局所麻酔薬の種類と一覧:分類と特徴

医療従事者向けに局所麻酔薬の種類と分類、薬理学的特徴、使い分けの基準について詳しく解説します。アミド型とエステル型の違いや副作用についても理解できますか?

局所麻酔薬の種類と分類

局所麻酔薬の基本分類
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アミド型局所麻酔薬

肝臓で代謝され、現在最も多く使用される局所麻酔薬

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エステル型局所麻酔薬

血中の偽コリンエステラーゼで分解される短時間作用型

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血管収縮薬配合の有無

アドレナリンやフェリプレシンの配合により効果持続時間が変化

局所麻酔薬のアミド型とエステル型の分類

局所麻酔薬は化学構造の違いにより、アミド型とエステル型に大別されます。この分類は中間鎖の結合様式によって決定され、薬物動態や代謝経路に大きな影響を与えます。

 

アミド型局所麻酔薬は現在使用されている局所麻酔薬の大部分を占めており、肝臓で代謝されます。代表的な薬剤には以下があります。

  • リドカイン(キシロカイン®)- 最も汎用的に使用される局所麻酔薬
  • メピバカイン(カルボカイン®)- 血管収縮薬を含まない製剤もある
  • ブピバカイン(マーカイン®)- 長時間作用型で手術に適している
  • レボブピバカイン(ポプスカイン®)- ブピバカインの光学異性体
  • ロピバカイン(アナペイン®)- 感覚神経選択性が高い

エステル型局所麻酔薬は血中の偽コリンエステラーゼによって加水分解されるため、作用時間が短いのが特徴です。主な薬剤には。

  • プロカイン(プロカイン®)- 局所麻酔薬の原型となった薬剤
  • テトラカイン(テトカイン®)- 表面麻酔として使用される

興味深いことに、脳脊髄液中の偽コリンエステラーゼ活性は血中の1/20から1/100であるため、エステル型局所麻酔薬は脊髄くも膜下麻酔に適しているという特性があります。

 

局所麻酔薬の作用機序と効果発現

局所麻酔薬の作用機序は、神経細胞膜のナトリウムチャネルを非特異的にブロックすることで活動電位の発生と伝播を抑制することです。この作用には塩基型と陽イオン型の両方の形態が関与します。

 

局所麻酔薬は弱塩基性の物質で、溶液中では塩基型(B)とイオン型(BH+)の平衡状態で存在しています。神経膜を透過するには脂溶性の高い塩基型が必要ですが、実際にナトリウムチャネルに作用するのは陽イオン型です。

 

Henderson-Hasselbalchの式により、pKa(解離定数)は塩基型とイオン型が等しくなるときのpHを示します。pKaが低い薬剤ほど生理的pHにおいて塩基型の割合が多くなり、神経膜透過性が高く、作用発現が速くなります。

 

薬理学的特性と効果の関係

  • 蛋白結合率:高いほど作用持続時間が長い
  • 解離定数(pKa):低いほど作用発現が速い
  • 分配係数:大きいほど麻酔効果が強い

これらの特性により、各局所麻酔薬の臨床的な使い分けが決定されます。

 

局所麻酔薬の一覧と薬理学的特徴

主要な局所麻酔薬の薬理学的特性を詳細に比較すると、臨床での使い分けの理由が明確になります。

 

アミド型局所麻酔薬の詳細特性

薬剤名 蛋白結合率(%) pKa 分配係数 特徴
リドカイン 64 7.8 43 汎用性が高く中等度の持続時間
メピバカイン 77 7.7 21 血管収縮薬なしでも効果持続
ブピバカイン 96 8.2 346 長時間作用、強力な麻酔効果
レボブピバカイン 93 8.2 346 ブピバカインより心毒性が低い
ロピバカイン 94 8.2 115 感覚神経選択性が高い

エステル型局所麻酔薬の特性

薬剤名 蛋白結合率(%) pKa 分配係数 特徴
プロカイン 6 9.1 1.7 短時間作用、アレルギーリスク低
テトラカイン 76 8.5 221 強力な表面麻酔効果

歯科領域での主要な局所麻酔薬
現在日本で使用されている主な歯科用局所麻酔薬は使用頻度順に以下の4製品です。

  • キシロカイン:塩酸リドカイン+アドレナリン(1/80,000)、1.8ml
  • オーラ注:塩酸リドカイン+アドレナリン(1/73,000)、1.0ml
  • シタネスト:塩酸プリロカイン+フェリプレシン、1.8ml
  • スキャンドネスト:メピバカイン塩酸塩(血管収縮薬なし)、1.8ml

