皮膚筋炎の診断において最も重要なのは、特徴的な皮膚症状の正確な識別です。
ヘリオトロープ疹は上眼瞼に現れる紫紅色の浮腫性紅斑で、皮膚筋炎の代表的な症状です。この症状は「ヘリオトロープ」という宝石の色に似ていることからこの名前が付けられており、上まぶたの腫れぼったい紅斑として観察されます。
ゴットロン徴候は手指、肘関節、膝関節の伸側に生じる境界明瞭な暗紫色の紅斑です。手指関節背面に現れるものは特にゴットロン丘疹と呼ばれ、がさがさした触感を伴います。
さらに注目すべきは「機械工の手」と呼ばれる症状で、手指にざらざらした角化性の皮疹が現れることがあります。この症状は手の使いすぎによる職業性の皮膚変化に似ているため、このような名称で呼ばれています。
皮膚症状の特徴として、皮疹にかゆみを伴うことが挙げられます。これは他の膠原病との鑑別において重要な所見です。また、皮疹は局面的に多彩で、色素沈着、色素脱失、毛細血管拡張、萎縮などが混在するポイキロデルマと呼ばれる状態を呈することもあります。
筋症状については、近位筋優位の筋力低下が特徴的です。肩周囲、上腕、頸部、大腿部など、体幹に近い部分の筋肉が主に侵されます。患者は上肢の挙上困難や立ち上がり困難を訴えることが多く、日常生活動作に著しい支障をきたします。
呼吸筋や嚥下筋も侵されることがあり、呼吸困難や嚥下困難の症状が現れる場合があります。特に嚥下障害は誤嚥性肺炎のリスクを高めるため、早期の評価と対応が必要です。
皮膚筋炎の診断には、2015年厚生労働省研究班による診断基準が用いられています。
血液検査では、筋原性酵素の上昇が重要な所見です。クレアチニンキナーゼ(CK)、アルドラーゼ、GOT、LDHの上昇が認められます。これらの酵素は筋肉の破壊に伴って血中に逸脱するため、筋炎の活動性を評価する指標となります。
自己抗体検査では、抗アミノアシルtRNA合成酵素抗体が特徴的で、抗Jo-1抗体が代表的です。これらの抗体は間質性肺炎を合併する患者で陽性となることが多く、病態の把握や予後予測に有用です。
近年注目されている自己抗体として、抗MDA5抗体があります。この抗体は筋炎症状が軽度であるにもかかわらず、急速進行性間質性肺炎をきたしやすい皮膚筋炎例で陽性になることが報告されています。
抗TIF1-γ抗体は悪性腫瘍合併例で陽性になりやすいことが知られており、悪性腫瘍のスクリーニングを積極的に行う必要があるかどうかの判断材料となります。
筋電図検査では、筋原性変化を示す所見が得られます。筋線維の脱分極異常や筋原性運動単位電位の変化が観察され、筋炎の診断に有用です。
筋生検は確定診断のために重要で、顕微鏡検査で典型的な炎症所見が確認されます。筋線維の変性・壊死、炎症細胞浸潤、血管周囲炎などの組織学的変化が観察されます。
MRI検査では、筋肉の炎症や浮腫の評価が可能で、STIR画像やT2強調画像で高信号域として描出されます。筋生検の部位決定や治療効果の評価にも有用です。
皮膚筋炎の治療において、**グルココルチコイド(副腎皮質ステロイド)**が第一選択薬となります。
高用量ステロイド療法では、体重1kgあたりプレドニゾロン換算で1mg/日を2-4週間投与するのが標準的です。筋力や検査所見の改善を確認しながら段階的に減量し、数カ月かけて維持量まで減量します。
重症例ではメチルプレドニゾロンパルス療法を実施します。メチルプレドニゾロン0.5-1gを3日間点滴静注することで、より強力な免疫抑制効果を期待できます。
ステロイド単独で効果不十分な場合や、ステロイドの減量が困難な場合には免疫抑制薬を併用します。メトトレキサート、アザチオプリン、シクロスポリン、タクロリムスなどが使用され、患者の病態や合併症に応じて選択されます。
皮膚症状に対する局所治療では、局所グルココルチコイド薬が優先されます。指尖のひび割れを伴う痛みのある皮疹には、テープ薬による皮膚保護も有効です。
