抗真菌薬の種類と一覧:分類と選択指針

医療現場で使用される抗真菌薬を分類別に整理し、各薬剤の特徴や適応を詳しく解説。アゾール系、ポリエン系、キャンディン系など主要カテゴリーの使い分けポイントとは?

抗真菌薬の種類と分類

抗真菌薬の主要分類
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アゾール系抗真菌薬

現在の真菌治療の主力。エルゴステロール合成を阻害し、副作用が比較的少ない

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ポリエン系抗真菌薬

広スペクトラムで強力な効果。重篤な真菌症の治療に使用されるが副作用に注意

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キャンディン系抗真菌薬

真菌細胞壁を標的とし、動物細胞への影響が少なく比較的安全に使用可能

抗真菌薬の主要分類と作用機序

抗真菌薬は作用機序により複数のカテゴリーに分類される。真菌は動物と同じ真核生物であるため、真菌のみを標的とした薬剤の開発は細菌に対する抗菌薬と比較して困難である。

 

主要な分類と作用機序:

  • ポリエン系抗真菌薬:エルゴステロールに結合して細胞膜を破壊
  • アムホテリシンB(AMPH-B)
  • アムホテリシンBリポソーム製剤(L-AMP)
  • アゾール系抗真菌薬:エルゴステロール合成阻害(チトクロームP450に作用)
  • イミダゾール系:ミコナゾール、ケトコナゾールなど
  • トリアゾール系:イトラコナゾール、フルコナゾール、ボリコナゾールなど
  • キャンディン系抗真菌薬:細胞壁のβ-D-グルカン合成阻害
  • ミカファンギン(MCFG)
  • カスポファンギン(CPFG)
  • ピリミジン系抗真菌薬:DNA合成阻害
  • フルシトシン(5-FU)
  • アリルアミン系抗真菌薬:エルゴステロール合成阻害(スクアレンエポキシダーゼを阻害)
  • テルビナフィン(TBF)

アゾール系抗真菌薬の種類と特徴一覧

アゾール系抗真菌薬は現在の真菌治療の主力となっており、アムホテリシンBと比較して副作用が大幅に改善されている。第4世代まで開発が進み、世代が進むたびに使いやすさが向上している。

 

トリアゾール系抗真菌薬の詳細一覧:

薬剤名 剤型 主な適応 特徴
イトラコナゾール(ITCZ) 錠剤、カプセル、内用液 皮膚真菌症、深在性真菌症 現在最もよく使用される
フルコナゾール(FLCZ) カプセル、ドライシロップ、注射液 カンジダ症、コクシジオイデス髄膜炎 Candida albicansに有効
ボリコナゾール(VRCZ) 錠剤、ドライシロップ、注射液 侵襲性アスペルギルス症 アスペルギルス症の第一選択
ポサコナゾール(PSCZ) 経口剤 侵襲性真菌症の予防 幅広いスペクトラム
イサブコナゾール(ISCZ) 経口・注射 ムコール症、アスペルギルス症 新世代薬剤

アゾール系の注意点:

  • チトクロームP450(CYP)阻害により多くの薬剤との相互作用あり
  • 長期使用により耐性化の可能性
  • アゾール系薬剤間で交差耐性が発生することがある

ポリエン系・キャンディン系抗真菌薬の一覧

ポリエン系抗真菌薬:
アムホテリシンBは抗真菌薬の歴史における基幹薬剤である。広スペクトラムで強力な効果を持ち、耐性菌がほとんど出現しないという優れた特性を持つが、副作用の強さが課題となっている。

 

  • 従来製剤(デオキシコール酸製剤)
  • 用量:0.5~1.0mg/kg 静注、1日1回
  • 主な副作用:急性輸注反応、腎不全低カリウム血症
  • 脂質製剤
  • 用量:3~5mg/kg 静注、1日1回
  • 副作用軽減:従来製剤より輸注反応や腎毒性が軽減

