急性肝性ポルフィリン症治療薬として2021年に承認されたギブラーリ皮下注189mg(一般名:ギボシランナトリウム)は、急性間欠性ポルフィリン症、遺伝性コプロポルフィリン症、異型ポルフィリン症、アミノレブリン酸脱水酵素欠損ポルフィリン症の4つの病型を対象とした画期的な治療薬です。
この薬剤は月1回の皮下注射により、肝臓でのヘム生合成経路に作用してポルフィリン前駆体の蓄積を抑制します。12歳以上の患者に対してギボシランとして2.5mg/kgを1ヵ月に1回皮下投与する用法・用量が設定されています。
ギブラーリの禁忌事項として明確に規定されているのは「本剤の成分に対し重篤な過敏症の既往歴のある患者」のみです。しかし、急性肝性ポルフィリン症患者全般に対する従来からの禁忌薬についても、継続して注意が必要です。
急性肝性ポルフィリン症患者に対する従来からの禁忌薬は、ポルフィリン合成を促進したり症状を悪化させたりするリスクがあるため、ギブラーリ投与中も引き続き注意が必要です。
バルビツール系薬剤 🚫
バルビツール系薬剤は酵素誘導によりポルフィリン合成を促進し、症状悪化のおそれがあります。以下の薬剤が該当します。
経口避妊薬 🚫
エストロゲンおよびプロゲストーゲンがポルフィリン症の症状を促進するおそれがあるため禁忌とされています。
抗てんかん薬 ⚠️
カルバマゼピンなどの一般的な抗てんかん薬の多くは発作を悪化させるため注意が必要です。レベチラセタムは安全に使用できる抗てんかん薬として考えられています。
その他の禁忌薬
ギブラーリは肝臓でのヘム生合成経路に対して薬理作用を有することから、チトクロームP450(CYP1A2、CYP2D6)の活性を抑制し、これらの酵素の基質となる薬剤との併用時に血中濃度上昇のリスクがあります。
CYP1A2基質薬との相互作用 ⚠️
以下の薬剤との併用時は血中濃度上昇に注意が必要です。
CYP2D6基質薬との相互作用 ⚠️
以下の薬剤との併用時も同様に注意が必要です。
これらの薬剤を併用する場合は、血中濃度のモニタリングや用量調整を検討し、副作用の発現に十分注意する必要があります。特に治療域が狭い薬剤との併用時は慎重な管理が求められます。
興味深いことに、ギブラーリ自体は各種チトクロームP450(CYP1A2、CYP2B6、CYP2C8、CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6及びCYP3A4/5)を直接的には阻害しないことがin vitro試験で確認されています。しかし、肝臓でのヘム生合成経路への薬理作用により間接的にCYP活性が抑制される可能性があります。
ギブラーリ投与時には重大な副作用の発現に注意し、適切な監視体制を整える必要があります。
アナフィラキシー(0.9%) 🚨
重度の過敏症反応として報告されており、以下の対応が必要です。
海外臨床試験では、アレルギー性喘息及びアトピー性皮膚炎の既往歴がある患者1例でアナフィラキシー反応が報告されています。
肝機能障害(13.5%) 📊
ALT増加、AST増加、γ-GTP増加等を伴う肝機能障害があらわれることがあります。
投与再開時は用量を1回1.25mg/kgに減量し、その後の状態観察により1回2.5mg/kgへの増量を検討します。
腎機能障害(13.5%) 🏥
慢性腎臓病、血中クレアチニン増加、糸球体濾過率減少等が報告されています。
重度の腎機能障害患者(eGFR<30mL/min/1.73m²)は臨床試験で除外されており、投与時のリスクが不明のため特に注意が必要です。
ギブラーリの臨床応用において、従来のポルフィリン症管理とは異なる新たな視点での患者管理が重要となります。
妊娠可能年齢女性への配慮 👩⚕️
妊婦を対象とした試験は実施されておらず、妊婦に対する使用データが限られています。妊娠可能年齢の女性患者には以下の配慮が必要です。
高齢者における薬物動態の特徴 👴
一般に生理機能が低下している高齢者では、患者の状態を観察しながら慎重な投与が必要です。特に以下の点に注意。
血漿ホモシステイン値上昇への対応 🧬
ギブラーリ投与により血漿ホモシステイン値の上昇が報告されています。ホモシステイン値上昇は心血管疾患リスクとの関連が指摘されており、以下の管理が推奨されます。
膵炎リスクの監視 🏥
ギブラーリには膵炎のリスクがある可能性が指摘されています。以下の症状に注意し、定期的な検査が必要です。
投与部位管理の工夫 💉
月1回の皮下注射という特徴から、以下の投与部位管理が重要です。
急性肝性ポルフィリン症治療薬であるギブラーリの適切な使用には、従来の禁忌薬に対する注意継続と新たな相互作用・副作用への対応が不可欠です。特にCYP基質薬との併用や重大な副作用の監視体制構築により、患者の安全性確保と治療効果の最大化を図ることが重要です。
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