合によっては大腸内視鏡検査を行って便汁を採取することもあり、内視鏡での所見は特徴的で確定診断の契機になることがあります。検体受付日より3~7営業日で結果が報告されるのが一般的です。sendai-naisikyou+1

腸管出血性大腸菌の血清型検査とベロ毒素型別

腸管出血性大腸菌の血清型別や毒素型の判定は、疫学調査や治療方針の決定において重要な情報となります。腸管出血性大腸菌のO抗原による血清型はO157が最も多く、次いでO26、O111が多いとされています。2018年の調査では、菌が分離された47例の血清群と毒素型が分析され、血清群別の特徴が明らかにされています。id-info.jihs+2
ベロ毒素型別(VT1・VT2)の判定は、腸管出血性大腸菌が陽性の場合に実施されます。ベロ毒素を検出する診断薬には、菌を培養した後に検査するものと、直接糞便から迅速検査を行うものがあります。便検体から直接VT遺伝子を検出する方法も確立されており、迅速診断に有用です。med+2
HUS発症例に限っては、血清からのベロ毒素の検出や、O抗原凝集抗体または抗ベロ毒素抗体の検出による診断も可能です。これらの検査は、腸管出血性大腸菌感染症の診断だけでなく、感染症発生動向調査や公衆衛生上のサーベイランスにも重要な役割を果たしています。継代培養によってVT遺伝子を運ぶファージが欠落する株が存在することが頻繁に報告されており、検出は出来るだけ早い段階で行うのが望ましいとされています。pmc.ncbi.nlm.nih+2

腸管出血性大腸菌診断における迅速検査法の役割

腸管出血性大腸菌感染症の診断において、迅速検査法は患者管理と公衆衛生対策の両面で重要な役割を果たします。従来の培養法による検査は完全な情報を得るまでに2~5日を要しますが、分子生物学的手法を用いた迅速診断法により、より早期の診断と治療介入が可能となっています。pmc.ncbi.nlm.nih+1
PCRベースの検査法は、感度が高く迅速な方法として評価されています。糞便検体を用いた多重PCR法では、腸管出血性大腸菌を含む複数の腸管病原体を一度に検出することができます。これらの迅速検査法は、約3時間で結果が得られ、培養法と同等の精度を持つことが報告されています。pmc.ncbi.nlm.nih+2
リアルタイムPCR法を用いたスクリーニング検査では、前培養を行った後に遺伝子検査を実施し、陽性となった場合に分離培養を行うという段階的アプローチが採用されています。この方法により、検査の迅速性と確実性のバランスが保たれています。メタゲノミクス解析などの次世代シーケンシング技術も、腸管病原体の検出において有望な方法として研究が進められています。semanticscholar+2

腸管出血性大腸菌感染症の鑑別診断と内視鏡所見

腸管出血性大腸菌感染症の鑑別診断では、他の細菌性腸炎や炎症性腸疾患との識別が重要です。本症の臨床的特徴は腹痛、水様性下痢、血便であり、嘔吐や38℃台の高熱を伴うこともありますが、発熱は他の細菌性腸炎と比較して軽度であることが鑑別のポイントとなります。mhlw+2
大腸内視鏡検査は、腸管出血性大腸菌感染症の診断において補助的ながら重要な役割を果たします。内視鏡所見は特徴的で、確定診断の契機になることがあります。下痢が始まってから5日以上経過すると便からの菌検出率が低下するため、そのような症例では内視鏡検査を行って便汁を採取することも検討されます。sendai-naisikyou
鑑別すべき疾患としては、赤痢菌、サルモネラ属菌、カンピロバクター属菌などによる細菌性腸炎、虚血性腸炎、潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患が挙げられます。多重PCR検査パネルを用いることで、これらの病原体を同時に検出し、効率的な鑑別診断が可能となります。臨床症状、検査所見、内視鏡所見を総合的に評価し、迅速かつ正確な診断を行うことが、適切な治療と感染拡大防止につながります。pmc.ncbi.nlm.nih+3

