出血傾向検査項目医療従事者診断スクリーニング

出血傾向の検査項目について血小板数、PT、APTT、フィブリノゲンなど基本的スクリーニング検査から特殊検査まで、医療従事者に必要な診断指針を詳しく解説。緊急時の対応や鑑別診断ポイントは何でしょうか?

出血傾向検査項目

出血傾向検査項目の基本構成
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血小板関連検査

血小板数・血小板機能検査による一次止血の評価

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凝固時間検査

PT・APTT・フィブリノゲンによる凝固機能評価

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線溶系検査

FDP・Dダイマーによる線溶亢進状態の検出

出血傾向スクリーニング検査の基本5項目

出血傾向の診断において、医療従事者が最初に行うべき基本的な検査項目は次の5つです。
🩸 血小板数(PLT)
基準値:15万~35万/μL
血小板減少により10万/μL以下になると出血傾向が出現し、5万/μL以下では軽度の刺激でも出血リスクが高まります。
プロトロンビン時間(PT)
基準値:10-13秒
外因系凝固経路を評価し、肝機能障害やワーファリン療法のモニタリングにも使用されます。
活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)
基準値:20-40秒
内因系凝固経路を評価し、血友病などの凝固因子欠乏症の診断に重要です。
🧬 フィブリノゲン(Fib)
基準値:155-415mg/dL
第Ⅰ凝固因子として血栓形成に直接関与し、PT・APTTが正常でもフィブリノゲン欠乏による出血を見落とさないために必要です。
📊 フィブリン・フィブリノゲン分解産物(FDP)
線溶系の亢進を示す指標で、DIC(播種性血管内凝固症候群)の診断に欠かせません。
これらの検査結果は1時間以内に報告可能で、緊急時の病態推測と治療方針決定に極めて重要な役割を果たします。

出血傾向検査における血小板関連検査

血小板数と血小板機能の評価は、出血傾向診断の第一歩となります。

 

血小板数(PLT)の意義
血小板数の減少パターンによって鑑別診断が変わります:

  • 10万/μL以下:出血時間延長
  • 5万/μL以下:軽微な外傷でも出血リスク
  • 2万/μL以下:自然出血の危険性

偽性血小板減少の除外
EDTA による偽性血小板減少は頻度が高く、必ず確認が必要です。健康診断で血小板減少を指摘された出血傾向のない患者では、偽性血小板減少または特発性血小板減少性紫斑病(ITP)が多いとされています。
血小板機能検査

  • 出血時間:皮膚からの出血が自然止血するまでの時間(基準値3分以内)
  • 血小板凝集能:アデノシン二リン酸(ADP)、コラーゲンなどへの反応性評価
  • PFA-100:血小板機能アナライザーによる客観的評価

近年のCOVID-19感染後の後天性血友病A発症例では、血小板数は正常でもAPTT延長により診断に至った症例が報告されており、血小板数のみならず凝固検査との組み合わせが重要です。

出血傾向凝固時間検査の詳細解釈

凝固時間検査は外因系・内因系凝固経路の機能評価により、出血傾向の原因を特定します。

 

プロトロンビン時間(PT)の臨床的意義
PT延長の主な原因:

活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)の評価
APTT延長パターン:

  • 血友病A(第Ⅷ因子欠乏)
  • 血友病B(第Ⅸ因子欠乏)
  • von Willebrand病
  • 後天性凝固因子インヒビター

フィブリノゲンの特殊性
フィブリノゲンは急性期反応物質でもあり、炎症時には上昇します。一方、先天性フィブリノゲン異常症や後天性フィブリノゲン減少では、PT・APTTが正常範囲でも出血傾向を示すことがあるため、独立した測定が必要です。
真性多血症患者の周術期管理では、血栓傾向と出血傾向の両方を考慮する必要があり、凝固検査の慎重な解釈が求められます。

出血傾向線溶系検査の重要性

線溶系の異常亢進は重篤な出血傾向の原因となり、適切な検査による早期診断が重要です。

 

FDP(フィブリン・フィブリノゲン分解産物)
線溶活性の指標として:

  • DICの診断基準項目
  • 血栓溶解療法の効果判定
  • 線溶亢進型出血の診断

Dダイマーの特異性
Dダイマーはフィブリンの分解産物で、FDPより特異性が高く、血栓形成後の線溶を反映します。急性早幼粒細胞白血病では、PML-RARα融合蛋白により線溶亢進とDIC様病態を呈し、Dダイマー上昇が特徴的です。
その他の線溶系検査

  • プラスミン・α2プラスミンインヒビター複合体(PIC):線溶亢進の指標
  • プラスミノーゲンアクチベーターインヒビター-1(PAI-1):線溶低下の指標
  • ユーグロブリン溶解時間:線溶活性の総合評価

線溶系検査の臨床応用
術前スクリーニングでは、血小板数・PT・APTTが基本ですが、線溶系異常による出血は稀なため、FDPは経過観察や予後判定に用いられることが多いとされています。

出血傾向検査における独自の診断アプローチ

従来のスクリーニング検査で異常を認めない場合でも、臨床的に出血傾向が疑われる症例に対する独自の診断戦略が重要です。

 

基本5項目正常例への対応
血小板数・APTT・PT・フィブリノゲン・FDPが正常でも出血傾向を呈する場合、第XIII因子(FXIII)の測定が推奨されます。FXIII欠乏症では:

  • 創傷治癒遅延
  • 臍帯出血(新生児期)
  • 術後出血の遷延

血小板機能異常症の精密検査

  • 血小板凝集能:各種惹起物質への反応性評価
  • von Willebrand因子関連検査:vWF抗原量、リストセチン凝集能、マルチマー解析
  • 血小板放出反応:ATP・ADP放出能の測定

遺伝性出血性疾患の分子診断
次世代シークエンサー(NGS)による遺伝子解析により、稀な凝固因子欠乏症や血小板機能異常症の確定診断が可能となっています。特に家族歴のある症例では積極的な遺伝子検査が推奨されます。

 

薬剤性出血傾向の評価
抗血小板薬抗凝固薬の影響を評価するため。

 

  • 抗Xa活性(DOAC使用時)
  • 血小板凝集能(抗血小板薬使用時)
  • 薬物血中濃度測定

COVID-19関連凝固異常
COVID-19感染後の後天性血友病A発症例では、軽症例でも出血傾向を認めた場合の早期診断が重要です。クロスミキシングテストによるインヒビター検索が診断の鍵となります。
このような独自の診断アプローチにより、従来の検査では見逃されがちな出血傾向の原因を特定し、適切な治療選択につなげることができます。