神経伝達物質は、ニューロンが活動電位を発生させた後に神経終末から放出され、シナプス間隙を拡散して隣接細胞の受容体に短時間結合し、別のニューロンや効果細胞の反応を誘発します。
この「シナプス間隙」というごく狭い空間での伝達は、局所に限定されやすく、信号の立ち上がりが速いのが特徴です。
一方、ホルモンは内分泌腺などから血中へ分泌され、血流に乗って全身へ運ばれ、離れた標的組織で作用する分子として説明されます。
血管網という“配送網”を使うため、作用範囲は広くなりやすい反面、到達までに時間がかかりやすいという性質につながります。
ここで重要なのは、「神経伝達物質=脳」「ホルモン=体」と短絡しないことです。
脳内でもホルモン的に働く(神経内分泌、神経ホルモン)現象はあり得る一方で、「脳内ホルモン」という言い回しは概念を曖昧にしやすい点が指摘されています。
臨床での説明に強いのは、「同じ“伝達物質”でも、受容体で応答速度が変わる」という視点です。
MSDマニュアルでは、神経伝達物質受容体を大きくイオンチャネル型(迅速な応答)と代謝型(Gタンパク質などを介して比較的緩徐な変化)に分けています。
この枠組みで見ると、「神経伝達=いつも速い」「ホルモン=いつも遅い」とは言い切れません。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/54362ba7b4d269cd6611a1a0077e5bed457ca576
神経伝達物質でも代謝型受容体を介すれば調節はゆっくりになり得ますし、ホルモンでも受容体が膜受容体であれば比較的速い細胞内応答が起こり得ます(ただし臨床的な時間スケールでは“調節系”として語られることが多い)。
また、神経伝達では「放出・再取り込み・分解」という終結機構が、情報のキレを作る重要要素です。
この“終結”が破綻すると症状につながりうる、という説明は患者教育にも応用しやすいポイントです。
代表的な神経伝達物質として、MSDマニュアルは低分子の神経伝達物質にセロトニン、ノルアドレナリン、アセチルコリンなどを挙げ、ドパミンについても中枢ニューロンでの産生・再取り込みなどを説明しています。
このあたりの分子が一般向けに「脳内ホルモン」と呼ばれがちですが、ホルモンと神経伝達物質は本来“伝え方(伝達様式)”が異なるという整理が必要です。
誤解が起きる大きな理由は、「物質名で分類が固定される」と思われやすい点です。
しかし、ドパミンのような分子でも、シナプスで極微量が使われるなら神経伝達物質として、もし大量に放出され血中に入り遠隔へ作用すればホルモンとして扱う、という考え方が提示されています。
医療現場でありがちな説明のズレとしては、
のように、言い換えの途中で概念が崩れやすい点が挙げられます。
神経伝達は、シナプス間隙での拡散と受容体への短時間結合、さらに再取り込みや分解で終結するため、情報としては「短い単位で区切りやすい」特徴を持ちます。
この性質は、運動・感覚・自律神経反射のように瞬時性が求められる系で直感的に理解しやすいポイントです。
一方で、神経伝達物質が関与していても、結果として「長期的な変化(遺伝子やタンパク質の活性変化など)」につながり得ることも説明されています。
つまり、神経伝達は“短時間しか効かない”というより、「短時間のイベントを積み重ねて、長期の状態変化も作り得る」と捉えるほうが臨床像に合います。
ホルモンは血流で広域に作用するため、個体としての恒常性(代謝、成長、生殖など)の調節に向いた構造ですが、ここでも“いつも遅い”と決めつけると誤解が生まれます。
患者説明では「配送距離が長いので、効き目の立ち上がり・消え方が神経の局所伝達と違う」と表現すると、伝達様式の違いから納得しやすくなります。
検索上位の解説は「シナプス vs 血流」「速い vs 遅い」に寄りがちですが、現場で一段深い理解につながるのは“分類軸”の再確認です。
神経伝達物質・ホルモンという言葉は、化学構造のラベルというより、「どこから、どこへ、どの媒体で、どの距離を伝えるか」という様式のラベルとして扱う方が混乱が減ります。
この整理を使うと、たとえば患者が「セロトニンを増やせばホルモンが整うんですか?」と聞いたときに、
話している階層が違う、と落ち着いて説明できます。
さらに、MSDマニュアルが示すように、神経伝達はニューロンだけで完結せず、効果細胞として内分泌細胞も含み得るため、神経系と内分泌系は現象として交差します。
だからこそ、「二分法で割り切る」より「どのルートで伝わったか(シナプスか血中か)」に戻って整理するのが、医療従事者の説明では再現性が高いといえます。