特に注目すべきは、スキャンドネストには防腐剤(メチルパラベン)が含まれていない点です。メチルパラベンはアナフィラキシーの原因となることがあるため、アレルギー体質の患者には重要な選択肢となります。

 

日本臨床麻酔学会のガイドラインでは、これらの薬剤の適応と使用法について詳細な指針が示されています。

 

日本麻酔科学会の局所麻酔薬使用ガイドライン

局所麻酔薬の使い分けと適応基準

局所麻酔薬の選択は患者の状態、手術の種類、麻酔の持続時間などを総合的に考慮して決定します。特に重要なのは血管収縮薬の使用可否です。

 

血管収縮薬配合薬剤の選択基準
アドレナリン配合の局所麻酔薬(キシロカイン、オーラ注)は以下の場合に適応されます。

  • 一般的な外科処置
  • 十分な止血効果が必要な場合
  • 長時間の麻酔効果が必要な場合

しかし、以下の患者では禁忌または慎重投与となります。

  • 重篤な心疾患(不安定狭心症、重症心不全など)
  • 未治療の甲状腺機能亢進症
  • フェオクロモサイトーマ
  • 重症高血圧

血管収縮薬非配合薬剤の適応
シタネストやスキャンドネストは以下の場合に選択されます。

  • 動悸や血圧上昇が禁忌な患者
  • 心疾患を有する患者
  • 高齢者で循環器系への影響を最小限にしたい場合

特殊な適応における選択

  • 小児歯科:少量で済むオーラ注(1.0ml)が選択されることが多い
  • アレルギー体質:防腐剤を含まないスキャンドネストが第一選択
  • 不整脈患者:フェリプレシン配合のシタネストが選択される場合がある

興味深い臨床知見として、シタネストに含まれるフェリプレシンは不整脈を増強する作用がないため、不整脈が出やすい患者に使用されていた歴史があります。現在はスキャンドネストの使用が増えていますが、これは血管収縮薬を全く含まないためです。

 

作用発現時間の違い
血管収縮薬の有無により、作用発現時間にも差が生じます。

  • シタネスト:血管収縮薬配合により比較的速い効き始め
  • スキャンドネスト:血管収縮薬なしのため効き始めがやや遅い

この違いは、メピバカインという長時間作用型の麻酔薬を使用することで補完されています。

 

局所麻酔薬の副作用と中毒症状の予防策

局所麻酔薬の使用には様々な副作用のリスクが伴いますが、適切な知識と準備により多くは予防可能です。

 

主な副作用の分類
1. アレルギー反応

  • アナフィラキシーショック:極めて稀だが生命に関わる
  • 遅延型過敏反応:数時間後に現れる皮疹など
  • 防腐剤(メチルパラベン)によるアレルギー

2. 局所麻酔薬中毒

  • 急性中毒:血管内誤注入により数分以内に発症
  • 遅延型中毒:組織からの吸収により5-30分後に発症

中毒症状の進行段階。

  • 初期症状:口周囲のしびれ、めまい、耳鳴り
  • 進行期:興奮、痙攣、頻脈、血圧上昇
  • 末期症状:無呼吸、心停止、循環虚脱

3. 血管迷走神経反射

  • 注射の恐怖や痛みによる神経性ショック
  • 徐脈、血圧低下、失神

予防と対策
投与前の準備

  • 詳細な問診(既往歴、アレルギー歴、服薬歴)
  • 救急薬品と蘇生機器の準備確認
  • 静脈路確保(必要に応じて)

安全な投与法

  • 吸引テストによる血管内誤注入の確認
  • 緩徐な注入(1-2ml/分)
  • 分割投与による血中濃度の制御
  • 最小有効量の使用

モニタリング

  • バイタルサインの継続的観察
  • 意識レベルの確認
  • 局所症状の観察

通常の歯科治療では、これらの副作用が生じることはまれですが、万一の事態に備えた準備と知識が医療安全の基本となります。

 

特に注目すべき新しい知見として、局所麻酔薬中毒に対するリピッド・エマルション療法の有効性が報告されており、重篤な局所麻酔薬中毒の救命率向上に寄与しています。

 

局所麻酔薬の安全使用に関する最新情報は、日本歯科麻酔学会や日本麻酔科学会のガイドラインで定期的に更新されており、医療従事者は常に最新の知識を習得することが求められています。

 

局所麻酔薬中毒の最新治療指針