狭心症の急性発作の症状緩和には、舌下ニトログリセリンが最も効果的な薬物療法として位置づけられます。
ニトログリセリンは血管拡張薬で、末梢静脈系や冠血管に作用し、前負荷を下げて心筋酸素需要を減らすことで胸部症状を軽快させます。
MSDプロフェッショナル版では、舌下投与後に1.5〜3分以内に軽快し、作用は最大30分ほど持続し得ると説明されています。
臨床で重要なのは「発作が起きたら使う」だけでなく、「予防的に使う」視点です。労作で再現性高く症状が出る患者では、活動前に舌下ニトログリセリンを使用することで症状を抑えられることがあります。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10236523/
一方で、服薬指導では“効かなかったときの動線”を明確にします。症状の軽快が不十分なら4〜5分ごとに追加できるが、反復しても改善しない場合は急性冠症候群も疑い、救急要請を含めた対応が必要です(患者教育としての要点)。
長時間作用型硝酸薬(経口、貼付など)は「発作予防」に使われます。
ただし硝酸薬には耐性が生じ得るため、血中濃度が一定に保たれやすいレジメンでは“休薬時間(硝酸薬フリー)”を設ける考え方が示されています。
意外と盲点なのは「薬効の劣化」です。MSDでは舌下錠は劣化しやすく、遮光ガラスの密閉容器で保存し、少量を頻回に入手するよう説明されています。(外来で“古いニトロ”を持ち続ける患者が一定数いるため、薬剤師・看護師が拾えるポイントです。)
狭心症の虚血予防(症状コントロール)では、β遮断薬が多くの患者で中心薬になり得ます。
β遮断薬は心拍数・血圧・収縮性を下げ、心筋酸素需要を減らし、運動耐容能を改善します。
さらにMSDでは、β遮断薬は症状を制限し、他薬よりも梗塞や突然死の予防に優れる、と整理されています。
一方で、冠攣縮性狭心症(いわゆる冠攣縮が主病態)では話が変わります。MSDは、ラベタロールとカルベジロールを除くβ遮断薬は拮抗されないα受容体活性により冠攣縮を起こし得るため、冠攣縮性狭心症では使用しない、と明確に述べています。
冠攣縮性狭心症の領域では、Ca拮抗薬や硝酸薬が有効であることが日本循環器学会ガイドライン内でも記載されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8339126/
同ガイドラインは、Ca拮抗薬により発作が抑制されるがβ遮断薬では抑制されない、という点を診断の参考項目として挙げており、病型推定にも薬理反応が組み込まれています。
Ca拮抗薬は病型だけでなく併存症でも選び分けます。MSDは、Ca拮抗薬は高血圧や冠攣縮がある場合に特に有用、としています。
ただし短時間作用型ジヒドロピリジン系は急性低血圧や反射性頻脈を起こし、冠動脈疾患患者の死亡率上昇と関連し得るため、安定狭心症に単剤で使用しない、という注意点も重要です。
現場の“あるある”として、ニフェジピンカプセルの頓用を狭心症に、と誤解している患者がいる場合は、病状や処方意図の再確認が必要になります(薬剤選択ミスは転帰に直結します)。
狭心症治療は「胸痛が止まるか」だけで終わりません。MSDは狭心症の治療として、抗血小板薬、硝酸薬、β遮断薬、Ca拮抗薬、ACE阻害薬、スタチンなどを挙げています。
この並びは、症状緩和と予後改善が同じ記事内にまとめられている点で、教育資料として非常に使いやすい構造です。
抗血小板薬についてMSDは、アスピリンが血小板と不可逆的に結合しCOX阻害を通じて凝集を抑えること、さらにクロピドグレル等のP2Y12阻害薬も含め虚血イベント(心筋梗塞、突然死)のリスクを低減できることを説明しています。
とくに「どちらかが使えないなら、もう一方を単剤で」という実務上の判断も明記されており、出血リスクやアレルギー歴の整理に役立ちます。
スタチンとACE阻害薬も、症状より“将来”に効く薬としてチーム内での共通言語にしておくと強いです。MSDは、狭心症治療の一部としてACE阻害薬とスタチンを挙げています。
