テタニー症状と原因・低カルシウム血症の診断治療

テタニーは低カルシウム血症などで起こる筋肉の痙攣症状で、手足のしびれや不随意な筋収縮が特徴です。副甲状腺機能低下症やビタミンD欠乏が主な原因となり、適切な電解質補正が必要です。テタニーの診断方法や治療法、医療現場での観察ポイントについて詳しく知りたいと思いませんか?

テタニーの症状と原因

テタニーの主な特徴
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筋肉の不随意収縮

手足のしびれ、口周囲の知覚異常、筋肉の痙攣が特徴的な症状として現れます

電解質異常が原因

低カルシウム血症や低マグネシウム血症により神経筋の興奮性が亢進します

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迅速な対応が必要

重症例では喉頭痙攣や呼吸困難をきたすため緊急的な電解質補正が求められます

テタニーの主な症状と臨床所見

 

 

テタニーは、神経や筋肉が過剰に興奮することで生じる筋肉の痙攣状態を指します。主な症状としては、手足の指が無意識に収縮する、両手の指にこわばりを感じる、手足の痛み、全身のしびれ、顔が引きつるといった症状が現れます。特徴的な症状として、口唇、舌、指、足の知覚異常などの感覚に関する症状や、手足、顔面筋の攣縮、全身の筋肉痛が挙げられます。nobu-healthylife-clinic+3
重症例では、テタニー発作として手指のこわばりや顔の引きつり、全身の痺れが現れ、場合によっては「てんかんの発作」に似た状態が見られることもあります。背中や下肢に痙攣が生じることもあり、喉頭痙攣や気管支痙攣を伴うと呼吸困難や喘鳴が生じ、呼吸停止につながる可能性もあるため緊急な対応が必要となります。kang-raclinic+1
テタニーの症状は、低カルシウム血症の程度によって異なります。軽度の場合は無症候性のことが多いですが、中等度(血漿カルシウム濃度7.0-8.0mg/dl)あるいは重度(血漿カルシウム濃度7.0mg/dl未満)に低下した場合、典型的なテタニー症状が出現します。手足の痙縮が数日間続くようなら、低カルシウム血症が疑われるため、早期の診断と治療介入が重要です。kango-roo+1

テタニーの原因となる低カルシウム血症

テタニーの主な原因は低カルシウム血症や低マグネシウム血症などの電解質のバランスが崩れた状態です。低カルシウム血症の原因として最も頻度が高いのは、副甲状腺機能低下症です。副甲状腺は甲状腺の近傍に位置する臓器で、副甲状腺ホルモン(PTH)を分泌しており、このホルモンはカルシウムバランスを保つ働きがあります。medicalnote+1
副甲状腺機能低下症は、副甲状腺の手術後の影響や自己免疫などが原因で生じます。甲状腺切除術や副甲状腺摘出術での副甲状腺の医原性損傷または切除によって生じることが多く、副甲状腺ホルモンの分泌が低下するとカルシウムの障害が生じ、その結果としてテタニーの発症につながります。ubie+2
その他の原因として、ビタミンD欠乏、高リン血症(腫瘍崩壊症候群、慢性腎疾患など)、クエン酸大量投与(大量輸血)、急性膵炎、急速な骨形成(ハングリーボーン症候群)が挙げられます。また、骨粗鬆症治療薬であるデノスマブ(プラリア®:抗RANKL抗体薬)や抗けいれん薬などの薬剤性、呼吸性アルカローシス(呼吸が速くなりすぎて血液がアルカリ性に傾く状態)も低カルシウム血症の原因となります。ubie

テタニーにおける低マグネシウム血症の役割

低マグネシウム血症もテタニーの重要な原因の一つです。マグネシウムは、腸や腎臓からの喪失、栄養不良などによって欠乏します。低マグネシウム血症は副甲状腺ホルモンの分泌を抑制し、二次的に低カルシウム血症を引き起こすことがあります。medicalnote+1
マグネシウム欠乏による低カルシウム血症は、マグネシウムを補充しない限り改善しないという特徴があります。そのため、テタニー患者の治療においては、カルシウムだけでなくマグネシウムの血中濃度も評価し、必要に応じて両方の電解質を補正することが重要です。ubie
臨床現場では、利尿薬の長期使用、抗菌薬の投与、食事からの摂取不足などがマグネシウム欠乏の原因となることがあります。特に長期入院患者や栄養状態の悪い患者では、複数の電解質異常が同時に存在する可能性があるため、包括的な電解質評価が必要となります。medicalnote

テタニーと過換気症候群・呼吸性アルカローシス

過換気症候群もテタニーを引き起こす重要な病態です。過換気により二酸化炭素が過剰に排出され、血液中の二酸化炭素濃度が低下すると、血液がアルカリ性に傾きます(呼吸性アルカローシス)。これにより、血液中のカルシウムのうち、イオン化カルシウム(他の物質と結合せず自由な状態のカルシウム)が、アルブミン(血液中のたんぱく質のひとつ)と結合して減少します。ubie
その結果、相対的な低カルシウム血症が起こり、テタニーを誘発します。過換気症候群では、四肢や口周囲のしびれ感を引き起こしたり、ひどくなるとテタニー発作と言いまして全身の筋硬直やこまかいけいれんを招くこともあります。この発作は大体30分から1時間くらい続くことが多いです。itsuki-hp+1
過換気症候群によるテタニーは、血清カルシウム値そのものは正常範囲内であっても発症するため、総カルシウム値だけでなく、イオン化カルシウムの測定や動脈血ガス分析によるpHの評価が診断に有用です。不安やパニック障害などの精神的要因が過換気の誘因となることも多く、心理的アプローチも含めた包括的な治療が求められます。knowledge.nurse-senka

