フィブリノゲン基準値と測定法の臨床的意義

フィブリノゲンの基準値は150~400mg/dLとされていますが、臨床状況により適切な判断が必要です。検査法の違いや病態による変動について、医療従事者が知っておくべき知識とは?

フィブリノゲン基準値と測定法

📋 フィブリノゲン検査の基本
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基準値の範囲

一般的に150~400mg/dL、施設により170~410mg/dLと設定

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測定法の種類

Clauss法(トロンビン時間法)が標準的測定法として広く使用

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臨床的意義

止血機能の評価と凝固異常の診断に必須の検査項目

フィブリノゲン基準値の設定根拠

 

フィブリノゲンの基準値は、多くの医療施設で150~400mg/dLまたは170~410mg/dLと設定されています。この基準値は健常者における血漿フィブリノゲン濃度の正常範囲を示しており、WHO国際標準品にトレーサブルな標準血漿を用いて設定されています。uwb01.bml+2
基準値の設定には施設間でわずかな差異が認められますが、これは測定試薬や分析装置の違いに起因します。実際の臨床現場では、200~400mg/dLを基準値として採用している施設も存在し、測定法の種類によって基準範囲が調整されています。kchnet+1
止血のための最小有効量は50~100mg/dLとされており、この値を下回ると出血傾向が顕著になります。フィブリノゲン値が60mg/dL未満では明らかな出血傾向をきたすため、臨床的には100mg/dL以上を維持することが望ましいとされています。jstage.jst+2

フィブリノゲン測定法の種類と特徴

フィブリノゲンの測定には主にClauss法(トロンビン時間法)が用いられており、全自動血液凝固測定装置による光学的あるいは力学的検出機構を利用した測定が推奨されています。Clauss法は、フィブリノゲンからフィブリンへの転化反応を観察し、機能的な量(functional/clottable amount)を測定する方法です。jsth.medical-words
この測定法では、WHO国際標準品により値付けされた標準血漿を用いて検量線を作成し、フィブリノゲン濃度を算出します。定量下限はおよそ30~50mg/dLですが、測定試薬や分析装置により厳密には異なります。jsth.medical-words
光学的検出を利用する場合、血漿の乳糜など比色分析に影響を与える要素が測定に干渉する可能性があるため注意が必要です。Clauss法の測定値は「Fg:C」と表記され、フィブリノゲン抗原量とは区別されます。jsth.medical-words

フィブリノゲン低値を示す疾患と病態

フィブリノゲン低値は先天性と後天性の病態に分類され、臨床的に重要な鑑別が必要です。先天性疾患としては、先天性無フィブリノゲン血症、低フィブリノゲン血症、異常フィブリノゲン血症が挙げられます。square.umin+3
後天性の低値を示す代表的疾患は播種性血管内凝固症候群(DIC)であり、凝固因子の消費亢進により著明なフィブリノゲン低下をきたします。DICではフィブリノゲン値が100mg/dL未満となることが多く、線溶亢進型DICでは特に著減します。msdmanuals+3
肝機能障害もフィブリノゲン低値の重要な原因であり、慢性肝炎や肝硬変では肝臓での生成障害により低下します。その他、大量出血、蛇毒製剤の投与、L-アスパラギナーゼの投与、線溶亢進状態でも低値を示します。crc-group+1

フィブリノゲン高値と臨床的意義

フィブリノゲンは急性相反応物質として炎症時に増加し、生体の防御機構に関与します。感染症、悪性腫瘍、膠原病、糖尿病、ネフローゼ症候群などで高値を示し、一般的にフィブリノゲンが700mg/dL以上になると血栓傾向が出現します。diagnostic-wako.fujifilm+2
心筋梗塞や脳梗塞などの血栓症急性期では、フィブリノゲンが著明に上昇し、血漿の粘稠度上昇により血栓形成リスクが増大します。手術侵襲後や妊娠中もフィブリノゲンは増加し、妊娠後期(28~42週)には345~668mg/dLに達するとの報告があります。atomed+2
高齢者では加齢に伴いフィブリノゲンが増加する傾向があり、高値傾向を示します。また、エストロゲン製剤や経口避妊薬の長期連用、ヘパリン投与中止後などの医原性要因でも高値となることがあります。uwb01.bml+2

フィブリノゲン製剤投与基準と適正使用

フィブリノゲン製剤の投与基準は、患者の血中フィブリノゲン値が150mg/dL未満であることを確認する必要があります。産科危機的出血では、フィブリノゲン値が200mg/dLを切る場合は明らかな低フィブリノゲン血症の進行を示唆し、製剤投与を考慮すべきです。jsog+1
適正使用のガイドラインでは、原則としてフィブリノゲン値が150mg/dLを下回ることを確認するまでは新鮮凍結血漿またはクリオプレシピテートによる凝固因子補充が推奨されています。ただし、持続する危機的出血で患者の生命に危険を及ぼすと判断される場合には、検査結果を待たずに製剤投与が許容されます。jsog
周術期管理においては、先天性無フィブリノゲン血症患者では血漿フィブリノゲン値を100mg/dL以上に維持することが望ましいとされています。欧米では産科領域において250mg/dLでも異常値と判断すべきとの議論があり、より高い閾値設定の可能性が示唆されています。jstage.jst+1

フィブリノゲン測定における注意点と抗原量評価

Clauss法はフィブリノゲンの機能的活性を測定するため、異常フィブリノゲン血症では機能異常により実際の蛋白量と乖離することがあります。このような症例では、フィブリノゲン抗原量の測定が診断に必須となります。jstage.jst
フィブリノゲン抗原量測定試薬を用いることで、Clauss法では評価できない質的異常を有する先天性異常フィブリノゲン血症の正確な評価が可能になります。また、凝固波形解析により質的異常の存在を推測することもでき、診断の補助となります。jstage.jst+1
検体採取においては、採血後1時間以内に適切な温度と遠心条件で処理し、血漿を分離する必要があります。採取量の厳守も重要であり、凝固していた場合は必要に応じて再採血を依頼することが推奨されます。falco+1
日本血栓止血学会によるフィブリノゲン測定法の詳細解説
フィブリノゲン測定の標準化と測定法の詳細について、専門学会による包括的な情報が提供されています。

 

日本血液製剤機構によるフィブリノゲン製剤の適正使用ガイド
フィブリノゲン製剤の適応拡大と適正使用基準について、最新の情報と臨床指針が掲載されています。