抗真菌薬は作用機序により複数のカテゴリーに分類される。真菌は動物と同じ真核生物であるため、真菌のみを標的とした薬剤の開発は細菌に対する抗菌薬と比較して困難である。
主要な分類と作用機序:
アゾール系抗真菌薬は現在の真菌治療の主力となっており、アムホテリシンBと比較して副作用が大幅に改善されている。第4世代まで開発が進み、世代が進むたびに使いやすさが向上している。
トリアゾール系抗真菌薬の詳細一覧:
薬剤名 | 剤型 | 主な適応 | 特徴 |
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イトラコナゾール(ITCZ) | 錠剤、カプセル、内用液 | 皮膚真菌症、深在性真菌症 | 現在最もよく使用される |
フルコナゾール(FLCZ) | カプセル、ドライシロップ、注射液 | カンジダ症、コクシジオイデス髄膜炎 | Candida albicansに有効 |
ボリコナゾール(VRCZ) | 錠剤、ドライシロップ、注射液 | 侵襲性アスペルギルス症 | アスペルギルス症の第一選択 |
ポサコナゾール(PSCZ) | 経口剤 | 侵襲性真菌症の予防 | 幅広いスペクトラム |
イサブコナゾール(ISCZ) | 経口・注射 | ムコール症、アスペルギルス症 | 新世代薬剤 |
アゾール系の注意点:
ポリエン系抗真菌薬:
アムホテリシンBは抗真菌薬の歴史における基幹薬剤である。広スペクトラムで強力な効果を持ち、耐性菌がほとんど出現しないという優れた特性を持つが、副作用の強さが課題となっている。
キャンディン系抗真菌薬一覧:
キャンディン系は動物細胞にはない真菌壁の1,3-β-D-グルカンを標的とするため、副作用が少ないという特徴がある。
薬剤名 | 用法・用量 | 主な適応 | 特徴 |
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ミカファンギン | 100mg 静注、1日1回 | カンジダ症、カンジダ血症 | 比較的安全に使用可能 |
カスポファンギン | 初日70mg、以降50mg 静注 | カンジダ症、カンジダ血症 | 静脈炎、頭痛などの副作用 |
アニデュラファンギン | 初日200mg、以降100mg 静注 | カンジダ症、カンジダ血症 | 肝炎、下痢の報告 |
キャンディン系の限界:
適切な抗真菌薬選択には、対象となる真菌の種類と患者の状態を総合的に判断する必要がある。
主要真菌に対する抗真菌薬の効果比較:
真菌 | アムホテリシンB | イトラコナゾール | フルコナゾール | ボリコナゾール | キャンディン系 |
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カンジダ | ◎ | △ | ○ | ◎ | ◎ |
アスペルギルス | ○ | ○ | × | ◎ | ◎ |
クリプトコックス | ◎ | ○ | △ | ◎ | × |
ムーコル | ○ | △ | × | × | × |
フザリウム | ○ | × | × | ○ | × |
疾患別第一選択薬:
選択のポイント:
抗真菌薬は副作用が多く、長期使用が必要な場合が多いため、適切なモニタリングと耐性対策が重要である。
主要副作用とモニタリング項目:
薬剤耐性対策:
近年、抗真菌薬の過剰処方が薬剤耐性真菌感染症増加の一因となっている。適切な使用指針が重要である。
臨床における実践的アプローチ:
抗真菌薬選択は「真菌の種類+患者の状態+薬剤特性」の総合判断が必要である。特に日本の獣医療では深在性真菌症のデータが限られているため、ヒト医療のガイドラインを参考にしつつ、個別症例での慎重な対応が求められる。
また、新世代の抗真菌薬開発により治療選択肢は拡大しているが、各薬剤の特性を理解し、適切な使い分けを行うことが治療成功の鍵となる。薬剤耐性の拡大を防ぐためにも、抗真菌薬の適正使用がますます重要になっている。