コンパニオン診断薬の種類・特徴・選択方法を徹底解説

コンパニオン診断薬には多様な種類があり、がん種や治療薬によって適切な選択が必要です。検査方法や特徴を理解することで最適な治療選択ができるでしょうか?

コンパニオン診断薬の種類

コンパニオン診断薬の概要
🔬
体外診断用医薬品

特定の治療薬の有効性や安全性向上を目的とした診断薬

📊
42種類の対象医薬品

2024年8月時点でコンパニオン診断が必要な医薬品数

🎯
個別化医療の実現

患者個々の特性に応じた最適な治療選択を可能にする

コンパニオン診断薬の基本分類と検査方法

コンパニオン診断薬は検査方法によって大きく4つのカテゴリーに分類されます。

 

免疫組織化学(IHC)法による診断薬

  • HER2タンパク質発現検査
  • PD-L1発現検査(PD-L1 IHC 28-8 pharmDx「ダコ」、PD-L1 IHC 22C3 pharmDx「ダコ」)
  • CCR4タンパク質発現検査(ポテリジオテストIHC)

IHC法は組織切片に対して特定のタンパク質を染色により可視化する方法で、病理医による判定が可能です。胃癌におけるHER2検査では、3+が陽性、0または1+が陰性と判定され、HER2分子標的薬の治療適応を決定します。

 

蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)法

  • Vysis ALK Break Apart FISHプローベキット(肺癌のALK融合遺伝子検査

FISH法は遺伝子の構造異常を検出する高精度な検査法で、特にALK融合遺伝子の検出において標準的手法として用いられています。

 

PCR法による変異検出

  • コバスEGFR変異検出キットv2.0
  • therascreen EGFR変異検出キット
  • BRAF V600変異検出キット
  • THxID BRAFキット

PCR法は遺伝子変異を高感度で検出できる方法で、組織だけでなく血漿検体からも検査可能な製品があります。

 

次世代シーケンシング(NGS)法

  • オンコマインDx
  • Foundation One CDx

NGS法は一度に多数の遺伝子変異を同時に解析できる包括的な検査方法です。

 

がん治療別コンパニオン診断薬の種類一覧

がん種と治療薬に応じて、対応するコンパニオン診断薬が指定されています。

 

肺癌領域

  • EGFR変異陽性肺癌:コバスEGFR変異検出キット、therascreen EGFR変異検出キット(オシメルチニブ、ゲフィチニブ、エルロチニブ対応)
  • ALK融合遺伝子陽性肺癌:Vysis ALK Break Apart FISHプローベキット、ヒストファイン ALK iAEPキット(クリゾチニブ、アレクチニブ対応)

肺癌では特にEGFR変異検査において複数のコンパニオン診断薬が利用可能で、検査の迅速性や感度に応じて選択されます。

 

悪性黒色腫

  • BRAF V600変異陽性悪性黒色腫:コバスBRAF V600変異検出キット(ベムラフェニブ対応)、THxID BRAFキット(ダブラフェニブ・トラメチニブ併用療法対応)

血液悪性腫瘍

  • 成人T細胞白血病リンパ腫・末梢性T細胞リンパ腫:ポテリジオテストFCM、ポテリジオテストIHC(モガムリズマブ対応)

血液がんにおけるCCR4発現検査では、フローサイトメトリー法(FCM)と免疫組織化学法(IHC)の2つの手法が承認されており、検体の状態や施設の検査体制に応じて選択可能です。

 

胃癌領域

  • PD-L1発現陽性胃癌:PD-L1 IHC 28-8 pharmDx「ダコ」(ニボルマブ対応)、PD-L1 IHC 22C3 pharmDx「ダコ」(ペムブロリズマブ対応)

胃癌におけるPD-L1検査では、それぞれの免疫チェックポイント阻害剤に対応する専用の診断薬が存在します。

 

コンパニオン診断薬選択時の注意点と互換性

同一の治療薬に対して複数のコンパニオン診断薬が承認されている場合、どの診断薬を選択するかが重要な課題となります。

 

検査感度と特異度の違い
EGFR変異検出キットの比較では、最小検出感度に差があります。

  • コバスEGFR変異検出キット:4-5%
  • therascreen EGFR変異検出キット:5.9%
  • オンコマインDx:5.3%
  • Foundation One CDx:2.4%

これらの感度の違いは、特に微量な変異を持つ症例での検出率に影響を与える可能性があります。

 