腸管出血性大腸菌の治療

腸管出血性大腸菌感染症における抗菌薬治療の是非

腸管出血性大腸菌感染症の抗菌薬治療については、国内外で見解が分かれており、一定のコンセンサスが得られていないのが現状です。日本では発症早期(発症3日以内)に抗菌薬を投与することで、菌の排出を早め、重症化を防ぐ可能性があるとの立場から、積極的な抗菌薬投与が行われることが多いと考えられます。fpa+2
小児にはホスホマイシン、カナマイシン、ノルフロキサシンが、成人にはニューキノロン系薬やホスホマイシンが経口投与されます。抗菌薬の使用期間は3~5日間とし、漫然とした長期投与は避けることが推奨されています。一般に抗菌薬と乳酸菌製剤を併用する治療が行われています。薬剤感受性には注意し、耐性菌と判明した場合は直ちに中止し、必要があれば他剤に変更します。mhlw+2
一方、米国では抗菌薬の使用は推奨されておらず、治療は支持療法が基本とされています。抗菌薬を使用しても消化器症状が直ちに消失することはありませんが、通常3~5日間の使用により菌は消失するとされています。重要なのは重篤な合併症の予防と早期発見であり、抗菌薬治療の判断は個々の症例の状態を慎重に評価して行う必要があります。msdmanuals+4

腸管出血性大腸菌感染症の支持療法と対症療法

腸管出血性大腸菌感染症の基本治療は、他の感染性腸炎と同様に、補液を行い脱水を防止することです。経口または点滴による電解質と水分の補給が主な治療となり、患者の状態に応じて適切な輸液管理を行います。腸炎に対しては安静と水分の補給、消化しやすい食事の摂取を行い、経口摂取不能な患者には輸液を実施します。tokushukai+2
対症療法として重要なのは、使用すべきでない薬剤を避けることです。蠕動運動抑制性の止痢薬や抗コリン薬は、菌やベロ毒素を腸管内に滞留させ、病態の悪化を招くおそれがあるため使用してはいけません。このような薬剤は腸管内での毒素の吸収を増加させ、HUSなどの重症合併症のリスクを高める可能性があるためです。chemotherapy+1
支持療法においては、患者の全身状態を注意深くモニタリングし、特に乏尿、浮腫、出血斑、頭痛、傾眠、不穏、痙攣、血尿・蛋白尿などのHUSを疑わせる症候の出現に注意を払う必要があります。検査値では白血球数、血清ナトリウム値、血清蛋白、肝酵素、血清クレアチニン濃度などを定期的に測定し、重症化の兆候を早期に発見することが重要です。これらの支持療法と慎重な経過観察により、多くの症例で良好な予後が期待できます。id-info.jihs+1

腸管出血性大腸菌感染症におけるHUS合併例の血液浄化療法

溶血性尿毒症症候群(HUS)を合併した腸管出血性大腸菌感染症患者に対しては、血液浄化療法が重要な治療選択肢となります。HUS発症時からクレアチニン濃度が2.0mg/dl以上の症例は、早期に血液浄化療法(血液透析または腹膜透析)が必要になる可能性が高いとされています。血液浄化療法の適応は、急性腎不全の重症度、尿量、電解質異常、循環動態などを総合的に判断して決定されます。kobecity-kmss+1
HUSの3主徴である溶血性貧血、血小板減少、急性腎不全のうち、腎不全の管理が特に重要です。血液浄化療法により、尿毒症性物質の除去、電解質異常の是正、体液量の調整が可能となります。HUSを発症した患者の致死率は1~5%とされており、急性期の適切な集中治療が予後を左右します。jspn01.umin+2
HUSの重篤化因子として、腸管出血性大腸菌感染症時の白血球数増加、HUS発症時の白血球数増加(20,000/μl以上)、低Na血症(130mEq/l未満)、低蛋白血症(5.0g/dl未満)、ALTの上昇(100IU/l以上)が挙げられ、これらの所見がある場合には特に注意深い管理が必要です。血液浄化療法の導入タイミングや方法の選択には、腎臓専門医との連携が不可欠であり、多職種チームによる集学的治療が求められます。適切な血液浄化療法により、多くのHUS患者が腎機能の回復を期待できますが、一部の患者では長期的な腎機能障害が残存することもあります。kobecity-kmss+2

