フルルビプロフェンは、フェニルプロピオン酸系の非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)で、シクロオキシゲナーゼ(COX)活性を阻害することによりプロスタグランジンの生成を抑制し、鎮痛・抗炎症作用を示します。この薬剤の大きな特徴は、光学異性体のうちS体(エスフルルビプロフェン)が薬理活性の本体である点です。
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エスフルルビプロフェンは、ラセミ体であるフルルビプロフェンの約1000倍以上の強いCOX阻害作用を示すことが報告されています。特にCOX-1阻害作用は8.97nM、COX-2阻害作用は2.94nMという数値が示され、他のNSAIDsと比較して極めて強力な阻害効果を持ちます。この強力なCOX阻害作用により、炎症や痛みの原因物質であるプロスタグランジンの産生を効果的に抑制することが可能です。
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フルルビプロフェンには経口剤のほか、経皮吸収型貼付剤(フルルビプロフェンテープ、ロコアテープなど)が存在します。特にエスフルルビプロフェンを配合したロコアテープは、ハッカ油を配合することで皮膚への浸透性を高めており、経皮吸収率は約93%と非常に高い数値を示します。これにより、貼付剤でありながら飲み薬と同程度の有効成分が患部に届くという特性があります。
参考)https://medical-pro.kaken.co.jp/product/adofeed/documents/adofeed_if_202505.pdf
ロキソプロフェンは、プロピオン酸系のNSAIDsに分類され、プロドラッグとして投与される点が大きな特徴です。プロドラッグとは、体内で代謝されることで初めて薬理作用を発揮する薬剤のことを指し、ロキソプロフェンは体内で活性代謝物(トランス体)に変換されることでCOX阻害作用を示します。
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ロキソプロフェンナトリウム水和物は、血中への移行が早く、速やかな効果発現が期待できる「速効性」が特徴です。
アラキドン酸からプロスタグランジンを生成するシクロオキシゲナーゼという酵素を阻害し、プロスタグランジンの産生を抑制することで、痛み・発熱・炎症の症状を抑えます。この阻害作用にすぐれているため、高い解熱鎮痛効果を発揮すると評価されています。
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ロキソプロフェンの活性代謝物のCOX阻害作用は、COX-1が1470nM、COX-2が25.9nMという数値が報告されており、フルルビプロフェンと比較するとCOX-1阻害作用は相対的に弱く、COX-2阻害作用もやや劣ります。しかし、プロドラッグとして投与されるため、服用時の胃への負担が少ないという利点があります。これは、薬剤が胃で直接作用せず、体内で変換されてから効果を発揮するためと考えられています。
ロキソプロフェンは、頭痛、歯痛、生理痛、腰痛症、関節痛や筋肉痛、外傷や手術後の痛み、発熱や炎症がある症状全般など、幅広い適応症を持ち、整形外科や歯科、婦人科など多くの診療科で処方されます。
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両薬剤の鎮痛・抗炎症効果を比較する上で、COX阻害作用の強さは重要な指標となります。前述の通り、エスフルルビプロフェン(フルルビプロフェンのS体)は、COX-1阻害作用が8.97nM、COX-2阻害作用が2.94nMであり、ロキソプロフェン活性代謝物のCOX-1阻害作用1470nM、COX-2阻害作用25.9nMと比較して、数値的には圧倒的に強力です。数値が低いほど阻害効果が強いため、フルルビプロフェンの方が理論上はより強い効果を持つと考えられます。
経皮吸収率においても違いが見られます。エスフルルビプロフェンの経皮吸収率は約93%であるのに対し、ロキソプロフェン活性代謝物は約32%と報告されています。この差は、貼付剤として使用した場合の効果に大きく影響します。実際、ロコアテープ(エスフルルビプロフェン含有)は2枚を貼ったときの血液中の薬物濃度が飲み薬を飲み続けた場合とほとんど同じになるほどの吸収性を示します。
