免疫グロブリン製剤の種類と特徴を徹底解説

免疫グロブリン製剤には筋注用、静注用、皮下注用があり、それぞれ適応疾患や投与方法が異なります。医療現場での適切な製剤選択に必要な知識とは?

免疫グロブリン製剤の種類と投与経路

免疫グロブリン製剤の基本分類
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筋注用製剤

局所疼痛があり大量投与困難、現在は限定的使用

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静注用製剤(IVIG)

最も多用される製剤、幅広い疾患に適応

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皮下注用製剤(SCIG)

在宅治療可能、維持療法に適している

免疫グロブリン製剤の基本分類と特性

免疫グロブリン製剤は、健康な人の献血血液から精製された免疫グロブリンG(IgG)を主成分とする生物学的製剤です。体内には5種類の免疫グロブリン(IgG、IgA、IgM、IgD、IgE)が存在しますが、製剤として使用されるのは主にIgGです。

 

IgGは分子量約16万ダルトンで、血液中に最も多く含まれる免疫グロブリンです。健常成人では血漿中に約1,200mg/dL含まれ、種々の抗原(細菌、ウイルスなど)に対する抗体活性を有しています。

 

免疫グロブリン製剤は投与経路により以下の3つに大別されます。

  • 筋注用免疫グロブリン製剤:筋肉注射により投与
  • 静注用免疫グロブリン製剤(IVIG):静脈内投与
  • 皮下注用免疫グロブリン製剤(SCIG):皮下投与

これらの製剤は、それぞれ異なる投与経路専用に製造されており、相互に代用することはできません。

 

静注用免疫グロブリン製剤の種類と適応

静注用免疫グロブリン製剤は、現在最も多く使用されている免疫グロブリン製剤です。筋注用製剤の副作用原因である凝集体を除去し、補体の異常活性化を抑制する処理により静脈注射を可能にしています。

 

現在、本邦では以下の静注用製剤が承認されています。

  • 献血グロベニン-I:1978年承認の最も歴史ある製剤
  • 献血ヴェノグロブリンIH:ポリエチレングリコール処理による安全性向上
  • 献血ベニロン-I:導入療法専用、維持療法適応なし
  • ピリヴィジェン:2019年承認の新しい製剤
  • ハイゼントラ:静注・皮下注両用可能

これらの製剤の基本適応症は、無または低ガンマグロブリン血症、重症感染症ですが、一部製剤では以下の疾患にも適応が認められています。
📋 主要適応疾患

投与量は通常400mg/kg/日を5日間連続で点滴静注する方法が標準的です。

 

日本血液製剤協会の製剤選択指針
http://www.ketsukyo.or.jp/plasma/globulin/glo_05.html

皮下注用製剤と筋注用製剤の特徴

**皮下注用免疫グロブリン製剤(SCIG)**は、在宅での自己注射が可能な製剤として注目されています。現在、ハイゼントラが唯一のSCIG製剤として承認されており、静注用としても使用可能な特徴があります。

 

皮下注用製剤の利点。

  • 在宅治療により患者の生活の質(QOL)向上
  • 安定した血中濃度維持
  • 重篤な全身性副作用のリスク軽減
  • 医療機関への通院頻度減少

筋注用免疫グロブリン製剤は、免疫グロブリン製剤の中で最も歴史が古く、アルブミンとともに最初期の血漿分画製剤です。エタノール分画で取り出したIgGをほぼそのまま製剤化しています。
しかし、筋注用製剤には以下の制約があります。

  • 筋肉注射による局所疼痛
  • 大量投与の困難性
  • 速効性に欠ける

このため、現在では麻疹(はしか)やA型肝炎などの限定的な用途にのみ使用されています。

 

特殊免疫グロブリン製剤の臨床応用

特殊免疫グロブリン製剤は、特定の病原体に対する抗体を高濃度に含む製剤です。一般的な免疫グロブリン製剤が様々な抗体を幅広く含有するのに対し、特殊免疫グロブリン製剤は特定の抗原に対する抗体活性が濃縮されています。

 

現在、国内で使用されている特殊免疫グロブリン製剤。
🏥 抗HBs人免疫グロブリン(HBIG)

  • B型肝炎ウイルス曝露後の緊急予防
  • B型肝炎キャリア母親からの新生児感染予防
  • HBs抗体の濃度が特に高い製剤

抗D人免疫グロブリン

破傷風人免疫グロブリン

  • 破傷風菌感染の緊急予防

特殊免疫グロブリン製剤の投与は、通常の免疫グロブリン製剤とは投与時期や方法が異なります。B型肝炎の場合、曝露後可及的速やかな投与が求められ、新生児では出産後12時間以内の投与が推奨されています。

 

COVID-19回復者血漿由来製剤
2020年から、SARS-CoV-2に対する特殊免疫グロブリン製剤の臨床試験も開始されており、新たな感染症に対する製剤開発の可能性を示しています。

 

厚生労働省の血液製剤使用指針
https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/000593010.pdf

免疫グロブリン製剤選択の実践的指針

臨床現場における免疫グロブリン製剤の選択は、患者の病態、治療目標、副作用リスク、生活環境を総合的に評価して決定する必要があります。

 

導入療法vs維持療法での選択基準
導入療法では急速な免疫調節効果が求められるため、静注用製剤が第一選択となります。一方、維持療法では患者のQOLと長期安全性を重視し、皮下注用製剤の検討が重要です。

 

CIDP治療における製剤選択では、維持療法への適応がない献血ベニロン-Iと、静注・皮下注両用可能なハイゼントラでは治療戦略が大きく異なります。

 

患者背景別の製剤選択ポイント
📊 高齢患者・循環器疾患既往例

  • 血栓塞栓症リスクを考慮し、投与速度の調整が可能な製剤選択
  • 血液粘度上昇による心不全悪化リスクの評価

小児患者

  • 体重あたりの投与量が多くなるため、安全性プロファイルの確認
  • 在宅治療可能な皮下注製剤によるQOL向上効果

妊娠・授乳期患者

  • 胎児・新生児への影響を考慮した製剤選択
  • 添加物や保存料の安全性評価

経済的考慮事項
免疫グロブリン製剤は高額な医薬品であり、長期使用では医療経済的影響も無視できません。静注用製剤の薬価は5g製剤で約37,871円となっており、維持療法では年間数百万円の医療費となる場合があります。

 

皮下注用製剤による在宅治療は、入院・外来通院費用の削減効果があり、トータルでの医療費抑制に寄与する可能性があります。

 

副作用モニタリングと製剤変更
各製剤で副作用プロファイルが異なるため、患者の反応に応じた製剤変更が必要な場合があります。主な副作用として以下が報告されています。
⚠️ 重篤な副作用

  • ショック・アナフィラキシー
  • 無菌性髄膜炎
  • 血栓塞栓症
  • 肝機能障害・黄疸
  • 腎障害

製剤間の安全性比較
添加物や精製方法の違いにより、製剤間で副作用発現率に差があることが報告されています。高用量IVIG治療群では0.4%、低用量治療群では2.5%の副作用発現率という報告もあり、投与量や製剤選択が安全性に大きく影響することが示されています。

 

免疫グロブリン製剤の適切な選択には、疾患の病態生理、患者の個別性、長期的な治療戦略を総合的に考慮することが不可欠です。医療従事者は常に最新のエビデンスと製剤情報を把握し、患者にとって最適な治療選択肢を提供することが求められています。