抗てんかん薬の種類と新規従来薬の作用機序による分類

抗てんかん薬の種類と分類について、従来薬と新規薬の特徴や作用機序の違いを詳しく解説。医療従事者が知っておくべき薬剤選択のポイントとは?

抗てんかん薬の種類と分類

抗てんかん薬の種類と分類の概要
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従来薬と新規薬の分類

カルバマゼピンやバルプロ酸などの従来薬と、レベチラセタムやラモトリギンなどの新世代薬に大別される

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作用機序による分類

ナトリウムチャネル遮断、カルシウムチャネル遮断、GABA関連など、7つの主要な作用機序で分類

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発作型別選択

部分発作、全般発作など発作型に応じた第一選択薬と第二選択薬の使い分けが重要

抗てんかん薬の従来薬と新規薬の基本分類

抗てんかん薬は大きく従来薬と新規薬(新世代薬)に分類されます。従来薬には、1960年代から使用されているカルバマゼピン(テグレトール)やバルプロ酸ナトリウム(デパケン)、フェニトイン(アレビアチン)、フェノバルビタール(フェノバール)などがあります。

 

従来薬の特徴として、長期間の使用実績があり安全性データが豊富である一方、薬物相互作用が多く、副作用の頻度も比較的高いことが挙げられます。特にフェニトインは歯肉増殖、カルバマゼピンは白血球減少症や低ナトリウム血症、バルプロ酸は体重増加や脱毛などの副作用が知られています。

 

新規薬は2006年以降に本邦で発売された薬剤群で、ガバペンチン(ガバペン)、トピラマート(トピナ)、ラモトリギン(ラミクタール)、レベチラセタム(イーケプラ)、ペランパネル(フィコンパ)、ラコサミド(ビムパット)などがあります。これらの新規薬は、薬物相互作用が少なく、忍容性が良好で、催奇形性のリスクが低いものが多いという特徴があります。

 

バルビツール酸系薬、ヒダントイン系薬、ベンゾジアゼピン系薬、イミノスチルベン系薬、分枝脂肪酸系薬など、化学構造による分類も重要です。ベンゾジアゼピン系薬には、クロナゼパム(リボトリール、ランドセン)、ジアゼパム(セルシン、ホリゾン)、クロバザム(マイスタン)があり、主にGABA_A受容体の機能促進により抑制性神経伝達を増強します。

 

抗てんかん薬の作用機序による種類分け

抗てんかん薬の作用機序は、神経細胞の過剰興奮を抑制する方法によって大きく7つのカテゴリーに分類されます。興奮系を抑制する薬剤と抑制系を増強する薬剤、そして両方の作用を持つ薬剤に大別できます。

 

ナトリウムチャネル遮断薬は最も薬剤数が多いグループで、急速な不活性化を促進するものと緩徐な不活性化を促進するものに分かれます。急速な不活性化を促進する薬剤には、フェニトイン、カルバマゼピン、バルプロ酸、ラモトリギン、オクスカルバゼピンがあります。一方、ラコサミドは緩徐な不活性化を促進する独特の作用機序を持ちます。
カルシウムチャネル遮断薬は、T型カルシウムチャネルを阻害するエトスクシミドとバルプロ酸、P/Q型カルシウムチャネルを阻害するガバペンチンとプレガバリンに分類されます。T型カルシウムチャネルの阻害は特に欠神発作に有効で、エトスクシミドは欠神発作の第二選択薬として使用されます。
GABA関連薬剤は、GABA受容体の活性化、GABA輸送体阻害、GABA分解阻害など複数の機序があります。フェノバルビタールとベンゾジアゼピン系薬剤はGABA_A受容体を活性化し、ビガバトリンはGABA分解酵素を阻害してGABA濃度を上昇させます。
シナプス小胞タンパク質2A(SV2A)結合という独特の作用機序を持つのがレベチラセタムです。この薬剤は神経終末の小胞タンパク質に作用し、神経伝達物質の放出を抑制します。薬物相互作用が少なく、部分発作に対して単剤使用も可能で、第一選択薬として選択される頻度が高くなっています。

抗てんかん薬の発作型別選択と新規薬の特徴

てんかん発作は部分発作と全般発作に大別され、発作型によって第一選択薬が異なります。部分発作の第一選択薬はカルバマゼピンで、第二選択薬としてフェニトイン、ゾニサミド、バルプロ酸があります。新規薬では、ラモトリギン、レベチラセタム、トピラマートが併用薬として使用されます。

 

全般発作はさらに細分化され、欠神発作の第一選択薬はバルプロ酸、第二選択薬はエトスクシミドで、新規薬のラモトリギンも効果が期待できます。ミオクロニー発作では、クロナゼパムが第一選択薬、レベチラセタムが第二選択薬として使用されます。強直間代発作には、バルプロ酸が第一選択薬で、第二選択薬としてフェノバルビタール、クロバザム、フェニトインがあり、新規薬ではラモトリギン、トピラマート、レベチラセタムが併用薬として選択されます。

 

レノックス・ガストー症候群のような特殊なてんかん症候群では、ラモトリギンが特に有効とされています。また、重積発作の治療には、ジアゼパムが第一選択薬として使用され、自宅での対応が可能な坐剤も処方されることがあります。

