ラクツロース禁忌と糖尿病・妊婦投与の注意点

ラクツロースの禁忌と注意事項

ラクツロースの禁忌：ガラクトース血症とその理由

 

 

 

ラクツロースで唯一の絶対禁忌はガラクトース血症です。ガラクトース血症は、ガラクトースをグルコースに変換する酵素が先天的に欠損している遺伝性疾患であり、変換されないガラクトースが体内に蓄積することでさまざまな障害を引き起こします。

 

参考）https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00051578.pdf
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ラクツロース製剤には、製造過程で生じる不純物としてガラクトースが11～13w/v％、乳糖が6～7w/v％含有されています。ガラクトース血症患者がこれらの成分を摂取すると、代謝できないガラクトースがさらに蓄積し、肝障害、腎障害、白内障、知的発達障害などの重篤な症状が悪化する危険性があります。

 

参考）ガラクトース血症 - 遺伝性疾患プラス
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ガラクトース血症には複数の病型が存在し、I型（GALT遺伝子異常）、II型（GALK1遺伝子異常）、III型（GALE遺伝子異常）、IV型（GALM遺伝子異常）があります。いずれの病型でも、ガラクトースを含む物質の摂取制限が治療の基本となるため、ラクツロース製剤は使用できません。

 

参考）https://medical.kowa.co.jp/asset/item/40/1-pi_114.pdf
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🔍 特殊な状況での偽陽性に注意
新生児スクリーニングでガラクトース高値が検出された場合、必ずしもガラクトース血症とは限りません。門脈-体循環シャント、シトリン欠損症、哺乳直後の採血などでも一過性にガラクトース値が上昇することがあります。適切な鑑別診断が必要です。

 

参考）http://www.labo.city.hiroshima.med.or.jp/wp-01/wp-content/uploads/2014/01/center201408-02.pdf
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ラクツロースと糖尿病患者：血糖への影響

糖尿病患者に対してラクツロースは禁忌ではありませんが慎重投与とされています。これは本剤に含まれるガラクトース（11～13％）と乳糖（6～7％）が血糖値に影響を与える可能性があるためです。

 

参考）ラクツロース・シロップ６０％「コーワ」の効能・副作用｜ケアネ…
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しかし、実際の臨床データではラクツロース自体の血糖への影響は極めて限定的です。健康成人を対象とした研究では、10～20gのラクツロース摂取後の血糖値変動は水を摂取した場合とほぼ同等でした。2型糖尿病患者を対象とした試験でも、20gおよび30gのラクツロース（結晶型および液体型）摂取後の血糖値曲線下面積（AUC）は水と有意差がありませんでした。

 

参考）https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8192256/
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その理由は、ラクツロースが小腸でほとんど分解・吸収されず、そのまま大腸に到達するという薬理学的特性にあります。健康成人5例にラクツロース19.5gを経口投与した実験では、吸収されたラクツロースは極めて微量であり、4時間後の最高血中濃度は平均56.8μg/mLに留まりました。

 

参考）https://www.showa-u-kt-ddc.com/ddc-kt-wp/wp-content/uploads/liver-b02.pdf
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📊 臨床での対応
糖尿病患者がラクツロースの甘さから血糖値への影響を心配することがあります。薬剤師は「ラクツロースは消化管で吸収されないため、血糖値への直接的影響はほとんどない」と説明することで、患者の不安を軽減できます。

 

参考）ラクツロースについての知識不足による不十分な服薬指導｜リクナ…
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興味深いことに、長期的にはラクツロースがプレバイオティクスとして糖尿病予防に寄与する可能性も示唆されています。ラクツロースはビフィズス菌や乳酸菌などの短鎖脂肪酸産生菌を増加させ、腸内環境を改善することで、2型糖尿病の予防や管理に役立つ可能性があります。

 

参考）https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9519995/
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ラクツロースと併用注意薬：α-グルコシダーゼ阻害剤

ラクツロースとα-グルコシダーゼ阻害剤（アカルボース、ボグリボース、ミグリトール）の併用は併用注意に分類されています。

 

参考）医療用医薬品 : ラクツロース (ラクツロースシロップ65％…
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併用注意とされる理由は、両薬剤の作用機序が関連しているためです。α-グルコシダーゼ阻害剤は小腸での糖質分解を抑制し、未消化の多糖類を増加させます。一方、ラクツロースは小腸で分解されずに大腸に到達し、腸内細菌によって分解されます。

