軽躁病の症状と治療薬:双極性障害の診断と薬物療法

軽躁病は双極性障害の重要な病相であり、適切な診断と治療薬選択が患者の予後を左右します。症状の特徴から薬物療法まで、医療従事者が知るべき知識を網羅的に解説しました。

軽躁病の症状と治療薬

軽躁病の診断と治療のポイント
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症状の特徴

4日以上持続する気分の高揚と活動性の増加、社会機能の著明な障害は伴わない

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治療薬の選択

気分安定薬と非定型抗精神病薬を中心とした薬物療法、症状の程度により治療方針を決定

⚠️
治療上の注意

軽躁状態では治療への動機が低く、長期的な再発予防を重視した治療戦略が重要

軽躁病の症状と診断基準の詳細

軽躁病は双極性障害II型の重要な構成要素であり、その正確な診断は適切な治療につながる重要なステップです。軽躁エピソードは、躁ほど極端ではない状態でありながら、抑うつ状態ではない平常時と明らかに異なる行動が4日以上持続する明確なエピソードとして定義されます。

 

診断基準において、軽躁病では以下の症状が重要な指標となります。

  • 多動と多弁: 通常よりも活動的になり、会話量が増加する
  • Racing thought(競争思考): 思考が加速し、次々とアイデアが浮かぶ状態
  • 誇大性: 自己評価や能力の過大評価が見られる
  • 睡眠の減少: 睡眠時間が短縮しても疲労感を感じない
  • 集中困難: 注意が散漫になり、一つのことに集中できない

これらの症状のうち2つ以上が認められることが診断の要件です。重要な点は、軽躁病は社会的機能の障害をもたらす程度のものではなく、持続期間は短く、入院などには至らないということです。

 

軽躁期には、気分が明るくなり、気力が顕著に増大するのにつれて睡眠欲求が減少し、精神運動活動が加速します。患者によっては、軽躁期に気力の高まり、創造性、自信、および普段以上の社会的機能がみられるため、適応的となることがあります。多くの患者は、その多幸感に満ちた楽しい状態を終わらせたくないと願うため、治療への動機が低くなりがちです。

 

一方で、一部の患者では軽躁が注意転導性、易怒性、および気分変動として現れ、患者も他者もあまり魅力的には感じない場合もあります。この多様性が軽躁病の診断を困難にする要因の一つとなっています。

 

軽躁病における治療薬の選択と治療方針

軽躁病の治療において最も重要な点は、軽躁状態は薬物療法につながらないことが多いという現実です。症状の自覚もないため本人の問題意識も持ちにくく、持続期間も短いので治療という形にはいたりにくいのが実情です。

 

しかし、双極性障害の長期的な管理を考える上で、軽躁エピソードの適切な治療と再発予防は極めて重要です。治療薬の選択は以下の3つのポイントを中心に検討されます。

  • うつ状態への対応: 双極性障害では うつエピソードが最も問題となることが多い
  • 再発予防: 気分の波を小さくし、エピソードの頻度を減少させる
  • 合併症への対処: 不安障害や物質使用障害などの併存疾患への配慮

双極性障害の治療では、気分安定薬と定型抗精神病薬が中心となります。これらの薬剤は、躁やうつの状態のときに使い分けられますが、躁もうつにも効果的な幅広い作用を持つのがリチウムであり、治療の第一選択となります。

 

軽躁状態に対しては、直ちに気分を鎮める必要がある場合は抗精神病薬を中心に使用しますが、時間をかけて治療することができる軽躁状態では、自然に気分を落ち着けてくれる気分安定薬を使用していきます。

 

軽躁病の気分安定薬による治療アプローチ

気分安定薬は軽躁病治療の中核を成す薬剤群であり、抗躁効果・抗うつ効果・再発予防効果の3つの作用が期待できます。主要な気分安定薬は以下の通りです。
リチウムリーマス 💊
リチウムは自然界にあるミネラルであり、水道水、野菜、海藻類などに含まれています。神経保護作用、自殺予防作用、衝動性や攻撃性抑制作用が知られており、最近では認知症予防効果も期待されています。

 

  • 多幸感や爽快気分を伴う典型的な躁病の患者に良く効果を示す
  • 2-3週間の治療で、4-8割の患者で症状が改善する
  • 副作用として初期の手の震え、下痢・吐き気が見られる
  • 治療域と中毒域が近いため、血中濃度の定期的な測定が必要

バルプロ酸ナトリウム(デパケン) 💊
バルプロ酸は比較的使いやすい薬剤として位置づけられています。イライラしていたり複雑な躁状態、ラピッドサイクラーにおいてリーマスが効きにくい場合に効果が期待できます。

 

  • 抗てんかん薬として長らく用いられている薬剤
  • 気分安定薬としての適応も認められている
  • 肝機能と全血球計算の監視が必要

ラモトリギンラミクタール 💊
ラモトリギンは特にうつ症状の改善に効果があり、双極性障害に特に有効で、うつ病相の予防効果もあります。

 

  • 通常の投与量は毎日100-200mg
  • 2週間ごとに25mgを増強可能
  • スティーブンス・ジョンソン症候群のリスクがあるため、低用量から開始が必要
  • 発疹が出現した場合は即座に中止が必要

カルバマゼピン(テグレトール) 💊
特に躁状態に効果があるとされており、複雑な病態を呈する患者に使用されることがあります。

 