 

新規薬の中でも、ペランパネルは選択的AMPA型グルタミン酸受容体拮抗剤という独特の作用機序を持ち、難治性てんかんの併用薬として期待されています。ラコサミドはナトリウムチャネルの緩徐な阻害作用により、カルバマゼピンと同等の発作抑制作用を持ちながら、薬疹や相互作用が少ないという利点があります。

 

単剤療法が可能な新規薬として、ラモトリギンとレベチラセタムが挙げられます。特にこれらの薬剤は催奇形性が少ないため、妊娠可能年齢の女性に対して優先的に選択される傾向があります。

 

抗てんかん薬の副作用と血中濃度モニタリング

抗てんかん薬の副作用は、中枢神経系への影響による共通の副作用と、個々の薬剤に特異的な副作用に分けられます。共通の副作用として、眠気、ふらつき、認知機能低下などがあり、これらは脳全体の働きを抑制することによって生じます。

 

薬剤特異的な副作用では、カルバマゼピンの白血球減少症や低ナトリウム血症、バルプロ酸の体重増加や脱毛、膵炎、フェニトインの歯肉増殖や多毛、ベンゾジアゼピン系薬剤の分泌過多などが知られています。これらの副作用の多くは用量依存性で、血中濃度が適正範囲を超えると出現しやすくなります。

 

血中濃度モニタリングは、特にフェニトインとカルバマゼピンで重要です。フェニトインは血中濃度の上限を超えると、めまい、ふらつき、眼振などが顕著に現れます。カルバマゼピンは代謝酵素誘導作用があり、投与開始直後と継続中で代謝状況が変化するため、定期的なモニタリングが必要です。

 

新規薬の利点として、血中濃度モニタリングが不要または最小限で済むものが多いことが挙げられます。レベチラセタムやラモトリギンは、腎機能や肝機能に大きな影響を与えず、薬物相互作用も少ないため、血中濃度測定の頻度を減らすことができます。

 

アレルギー反応による重篤な皮膚障害も重要な副作用です。特にラモトリギンでは、添付文書記載の増量速度より早く増量すると重症薬疹のリスクが高くなるため、慎重な用量調整が必要です。初回投与時や用量変更時には、発疹の出現に注意深く観察することが重要です。

 

抗てんかん薬の種類選択における薬剤師の臨床判断

薬剤師が抗てんかん薬の種類選択に関与する際、単に処方された薬剤を調剤するだけでなく、患者の病態、併用薬、生活背景を総合的に評価することが重要です。特に新規薬の導入時期や従来薬からの切り替えタイミングについて、薬剤師独自の視点から提案できることがあります。

 

患者の年齢や性別、妊娠の可能性、職業などを考慮した薬剤選択が必要です。例えば、運転業務に従事する患者では、眠気の副作用が少ないカルバマゼピンやラモトリギンを優先し、ベンゾジアゼピン系薬剤は避けるべきです。妊娠可能年齢の女性では、催奇形性のリスクが低いラモトリギンやレベチラセタムを第一選択とし、バルプロ酸の使用は慎重に検討する必要があります。

 

薬物相互作用の観点から、多剤併用患者では新規薬の利点が大きくなります。従来薬のカルバマゼピンやフェニトインは肝代謝酵素を誘導し、他の薬剤の血中濃度を低下させる可能性があります。一方、レベチラセタムやガバペンチンは腎排泄が主体で、薬物相互作用のリスクが低いため、多剤併用が必要な患者に適しています。

 

コンプライアンス向上の観点から、服薬回数や剤形の選択も重要です。徐放剤であるカルバマゼピン(テグレトールCR)やバルプロ酸(デパケンR)は、1日2回投与で血中濃度を安定させることができ、患者の服薬負担を軽減できます。また、ラモトリギンの分散錠は水なしでも服用可能で、外出先での服薬が容易になります。

 

経済性の考慮も薬剤師の重要な役割です。新規薬は薬価が高い傾向にありますが、副作用による受診回数の減少や血中濃度モニタリング回数の削減により、総医療費が削減される場合があります。患者の経済状況や保険制度を考慮しながら、最適な薬剤選択を提案することが求められます。

 

薬剤師によるモニタリング項目の設定も重要です。従来薬では定期的な血液検査による肝機能や血球数のチェックが必要ですが、新規薬では異なるモニタリング項目が重要になります。例えば、トピラマートでは体重減少や腎結石のリスク、ラコサミドでは心電図異常の監視が必要です。

 

服薬指導時には、各薬剤の特徴を踏まえた具体的な注意点を伝えることが重要です。ラモトリギンでは皮疹の初期症状、レベチラセタムでは易刺激性や攻撃性の変化、ペランパネルでは精神症状の悪化など、薬剤特異的な副作用について患者・家族への教育を行う必要があります。

 

また、てんかん患者では突然の発作による事故のリスクがあるため、薬剤師は患者の生活環境に応じた安全対策の提案も重要な役割となります。例えば、入浴時の安全確保、高所作業の回避、運転に関する法的制限などについて、適切な情報提供を行うことが求められます。