またMSDは、LDLを積極的に低下させる治療(食事療法とスタチン)が冠動脈疾患の進行を遅らせ、一部病変を退縮させ得ることや、内皮機能改善を通じて負荷に対する反応を改善し得ることを述べています。
看護・薬剤指導では「胸痛が落ち着いたから自己中断」が起こりやすい薬群なので、患者の理解(一次予防・二次予防の違い)を、診療科横断で揃えることが重要です。
参考:狭心症の治療薬(抗血小板薬、硝酸薬、β遮断薬、Ca拮抗薬、ACE阻害薬、スタチン等)の全体像と、ニトログリセリン舌下の使い方や硝酸薬耐性の考え方
https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/04-%E5%BF%83%E8%A1%80%E7%AE%A1%E7%96%BE%E6%82%A3/%E5%86%A0%E5%8B%95%E8%84%88%E7%96%BE%E6%82%A3/%E7%8B%AD%E5%BF%83%E7%97%87
狭心症診療で「薬の一覧」を作る価値は、禁忌・併用注意をチームで漏れなく共有できる点にあります。
とくに硝酸薬(ニトログリセリン)とPDE5阻害薬(ED治療薬)の併用は、降圧効果が増強され危険であり、併用禁忌であることが一般に周知されています。
ED治療薬は患者が申告しないケースもあるため、処方前だけでなく、救急外来・病棟・検査前問診でも定型質問にしておくのが安全です(「最近、勃起改善薬を内服しましたか」など)。
さらに実務で効くのは「患者の行動シナリオ」まで想定した説明です。たとえば、ED薬を服用した当日に狭心症発作が出てニトロを使ってしまう、という偶発経路を患者がイメージできないことが多いからです。
参考)心臓病とED(勃起不全)について|【浜松町第一クリニック】
“恥ずかしいから言わない”を前提に、個室での確認、パートナー同席時の聞き方、電子カルテのアラート(硝酸薬オーダー時にPDE5を確認)など、仕組みで事故を減らします。
意外な落とし穴として、患者が「今日はニトロ処方がないからED薬は大丈夫」と判断してしまうことがあります。実際には虚血性心疾患の既往や症状がある場合、受診中の医療者側で全体リスク評価が必要で、自己判断を防ぐ説明が重要です。
薬の一覧記事は薬理の説明で終わりがちですが、冠攣縮性狭心症では「背景因子の是正」が実感として効きやすく、医療従事者向け記事として差別化しやすい部分です。
日本循環器学会ガイドラインは、冠攣縮の重要な環境因子として喫煙を挙げ、タバコ煙のフリーラジカルがNOを不活化し内皮障害を起こし得る、という機序も含めて記載しています。
つまり“Ca拮抗薬を増やす前に禁煙支援をやり切る”ことが、薬物治療の一部として位置づけられます。
さらに、同ガイドラインは飲酒について、アルコールがMgの尿中排泄を促進し組織Mg欠乏につながりやすいこと、MgがCa2+流入に拮抗すること、冠攣縮性狭心症例でMg欠乏が示唆されることを述べています。
また「深酒の翌朝に突然死が起きやすい」という臨床的注意にも触れており、単なる生活指導ではなくリスク管理として扱う必要があります。
ここは検索上位の“薬の一覧”では抜けやすい一方、現場では説明材料になり、患者の行動変容(夜間〜早朝の発作、飲酒後の誘発)にもつながりやすい論点です。
同ガイドラインは、冠攣縮発作が夜間から早朝に多く、運動耐容能に日内変動があること、発作の多くが無症候性虚血であることも示しています。
この特徴は服薬アドヒアランスにも影響し、「日中は平気だから薬はいらない」という誤解を生むため、患者教育では“症状がない時間帯に病態が潜む”ことを明確に伝えると効果的です。
参考:冠攣縮性狭心症の診断基準(Ca拮抗薬で抑制、β遮断薬では抑制されない等)や、喫煙・飲酒(Mg欠乏)など背景因子と病態生理の記載
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2013/10/JCS2013_ogawah_h.pdf