(定義・混同ポイントの参考:ホルモンと神経伝達物質の“伝え方”の違い、脳内ホルモンという誤用の指摘)
https://allabout.co.jp/gm/gc/491562/
(神経伝達の機序、受容体分類、再取り込み・分解など終結機構の要点)
https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/07-%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E7%96%BE%E6%82%A3/%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E4%BC%9D%E9%81%94/%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E4%BC%9D%E9%81%94
水虫(足白癬)は日常診療で頻度が高い一方、見た目だけでの判断は危険です。皮膚科診療の現場では、角層から検体を取り、水酸化カリウム(KOH)直接鏡検で菌糸や分節胞子を確認することが迅速診断の軸になります。日本皮膚科学会の「皮膚真菌症診療ガイドライン2019」でも、皮膚真菌症には鑑別すべき疾患が多く、直接鏡検を怠ると診断を誤る例が少なくないと明記されています。[]
医療従事者向けに押さえたいポイントは、「ステロイドを塗る/塗らない」の議論より前に、まず“白癬かどうか”を検査で固めることです。足白癬では、菌が多い部位(例:趾間型なら浸軟した鱗屑、水疱型なら水疱蓋)からできるだけ多く採取することが偽陰性の回避に重要です。[]
また、慢性化・再発・非典型例、あるいは薬剤耐性が疑われる状況では培養が有用になります。培養は結果に時間がかかる一方で、原因菌の同定や疫学的情報(動物由来、集団発生など)を与えるメリットがあります。[]
さらに臨床でありがちな“ズレ”として、患者が市販薬(抗真菌薬やステロイド配合)を断続的に使っているケースがあります。問診で「何をどれくらい塗ったか」を聞き取り、皮疹が典型像から外れていないかを常に意識します。ステロイドが介在すると後述するtinea incognitoを起こし、視診の精度が下がるためです。[page:0]
参考:皮膚真菌症診療ガイドライン(診断の原則・KOH鏡検の手順、足白癬の治療期間目安がまとまっています)
https://www.dermatol.or.jp/dermatol/wp-content/uploads/xoops/files/guideline/shinkin_GL2019.pdf
「水虫にステロイドは基本NG」と言われる背景には、白癬がステロイドで“治ったように見えてしまう”現象があるからです。tinea incognitoは、局所または全身のコルチコステロイドによる免疫抑制がきっかけで、皮膚糸状菌感染が非典型的な見た目に変化した状態とされます。[page:0]
具体的には、典型的な白癬で見られる境界明瞭な輪郭、中心治癒傾向、鱗屑が目立ちにくくなり、紅斑も薄く見えることがあります。[page:0]
この「炎症所見が抑えられる」ことが臨床上の落とし穴です。湿疹・乾癬・苔癬様皮疹・水疱性疾患など、別の疾患に見えてしまい、ステロイドが反復されると、結果として診断が遅れます。[page:0]
Cleveland Clinic Journal of Medicineの解説では、tinea incognitoの管理の鍵は“適
皮膚科で「水虫にステロイドを使うべきか」を判断する前提は、白癬(皮膚糸状菌症)かどうかの確定です。日本皮膚科学会の「皮膚真菌症診療ガイドライン2019」では、皮膚真菌症は鑑別すべき疾患が多く、直接鏡検(KOH法)を怠ると診断を誤り患者に迷惑をかける例が少なくない、と明確に述べています。
直接鏡検のポイントは「検体採取部位」と「量」です。足白癬なら水疱蓋や趾間の鱗屑、体部白癬なら環状病変の辺縁など“菌が多い場所”からしっかり採ることが偽陰性を減らします。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7866743/
忙しい外来では「見た目がそれっぽいから水虫」で進みがちですが、見た目だけで決めると、湿疹・接触皮膚炎・汗疱・乾癬・紅色陰癬などが混ざって治療が迷走します。
意外と盲点なのが、患者がすでに市販薬(抗真菌薬、ステロイド配合外用など)を使っていて所見が改変されているケースです。ステロイド外用で紅斑や痒みが軽くなって「治った気がする」一方、菌は残る、むしろ増える、そして次に見たときには典型像が崩れている、という流れが起こり得ます。
