sGC刺激薬一覧の種類と作用機序の解説

sGC刺激薬は心不全や肺高血圧症の新たな治療選択肢として注目されています。現在使用可能な薬剤の種類や作用機序について詳しく知りたくありませんか?

sGC刺激薬の種類と一覧

sGC刺激薬の概要
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ベリキューボ(ベルイシグアト)

慢性心不全治療薬として承認されたsGC刺激薬

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アデムパス(リオシグアト)

肺高血圧症治療薬として使用されるsGC刺激薬

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NO-sGC-cGMP経路

両薬剤共通の作用機序による治療効果

可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激薬は、心血管疾患治療において革新的な薬剤クラスとして位置づけられています。現在日本で承認されているsGC刺激薬は主に2種類あり、それぞれ異なる適応症に対して使用されています。これらの薬剤は、NO-sGC-cGMP経路を活性化することで治療効果を発揮する新しいメカニズムを有しています。

 

sGC刺激薬ベリキューボの特徴と適応

ベリキューボ(一般名:ベルイシグアト)は、2021年に日本で承認された慢性心不全治療薬です。この薬剤は、可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)に選択的かつ特異的に結合し、濃度依存的に環状グアノシン一リン酸(cGMP)の産生を増加させます。

 

主な特徴:

  • 効能・効果:慢性心不全(標準的な治療を受けている患者に限る)
  • 用法・用量:2.5mg、5mg、10mgの3規格が利用可能
  • 作用機序:sGCの直接刺激と内因性NOに対する感受性向上の2つの作用
  • 投与調節:収縮期血圧と低血圧症状に応じた用量調節が必要

ベリキューボの臨床試験では、心血管死または心不全による初回入院の複合エンドポイントにおいて、プラセボと比較して有意な改善が示されました(ハザード比0.90、95%信頼区間0.82-0.98、P=0.019)。特に日本人集団では161例中49例(30.4%)でイベントが発生し、プラセボ群の31.0%と比較して良好な傾向を示しています。

 

副作用プロファイル:

  • 主な副作用:低血圧(6.8%)、浮動性めまい(1.5%)、悪心(0.8%)
  • 日本人での副作用発現率:8.1%(主に低血圧3例、1.9%)
  • 症候性低血圧の注意深い管理が必要

sGC刺激薬アデムパスの作用機序と適応

アデムパス(一般名:リオシグアト)は、2014年に日本で承認された世界初のsGC刺激薬です。肺高血圧症の2つのタイプ、慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)と肺動脈性肺高血圧症(PAH)に対する治療薬として使用されています。

 

適応症:

  • 外科的治療不適応または外科的治療後に残存・再発した慢性血栓塞栓性肺高血圧症
  • 肺動脈性肺高血圧症

リオシグアトは、ベリキューボと同様にsGCを刺激してcGMP産生を増加させますが、主に肺血管系に作用することで肺高血圧症の改善を図ります。肺血管における血管拡張作用により、肺血管抵抗の減少と運動能力の改善をもたらします。

 

製造販売体制:

  • 開発・製造:バイエル薬品
  • 販売:2017年1月からはMSDが単独販売
  • 新しいクラスの経口肺高血圧症治療薬として位置づけ

sGC刺激薬の副作用と注意点

sGC刺激薬の使用において、医療従事者が特に注意すべき副作用と管理ポイントを整理します。

 

共通する副作用:

  • 低血圧:最も頻度の高い副作用で、症候性低血圧に注意
  • 浮動性めまい:血圧低下に関連して発現する可能性
  • 消化器症状:悪心、嘔吐、消化不良など

ベリキューボ特有の管理ポイント:

  • 収縮期血圧による用量調節が必須
  • 100mmHg以上:増量可能
  • 90-100mmHg:用量維持
  • 90mmHg未満:減量または中断
  • 他のsGC刺激薬(リオシグアト)との併用禁忌
  • 細胞内cGMP濃度増加による降圧作用の増強リスク

薬物相互作用:

  • PDE5阻害薬との相互作用に注意
  • 降圧薬との併用時は血圧モニタリングを強化
  • CYP3A4阻害薬・誘導薬との相互作用

患者への服薬指導では、立ちくらみやめまいなどの低血圧症状について十分説明し、症状出現時の対応方法を伝えることが重要です。また、自己判断での服薬中止は心不全悪化の原因となるため、副作用が疑われる場合は医療機関への相談を促すべきです。

 

sGC刺激薬の将来展望と開発動向

sGC刺激薬は比較的新しい薬剤クラスであり、今後の研究開発により更なる適応拡大や新規薬剤の登場が期待されています。

 

現在の研究動向:

  • 新たな心血管疾患への適応拡大研究
  • より選択性の高いsGC刺激薬の開発
  • 長時間作用型製剤の検討
  • 小児適応に向けた安全性・有効性の検証

期待される治療領域:

  • 急性心不全への適用可能性
  • 腎疾患における心腎連関への効果
  • 糖尿病性血管合併症への応用
  • 認知機能への影響に関する研究

NO-sGC-cGMP経路は、心血管系以外にも神経系や腎臓系など多臓器にわたって重要な役割を果たしているため、sGC刺激薬の応用範囲は今後さらに拡大する可能性があります。特に、心腎症候群や糖尿病性血管合併症など、複数の臓器が関与する疾患において、sGC刺激薬が新たな治療選択肢となることが期待されています。

 

臨床研究の課題:

  • 長期安全性データの蓄積
  • 最適な投与量・投与期間の確立
  • 他の心不全治療薬との併用効果の検証
  • バイオマーカーを用いた効果予測因子の同定

sGC刺激薬投与時の患者管理ポイント

sGC刺激薬を安全かつ効果的に使用するためには、投与前から投与中、投与後にわたる包括的な患者管理が必要です。

 

投与前評価:

  • 血圧測定(収縮期血圧90mmHg以上を確認)
  • 心機能評価(心エコー、BNP/NT-proBNP)
  • 腎機能・肝機能の評価
  • 併用薬剤の確認(特にPDE5阻害薬、他のsGC刺激薬)
  • 患者の理解度と服薬アドヒアランスの評価

投与開始時の注意点:

  • 最低用量からの開始(ベリキューボ:2.5mg)
  • 初回投与後の血圧モニタリング
  • 症候性低血圧の症状説明と対応指導
  • 定期的な外来フォローアップの計画

継続投与時の管理:

  • 定期的な血圧測定と記録
  • 心不全症状の評価(NYHA分類、6分間歩行試験)
  • 血液検査による腎機能・肝機能のモニタリング
  • 患者日記による症状変化の把握

用量調節の実際:
ベリキューボでは、患者の血圧値と症状に応じて段階的な用量調節を行います。収縮期血圧が100mmHg以上で忍容性が良好な場合は、2週間間隔で2.5mg→5mg→10mgへと増量可能です。一方、90mmHg未満の場合は減量または休薬を検討する必要があります。

 

患者・家族への教育内容:

  • 薬剤の作用機序と期待される効果の説明
  • 副作用の早期発見と対応方法
  • 服薬の重要性と自己中断の危険性
  • 日常生活での注意点(急激な体位変換の回避など)
  • 緊急時の連絡先と対応方法

特に高齢者では起立性低血圧のリスクが高いため、ゆっくりとした体位変換や十分な水分摂取の指導が重要です。また、sGC刺激薬は心不全の根本的な病態進行を抑制する薬剤であるため、症状改善後も継続投与の必要性を患者に十分説明することが治療成功の鍵となります。

 

ベリキューボの詳細な作用機序について
心不全治療薬の総合情報サイト