腸管出血性大腸菌感染症における感染管理と二次感染予防

腸管出血性大腸菌感染症は感染力が極めて強く、菌が数個だけ口から侵入しても感染が成立することがあるため、二次感染予防が極めて重要です。患者は調理や食事の前および用便後における流水による十分な手洗いと、逆性石鹸または消毒用アルコールによる消毒を励行する必要があります。医療従事者や介護者も同様に、患者のケア後には徹底した手指衛生を実施することが求められます。city+2
腸管出血性大腸菌感染症に有効な消毒薬は、消毒用アルコールや塩素系消毒液(次亜塩素酸ナトリウム希釈液)です。トイレの取っ手やドアノブなど、汚れた手で触れる場所は逆性石鹸や消毒用アルコールなどで消毒します。生肉等を調理したまな板や包丁などの器具は、熱湯または塩素系消毒液で消毒することが重要です。嘔吐物や糞便の処理時には0.1%の塩素濃度、調理器具やドアノブ、手すり、トイレの便座、床などには0.05%の塩素濃度の次亜塩素酸ナトリウム希釈液を使用します。pref.tokushima+1
医療機関や福祉施設では、感染者からの二次感染を防ぐため、標準予防策に加えて接触感染予防策を実施します。患者の糞便に含まれる大腸菌が直接または間接的に口から入ることによって感染するため、排泄物の適切な処理と環境の消毒が不可欠です。また、保育所や保養所での集団発生の報告があることから、これらの施設では特に厳重な感染管理が必要です。感染症発生動向調査に基づく届出と、保健所との連携による疫学調査も、感染拡大防止のために重要な役割を果たします。city+3

腸管出血性大腸菌の感染経路と予防

腸管出血性大腸菌の主要な感染経路と食品媒介感染

腸管出血性大腸菌の感染は、飲食物を介した経口感染がほとんどであり、菌に汚染された飲食物を摂取することで感染します。発生している腸管出血性大腸菌による食中毒の多くが肉類(牛肉、牛レバー料理、焼き肉、ユッケ、レバ刺し等)と関係しています。牛や豚、鶏などの肉や内臓に付いており、生肉や加熱不十分な食肉を原因とする食中毒がたびたび発生しています。pref.hyogo+3
ウシは健康な状態でも保菌していることがあるため、生レバーや加熱不十分な牛肉は感染経路になり得ます。と畜場で解体処理する過程で腸内にいる腸管出血性大腸菌が肉や内臓に付着することがあります。ミンチ肉は菌が肉全体に混ざっている可能性があり、特に注意が必要です。結着処理されたステーキやハンバーグなどは内部まで菌が入り込んでいる可能性があり、肉の中心部の色が変わるまで十分加熱する必要があります。pref.fukushima+3
腸管出血性大腸菌は加熱により死滅するため、肉の中心部まで75℃で1分以上加熱することが予防の基本です。生肉や加熱不十分な肉料理(ユッケ、たたき等)を食べないこと、肉は中心部まで十分に加熱することが重要です。食べ物を単に温めるだけでは菌は死滅しないため、確実な加熱が必要です。city.hiroshima+4

腸管出血性大腸菌による二次感染と家族内感染

腸管出血性大腸菌は感染力が極めて強く、菌が数個だけ口から侵入しても感染が成立することがあるため、人から人への二次感染が重要な問題となります。患者の糞便に含まれる大腸菌が直接または間接的に口から入ることによって感染し、保育所や保養所での集団発生の報告があります。手についた菌がタオルの共用や入浴などにより人から人へと感染する危険性があります。city+3
二次感染の予防には、徹底した手洗いが最も重要です。食事前、トイレ使用後、排泄介助作業の後などには石けんと流水による手洗いを行うことが必要で、手指衛生のためにアルコール性の擦式消毒剤を追加使用するのも有効です。生肉を扱ったまな板や包丁を使い分けをせずに、または充分な洗浄・消毒をせずに野菜を切り、その野菜を生で食べて感染する二次汚染にも注意が必要です。mhlw+2
家族内感染を防ぐためには、患者との接触後の手洗いの徹底、タオルの個別使用、トイレや浴室の適切な消毒が重要です。水洗トイレの取っ手やドアのノブなど、汚れた手で触れる場所は逆性石鹸や消毒用アルコールなどで消毒する必要があります。潜伏期間が2日から9日間と長く、その間に感染が広まる危険性があるため、家族や同居者も症状の有無にかかわらず注意深い感染対策が求められます。pref+2

