DICと播種性血管内凝固症候群の症状と治療法

DIC(播種性血管内凝固症候群)は血液の凝固異常により出血と血栓を同時に引き起こす重篤な疾患です。早期診断と適切な治療が生命予後を左右する重要な要因となりますが、どのような症状や治療法があるのでしょうか?

DICと播種性血管内凝固症候群の病態

DICの基本情報
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病態メカニズム

全身の微小血管内で凝固と線溶の異常により血栓と出血が同時発生

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重篤性

死亡率56%と極めて予後不良で多臓器不全に進行

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診断の重要性

早期診断により治療効果と生命予後の改善が期待

DICの発症メカニズムと基礎疾患

播種性血管内凝固症候群(DIC)は、様々な基礎疾患により全身の細血管内で血液凝固が異常に亢進し、微小血栓の形成と凝固因子の消費が同時に起こる重篤な病態です 。この過程では血小板と凝固因子が大量に消費され、二次的に線溶系も亢進するため、出血傾向がより強まります 。
参考)https://www.kango-roo.com/word/6401

 

DICの原因疾患として、白血病・悪性腫瘍・敗血症などの重症感染症・外傷・熱傷・低体温・自己免疫性疾患・急性循環不全・胎盤早期剥離などが挙げられます 。特に大動脈疾患が原因となるDICは、大動脈瘤や大動脈解離の4%に合併し、医療従事者の間でも認知度が低く見過ごされる場合が多いとされています 。
参考)https://sap-kojk.jp/contents/traits/details/dic.html

 

DICの主要症状と臓器障害

DICの症状は、血栓で閉塞が起こった部位やDICの状態により大きく異なります 。出血症状は最も共通してみられる症状で、皮膚や粘膜の出血、採血部位の止血困難のほか、頭蓋内出血、肺出血、消化管出血もしばしば認められます 。具体的には紫斑、鼻出血、口腔内出血、血尿などの症状が現れ、重篤な脳出血、肺出血、ショックになるような吐下血などを呈すると致命的になるリスクが高くなります 。
参考)https://www.tokushukai.or.jp/treatment/internal/blood/dic.php

 

虚血症状としては、血栓が詰まった部位により腎不全や肝不全、足の壊死、肺血栓塞栓症による重篤な呼吸不全、脳梗塞などが起こり、急激な状態の変化や死に直結する可能性があります 。臓器症状を呈すると容易に多臓器不全(MOF)の病態となり、中枢神経系の症状(めまい、意識障害)、循環器系の症状(息切れ、動悸、頻脈)、呼吸器系の症状(息切れ、呼吸困難感)、消化器系の症状(腹痛、下血、黄疸)、腎・泌尿器系の症状(乏尿・浮腫)などが見られます 。
参考)https://www.fpc-pet.co.jp/dog/disease/449

 

DIC診断基準と検査項目

DICの診断は、基礎疾患があり血小板減少、FDP上昇(D-dimer上昇を伴う)、フィブリノゲン低下、PT時間の延長、出血・臓器症状のあることの条件を満たすものとされています 。急性期DIC診断基準では、全身性炎症反応症候群(SIRS)、血小板数、FDP、プロトロンビン時間の4項目でスコア化し、4点以上でDICと診断します 。
参考)https://hokuto.app/erManual/MQfEDEyQxRi4DeA5JJbA

 

血液検査では血小板数の減少がみられ(血液が凝固する際に血小板が使い果たされる)、血液凝固に時間がかかることが示される場合があります 。DICの診断は、検査により血漿中のDダイマー(血栓が分解される時に放出される物質)の異常な増加が認められ、かつ多くの場合、フィブリノーゲン(血液が凝固する際に消費されるタンパク質)の検査値が低い場合に確定されます 。
参考)https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/13-%E8%A1%80%E6%B6%B2%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E8%A1%80%E6%B6%B2%E5%87%9D%E5%9B%BA%E9%9A%9C%E5%AE%B3%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8B%E5%87%BA%E8%A1%80/%E6%92%AD%E7%A8%AE%E6%80%A7%E8%A1%80%E7%AE%A1%E5%86%85%E5%87%9D%E5%9B%BA%E7%97%87%E5%80%99%E7%BE%A4-dic

 

診断に必要な主要な検査項目として、血小板(血液を固めるのに重要)、プロトロンビン時間(PT)、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)、フィブリノゲン、FDP(フィブリン/フィブリノゲン分解産物)、D-ダイマー(できた血の塊が壊される程度)があります 。これらの検査結果を総合的に判断してDICのスコアをつけ診断を行います 。
参考)https://maruoka.or.jp/blood/blood-disorders/disseminated-intravascular-coagulation/

 

DICの治療戦略と薬物療法

DICの治療では、誘因となる基礎疾患の治療が最も重要となります 。例えば、微生物による敗血症であれば感染源の除去や抗菌薬投与、固形がんであれば抗腫瘍治療が必要です 。原因になっている病気を特定し治療することで、原因を取り除くことにより凝固の問題は解消します 。
参考)https://www.saiseikai.or.jp/medical/disease/disseminated_intravascular_coagulation/

 

DICを突然発症した場合は命にかかわるため、緊急の治療が必要で、失われた血小板と凝固因子を輸血で補って出血を止めます 。具体的な治療法として、ヘパリンの使用による血液凝固阻止、新鮮血・血小板の輸血、フィブリノゲンの静注などを行います 。
最近では遺伝子組換えトロンボモジュリン製剤(リコモジュリン)も抗凝固活性を発揮するDIC治療薬として利用されています 。慢性かつ軽度のDICでは、出血より血栓の方が問題になるため、ヘパリンを使用して凝固を遅らせる治療が行われます 。

DICの予後と長期的管理

DICは予後の悪い死亡率の高い疾患で、早期診断・早期治療が重要です 。旧厚生省研究班の疫学調査によると、わが国におけるDIC患者は年間73,000人、死亡率は56.0%と推定され、極めて予後不良な疾患です 。
参考)http://www.ketsukyo.or.jp/disease/dic/dic.html

 

DICが進行すると多臓器不全から死に至るため 、症状が出現したDIC症例は進行しているため、予後改善の観点から症状がない時点で血液凝固検査を行うことが重要です 。敗血症性DICによって作られた微小血栓は、全身臓器の微小血管を閉塞し血流障害を起こし、その結果肺・腎臓・肝臓などさまざまな臓器が障害されます 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/109/7/109_1378/_pdf

 

特に造血器腫瘍に合併するDICでは、DIC治療中の重篤な出血性合併症である脳出血が早期死亡と関連が認められており 、慎重な管理が必要です。産科DICの発症頻度は0.03〜0.35%ですが、発症した場合の母体死亡率は5〜10%、児死亡率は30〜50%と予後不良です 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsth/33/5/33_2022_JJTH_33_5_551-562/_html/-char/ja