軽躁病の非定型抗精神病薬による治療戦略

非定型抗精神病薬は軽躁病の治療において重要な役割を果たしており、即効性という観点では気分安定薬よりも優れています。リチウムはオランザピンより10日ほど治療効果の発現が遅れるという報告もあり、急性期の症状管理には非定型抗精神病薬が重要です。

 

オランザピン(ジプレキサ) 🎯
オランザピンは抗躁効果、抗うつ効果、再発予防効果があることが報告されており、日本では2017年時点で躁にもうつにも適応がある唯一の薬剤です。

 

  • 躁うつ病の躁症状・うつ症状両方への適応を持つ
  • 副作用には食欲亢進、体重増加、脂質異常、糖尿病誘発などがある
  • 代謝系の副作用に注意が必要で、定期的な血液検査が推奨される

クエチアピン(セロクエル) 🎯
クエチアピンは双極性障害II型のうつ状態において、最もエビデンス(研究に基づいた根拠)がしっかりしている薬剤です。

 

  • 抗うつ効果に関するエビデンスが高い
  • 躁への適応はないが、躁病、抑うつ、維持期の全般での使用が推奨される
  • オランザピン同様の副作用があり、糖尿病には禁忌

ルラシドン(ラツーダ) 🎯
ルラシドンは双極性障害のうつ症状治療薬としてはオランザピン、クエチアピンに続く3剤目の薬剤であり、先の2剤に比べて肥満や眠気の副作用が少ないという特徴があります。

 

  • 抗うつ効果がある
  • 代謝系副作用が少ない
  • セロトニン5-HT1A受容体部分遮断作用がうつや不安に有用性があると考えられている
  • 双極性障害のうつ状態では1日1回20mg-60mgで使用される

アリピプラゾール(エビリファイ) 🎯
アリピプラゾールは抗躁効果と再発予防効果を持つ薬剤として位置づけられています。

 

  • 躁状態の急性期治療に有効
  • やや弱いエビデンスながら、躁状態の再発予防効果が示されている
  • うつ状態への直接的な効果は限定的

軽躁病の治療における注意点と長期予後管理

軽躁病の治療において、医療従事者が特に注意すべき点は、患者の治療へのアドヒアランス(服薬遵守)の問題です。軽躁状態では患者自身が調子の良さを感じているため、治療の必要性を理解してもらうことが困難な場合が多くあります。

 

抗うつ薬使用時の注意点 ⚠️
軽躁病を含む双極性障害の治療において、抗うつ薬の使用には細心の注意が必要です。抗うつ薬は躁転や気分不安定さを遷延化(長引くこと)させるために原則は禁忌とされています。

 

  • 安易な抗うつ薬の使用は自殺衝動を高めるリスクがある
  • 特に25歳以下の患者には注意が必要
  • 三環系抗うつ薬は躁転や急速交代型を惹起するため、用いるべきではない
  • SSRIの使用については議論があり、特に双極II型障害においては気分安定薬との併用で慎重に使用される場合がある

薬物療法の継続性と調整 📊
軽躁病の治療では、症状の改善後も長期的な維持療法が重要です。再発予防効果に加え、自殺予防効果も示されているリチウムが第一選択薬とされますが、その他の薬剤についても以下の点を考慮する必要があります。

  • 抗精神病薬の処方を中断する場合は、最低4週間かけ徐々に減薬する必要がある
  • リチウム塩の処方を中断する場合は、最低4週間、できれば3ヶ月かけ徐々に減薬する必要がある
  • 血中濃度の監視と共に肝機能検査、全血球計算の定期的な実施が重要

心理社会的治療の併用 🧠
薬物療法と並行して、心理社会的治療も重要な治療要素となります。心理教育が基本であり、個人で、夫婦で、あるいは集団で行われます。

 

  • 一般的な疾患の理解と受容の促進
  • ライフチャートの作成による疾患の経過と増悪因子の理解
  • 薬剤の知識の獲得とアドヒアランスの向上
  • 初期徴候の把握と早期対応の技術習得

対人関係社会リズム療法も有効であり、対人関係に焦点を当て、種々の心理学的・行動学的技法を用いて、対人ストレスへの対処能力を身につけると共に、生活リズムを一定に保ち、再発を予防することを主眼とします。

 

治療予後と長期管理 📈
軽躁病を含む双極性障害の治療では、症状の完全な消失よりも、機能的な改善と再発の予防に重点が置かれます。治療の成功指標として以下の点が重要です。

  • 気分エピソードの頻度と重症度の減少
  • 社会的・職業的機能の維持・改善
  • 自殺リスクの低減
  • 生活の質(QOL)の向上

双極性障害は慢性疾患であり、継続的な治療とモニタリングが必要です。医療従事者は患者との良好な治療関係を構築し、長期的な視点で治療方針を立てることが求められます。

 

双極性障害における薬物療法の詳細な治療ガイドライン
精神神経学雑誌のオンライン版
気分安定薬の適正使用に関する専門的な情報
日本精神科薬物治療学会
軽躁病の治療は、患者の個別性を重視し、症状の特徴、重症度、既往歴、併存疾患などを総合的に評価して治療方針を決定することが重要です。また、治療効果のモニタリングと副作用の管理、そして患者教育を通じた治療へのアドヒアランス向上が、良好な治療予後につながる重要な要素となります。