ロコイド軟膏0.1%(一般名:ヒドロコルチゾン酪酸エステル)は、湿疹・皮膚炎群、痒疹群、乾癬、掌蹠膿疱症などに適応を持つ中等度クラス相当のステロイド外用薬で、通常1日1〜数回の塗布が基本です。
一方、プロペトは白色ワセリン製剤で、皮膚表面に閉塞性の皮膜を作って水分蒸散を抑える「保湿(バリア補助)」として位置づけられ、炎症そのものを抑える薬効成分は含みません(主成分は白色ワセリン)。
この2剤を「混合」する処方意図は、現場感としては大きく3つに整理できます。
ただ、混合は「ロコイド濃度を下げて弱くする」単純な話ではありません。混合により基剤の性質が変わると、皮膚透過性や臨床効果・副作用のバランスが変化し得るため、処方意図とフォローアップ設計が重要になります。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/b1890216e08848a66a232ca5c801f6bff67cad03
外用剤の混合で本質的に厄介なのは、「濃度」だけでなく「基剤(剤形)の変化」が治療結果を左右する点です。混合処方では、乳化の破壊や乳化型(O/W、W/O)の違いなどにより皮膚透過性が変化し、効果および副作用について十分な経過観察が必要とされています。
実務でありがちな誤解は、「ワセリンで混ぜたから安全・弱い」という前提で漫然と継続されることです。ところが資料によっては、混合で皮膚透過性が上がり得ること、組み合わせによって変化が異なること、そして混合が臨床効果に影響し得ることが明確に述べられています。
参考)https://www.shinwakai-min.com/kyoto2hp/oshirase/iryokatudo/di_news-pdf/di-no111-20100430.pdf
つまり、ロコイド+プロペト混合の“効果”は、
の両方の方向に振れ得ます。
副作用も同様で、長期・広範囲・ODTなど条件が重なると局所副作用(皮膚萎縮、毛細血管拡張、紫斑など)や感染症の助長が問題になります。
参考)ロコイド軟膏0.1%の添付文書 - 医薬情報QLifePro
混合によって患者が「これは保湿剤入りだから」と安心して、結果的に使用期間が延びる(中止や漸減の判断が遅れる)という、人間側の要因も実臨床では無視できません。
混合処方の“盲点”が、出来上がった軟膏の均一性(ムラ)です。ステロイド外用剤と白色ワセリンを自転・公転式ミキサーで混合した研究では、ステロイド含量の変動係数(CV)で均一性を評価し、一般的に推奨されてきた30秒混合では組み合わせにより混合不十分が起こり得ることが示されています。
重要なのは、同研究で「油脂性基剤のステロイド軟膏とプロペトをミキサーで混合する場合、少なくとも60秒程度の混合時間が必要」と提案されている点です。
さらに、同じ研究内でロコイド軟膏+プロペトの組み合わせは30秒混合でもCVが小さい(比較的均一になりやすい)傾向が示されていますが、それでも“現場では60秒基準”を持っておくほうが安全側です(混合機種、充填順、温度、ロット差があるため)。
医療者側ができる運用の工夫はシンプルです。
外用剤は「混合を考慮して開発されていない」ため、混合後の皮膚透過性や効果に関する報告が限られており、原則として混合は避けるべき、という立場が教科書的には強いです。
実際、混合により主薬含量が低下する可能性があること、抗真菌剤など乳剤性基剤と油脂性基剤のステロイド軟膏を混合すると基剤の性質が変化して作用が低下する可能性があることが指摘されています。
ただし、ロコイド“軟膏”は添加剤に白色ワセリン等を含む油脂性基剤であるため、少なくとも「油脂性同士」の組み合わせという意味では、クリーム混合よりは乳化破壊の懸念が小さい設計です(ロコイド軟膏の添加剤:ステアリルアルコール、パラフィン、白色ワセリン)。
ここが、同じロコイドでも「軟膏」と「クリーム」で混合リスクの顔つきが変わる理由です(クリームはpHや乳化系が絡みやすい)。
混合を“どうしても”行うなら、薬剤師が最低限見ておきたい観察点は次の通りです。
参考)https://www.jpwa.or.jp/kinyaku/siryo/gekkan/gekkan201106.pdf
検索上位の多くは「混ぜていい?」「何対何?」に寄りがちですが、医療従事者向けに一段深掘りするなら、“再現性”の観点が有用です。混合は便利な一方で、基剤変化・透過性変化・均一性といった変動要素が増えるため、コントロール不良の原因究明が難しくなることがあります。
そこで、混合を最初から前提にせず、目的で運用を分解すると設計が明確になります。
加えて、混合でアドヒアランスを上げたいなら、混合以外にも手段があります。たとえば「プロペトは入浴後すぐ全体、ロコイドは赤い部位だけ」など、行動設計のほうがブレが少ないケースは多いです。
また、あまり知られていない“意外に効く”実務ポイントとして、同じ混合でも「混合が均一かどうか」で体感効果が変わり得る点は、患者説明に活かせます。混合ムラがあると、ある日は効きすぎ、別の日は効かない、という印象になりやすく、結果として不信感や塗布中断に繋がります。
混合処方を採用するなら、最後は「観察→微調整」の設計です。ロコイドは湿疹・皮膚炎などに1日1〜数回塗布が基本であり、症状により増減する前提が添付文書にも明記されています。
つまり、混合品を出した瞬間がゴールではなく、数日〜1週間程度で“赤み・痒み・乾燥・滲出”のどれが残っているかを見て、混合継続か、ロコイド単剤か、プロペト単剤か、あるいは感染評価を含む見直しに繋げるのが安全です。
混合処方・皮膚透過性変化(効果と副作用に注意が必要な理由)。
丸石製薬「混合処方」:乳化の破壊や皮膚透過性変化、経過観察の必要性
混合の均一性(混合時間60秒目安、ロコイド+プロペトのCVなど)。
J-STAGE 医療薬学(2018)「ステロイド軟膏と白色ワセリンの等量混合における…混合時間の検討」
ロコイドの組成・効能効果・用法用量(添付文書相当情報)。
KEGG MEDICUS「ロコイド」:有効成分・添加剤・効能効果・用法用量