ビタミンは体内で合成できないか、必要量を合成できないため、食事から摂取する必要がある微量栄養素です。しかし、一部のビタミンは過剰摂取により健康障害を引き起こすため、厚生労働省は「日本人の食事摂取基準」において耐容上限量を設定しています。耐容上限量とは、過剰摂取による健康被害のリスクがないと考えられる摂取量の上限値であり、この値を超える摂取は推奨されません。pmc.ncbi.nlm.nih+4
医療従事者として、患者指導において重要なのは、ビタミンには「脂溶性ビタミン」と「水溶性ビタミン」があり、それぞれ体内での蓄積性や排泄特性が異なることを理解することです。脂溶性ビタミン(A、D、E、K)は油脂とともに吸収され、肝臓や脂肪組織に蓄積されるため過剰症のリスクが高くなります。一方、水溶性ビタミンは過剰分が尿中に排泄されるため過剰症は起こりにくいとされていますが、一部の水溶性ビタミンでは高用量のサプリメント摂取により健康障害が報告されています。pmc.ncbi.nlm.nih+5
脂溶性ビタミンは体内に蓄積されやすい性質があるため、サプリメントや栄養補助食品の過剰摂取には特に注意が必要です。cloud-dr+1
ビタミンAの耐容上限量は、成人男女で2,700μgRAE/日と設定されています。急性中毒症状としては、一度に極めて大量を摂取した場合、数時間以内に眠気、易怒性、頭痛、吐き気、嘔吐が生じ、頭蓋内圧が上昇することがあります。慢性中毒症状では、長期間の過剰摂取により、毛髪が硬くなり部分的な脱毛、唇のひび割れ、皮膚の乾燥、肝傷害が生じます。特に妊娠中の過剰摂取は胎児の先天異常のリスクとなるため、妊娠している女性または妊娠の可能性がある女性は安全な上限(3,000μg)を超える量を摂取すべきではありません。tanaka-cl+5
ビタミンAの過剰摂取による健康障害の最低発現量は、13,500μgRAE/日を7~10年間摂取した事例で肝障害が報告されており、これを根拠に不確実性因子5で除して耐容上限量が算定されています。また、ビタミンAは高カルシウム血症を引き起こすことも報告されており、骨のリモデリングに影響を与え、骨吸収を促進させることで骨折リスクを増加させる可能性が指摘されています。pmc.ncbi.nlm.nih+2
ビタミンDの耐容上限量は、成人で100μg/日(4,000IU/日)と設定されています。過剰摂取により高カルシウム血症を誘発し、吐き気、嘔吐、食欲不振、便秘、脱力感、体重減少などの症状が現れます。1,250μg/日にて高カルシウム血症を来した症例報告があり、これが最低健康障害発現量として採用されています。高齢者施設入所者を対象とした研究では、10~20μg/日の摂取が骨粗鬆症予防のために推奨されていますが、通常の食事からの摂取では過剰症のリスクは低いとされています。mhlw+5
ビタミンEの耐容上限量は、成人男性で800mg/日、成人女性で650~700mg/日と設定されています。ビタミンEは体内に蓄積しにくいため、通常の食事では過剰症がみられることはほとんどありませんが、サプリメントで極端に過剰摂取した場合、出血性脳卒中や前立腺がんのリスク増加が報告されています。tyojyu+1
ビタミンKについては、多量に摂取しても健康被害が見られないことから、耐容上限量は設定されていません。成人の目安量は男女ともに150μg/日とされています。tyojyu+1
水溶性ビタミンは一般的に過剰分が尿中に排泄されるため過剰症のリスクは低いとされていますが、ビタミンB6とナイアシンには耐容上限量が設定されています。msdmanuals+1
ビタミンB6は、従来500mg/日を超える大用量摂取で末梢神経障害を引き起こすとされていましたが、近年の研究では50mg未満の用量でも、また複数のビタミンB6含有製品を摂取している場合にも末梢神経障害が発症する可能性が示されています。オーストラリアのTGA(医薬品庁)は、10mg以上の製品には末梢神経障害の警告が必要とし、個別製品の一日最大許容用量を成人で200mgから100mgに低減しました。pmc.ncbi.nlm.nih+2
ビタミンB6過剰摂取による末梢神経障害の症状には、手足のしびれやチクチク感、バランス感覚の低下、歩行困難などがあり、これらは感覚神経節の障害によるものと考えられています。1日6mgのビタミンB6を含むマルチビタミンの長期服用のみで末梢神経障害を発症した73歳男性の症例も報告されており、個人差が大きいことが示唆されています。pmc.ncbi.nlm.nih+4
ナイアシンの耐容上限量は、成人で300~350mgNE/日程度とされています。ナイアシンは水溶性のため摂り過ぎた分は排泄されますが、ニコチン酸をサプリメントなどで一度に大量摂取した場合、皮膚が赤くなったり、ピリピリとしたかゆみが生じる「ニコチン酸フラッシング」が起こります。また、過剰摂取による下痢、嘔吐、肝機能障害も報告されているため、耐容上限量を守る必要があります。taisho-kenko+2