 

参考）ラグノスNF経口ゼリー（ラクツロース）の作用機序と類薬との違…
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両薬剤を併用すると、腸内で発酵される基質が過剰になり、以下の消化器系副作用が増強される可能性があります：​

• 腸内ガスの発生増加
• 下痢の悪化
• 腹部膨満感
• 腹鳴
• 腹痛

⚕️ 臨床対応のポイント
併用が必要な場合は、少量から開始し、消化器症状の発現を注意深く観察します。水様便が生じた場合は、ラクツロースを減量または中止することが推奨されています。患者には「お腹が張りやすくなる」「ガスが出やすくなる」などの症状が起こりうることを事前に説明し、症状が強い場合は医療従事者に相談するよう指導します。

 

参考）https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00070479.pdf
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興味深いことに、α-グルコシダーゼ阻害剤との併用により、ラクツロースの便秘改善効果がより強く現れる可能性もあります。この相互作用は、必ずしも悪影響だけではなく、適切な用量調整により治療効果を高められる場合もあります。

 

参考）https://clinicalsup.jp/jpoc/drugdetails.aspx?code=69051
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ラクツロースの妊婦・授乳婦への投与判断

妊婦または妊娠している可能性のある女性へのラクツロース投与は、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与という条件付きで可能です。これは、妊娠中の投与に関する安全性が十分に確立していないためです。

 

参考）https://medical.kowa.co.jp/asset/item/40/4-pt_114.pdf
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ラクツロースの薬理学的特性を考えると、理論的には胎児への影響は限定的と考えられます。前述のとおり、ラクツロースは小腸でほとんど吸収されず、吸収されても極めて微量です。健康成人での血中濃度データから、胎盤を通過して胎児に到達する量は極めて少ないと推測されます。​
しかし、動物実験や大規模な疫学調査による安全性データが不足しているため、慎重な判断が求められます。妊娠中の便秘は一般的な症状であり、食事療法や生活習慣の改善でコントロールできない場合に限り、主治医と相談のうえでラクツロースの使用を検討します。

 

参考）https://vet.cygni.co.jp/include_html/drug_pdf/taisya/SN-33614.pdf
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授乳中の使用については、添付文書に明確な記載がない製品が多いですが、ラクツロースの吸収が極めて少ないことから、母乳への移行も限定的と考えられます。それでも、乳児への影響を完全には否定できないため、授乳婦への投与も慎重に判断すべきです。​
👶 妊娠・授乳期の代替選択肢
妊娠中の便秘には、まず食物繊維の摂取増加、適度な運動、十分な水分補給などの非薬物療法を試みます。薬物療法が必要な場合、酸化マグネシウムなどの塩類下剤が第一選択となることが多く、ラクツロースは他の選択肢が効果不十分な場合に検討されます。

 

参考）慢性便秘症の治療薬
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ラクツロースの作用機序と肝性脳症治療

ラクツロースは便秘治療と肝性脳症の高アンモニア血症改善の二つの主要な適応を持ちます。その作用機序を理解することで、禁忌や注意事項の背景がより明確になります。

 

参考）医療用医薬品 : ラクツロース (ラクツロース・シロップ60…
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便秘に対する作用機序は主に2つです。
参考）ラグノスNF経口ゼリー　製品紹介｜ラグノスNF経口ゼリー｜医…
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1. 浸透圧作用：ラクツロース未変化体が腸管内の浸透圧を高め、水分を腸管内に引き込むことで便を軟化させます。​
2. 腸内細菌への作用：大腸に到達したラクツロースは、ビフィズス菌や乳酸菌などの善玉菌のエサとなり、分解されて乳酸や酢酸などの有機酸を産生します。これにより腸内pHが低下し、善玉菌が増加する一方で、悪玉菌が減少します。有機酸はさらに浸透圧を高め、腸管の蠕動運動を促進します。