腸管出血性大腸菌の動物接触感染と環境感染

腸管出血性大腸菌は本来動物の腸管内に住む菌であり、家畜や感染者の糞便から環境を介して感染することがあります。動物からの感染事例として、ふれあい動物イベント、搾乳体験などを原因とする感染事例が報告されています。簡易プールや家畜との接触でも感染の可能性があり、特に小児では注意が必要です。kansen-wakayama+2
腸管出血性大腸菌は環境中での生存期間が長く、少量(10~100個)でも感染可能という特徴があります。低温や乾燥に強く、長期生存可能なため、汚染された環境からの感染リスクが持続します。腸管出血性大腸菌の人への伝播経路については、食品を媒介とするもののほか、人から人への感染、動物からの感染、飲料水媒介による感染、プールでの感染などが報告されています。kobe-kishida-clinic+1
予防対策としては、動物との接触後の手洗いの徹底が最も重要です。飲料水については、井戸水などを使用する場合は適切な消毒を行い、プールなどの水遊び施設では適切な塩素濃度の管理が必要です。環境からの感染を防ぐため、食品の保管・調理環境の衛生管理、調理器具の適切な洗浄・消毒、生野菜の十分な洗浄などの対策が推奨されます。腸管出血性大腸菌は加熱や消毒薬により死滅するため、通常の食中毒対策を確実に実施することで十分に予防可能です。mhlw+4

腸管出血性大腸菌感染症の医療機関における予防対策の実践

医療機関における腸管出血性大腸菌感染症の予防対策は、標準予防策と接触感染予防策を基本とします。感染力が極めて強く、少量の菌でも感染が成立するため、医療従事者は患者ケアの際に十分な注意が必要です。手指衛生は最も重要な感染対策であり、患者との接触前後、手袋の着脱前後には必ず手洗いまたは手指消毒を実施します。idsc.tmiph.metro.tokyo+3
個人防護具の適切な使用も重要で、患者の排泄物や汚染された可能性のある物品を扱う際には、手袋、エプロン、必要に応じてマスクを着用します。使用した個人防護具は適切に廃棄し、環境を汚染しないよう注意します。患者の使用した器材や環境表面の消毒には、消毒用アルコールまたは次亜塩素酸ナトリウム希釈液を使用します。idsc.tmiph.metro.tokyo+1
医療機関では、腸管出血性大腸菌感染症が疑われる患者に対して早期に便培養検査を実施し、確定診断を行うことが重要です。調理従事者に対しては定期的な検便検査が必要とされており、無症状病原体保有者からの感染拡大を防ぐための対策が求められます。また、感染症発生動向調査に基づく届出を適切に行い、保健所との連携による疫学調査と感染拡大防止対策を実施することが、公衆衛生上も重要な役割となります。id-info.jihs+4
厚生労働省「腸管出血性大腸菌Q&A」
腸管出血性大腸菌感染症の基本的な情報、症状、予防方法について詳しく解説されています。

 

国立感染症研究所「腸管出血性大腸菌感染症(詳細版)」
医療従事者向けに、腸管出血性大腸菌感染症の臨床症状、診断、治療、疫学情報が包括的にまとめられています。

 

日本感染症学会「JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015―腸管感染症―」
腸管出血性大腸菌感染症を含む腸管感染症の診断・治療に関する最新のガイドラインです。抗菌薬治療の原則や実践的な治療方針が示されています。

 

 




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