ループ利尿薬の種類と一覧:効果と使い分け

ループ利尿薬にはフロセミド、トラセミド、アゾセミドなど複数の種類があり、それぞれ異なる特徴を持ちます。薬価や効果の違いを理解して適切に使い分けられていますか?

ループ利尿薬種類と一覧

ループ利尿薬の基本情報
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主要薬剤

フロセミド、トラセミド、アゾセミドが臨床で頻用される

作用の強さ

利尿薬の中で最も強力な利尿効果を発揮する

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作用部位

ヘンレループ上行脚のNa-K-2Cl輸送系を阻害

ループ利尿薬の主要種類と特徴

ループ利尿薬は、ヘンレループ上行脚にあるNa-K-2Cl輸送系(NKCC2)を阻害することで強力な利尿効果を発揮する薬剤群です。臨床で使用される主要なループ利尿薬には以下の種類があります。

 

フロセミド(商品名:ラシックス)
最も汎用されているループ利尿薬で、経口薬と静注薬の両方が利用可能です。薬価は先発品のラシックス錠20mgが10.1円/錠、後発品のフロセミド錠20mgが6.3円/錠となっています。作用時間は比較的短く、急性期治療に適しています。

 

トラセミド(商品名:ルプラック)
フロセミドに比べて作用時間が長く、バイオアベイラビリティが高いのが特徴です。先発品のルプラック錠8mgは23.3円/錠、後発品のトラセミド錠8mgは7.3円/錠で提供されています。本邦では経口薬のみが使用可能です。

 

アゾセミド(商品名:ダイアート)
長時間作用型のループ利尿薬として本邦で使用されています。先発品のダイアート錠60mgは15.5円/錠、後発品のアゾセミド錠60mgは11.3円/錠となっています。持続的な利尿効果が期待できるため、外来管理に適しています。

 

ブメタニド
海外では一般的に使用されていますが、本邦での使用頻度は限定的です。フロセミドより強力な利尿効果を持ち、1mgでフロセミド40mg相当の効果があります。

 

ループ利尿薬の作用機序と効果

ループ利尿薬は近位尿細管で管腔に分泌され、ヘンレループ上行脚の管腔側にあるNa+-K+-2Cl-共輸送体を阻害することでNa+排泄を増加させます。この輸送体は、ナトリウム、カリウム、2個の塩化物イオンを同時にヘンレループの細胞内に輸送する膜タンパク質です。

 

ループ利尿薬の阻害により、以下の効果が得られます。

  • 強力な利尿作用:他の利尿薬と比較して最も強い利尿効果を発揮
  • 電解質排泄:ナトリウムとともにカリウム、マグネシウム、カルシウムの排泄も促進
  • 血管拡張作用:利尿による循環血流量の減少で血圧も低下
  • 急速な効果発現:静注では数分以内、経口でも1時間以内に効果が現れる

作用の強さは投与量に依存し、用量反応曲線は急峻なカーブを描きます。フロセミドでは静注20mg/回から開始し、効果不十分な場合は80mg/回まで増量可能です。それ以上の高用量が必要な場合は持続点滴が推奨されます。

 

ループ利尿薬の薬価比較と一覧

2025年現在の薬価基準に基づくループ利尿薬の価格比較を以下に示します。
フロセミド製剤

販売名 規格 薬価(円) 製薬会社
ラシックス錠10mg(先発) 10mg/錠 9.6 サノフィ
ラシックス錠20mg(先発) 20mg/錠 10.1 サノフィ
ラシックス錠40mg(先発) 40mg/錠 11.2 サノフィ
フロセミド錠20mg「NP」 20mg/錠 6.3 ニプロ
フロセミド錠40mg「NP」 40mg/錠 6.6 ニプロ

トラセミド製剤

販売名 規格 薬価(円) 製薬会社
ルプラック錠4mg(先発) 4mg/錠 14.4 田辺三菱製薬
ルプラック錠8mg(先発) 8mg/錠 23.3 田辺三菱製薬
トラセミド錠4mg「KO」 4mg/錠 6.1 寿製薬
トラセミド錠8mg「KO」 8mg/錠 7.3 寿製薬