キャンディン系抗真菌薬一覧:
キャンディン系は動物細胞にはない真菌壁の1,3-β-D-グルカンを標的とするため、副作用が少ないという特徴がある。

 

薬剤名 用法・用量 主な適応 特徴
ミカファンギン 100mg 静注、1日1回 カンジダ症、カンジダ血症 比較的安全に使用可能
カスポファンギン 初日70mg、以降50mg 静注 カンジダ症、カンジダ血症 静脈炎、頭痛などの副作用
アニデュラファンギン 初日200mg、以降100mg 静注 カンジダ症、カンジダ血症 肝炎、下痢の報告

キャンディン系の限界:

  • 抗真菌スペクトラムが狭い
  • クリプトコックスやムーコルには効果なし
  • 注射剤のみで経口薬なし

抗真菌薬の疾患別選択指針と一覧

適切な抗真菌薬選択には、対象となる真菌の種類と患者の状態を総合的に判断する必要がある。

 

主要真菌に対する抗真菌薬の効果比較:

真菌 アムホテリシンB イトラコナゾール フルコナゾール ボリコナゾール キャンディン系
カンジダ
アスペルギルス ×
クリプトコックス ×
ムーコル × × ×
フザリウム × × ×

疾患別第一選択薬:

  • カンジダ血症・侵襲性カンジダ症
  • 第一選択:キャンディン系(ミカファンギン、カスポファンギン)
  • 代替薬:フルコナゾール(感受性株)、ボリコナゾール
  • 侵襲性アスペルギルス症
  • 第一選択:ボリコナゾール
  • 代替薬:イサブコナゾール、ポサコナゾール
  • クリプトコックス髄膜炎
  • 導入療法:アムホテリシンB+フルシトシン
  • 維持療法:フルコナゾール
  • ムコール症
  • 第一選択:アムホテリシンB
  • 代替薬:ポサコナゾール、イサブコナゾール

選択のポイント:

  • 重篤度と緊急性
  • 患者の腎機能、肝機能
  • 併用薬との相互作用
  • 投与経路の制限
  • 薬剤感受性検査結果

抗真菌薬使用時の副作用管理と耐性対策

抗真菌薬は副作用が多く、長期使用が必要な場合が多いため、適切なモニタリングと耐性対策が重要である。

 

主要副作用とモニタリング項目:

  • アムホテリシンB
  • 腎機能障害:血清クレアチニン、BUN定期測定
  • 電解質異常:K、Mg濃度モニタリング
  • 輸注反応:前投薬によるアレルギー反応予防
  • 肝機能障害:AST、ALT定期チェック
  • アゾール系
  • 肝機能障害:定期的な肝機能検査必須
  • QT延長:心電図モニタリング
  • 薬物相互作用:CYP阻害による併用薬の血中濃度上昇注意
  • キャンディン系
  • 肝機能障害:比較的軽微だが要注意
  • 輸注反応:投与速度の調整

薬剤耐性対策:
近年、抗真菌薬の過剰処方が薬剤耐性真菌感染症増加の一因となっている。適切な使用指針が重要である。

 

  • 耐性予防策
  • 薬剤感受性検査に基づく適切な薬剤選択
  • 不必要な長期投与の回避
  • 適切な投与量と投与期間の遵守
  • 予防的投与の適応を厳格に判定
  • 耐性真菌への対応
  • 多剤併用療法の検討
  • 新規抗真菌薬への変更
  • 感染制御チームとの連携

臨床における実践的アプローチ:
抗真菌薬選択は「真菌の種類+患者の状態+薬剤特性」の総合判断が必要である。特に日本の獣医療では深在性真菌症のデータが限られているため、ヒト医療のガイドラインを参考にしつつ、個別症例での慎重な対応が求められる。

 

また、新世代の抗真菌薬開発により治療選択肢は拡大しているが、各薬剤の特性を理解し、適切な使い分けを行うことが治療成功の鍵となる。薬剤耐性の拡大を防ぐためにも、抗真菌薬の適正使用がますます重要になっている。