葉酸は水溶性ビタミンB群の一種ですが、過剰摂取による健康障害を防ぐため耐容上限量が設定されています。18~29歳の男女では900μg/日、30~49歳では1,000μg/日を超えないことが推奨されています。chirashi.akachan+1
葉酸の過剰摂取により、ビタミンB12欠乏症の診断が困難になることが主な懸念点です。葉酸とビタミンB12はともに赤血球の生成に関与しており、ビタミンB12が欠乏していても葉酸を大量に摂取することで貧血症状がマスクされ、神経障害の進行に気づかない可能性があります。chirashi.akachan
線虫を用いた研究では、葉酸過剰摂取時の代謝異常が報告されており、過剰摂取が生体に及ぼす影響についての基礎研究が進められています。通常の食事から葉酸が過剰になることはまれですが、サプリメントや栄養強化食品の利用が増加している現代においては、総摂取量の把握が重要です。jstage.jst+1
ワルファリンなどの抗凝固薬を服用している患者では、ビタミンKの摂取制限が必要となります。ワルファリンは肝臓におけるビタミンK依存性凝固因子の生合成を阻害することで抗凝固作用を発揮するため、ビタミンKを多く含む食品を摂取すると薬効が減弱します。gcoe.u-shizuoka-ken+3
ビタミンKは納豆、ブロッコリー、ほうれん草などの緑色野菜に多く含まれており、ワルファリン服用患者ではこれらの食品の摂取を制限されることがあります。また、腸内細菌によってもビタミンKは産生されるため、抗生物質の使用により腸内細菌叢が変化すると、ワルファリンの効果が不安定になる場合があります。square.umin+2
特にセフメタゾールなどのNMTT基を有するセフェム系抗生物質は、直接ビタミンKエポキシド還元酵素(VKOR)を阻害する作用があるため、ワルファリン使用中の抗生物質の使用には頻回のモニタリングなど注意が必要です。医療従事者は、ワルファリン服用患者に対して、ビタミンK含有食品の適切な摂取方法(完全に禁止するのではなく、一定量を継続的に摂取する)について指導することが求められます。hoime-clinic+2
ワルファリンとビタミンKの相互作用に関する詳細な研究報告(静岡県立大学)
医療従事者として患者に対するビタミン摂取制限の指導では、以下のポイントが重要です。
まず、通常の食事からのビタミン摂取で過剰症になることは極めてまれであることを伝えます。問題となるのは主にサプリメントや栄養補助食品の過剰摂取であり、複数のサプリメントを併用している場合には特に注意が必要です。tanaka-cl+3
次に、脂溶性ビタミンと水溶性ビタミンの違いを説明することが重要です。脂溶性ビタミン(A、D、E、K)は体内に蓄積されやすいため過剰症のリスクが高く、水溶性ビタミンは過剰分が尿中に排泄されるため比較的安全ですが、ビタミンB6やナイアシンなど一部の水溶性ビタミンにも耐容上限量が設定されていることを伝えます。morinaga+2
また、個人差が大きいことも説明が必要です。同じ量のビタミンを摂取しても、年齢、性別、健康状態、遺伝的要因により影響が異なります。特に高齢者、妊娠中・授乳中の女性、慢性疾患を持つ患者では注意が必要です。pmc.ncbi.nlm.nih+3
薬剤との相互作用についても説明します。ワルファリンとビタミンKの相互作用は最もよく知られていますが、他の薬剤との相互作用も存在する可能性があるため、サプリメント使用前には医療従事者に相談することを推奨します。kegg+2
| ビタミン | 耐容上限量(成人) | 主な過剰症状 |
|---|---|---|
| ビタミンA | 2,700μgRAE/日 | 頭痛、肝傷害、脱毛、皮膚乾燥、胎児奇形 |
| ビタミンD | 100μg/日 | 高カルシウム血症、吐き気、嘔吐 |
| ビタミンE | 800mg/日(男性) | 出血性脳卒中、前立腺がんリスク増加 |
| ビタミンK | 設定なし | 過剰症の報告なし(但しワルファリン服用時は制限必要) |
| ビタミンB6 | 100~200mg/日 | 末梢神経障害、感覚異常 |
| ナイアシン | 300~350mgNE/日 | 皮膚紅潮、肝機能障害 |
| 葉酸 | 900~1,000μg/日 | ビタミンB12欠乏症の診断困難化 |
| ビタミンC | 設定なし | 腹痛、下痢(米国では2,000mg/日) |
最後に、定期的な血液検査の重要性を伝えます。特に脂溶性ビタミンを長期間サプリメントで摂取している場合や、複数のサプリメントを併用している場合には、定期的に血中濃度を測定することで過剰症を早期に発見できます。pmc.ncbi.nlm.nih+1
日本人の食事摂取基準(2025年版)の策定ポイント(厚生労働省PDF)
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