テタニーとビタミンD欠乏症の関連

ビタミンD欠乏は低カルシウム血症の重要な原因であり、テタニーを引き起こす基礎疾患の一つです。ビタミンDは腸でのカルシウムとリンの吸収を助ける重要な栄養素であり、ビタミンDが不足すると血液中のカルシウム濃度が低下し、低カルシウム血症となってけいれんや手足のしびれ(テタニー)が現れることがあります。kurukotsu+1
ビタミンD欠乏性くる病・骨軟化症では、O脚やX脚といった下肢の変形、歩行障害、関節の腫れ、成長障害(低身長)などの症状に加えて、低カルシウム血症によるテタニーやけいれんが見られます。人はビタミンDを食事から摂取するほか、日光に含まれる紫外線のエネルギーを使って皮膚近くでビタミンDを作っており、日光浴の時間が短かったり、ビタミンDの摂取が不足すると体内のビタミンDが足りなくなります。nanbyou+1
難病情報センター:ビタミンD依存性くる病/骨軟化症
ビタミンD代謝異常に関する詳細な情報と診断基準について解説されています。

 

日本人の約8割がビタミンD不足とされており、ビタミンD欠乏症は年齢性別問わず筋肉痛や筋力低下、骨の痛み等を起こすことがあります。医療従事者は、原因不明の筋骨格系症状を呈する患者に対して、ビタミンD欠乏の可能性を考慮し、血中25-ヒドロキシビタミンD濃度の測定を検討すべきです。nonaka-lc

テタニー診断のための特異的徴候

テタニーの診断においては、ベッドサイドで簡単に実施できる特異的な身体所見の評価が重要です。代表的なものとして、トルソー徴候とクボステック徴候があります。kango-roo+1
トルソー徴候(Trousseau徴候)は、上腕にマンシェット(血圧計のカフ)を巻き、収縮期血圧より高い圧で数分間加圧すると、「助産師の手」と呼ばれる特徴的な手の変形が出現する所見です。この徴候は低カルシウム血症に特異的であり、潜在性テタニーの診断に有用です。ubie+1
クボステック徴候(Chvostek徴候)は、外耳道の直前で顔面神経を指やハンマーで軽く叩く(頬を軽く刺激する)と、同側の鼻の左右両端(鼻翼)やまぶた、上唇などで筋肉がぴくぴく収縮する反射のことです。この徴候も低カルシウム血症の診断の手がかりになりますが、健康な人の25%にも見られるため、この徴候が現れたとしても診断を確定することはできません。ubie+1
血清カルシウムが1 mg/dL上昇するごとに、クボステック徴候が現れる確率は約4%増加すると報告されています。トルソー徴候の方が低カルシウム血症に特異的であり、診断においてはより信頼性が高いとされています。慢性の低カルシウム血症では、これらの徴候が認められないこともあるため注意が必要です。kango-roo+1

テタニーと心電図異常:QT間隔延長

低カルシウム血症では、心電図上の特異的な変化が観察されます。最も重要な所見はQT間隔延長とST部分の延長です。QT間隔は、心電図上のQ波の開始からT波の終了までの時間であり、心室筋細胞の脱分極開始から再分極の終了までの時間を反映しています。kango-roo+1
低カルシウム血症によるQT間隔延長は、活動電位持続時間の延長を意味し、心室性不整脈のリスクを高めます。QT間隔の延長は、トルサード・ド・ポワンツ型心室頻拍と呼ばれる危険な頻拍のリスクを高め、これはしばしば心室細動に移行して心臓の拍動を停止させ、急速に死に至る可能性があります。msdmanuals
正常なQT間隔は0.35~0.44秒であり、0.45秒以上をQT延長とします。低カルシウム血症患者では、心電図モニタリングを継続し、QT間隔の変化を注意深く観察することが重要です。カルシウム補正療法により、QT間隔は正常化することが期待されますが、補正が急速すぎると不整脈を誘発する可能性もあるため、慎重な投与が求められます。kango.mynavi+1

