間質性肺炎の症状として最も特徴的なのが乾性咳嗽(空咳)です。痰を伴わない咳が持続し、特に初期症状として現れることが多いとされています。間質性肺炎では肺の間質に慢性的な炎症が起こることで刺激が生じ、このような乾いた咳が引き起こされます。喫煙者で空咳が続く場合は、間質性肺炎を疑うきっかけとなります。
呼吸困難は、間質性肺炎が進行するにつれて徐々に出現する症状です。初期段階では階段の上り下りや運動時など、身体に負荷がかかるときにのみ息切れを感じますが、病気が進行すると着替えなどの日常生活動作でも息切れが生じるようになります。これは肺が硬くなって膨らみにくくなる(拘束性換気障害)ことと、酸素の取り込みが低下する(拡散障害)ことによるものです。
間質性肺炎の聴診では、特徴的な音として「fine crackle」が聴取されます。これは吸気時にパチパチという音で、髪の毛を指で捻るときの音に似ていることから「捻髪音」とも呼ばれます。また、マジックテープを剥がすときの音に似ているため「Velcroラ音」とも呼ばれています。この聴診音は、閉塞していた細い気道が吸気によって再開放される際に生じる振動が音源となっています。
「ばち指」は間質性肺炎に伴う特徴的な身体所見の一つです。指先が太鼓を叩く「ばち」のように盛り上がり、爪が丸くなる変形が見られます。ただし、ばち指は間質性肺炎以外の肺疾患や心疾患でも認められることがあるため、診断の際は総合的な判断が必要です。
急性経過をたどる間質性肺炎と慢性経過をたどる間質性肺炎では症状の出現パターンが異なります。急性の場合は呼吸困難、発熱、胸痛、全身倦怠感などが比較的短期間で出現します。一方、慢性経過をたどる間質性肺炎では初期には無症状であることも多く、徐々に症状が進行していきます。
患者が「予想外の発熱、息切れ・呼吸困難、乾性咳」などの症状を訴えた場合は、間質性肺炎の発症を考慮する必要があります。特に治療中の患者では、急性増悪の可能性も視野に入れた迅速な対応が求められます。
間質性肺炎の診断においては、画像検査が重要な役割を果たしています。胸部X線写真や胸部CTでは、間質性肺炎の病変部はスリガラス様陰影として描出されます。これは肺の線維化によってもたらされるものです。病気が進行すると「蜂巣肺(ハニカムラング)」と呼ばれる特徴的な所見が認められるようになります。かつては確定診断のために肺生検が必須とされていましたが、近年は画像診断技術の発展により、画像所見、臨床経過、身体所見を総合的に評価することで診断可能なケースが増えています。生検は患者への侵襲が大きく、間質性肺炎の急性増悪を引き起こすリスクもあるため、現在では実施頻度が減少しています。
呼吸機能検査では、肺活量の低下と拡散能の低下が確認されます。拘束性換気障害の所見として、肺活量が予測値の80%未満に低下していることが一つの指標となります。また、毛細血管と肺胞の間が肥厚することによりガス交換能(拡散能)も低下します。これらの機能低下が進行すると、肺の血流障害が生じ、心臓への負担が増大して二次的な心不全を引き起こすことがあります。
血液検査では、LDH(乳酸脱水素酵素)、SP-D(サーファクタントプロテインD)、SP-A(サーファクタントプロテインA)、KL-6といったマーカーの上昇が認められることが多いです。特にKL-6は間質性肺炎の活動性の評価や治療効果の判定に有用なバイオマーカーとして広く利用されています。
間質性肺炎の診断においては、原因が明らかな二次性間質性肺炎と原因不明の特発性間質性肺炎を区別することが重要です。二次性間質性肺炎の場合、膠原病関連間質性肺炎、薬剤性肺障害、職業性肺疾患、過敏性肺炎などが考えられます。詳細な問診(職業歴、服薬歴、環境暴露歴など)を行い、自己抗体検査などの追加検査を実施することで鑑別診断を進めていきます。
早期発見のためには、特に高リスク群(高齢者、喫煙者、膠原病患者など)において、定期的な健康診断や症状出現時の速やかな医療機関受診が推奨されます。間質性肺炎は初期には無症状のことも多いため、微細な変化や早期の症状に注意を払うことが重要です。
間質性肺炎の治療方針は、その種類や原因によって異なります。治療の基本は薬物療法であり、主に抗炎症薬と抗線維化薬が使用されます。抗炎症薬としては副腎皮質ステロイドホルモン(ステロイド)と免疫抑制剤が、抗線維化薬としてはピルフェニドン(ピレスパ®)やニンテダニブ(オフェブ®)が使用されています。
ステロイド療法は非特異的間質性肺炎(NSIP)、膠原病関連間質性肺炎、薬剤性肺障害、過敏性肺炎などの炎症が主体の間質性肺炎に対して有効とされています。通常、プレドニゾロン0.5~1mg/kg/日から開始し、症状や検査所見の改善に応じて徐々に減量していきます。一方、特発性肺線維症(IPF)に対するステロイド単独治療の有効性は限定的で、現在のガイドラインでは推奨されていません。
ステロイドへの反応が不十分な場合や、ステロイド減量時の再燃防止、ステロイドの副作用軽減を目的として、免疫抑制剤が併用されることがあります。代表的な薬剤としてはシクロホスファミド、アザチオプリン、シクロスポリン、ミコフェノール酸モフェチルなどがあります。これらの薬剤は強力な免疫抑制作用を持つため、感染症や骨髄抑制などの副作用に注意が必要です。
