サイアザイド系利尿薬の種類と一覧完全ガイド

サイアザイド系利尿薬には多くの種類があり、それぞれ異なる特徴を持っています。高血圧治療において重要な役割を果たすこれらの薬剤について、どのような分類と使い分けがあるのでしょうか?

サイアザイド系利尿薬種類一覧

サイアザイド系利尿薬の主要分類
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真のサイアザイド系

ヒドロクロロチアジド、トリクロルメチアジドなど化学構造にサイアザイド骨格を持つ薬剤

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サイアザイド類似系

インダパミド、メフルシド、クロルタリドンなど類似の作用を持つ薬剤

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臨床的位置づけ

高血圧治療の第一選択薬として位置づけられ、遠位尿細管で作用する

サイアザイド系利尿薬の基本的分類と特徴

サイアザイド系利尿薬は、化学構造の違いにより「真のサイアザイド系利尿薬」と「サイアザイド類似利尿薬」の2つに大別されます。この分類は化学構造式にサイアザイド骨格があるかないかによって決まりますが、臨床的には両者とも遠位尿細管のNa+-Cl-共輸送体を阻害することで利尿作用を発揮します。

 

真のサイアザイド系利尿薬には以下のような特徴があります。

  • 化学構造にベンゾチアジアジン環を含有
  • 効果持続時間は12~24時間程度
  • 主に高血圧症と心性浮腫の治療に使用
  • 代謝性副作用として低カリウム血症尿酸血症、耐糖能低下が問題となる

一方、サイアザイド類似利尿薬は。

  • サイアザイド骨格を持たないが類似の薬理作用を示す
  • より選択的な作用により副作用が軽減される傾向
  • 特にインダパミドは日本で唯一のサイアザイド類似薬として重要

現在の高血圧治療ガイドラインでは、利尿薬、カルシウム拮抗薬ACE阻害薬/ARBが第一選択薬として推奨されており、その中でもサイアザイド類似利尿薬の使用が優先されています。

 

サイアザイド系利尿薬の主要薬剤一覧

日本で臨床使用されているサイアザイド系利尿薬の代表的な製剤を以下に示します。
真のサイアザイド系利尿薬:

  • ヒドロクロロチアジド(商品名:ヒドロクロロチアジド「トーワ」)
  • 用量:12.5mg、25mg
  • 薬価:5.9円/錠
  • 効果持続時間:12時間
  • トリクロルメチアジド(商品名:フルイトラン)
  • 用量:1mg、2mg
  • 薬価:先発品10.1円/錠、後発品6.4円/錠
  • 効果持続時間:24時間
  • 国内で最も使用頻度の高いサイアザイド系利尿薬

サイアザイド類似利尿薬:

  • インダパミド(商品名:ナトリックス、テナキシル)
  • 用量:1mg、2mg
  • 薬価:10.1~19.2円/錠
  • 効果持続時間:24時間
  • 日本で唯一のサイアザイド類似薬
  • メフルシド(商品名:バイカロン)
  • 用量:25mg
  • 薬価:10.1円/錠
  • 高血圧症と心性浮腫に適応
  • クロルタリドン(商品名:ハイグロトン)
  • 用量:12.5mg、25mg
  • 効果持続時間:48~72時間と長時間作用型
  • 海外では広く使用されているが国内での使用は限定的

これらの薬剤は単剤での使用のほか、他の降圧薬との配合剤としても広く使用されています。

 

サイアザイド類似利尿薬の種類と効果

サイアザイド類似利尿薬は、真のサイアザイド系と比較していくつかの優れた特徴を持っています。特に重要なのはインダパミドで、これは日本で処方可能な唯一のサイアザイド類似利尿薬です。

 

インダパミドの特徴:

  • より選択的なNa+-Cl-共輸送体阻害作用
  • 代謝性副作用(低カリウム血症、耐糖能低下、高尿酸血症)の発現頻度が低い
  • 心血管イベント抑制効果に関する豊富なエビデンス
  • 腎保護作用が期待される
  • 1日1回投与で24時間の降圧効果を維持

海外で使用されているサイアザイド類似薬には以下があります。

  • クロルタリドン:48~72時間の長時間作用
  • インダパミド:中間作用型で副作用が少ない
  • メトラゾン:長時間作用型
  • キネタゾン:中間作用型