しかし、統計学的な有意差があることと、臨床的に意味のある差があることは別問題です。ロコアテープとフルルビプロフェン貼り薬(ロキソニンテープとほぼ同等の効果)を比較した研究では、VAS(Visual Analogue Scale)スコアで7.8mmの差が認められましたが、臨床的に意義のある最小変化量(MCID)は少なくとも13.7mm以上とされており、この基準を満たしていません。したがって、現時点では臨床的に意味のある効果の差があると断言できるデータは限られています。
改善度に関しては、エスフルルビプロフェンを用いた研究で95.5%の改善率(著明改善41.3%、中程度改善31.8%、軽度改善21.4%)が報告されています。ただし、これは単独の研究結果であり、直接的な比較試験が必要です。
両薬剤ともNSAIDsであるため、基本的な副作用のプロファイルは類似していますが、投与形態や作用機序の違いにより、注意すべき点が異なります。
ロキソプロフェンの主な副作用として、発疹、かゆみ、蕁麻疹、発熱、腹痛、胃部不快感、食欲不振、吐き気・嘔吐、下痢、消化性潰瘍、小腸・大腸の潰瘍、眠気、浮腫などが報告されています。重大な副作用としては、ショック、アナフィラキシー、無顆粒球症、白血球減少、溶血性貧血、再生不良性貧血、血小板減少などがあります。また、NSAIDsに共通する副作用として、消化器系の副作用(消化性潰瘍、消化管出血等)のリスクがあります。
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フルルビプロフェン(特に貼付剤)の副作用としては、貼付部位のそう痒、発赤、発疹、かぶれ、ヒリヒリ感などの皮膚症状が0.1~5%未満の頻度で報告されています。重大な副作用としては、ショック、アナフィラキシー、急性腎障害、ネフローゼ症候群、胃腸出血、再生不良性貧血、喘息発作の誘発(アスピリン喘息)、中毒性表皮壊死融解症(TEN)、皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)、剥脱性皮膚炎、心筋梗塞、脳血管障害などが報告されています。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00069027.pdf
特筆すべき点として、ロコアテープなどのエスフルルビプロフェン貼付剤は吸収性が非常に高いため、1日2枚までという使用制限があります。たくさん貼ると飲み薬を大量に飲んだのと同じような影響を体に与えるため、使用にあたってはNSAIDの飲み薬並みの注意が必要です。一方、ロキソプロフェンはプロドラッグとして投与されるため、服用時の胃への負担が比較的少ないという利点があります。
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また、両薬剤とも抗凝血薬との併用により血液凝固能が低下する可能性があるため注意が必要です。腎機能への影響についても、プロスタグランジン生合成抑制作用により腎血流量が低下する可能性があります。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00067564.pdf
フルルビプロフェンとロキソプロフェンの使い分けは、患者の症状、投与経路、副作用リスクなど複数の要因を考慮して決定する必要があります。
投与経路による使い分けとしては、局所的な痛みや炎症に対して貼付剤を使用したい場合、フルルビプロフェン(特にエスフルルビプロフェン配合のロコアテープ)は高い経皮吸収性を持つため、効果的な選択肢となります。ロコアテープは変形性関節症における鎮痛・消炎に適応があります。一方、フルルビプロフェンテープは変形性関節症、肩関節周囲炎、腱・腱鞘炎、腱周囲炎、上腕骨上顆炎(テニス肘等)、筋肉痛、外傷後の腫脹・疼痛など、より幅広い適応があります。
参考)https://clinicalsup.jp/jpoc/drugdetails.aspx?code=69027
経口投与で速効性を求める場合は、ロキソプロフェンが優れた選択肢です。ロキソプロフェンは血中への移行が早く、頭痛、歯痛、生理痛、腰痛症、関節痛、筋肉痛、外傷や手術後の痛み、発熱や炎症など幅広い症状に適応があります。整形外科、歯科、婦人科など多くの診療科で処方されるため、汎用性が高いと言えます。