互換使用に関する考慮事項
胃癌のPD-L1検査において、ニボルマブ用とペムブロリズマブ用の診断キットは、日常臨床では相互参考として使用される場合がありますが、カットオフ値の違いに注意が必要です。これは「コンプリメンタリー検査」として位置づけられており、完全な互換性は保証されていません。

 

検体の種類による制限
組織検体と血漿検体の両方に対応している診断薬は限られており、患者の状態や検体採取の可否に応じて適切な診断薬を選択する必要があります。

 

検査機器との適合性
各診断薬は特定の解析装置に対応しており、施設の設備状況も選択の重要な要因となります。

  • コバスz480(コバスシリーズ)
  • ロータージーンQ MDx(therascreen)
  • Ion PGM Dx(オンコマイン)
  • HiSeq4000(Foundation One)

次世代シーケンシング型コンパニオン診断薬の特徴

NGS型のコンパニオン診断薬は、従来の単一遺伝子検査とは異なる包括的な解析能力を持ちます。

 

オンコマインDxの特徴

  • 組織検体と血漿検体の両方に対応
  • Ion PGM Dxシステムを使用したプロトン検出によるシーケンシング
  • 複数の遺伝子変異を同時検出
  • リード数に基づく変異アレル頻度5%前後での陽性判定

Foundation One CDxの特徴

  • 324遺伝子の包括的解析
  • HiSeq4000による蛍光検出シーケンシング
  • 最小検出感度2.4%(L858R変異の場合)
  • 組織検体および血漿検体対応

NGS型診断薬の利点は、一度の検査で複数の治療標的を同時に評価できることです。これにより、患者の治療選択肢を包括的に把握し、より効率的な治療戦略の立案が可能になります。

 

一方で、解析時間の長さや高度な技術要求、コストの高さといった課題もあり、緊急性の高い症例では従来の単一遺伝子検査が選択される場合もあります。

 

リキッドバイオプシーとの組み合わせ
血漿検体を用いたリキッドバイオプシーとNGS技術の組み合わせにより、侵襲性の低い検査で包括的な遺伝子解析が可能になっています。これは組織採取が困難な症例や経過観察における治療抵抗性変異の検出に特に有用です。

 

コンパニオン診断薬の今後の展望と課題

コンパニオン診断薬の領域は急速に発展しており、新たな技術革新と臨床ニーズに応じて継続的な進歩が期待されています。

 

人工知能(AI)との統合
病理画像解析にAI技術を導入することで、HER2やPD-L1の発現評価における客観性と再現性の向上が期待されています。これにより、判定のばらつきを減少させ、より標準化された診断が可能になると考えられます。

 

マルチプレックス検査の普及
一つの検体から複数のバイオマーカーを同時に検出するマルチプレックス検査の開発が進んでいます。これにより検体の有効利用と検査効率の向上が図られ、特に小さな生検検体しか得られない症例での診断精度向上に貢献します。

 

リアルタイムモニタリングの実現
循環腫瘍DNA(ctDNA)の検出技術向上により、治療効果のリアルタイムモニタリングや薬剤耐性の早期発見が可能になりつつあります。これは従来の治療前診断から治療中の継続的診断への paradigm shift を意味します。

 

国際標準化の推進
グローバルな臨床試験の増加に伴い、コンパニオン診断薬の国際標準化が重要な課題となっています。特にアジア人集団における遺伝子変異の特性を考慮した診断基準の確立が求められています。

 

アクセシビリティの改善
高額な検査費用や専門的な技術要求により、一部の医療機関でしか実施できない現状の改善が課題です。簡便で迅速な検査システムの開発により、より多くの患者が個別化医療の恩恵を受けられる環境整備が進められています。

 

新規バイオマーカーの開発
腫瘍微小環境の解析技術向上により、従来の遺伝子変異に加えて、免疫環境や代謝特性を評価する新たなバイオマーカーの開発が進んでいます。これにより、さらに精密な治療選択が可能になると期待されています。

 

独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)が公開するコンパニオン診断薬一覧の継続的な更新により、最新の承認状況を把握することが重要です。

 

PMDAコンパニオン診断薬等一覧 - 最新の承認状況と適応について詳細な情報が掲載されています
コンパニオン診断薬の適切な選択と活用により、がん患者により良い治療成果をもたらすことが期待されます。医療従事者として最新の情報把握と適切な診断薬選択の重要性を理解し、個別化医療の発展に貢献していくことが求められています。