統合医療は、近代西洋医学と相補・代替療法や伝統医学等とを組み合わせて行う療法として定義されています 。日本統合医療学会によると、「統合医療とは、さまざまな医療を融合し患者中心の医療を行うもので、科学的な近代西洋医学のみならず、伝統医学と相補・代替医療、さらに経験的な伝統・民族医学や民間療法なども広く検討している」とされています 。
参考)https://www.ejim.mhlw.go.jp/public/about/index.html
この医療システムの特徴として、患者中心の個別化医療、身体のみならず精神・社会面を考慮した全人的医療、治療よりも予防と健康増進に重点を置く医療、多様な治療法の提供などが挙げられます 。統合医療は、五感を刺激する手技・手法を用いて中枢神経を通じて内分泌系・神経系・免疫系に働きかけ、ストレスの軽減と癒しの方向に誘導すると考えられています 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/imj/13/1/13_1/_pdf/-char/ja
統合医療には多種多様な療法が含まれており、アメリカ国立補完統合衛生センターでは5つのカテゴリーに分類しています 。具体的には、心身療法(瞑想・祈りなど)、生物学的療法(ハーブ・サプリメント)、身体操作療法(マッサージ・カイロプラクティック)、エネルギー療法、そして全体的な医学システム(伝統中医学・アーユルヴェーダ・ホメオパシーなど)があります 。
参考)https://www.mdpi.com/2223-7747/14/3/400
日本では漢方医学、鍼灸マッサージなどの東洋医学、アロマセラピー、リフレクソロジー、ハーブ療法、カイロプラクティック、気功、音楽療法などが代替医療として位置づけられています 。これらの療法は、西洋医学的な治療だけでは効果が期待できない場合や、薬の副反応が問題となる場合、西洋医学では対応できない慢性疾患などに対して用いられています 。
参考)https://shonan-taiyo.com/edge02.shtml
統合医療においてエビデンスの確立は重要な課題となっています 。CAMの手技・手法を用いた臨床試験では、西洋医学で新薬開発に用いられる無作為化ランダム化比較試験の実施が困難な場合があるとされています 。森ノ宮医療大学の統合医療エビデンス研究チームでは、鍼灸やアロマテラピーなどの統合医療の効果について基礎医学的観点から検討し、科学的根拠を示すことを目的とした研究が行われています 。
参考)https://www.morinomiya-u.ac.jp/mincl/projectteam_ml.html
厚生労働省の研究では、統合医療の安全性と有効性に関する検証が進められており、CAMおよび統合医療のエビデンスを検証するための臨床研究の現状についても文献検索が実施されています 。アメリカでは1981年から代替医療の調査が開始され、NIHに国立相補・代替医療研究所が設置されて年間約400億円の研究費が投入されるなど、政府レベルでの推進が図られています 。
参考)https://www.cancer-support.net/integrated-medicine/
統合医療の安全性については慎重な検討が必要です 。サプリメントや代替医療には副作用や相互作用のリスクが存在し、慢性疾患患者の約20.6%が副作用を経験しているという報告があります 。特にホメオパシーについては、高度に希釈されていない製品には相当量の活性成分が含まれている可能性があり、副作用や薬物相互作用を引き起こす可能性が指摘されています 。
参考)https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/13167
漢方薬(Kampo medicines)についてはがん患者のサポートケアにおいて疲労・食欲不振・末梢神経障害などに対する有効性が報告されている一方で、肝機能障害・間質性肺炎・偽アルドステロン症などの副作用のリスクも存在することが知られています 。そのため、統合医療の実践においては必ず西洋医学的な検査・診断を行い、適切な治療方針を決めることが重要とされています 。
参考)http://emu-ac.co.jp/sp/togo.html
日本における統合医療の普及は徐々に進展していますが、まだ多くの課題が残されています 。明治維新まで日本の医療は和漢薬や鍼灸が中心でしたが、現在は西洋医学を中心とした医療体制となっています 。しかし、西洋医学だけでは対応できない領域において、統合医療への関心が高まっています 。
参考)https://imj.or.jp/general/intro
統合医療の将来展望として、国民中心の医療の実現、後期高齢者医療への貢献、医療費の節減と適切な有効配分、進行がんや難治性疾患の患者の救済対策、予防医学の推進などが期待されています 。特に2040年頃に向けた医療提供体制の改革において、統合医療は新しい医療アプローチとして注目されており 、患者のQOL向上と医療費抑制の両立を図る手段として期待が寄せられています 。
参考)https://www.mhlw.go.jp/shingi/2010/04/dl/s0426-9a.pdf