アスピリンは抗血小板薬の中で最も使用頻度が高い薬剤です。シクロオキシゲナーゼ(COX)酵素を不可逆的に阻害することで、血小板の活性化に必要なトロンボキサンA2の生成を抑制します。
現在の臨床現場では、1日あたり81mg~330mgという比較的低用量で使用されることが多く、その有効性が確認されています。アスピリンは解熱鎮痛剤として長い歴史を持つ薬剤でもありますが、低用量での抗血小板作用が注目されています。
主なアスピリン系薬剤一覧:
アスピリンの特徴として、服用後の血小板機能回復には新しい血小板の産生が必要であり、効果の持続時間が比較的長いことが挙げられます。これは血小板の寿命が約7-10日であることに関連しています。
チエノピリジン系抗血小板薬は、ADP(アデノシン二リン酸)受容体であるP2Y12受容体を阻害することで、血小板同士の結合を防ぎます。この作用機序はアスピリンとは完全に異なるため、併用による相乗効果が期待できます。
主要なチエノピリジン系薬剤:
クロピドグレルは現在最も汎用されているチエノピリジン系薬剤です。肝臓でのCYP2C19による代謝を経て活性体となるため、この酵素の遺伝子多型により効果に個人差が生じることが知られています。
プラスグレルはクロピドグレルよりも強力な抗血小板作用を示しますが、出血リスクも高いため、適応患者の選択には慎重な判断が必要です。
ホスホジエステラーゼ阻害薬は、血小板内のcAMP(環状アデノシン一リン酸)を分解するホスホジエステラーゼ酵素の働きを抑制することで、血小板凝集を防ぎます。
代表的な薬剤:
シロスタゾールは血小板凝集抑制作用に加えて、血管拡張作用も持つため、末梢動脈疾患の治療において特に有用です。また、比較的出血リスクが低いとされており、高齢者においても使いやすい薬剤として評価されています。
ジピリダモールはアスピリンとの配合剤として使用されることもあり、脳梗塞の二次予防において一定の効果が示されています。
抗血小板薬の最も重要な副作用は出血です。血液をサラサラにする作用により、正常な止血機能も影響を受けるためです。
主な出血症状:
出血が持続する場合や多量の出血が認められる場合は、直ちに医師への連絡が必要です。特に頭蓋内出血は生命に関わる重篤な合併症であり、頭痛、意識障害、神経症状の出現に注意が必要です。
薬物相互作用への注意:
他の薬剤との併用により、抗血小板薬や併用薬の効果が変化する可能性があります。特に以下の薬剤との併用には注意が必要です。
手術・侵襲的処置時の対応:
手術や歯科治療前には、薬剤の休薬期間について主治医との相談が必要です。薬剤の種類、手術の種類、患者の血栓リスクにより休薬期間は異なります。
抗血小板薬と抗凝固薬は、血栓の種類と形成機序の違いにより使い分けられます。この理解は適切な薬剤選択において極めて重要です。
動脈血栓 vs 静脈血栓:
動脈血栓は主に血小板が関与し、高血圧や高脂血症、糖尿病などによる動脈硬化が背景にあります。一方、静脈血栓は主に凝固因子が関与し、心不全や不整脈による血流停滞が原因となります。
抗血小板薬の適応疾患:
抗凝固薬の適応疾患:
併用療法の考慮:
一部の高リスク患者では、抗血小板薬と抗凝固薬の併用が検討されることがあります。しかし、出血リスクが大幅に増加するため、患者の血栓リスクと出血リスクを慎重に評価した上での判断が必要です。
特に急性冠症候群患者で心房細動を合併している場合には、triple therapy(アスピリン+P2Y12阻害薬+抗凝固薬)やdual therapy(P2Y12阻害薬+抗凝固薬)などの選択肢があり、患者個々のリスク評価に基づいた薬剤選択が求められます。
薬剤選択における個別化医療:
遺伝子多型検査(CYP2C19など)による薬剤の効果予測や、血小板機能検査による薬剤効果のモニタリングなど、個別化医療の観点からの薬剤選択も重要な要素となっています。