腫瘍熱は「がん患者の発熱」の中でも、感染・薬剤・血栓症・治療関連などを除外した末に残る“がんそのものに伴う発熱”として扱われることが多く、現場では診断に迷いやすい領域です。
このため、診断を補助する“反応性”の考え方として、ナプロキセン(ナイキサン)での解熱反応を利用する運用が定着しています。
具体的には、腫瘍熱が疑われる状況でナイキサンを400~600mg(分2~3)で定期投与し、12~24時間後から丸1日を通して解熱するかを確認し、解熱が持続すれば腫瘍熱の可能性が高いと判断します。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4953117/
この「短時間での明瞭な反応」を確認できる点が、“腫瘍熱でナイキサンが話題になる最大の理由”です。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10458686/
一方で、ここで重要なのは「ナイキサンが効いた=感染が否定できる」ではないことです。
腫瘍熱と感染は併存しうるため、解熱反応を見ても、患者背景(免疫低下、デバイス留置、ステロイド使用など)や経過に応じて再評価が必要になります。
腫瘍熱には“ゴールドスタンダード”がないとされ、診断基準案として複数の項目を組み合わせて評価する考え方が示されています。
例として、(1) 37.8℃以上の発熱が1日1回以上、(2) おおよそ2週間以上持続、(3) 身体診察・検査(培養含む)・画像で感染根拠がない、(4) アレルギー性発熱が否定的、(5) 感染が疑わしい場合に経験的抗菌薬を7日以上行っても解熱反応がない、(6) ナプロキセンテストで速やかに完全解熱し使用中に平熱が持続、などが挙げられています。
また、腫瘍の壊死像がある場合、悪寒戦慄を伴わない場合、解熱剤なしでも自然に解熱する場合などは腫瘍熱の可能性を加味する、という補助所見の考え方も示されています。
これらは「腫瘍熱の典型像」を押さえる助けになりますが、実務では“感染をどこまで詰めたか”が最終判断の質を左右します。
現場のコミュニケーションとしては、カルテ上で「腫瘍熱疑い」と書く場合でも、同時に「現時点で除外できていない感染候補(尿路、呼吸器、カテーテル関連など)」を明文化しておくと、夜間帯の判断が安定します。
腫瘍熱はせん妄リスクやADL低下にも絡むため、単に体温だけでなく“熱苦・倦怠感・不安”など症状の重なりを見て、介入の優先順位を決める視点が重要です。
定型的な対症療法として、腫瘍熱が疑われる場合はナイキサン400~600mgを分2~3で定期投与することが勧められています。
そして、12~24時間後から“丸1日を通して”解熱が得られることが、腫瘍熱を支持する反応として扱われます。
ナイキサンが無効な場合、他の解熱作用のあるNSAIDs(例:フルルビプロフェン、ジクロフェナク、ロキソプロフェン等)へ変更が有効なことがある、という実務的な方針が示されています。
ただし、COX-2選択阻害薬(例:セレコキシブ)は解熱効果が弱いため腫瘍熱には用いない、という扱いが明記されています。
また、前回投与されているNSAIDsがある程度有効なら、NSAIDsに加えてアセトアミノフェン2.4~4.0g(分3~4)を使用・併用する選択肢も示されています。
食思不振・倦怠感など悪液質による症状があり、感染が否定的であれば少量ステロイド(例:ベタメタゾン2~4mg等)も検討可能ですが、1カ月以上投与では消化性潰瘍、血糖異常、精神症状、易感染などのリスクがある点が強調されています。
薬剤安全性の運用として、NSAIDsやステロイドを使う場合はPPI併用を勧める記載があります。
腫瘍熱対応は「解熱できたら終わり」ではなく、鎮痛・食事・睡眠・せん妄予防まで含めてQOLに波及するため、看護・薬剤・栄養と情報共有できる形で処方意図を残すのが実務上のコツです。
独自視点として押さえたいのは、ナイキサンテストを“診断目的で使う”ときほど、逆に「感染の見落とし」が起きやすい点です。
理由は単純で、解熱という分かりやすい改善が出ると、培養陰性・画像未実施・身体所見の取りこぼしなどが「結果的に問題なかった」と誤認され、再燃時の再検索が遅れやすいからです。
聖隷三方原病院の緩和領域の実務では、腹膜炎でも腹部がsoftであったり、focalな感染徴候がないことがあるため注意が必要とされ、胸部CT・腹部CT・尿路・血培・心エコーなど、フォーカス探索を粘る姿勢が強調されています。
つまり「ナイキサンが効くか」だけでなく、「感染探索をどこまでやったか」をセットで語れることが、医療従事者向けの記事で一段価値になるポイントです。
また、ステロイド投与中に発熱が再発した場合、不顕性の感染が顕性化した可能性が高いので感染の再検索が必要、という注意は、腫瘍熱の“治療の次の一手”として重要です。
この視点を事前に共有しておくと、ナイキサン(またはステロイド)で一時的に症状が落ち着いた後の、急変・再燃時のチーム対応が速くなります。
腫瘍熱の診断・治療方針(ナプロキセンテスト、用量、鑑別ポイント)の記載がある参考。
https://www.seirei.or.jp/mikatahara/doc_kanwa/contents5/29.html
がん関連発熱の体系的整理(診断基準案、ナプロキセン投与、COX-2は解熱が弱い等)の記載がある参考(PDF)。
http://www.kanwa.med.tohoku.ac.jp/student/pdf/manual/2019/04.pdf