副作用リスクの観点からは、胃腸障害のリスクが懸念される患者には、プロドラッグであるロキソプロフェンが比較的適しています。ただし、ロキソプロフェンでも消化器系の副作用は発生する可能性があるため、必要に応じて胃薬との併用が推奨されます。経皮吸収型のフルルビプロフェン貼付剤は、胃腸障害の懸念を軽減できる利点がありますが、高い吸収性のため全身性の副作用にも注意が必要です。
参考)https://medical.teijin-pharma.co.jp/content/dam/teijin-medical-web/sites/documents/product/iyaku/lo_loa/lo_loa_if.pdf
患者の状態による使い分けとしては、腎機能障害や高齢者では両薬剤とも慎重投与が必要ですが、フルルビプロフェン貼付剤は使用枚数の制限があり、より厳格な管理が求められます。また、喘息患者や抗凝血薬を服用している患者では、どちらの薬剤も注意が必要です。
緊張型頭痛に対しては、首や肩の筋肉の緊張が原因である場合、フルルビプロフェン貼付剤を首や肩に貼ることで、痛みの原因部分に直接効果的に作用し、結果として頭痛が改善する可能性があります。ただし、経口のロキソプロフェンも頭痛に対して広く使用されています。
フルルビプロフェンに関する独自の視点として、光学異性体の分離が臨床にもたらした意義について考察します。フルルビプロフェンはラセミ体(S体とR体の混合物)として長く使用されてきましたが、薬理活性の本体はS体(エスフルルビプロフェン)であり、R体の活性はS体の1000分の1以下であることが判明しています。
参考)https://www.pmda.go.jp/drugs/2015/P20150930001/400059000_22700AMX01021_B100_1.pdf
この発見により開発されたロコアテープは、S体のみを利用することで、より高い効果をもたらすとされています。興味深い点は、眼科領域では逆にR体(R-フルルビプロフェン)が研究されており、COX阻害作用を持たないR体が抗炎症作用や内因性カンナビノイド調節作用、抗酸化作用を示すことが報告されています。これは、光学異性体によって全く異なる薬理作用が得られる可能性を示唆しており、今後の研究で新たな治療選択肢が生まれる可能性があります。
参考)https://www.embopress.org/doi/10.15252/emmm.201404168
また、フルルビプロフェンアキセチルという静注製剤は、全身麻酔下の手術中に使用されることで麻酔薬の必要量を減少させる効果が報告されています。プロスタグランジンE2の生成を抑え、末梢および中枢神経系における痛覚過敏を軽減することで、患者の疼痛閾値が上昇し、麻酔薬の鎮痛作用が補完されるメカニズムです。これはオピオイド節約効果とも呼ばれ、術後の鎮痛管理をスムーズに進めるためにも有用な選択肢となります。ただし、日本国内では効能・効果が「術後鎮痛」に限定されており、保険査定の対象となる可能性がある点に注意が必要です。
参考)Q:全身麻酔下の手術中にフルルビプロフェンアキセチル投与は麻…
医療従事者としては、単に「フルルビプロフェンとロキソプロフェンの違い」を知るだけでなく、光学異性体の特性や投与経路による薬物動態の違い、さらには薬剤の歴史的背景や今後の発展可能性まで理解することで、より深い薬物治療の知識を得ることができます。特に、経皮吸収型製剤の進化は、「皮膚のバリア機能との戦い」という製剤学的課題を克服した成果であり、今後も同様のアプローチで新たな製剤が開発される可能性があります。
PMDA(医薬品医療機器総合機構)のロコアテープに関する審査報告書では、エスフルルビプロフェンの経皮吸収性と標的組織移行性に関する詳細なデータが公開されています。製剤開発の背景を知りたい方に有用です。
くすりの窓口の記事では、ロコアテープとロキソニンテープの臨床的に意義のある最小変化量(MCID)に基づいた効果の比較が解説されており、統計学的有意差と臨床的意義の違いを理解するのに役立ちます。
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