近年、生物学的製剤の使用も検討されており、特に難治例において有効性が報告されています。リツキシマブやアバタセプトなどが使用される場合があります。
注意すべき副作用として、長期ステロイド使用による感染症リスクの増加、骨粗鬆症、糖尿病、消化性潰瘍などがあります。また、慢性期の多発性筋炎ではステロイドミオパチーが生じることがあり、尿クレアチニンの推移を注意深く観察する必要があります。
皮膚筋炎で最も注意すべき合併症の一つが悪性腫瘍です。成人例の約30%で内臓悪性腫瘍を合併し、特に40歳以上では高頻度に認められます。
悪性腫瘍の合併は皮膚筋炎の発症前後2年以内に多く見られるため、診断時から継続的なスクリーニングが必要です。消化器癌、肺癌、乳癌、卵巣癌などが多く、定期的な画像検査や腫瘍マーカーの測定が推奨されます。
間質性肺炎も重要な合併症で、特に抗アミノアシルtRNA合成酵素抗体陽性例で高頻度に認められます。急性間質性肺炎では、筋症状が軽微であるにもかかわらず急速に進行することがあり、注意が必要です。
呼吸機能の定期的な評価とともに、胸部CTによる画像評価が重要です。間質性肺炎の進行は予後を左右する重要な因子であるため、早期発見と適切な治療介入が求められます。
心筋炎も合併することがあり、不整脈や心不全の原因となります。心電図や心エコー検査による定期的な評価が必要で、CKの上昇が心筋由来の可能性も考慮する必要があります。
嚥下障害は頸部筋や咽頭筋の炎症により生じ、誤嚥性肺炎のリスクを高めます。構音障害も併発することがあり、日常的なコミュニケーションに支障をきたします。
血管炎による消化管障害も報告されており、腹痛や下血などの症状に注意が必要です。また、関節炎を伴うこともありますが、関節破壊を伴わないのが特徴です。
皮膚筋炎患者の日常生活指導において、紫外線対策は極めて重要です。皮膚症状は紫外線により増悪するため、外出時の日光曝露を最小限にする必要があります。
具体的な対策として、日焼け止めクリームの使用、帽子や長袖衣類の着用、日傘の使用などを指導します。また、窓際での作業や車の運転時にも注意が必要で、UVカットガラスの使用も推奨されます。
運動療法とリハビリテーションについては、慎重なアプローチが必要です。治療開始時は安静が必要ですが、回復期にはリハビリテーションが重要になります。
ただし、過度の運動は筋障害を悪化させる可能性があるため、疲れない程度の運動にとどめることが重要です。理学療法士と連携し、個々の患者の筋力や病気の活動性に応じた運動プログラムを立案します。
感染予防対策も重要で、ステロイドや免疫抑制薬による免疫力低下により感染リスクが増加します。規則正しい生活、十分な睡眠、手洗い・うがいの徹底を指導します。
人混みを避ける、マスクの着用、ワクチン接種(生ワクチンは禁忌)などの対策も必要です。発熱や咳嗽などの感染症状が現れた場合は、早期に医療機関を受診するよう指導します。
栄養管理では、バランスの良い食事摂取を心がけますが、ステロイドの副作用による食欲亢進に任せることは避けるべきです。体重管理、血糖管理、骨粗鬆症予防のためのカルシウムやビタミンDの摂取も重要です。
心理的サポートも不可欠で、筋力低下による日常生活動作の制限は患者に大きな精神的ストレスをもたらします。患者と家族に対する疾患教育、社会復帰への支援、必要に応じてカウンセリングの提供も検討します。
指定難病制度による医療費助成の申請手続きについても適切に説明し、経済的負担の軽減を図ることが重要です。
皮膚筋炎の治療には長期間を要することが多く、患者の理解と協力が治療成功の鍵となります。定期的な外来フォローアップにより、病状の変化を早期に察知し、適切な治療調整を行うことが患者の予後改善につながります。