テタニーの治療:カルシウム製剤の投与

テタニーは主に低カルシウム血症や低マグネシウム血症によって引き起こされるため、電解質を適切に補正することが治療の基本となります。テタニーの症状が強い場合には、血中カルシウム濃度を上げるためにグルコン酸カルシウムを静脈注射します。kango.mynavi
急性期の治療では、10%グルコン酸カルシウム10~20mLを5~10分かけてゆっくりと静脈内投与します。反復ボーラス投与を行うか、10%グルコン酸カルシウム20~30mLを5%ブドウ糖液1Lに溶かし、12~24時間かけて持続的に追加点滴することが必要になる場合もあります。ubie+1
カルシウム点滴は、ジゴキシンを投与中の患者には危険なため、ゆっくり行う必要があります。また、低カリウム血症がないか確認し、問題があれば改善した後で、心電図モニタリングを継続することが重要です。急速な静脈内投与は、不整脈や心停止のリスクを高めるため、慎重な投与速度の調整が必要です。kango.mynavi
MSDマニュアル:低カルシウム血症の診断と治療
医療従事者向けの低カルシウム血症の包括的な治療ガイドラインが掲載されています。

 

テタニーの慢性期管理と活性型ビタミンD製剤

慢性期の低カルシウム血症の管理には、活性型ビタミンD製剤とカルシウム製剤の内服が中心となります。特発性副甲状腺機能低下症の治療には、活性型ビタミンD製剤のアルファカルシドール(アルファロール、1~4µg/日)などの内服を行います。j-endo
たいていの場合、低カルシウム血症は経口のカルシウムサプリメントだけで治療できますが、原因を特定して低カルシウム血症を引き起こしている病気を治療するか薬剤を変更することも重要です。活性型ビタミンD製剤やカルシウム製剤を毎日服用することで血中のカルシウム濃度を調整し続けることによって健康な状態を保ちます。msdmanuals+1
副甲状腺機能低下症の患者では、薬は一生に渡って服用し続けなければなりません。また、活性型ビタミンD製剤により高カルシウム尿症による尿管結石が起こるのを防ぐため、定期的に検査を行いカルシウム値の調整を行う必要があります。血清カルシウム値、尿中カルシウム排泄量、腎機能の定期的なモニタリングが治療継続のために不可欠です。j-endo

テタニー患者の看護観察ポイント

テタニー患者の看護においては、症状の早期発見と急変時の対応準備が重要です。テタニー発作時には、ガーゼ等を巻いた舌圧子やバイドブロック、エアウエイを使用し、舌をかまないよう工夫します。側臥位で安楽に休ませ、誤嚥を防ぐための体位管理が必要です。umin
観察項目として、手足のしびれや口周囲の知覚異常、筋肉の痙攣の有無を定期的に評価します。呼吸困難や喘鳴を伴う喉頭痙攣、気管攣縮の兆候がないか注意深く観察し、これらの症状がみられると呼吸停止につながる可能性もあるため、緊急な対応が必要です。knowledge.nurse-senka
血清カルシウム値、血清マグネシウム値、血清リン値などの電解質データを確認し、異常値の推移をモニタリングします。心電図モニタリングを継続し、QT間隔の延長や不整脈の出現に注意します。カルシウム製剤投与時には、投与速度を守り、点滴漏れによる組織障害を防ぐため穿刺部位を観察します。副作用として徐脈や血圧低下が生じることがあるため、バイタルサインの変化に注意が必要です。

 

テタニーの鑑別診断と検査所見

テタニーの診断には、血液検査による電解質の評価が不可欠です。低カルシウム血症の診断には、血清カルシウム値(補正値)が8.0mg/dL以下であることが基準となります。補正カルシウム値は、血清アルブミン値を考慮して算出され、より正確なカルシウム状態を反映します。osaka-hiv
検査所見として、低カルシウム血症、低リン血症、高アルカリホスファターゼ血症が認められることがあり、特にビタミンD依存性くる病/骨軟化症では特徴的な所見となります。副甲状腺機能低下症では、副甲状腺ホルモン濃度の測定が診断に必要です。msdmanuals+1
鑑別診断として、過換気症候群、副甲状腺機能低下症、ビタミンD欠乏症、腎機能障害、尿細管性アシドーシス、薬剤性(利尿薬、抗菌薬など)を考慮します。画像検査では、骨軟化症やくる病の骨変化、大脳基底核の石灰化(慢性低カルシウム血症の場合)などを評価します。動脈血ガス分析により、呼吸性アルカローシスの有無を確認し、過換気症候群の鑑別に役立てます。ubie+1

テタニー予防のための栄養管理

テタニーの予防には、適切な栄養管理が重要です。カルシウムとビタミンDの十分な摂取を確保することが基本となります。成人の推奨カルシウム摂取量は1日800~1000mgであり、乳製品、小魚、緑黄色野菜などから摂取します。

 

ビタミンDは、日光浴によって皮膚で合成されるほか、魚類(サケ、サバ、イワシなど)、きのこ類、卵黄などの食品から摂取できます。日本人の約8割がビタミンD不足とされており、特に日照時間が短い冬季や、屋内での活動が多い生活様式では注意が必要です。kurukotsu+1
長期入院患者や高齢者、腎機能障害患者、副甲状腺疾患の既往がある患者では、定期的な血清カルシウム値のモニタリングが推奨されます。薬剤性低カルシウム血症のリスクがある薬剤(利尿薬、抗けいれん薬、デノスマブなど)を使用している患者では、より頻回な検査が必要です。医療従事者は、これらのハイリスク患者に対して、予防的な栄養指導と電解質管理を行うことが重要です。ubie

 

 




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