   参考）https://www.jstage.jst.go.jp/article/kanzo1960/14/1/14_1_55/_pdf/-char/ja
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肝性脳症に対する作用機序はより複雑です。肝性脳症は、腸管内で発生するアンモニアなどの有害物質が肝臓で処理されずに血液脳関門を通過し、脳機能を抑制することで起こります。ラクツロースは以下のメカニズムでアンモニアを低減します。
参考）公益社団法人 福岡県薬剤師会 ｜質疑応答
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• 腸内細菌によって産生された乳酸や酢酸が腸内pHを低下させる
• 酸性環境下でアンモニア（NH₃）がアンモニウムイオン（NH₄⁺）に変換される
• NH₄⁺は細胞膜を通過できないため、糞便中に排泄される​
• 乳酸菌はウレアーゼなどのアンモニア産生酵素を持たないため、乳酸菌の増殖自体がアンモニア産生を抑制する​
• 浸透圧性下剤作用により、アンモニア産生源となる腸内容物の排泄が促進される

🧠 肝性脳症治療における位置づけ
ラクツロースは慢性肝性脳症の維持療法として広く使用されており、肝硬変患者の30～45％に発症する肝性脳症の管理において重要な役割を果たしています。高齢者では生理機能が低下しているため、少量から開始し、患者の状態を観察しながら慎重に投与することが推奨されています。

 

参考）https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5472935/
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作用機序	便秘への効果	肝性脳症への効果
浸透圧作用	✅ 便の軟化と排出促進	✅ アンモニア源の排泄促進
腸内pH低下	✅ 腸管蠕動運動の促進	✅ NH₃→NH₄⁺変換による吸収抑制
善玉菌増加	✅ 腸内環境改善	✅ アンモニア産生菌の抑制

昭和大学江東豊洲病院の肝性脳症解説（PDF）：肝性脳症の機序とラクツロースの作用について詳細に解説されています
日本薬剤師会の肝性脳症治療薬解説：ラクツロース使用時の注意点と患者指導のポイント

ラクツロースの副作用プロファイルと対処法

ラクツロースの最も頻度の高い副作用は消化器系症状です。副作用頻度報告によると、1403例中198例（14.1％）に副作用が認められ、その内訳は下痢171例（12.2％）が最多で、腹鳴13例（0.9％）、鼓腸13例（0.9％）と続きます。

 

参考）https://medical.kowa.co.jp/asset/item/41/4-pt_115.pdf
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主な副作用と対処法。

• 下痢（5％以上）：最も一般的な副作用です。水様便が生じた場合は、投与量を減らすか中止します。ラクツロースの浸透圧作用により腸管内の水分が増加するため、脱水にも注意が必要です。

  参考）https://www.med.tonami.toyama.jp/topics/pdf/info_07/info_07_20191024_02.pdf
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• 腹鳴・鼓腸・腹部膨満感（0.1～5％）：腸内細菌によるラクツロース分解で生じるガスが原因です。症状が強い場合は減量を検討します。

  参考）https://www.rakuten.ne.jp/gold/pycno/special/rakucyurose.html
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• 悪心・嘔吐・腹痛・食欲不振（0.1～5％未満）：これらの症状が持続する場合は投与中止を含めた対応を検討します。​

📝 患者指導のポイント
ラクツロースシロップは非常に甘く、患者によっては味に対する嫌悪感を示すことがあります。シロップ製剤は高浸透圧であり、吐き気の原因となることもあります。このため、水やジュースで希釈して服用する、服用のタイミングを工夫するなどの対策が有効です。

 

参考）https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC1432513/
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分包品は服用直前まで開封せず、服用後の残液は廃棄して保存しないことが推奨されています。また、保存条件により多少色調が変化することがありますが、薬効には影響ありません。

 

参考）ラクツロース・シロップ６０％分包１５ｍＬ「コーワ」の効能・副…
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⚠️ 特別な注意が必要な患者群
高齢者では生理機能が低下しているため、副作用が現れやすく、少量から投与を開始し、患者の状態を観察しながら慎重に投与することが必要です。また、口渇、脱水、高ナトリウム血症にも注意が必要です。​
肝性脳症患者では、治療目標はアンモニア低下であり、必ずしも下痢を起こすことが目的ではありません。適切な用量調整により、下痢を最小限に抑えながら血中アンモニア濃度をコントロールすることが重要です。

 

参考）https://www.jstage.jst.go.jp/article/nisshoshi/107/1/107_1_14/_pdf
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患者向け医薬品ガイド「くすりのしおり」：ラクツロース・シロップの副作用と対処法について患者にわかりやすく解説

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