これらの薬剤は、真のサイアザイド系利尿薬と比較して以下の利点があります。

  • より少ない電解質異常
  • 糖代謝への影響が軽微
  • 心血管死亡率の改善効果
  • 腎機能保護作用

臨床的には、特に高齢者や糖尿病患者、慢性腎疾患患者において、サイアザイド類似薬の使用が推奨されています。

 

サイアザイド系利尿薬の作用機序と薬理作用

サイアザイド系利尿薬は腎臓の遠位尿細管に存在するNa+-Cl-共輸送体(NCCT)を特異的に阻害することで作用を発揮します。この作用機序により以下のような薬理学的効果が得られます。
直接的作用:

  • ナトリウムと塩化物の再吸収阻害
  • 水分の再吸収減少による利尿効果
  • 循環血液量の減少
  • 心拍出量の一時的減少

長期的作用:

  • 末梢血管抵抗の低下
  • 血管平滑筋の直接的弛緩作用
  • レニン-アンジオテンシン系への影響
  • 交感神経活性の減弱

電解質への影響:

  • ナトリウム排泄増加
  • カリウム排泄増加(低カリウム血症のリスク)
  • カルシウム再吸収促進(血中カルシウム上昇)
  • マグネシウム排泄増加
  • 尿酸排泄減少(高尿酸血症のリスク)

代謝への影響:

  • 糖代謝:インスリン感受性の低下、耐糖能悪化
  • 脂質代謝:LDLコレステロールの上昇、HDLコレステロールの低下
  • プリン代謝:尿酸排泄減少による高尿酸血症

これらの作用は用量依存性であり、降圧効果を維持しながら副作用を最小化するため、少量投与(1/4~1/2錠)が推奨されています。

 

降圧作用機序についてはまだ完全には解明されていませんが、短期的には循環血液量減少による前負荷軽減、長期的には末梢血管抵抗の低下が主要な機序と考えられています。

 

サイアザイド系利尿薬の臨床選択基準と使い分け

サイアザイド系利尿薬の選択において、患者の背景因子や併存疾患を考慮した適切な使い分けが重要です。以下に臨床現場での選択基準を示します。
患者背景別の選択指針:

  • 高齢者:サイアザイド類似薬(インダパミド)を第一選択
  • 糖尿病合併:代謝への影響が少ないインダパミドを優先
  • 慢性腎疾患:eGFR 30mL/min/1.73m²以上でサイアザイド類似薬
  • 心不全:ループ利尿薬との併用でサイアザイド系を追加
  • 骨粗鬆症:カルシウム保持作用のあるサイアザイド系が有利

臨床病型別の使い分け:

  • 食塩感受性高血圧:サイアザイド系利尿薬が特に有効
  • 低レニン性高血圧:高齢者に多く、利尿薬の効果が期待される
  • 夜間高血圧:長時間作用型のクロルタリドンやインダパミド
  • 起立性低血圧リスク:短時間作用型より長時間作用型を選択

薬物相互作用への配慮:

  • ジギタリス併用時:低カリウム血症リスクを考慮しカリウム補充
  • NSAIDs併用時:腎機能悪化と電解質異常のモニタリング強化
  • リチウム併用時:リチウム中毒リスクのため併用注意

経済性の観点:

  • 後発医薬品の活用:トリクロルメチアジドは6.4円/錠と経済的
  • 配合剤の使用:アドヒアランス向上と医療費削減効果
  • 長期処方:安定した患者では90日処方で薬剤費削減

モニタリング体制:
定期的な検査項目として以下が重要です。

  • 電解質(Na、K、Cl):月1回程度
  • 腎機能(Cr、eGFR):3ヶ月毎
  • 尿酸値:3ヶ月毎
  • 血糖値・HbA1c:6ヶ月毎
  • 脂質プロファイル:年1回

現在の日本高血圧学会ガイドラインでは、サイアザイド類似利尿薬であるインダパミドの使用が推奨されており、特に高齢者や併存疾患を有する患者において第一選択となることが多くなっています。

 

サイアザイド系利尿薬の適切な選択と使用により、高血圧患者の心血管イベント抑制と生命予後改善が期待されます。各薬剤の特性を理解し、患者個々の状況に応じた最適な選択を行うことが重要です。

 

参考情報として、日本腎臓学会の利尿薬使用指針も参考になります。
日本腎臓学会:CKDにおける利尿薬の有用性ガイドライン