白癬と確定した場合、基本は抗真菌薬です。ガイドライン2019では足白癬治療の中心は外用抗真菌薬(推奨度A)とされ、病巣より広め(足全体など)に塗り、菌陰性化後もしばらく治療継続を指導することが記載されています。
さらに、指間型で2カ月以上、小水疱型で3カ月以上、角化型で6カ月以上が目安とされ、外用期間は“思ったより長い”のが標準です。
「なぜ治らないのか?」の相談で多いのは、塗布範囲が狭い/期間が短い/中断が早い、の3点です。ガイドラインが具体的に“病巣より十分広い範囲に塗る”と強調しているのは、こうした現場あるあるの失敗を前提にしているからです。
角化型や接触皮膚炎合併など難治例では、経口抗真菌薬(テルビナフィン、イトラコナゾール等)も選択肢として推奨度Aで記載されています。
ここで重要なのは、「白癬だからステロイドは絶対ダメ」という単純化をしないことです。白癬の治療過程で、別の皮膚炎(かぶれ、湿疹、刺激反応)が乗って“炎症だけ”が強く見える場面があり、そこを雑に「水虫悪化」と決めつけると、治療が空回りします。
参考)外用抗真菌薬による接触皮膚炎の回避と生じた際の対処法 (薬局…
ステロイド外用(あるいは全身投与)で白癬の見え方が変わり、診断が遅れたり悪化したりする状態は「tinea incognito(異型白癬)」としてよく知られています。Cleveland Clinic Journal of Medicineの解説では、tinea incognitoはステロイドによる局所免疫抑制が背景にあり、典型的な白癬の所見(明瞭な辺縁、中心治癒、鱗屑など)が目立たなくなると説明されています。
また、ステロイドが炎症サインをさらに抑えるため、紅斑が弱く見えて“軽症に見える”ことがある点も重要です。
臨床では「ステロイドで一時的に痒みが引いた→中止するとリバウンドして赤み・鱗屑・丘疹が増える→結局長引く」というパターンが起きます。上記解説でも、ステロイド使用で改善しない、あるいは中止後に増悪する場合は診断の再評価(KOH実施)を促すべきだと述べています。
加えて、毛包性の膿疱・丘疹が目立つ場合、深在化(Majocchi肉芽腫など)を疑う視点も示されており、単なる「水虫」より治療が重くなる可能性があります。
「意外なポイント」として、白癬がある患者では同時に爪白癬が隠れていることがあり、そこが“再燃の貯蔵庫”になって足の皮疹がぶり返すことがあります。ガイドラインも爪白癬合併例では内服抗真菌薬を第1選択とすべき旨を記載しており、足だけ見て終わらせない視点が大切です。
検索上位の一般向け記事では「水虫にステロイドはNG」で終わりがちですが、医療者の実務では“かぶれの整理”が避けられません。外用抗真菌薬で悪化する場合、白癬の悪化ではなく接触皮膚炎(塗り薬のかぶれ)を鑑別すべきで、原因薬を中止しステロイド外用を約1週間塗布する、という整理が専門誌の要点として示されています。
つまりステロイドは「白癬を治す薬」ではない一方で、「誤診やかぶれで炎症が暴れている状況を立て直す短期介入」として意味を持ち得ます。
この場面での落とし穴は、炎症が落ち着いたことで「やっぱり湿疹だった」と早合点し、真菌検査をしないままステロイドを継続してしまうことです。ガイドラインは直接鏡検の意義として“寄生形態が観察されれば原因菌と確定できる”と述べており、治療方針が揺れたときほど検査で地盤を固めるのが安全です。
実務的には、①KOHで白癬の有無を確認、②白癬陽性なら抗真菌薬を主軸、③かぶれが疑わしければ原因外用を止めて短期ステロイドで炎症を鎮め、④落ち着いたら抗真菌薬を“系統を変えて”再設計、という順序が再発・悪化を減らします(系統を変えて採用しておくとよい、というガイドラインの記載がここで効きます)。
なお、皮疹が非典型で長引く、再発を繰り返す、あるいは薬剤耐性や別菌種が疑われる状況では、培養や追加の検査も視野に入ります。tinea incognitoの解説でも、慢性・再発例や耐性が疑われる場合は真菌培養をオーダーすべきと述べられています。
日本皮膚科学会「皮膚真菌症診療ガイドライン2019」(足白癬の外用療法・塗布期間、直接鏡検の重要性、治療原則がまとまっています)
https://www.dermatol.or.jp/dermatol/wp-content/uploads/xoops/files/guideline/shinkin_GL2019.pdf
Cleveland Clinic Journal of Medicine「Tinea incognito」(ステロイドで典型像が崩れる仕組み、KOHと培養の位置づけ、再評価のトリガーが整理されています)
https://www.ccjm.org/content/92/5/271