アゾセミド製剤

販売名 規格 薬価(円) 製薬会社
ダイアート錠30mg(先発) 30mg/錠 10.7 三和化学研究所
ダイアート錠60mg(先発) 60mg/錠 15.5 三和化学研究所
アゾセミド錠30mg「JG」 30mg/錠 10.4 長生堂製薬
アゾセミド錠60mg「JG」 60mg/錠 11.3 長生堂製薬

後発医薬品は先発品と比較して約30-40%の薬価削減が見られ、医療経済の観点からも重要な選択肢となっています。

 

ループ利尿薬の適応疾患別使い分け

ループ利尿薬の適応疾患と投与法は、病態に応じて適切に選択する必要があります。
うっ血性心不全
血管拡張薬とともにループ利尿薬を投与することで、心拍出量の低下なしにcentral filling pressureを減少させ、肺うっ血を改善します。心不全では利尿効果を発する閾値が増加し、最大効果も低下するため、経口ではなく静注が必要となることが多く、投与量も多くする必要があります。フロセミド静注20mg/回から開始し、80mg/回まで増量可能です。効果不十分な場合は、カルペリチド(0.1~0.2μg/kg/分)またはトルバプタン(3.75~15mg/日)を併用します。

 

ネフローゼ症候群
アルブミン血症がある場合はループ利尿薬の投与量を増加させる必要があります。フロセミド静注で総量120mg/日(経口240mg/日)まで増量可能です。血清アルブミン濃度が2.0g/dL以下の場合は、アルブミンとフロセミドの同時投与が効果的です。

 

肝硬変による浮腫・腹水
AASLDガイドラインでは、軽症例にスピロノラクトン25-50mg/日から開始し、より重症例ではフロセミド40mg+スピロノラクトン100mgから最高フロセミド160mg+スピロノラクトン400mgの併用を行います。低ナトリウム血症がある場合はトルバプタン3.75mg/日からの投与を検討します。

 

慢性腎臓病(CKD)
糖尿病性腎症などではネフローゼ症候群に準じた治療を行います。ループ利尿薬が第一選択で、難治性の場合はサイアザイド系利尿薬の併用が効果的な場合があります。ステージG4以降では、浮腫がなくてもアシドーシス高カリウム血症の是正目的でループ利尿薬を投与することがあります。

 

急性腎障害(AKI)
溢水の改善に可能性があれば躊躇すべきではありませんが、十分量のフロセミドの効果判定が必要です。大量投与になる場合は内耳障害に十分注意が必要です。心不全に伴うAKIであればカルペリチドやトルバプタンの投与も検討します。

 

ループ利尿薬投与時の薬剤師視点での安全管理

薬剤師として、ループ利尿薬の安全な使用には以下の点に特に注意を払う必要があります。
電解質モニタリングの重要性
ループ利尿薬使用時は低カリウム血症、低ナトリウム血症、低マグネシウム血症のリスクが高くなります。特に高齢者や腎機能低下患者では電解質異常が生じやすく、定期的な血液検査による監視が不可欠です。カリウム製剤の併用や、カリウム保持性利尿薬との併用を検討することも重要です。

 

薬物相互作用への注意
ループ利尿薬は以下の薬剤との相互作用に注意が必要です。

  • アミノグリコシド系抗菌薬:聴器毒性の増強
  • ジギタリス製剤:低カリウム血症によるジギタリス中毒のリスク増加
  • リチウム:腎クリアランス低下によるリチウム中毒
  • NSAIDs:利尿効果の減弱

投与タイミングの最適化
外来患者では、夜間頻尿による睡眠障害を避けるため、朝の投与を推奨します。また、トラセミドやアゾセミドなど長時間作用型製剤では、1日1回投与でのコンプライアンス向上が期待できます。

 

脱水リスクの評価
過度の利尿による脱水は、急性腎障害や血栓症のリスクを高めます。体重減少ペース、血圧変動、腎機能の推移を慎重に監視し、適切な投与量調整を行う必要があります。特に高齢者では起立性低血圧による転倒リスクも考慮すべきです。

 

服薬指導のポイント
患者への服薬指導では、以下の点を重点的に説明します。

  • 体重測定の重要性(急激な体重減少時は医師に相談)
  • 十分な水分摂取(ただし心不全では制限に従う)
  • めまい・立ちくらみ時の対処法
  • 電解質を含む食品の適切な摂取

これらの薬剤師視点での安全管理により、ループ利尿薬の有効性を最大化しつつ、副作用リスクを最小限に抑えることが可能となります。