特発性肺線維症(IPF)に対しては、抗線維化薬であるピルフェニドンとニンテダニブが肺機能低下の抑制効果を示すことが臨床試験で証明されています。これらの薬剤は線維芽細胞の増殖や肺の線維化を抑制する作用を持ちます。ただし、すべての患者に効果があるわけではなく、効果が十分でないケースも少なくありません。また、消化器症状(食欲不振、悪心、下痢など)や光線過敏症(ピルフェニドン)といった副作用に注意が必要です。
日本呼吸器学会の特発性肺線維症の治療ガイドライン(最新版)
間質性肺炎の急性増悪に対しては、ステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロン500~1000mg/日を3日間点滴投与)が行われることがあります。酸素化が著しく悪化した場合には、人工呼吸器管理や体外式膜型人工肺(ECMO)などの集中治療が必要となることもあります。
近年の研究では、間質性肺炎の病態にはマクロファージや線維芽細胞の活性化、酸化ストレス、異常なシグナル伝達経路などが関与していることが明らかになっています。これらの知見に基づき、抗線維化薬以外にも、JAK阻害薬、抗IL-11抗体、抗PD-1抗体などの分子標的薬の臨床試験が進められています。今後、より効果的で副作用の少ない治療法の開発が期待されています。
間質性肺炎が進行すると呼吸機能が低下し、酸素化が悪化するため、適切な時期に酸素療法を導入することが重要です。特に運動時や睡眠時に低酸素血症が認められる患者では、在宅酸素療法(HOT)が検討されます。酸素療法の主な目的は、組織への酸素供給を改善し、呼吸困難を軽減すること、また右心不全などの合併症を予防することにあります。
在宅酸素療法の適応基準としては、安静時PaO₂が55Torr以下、または安静時PaO₂が60Torr以下で睡眠時に著しい低酸素血症を示す例や、肺高血圧症や右心不全を合併している例などが挙げられます。また、安静時には基準を満たさなくても、労作時に著しい低酸素血症を呈する場合は労作時のみの酸素投与が検討されます。
酸素供給装置としては、酸素濃縮器、液体酸素、酸素ボンベなどがあります。患者のライフスタイルや活動範囲に応じて最適な装置を選択します。特に外出が多い患者には携帯型の装置が有用です。酸素流量は、安静時、労作時、睡眠時それぞれの状況で、SpO₂が90%以上(または個々の患者の目標値)を維持できるように設定します。
リハビリテーションもまた、間質性肺炎患者のQOL向上や運動耐容能の改善に重要な役割を果たします。呼吸リハビリテーションには、運動療法、呼吸練習、栄養指導、セルフマネジメント教育などが含まれます。特に間質性肺炎患者では、早期からのリハビリテーション介入が推奨されています。
運動療法としては、有酸素運動(歩行、自転車エルゴメーターなど)と筋力トレーニングを組み合わせたプログラムが一般的です。運動強度は個々の患者の状態に応じて設定し、酸素飽和度や呼吸困難感をモニタリングしながら実施します。間質性肺炎患者では運動時の急激な酸素飽和度の低下がみられることがあるため、必要に応じて運動時の酸素投与を行います。
呼吸練習では、横隔膜呼吸や口すぼめ呼吸などの呼吸法の指導が行われます。これらの呼吸法は呼吸効率を高め、呼吸困難感の軽減に寄与します。また、咳嗽(せき)の効率化や痰の排出を促す技術も指導されます。
栄養療法も間質性肺炎患者の治療において重要な要素です。呼吸筋の機能を維持し、免疫力を高めるためには適切な栄養状態を保つことが不可欠です。特に進行した間質性肺炎患者では、呼吸困難による食事摂取量の低下や、呼吸仕事量の増加によるエネルギー消費の増大がみられることがあります。このような場合、少量頻回食や栄養価の高い食品の摂取、必要に応じて栄養補助食品の利用などが推奨されます。
日本呼吸器学会の在宅酸素療法マニュアル
進行した間質性肺炎では、肺移植が治療選択肢の一つとなることがあります。特に若年者で他の治療に反応せず、進行性の呼吸不全を呈する場合に検討されます。日本では脳死肺移植と生体肺葉移植が実施されていますが、ドナー不足により待機期間が長くなる傾向があります。肺移植の適応判断には、年齢、全身状態、他臓器の機能、精神的安定性、社会的サポート体制などが考慮されます。
間質性肺炎は、特に初期段階では無症状であることが多いため、早期発見が難しい疾患です。しかし、早期に発見し適切な治療を開始することで、肺の線維化の進行を遅らせ、QOLの低下を最小限に抑えることが可能となります。そのためには、高リスク群を中心とした定期的な健康診断とともに、日常的な生活管理が重要です。
まず最も重要なのは禁煙です。喫煙は間質性肺炎の発症リスクを高めるだけでなく、既に間質性肺炎と診断されている患者の病状進行を加速させる可能性があります。また、受動喫煙も肺に悪影響を与えるため、家族も含めた禁煙環境の整備が推奨されます。禁煙は肺癌など他の呼吸器疾患の予防にも効果的であり、総合的な呼吸器ヘルスケアの基本と言えます。
職業性の間質性肺炎の予防には、職場環境の管理が重要です。アスベスト、シリカ、金属粉塵、有機粉塵などへの曝露を最小限に抑えるため、適切な防護具(マスクなど)の着用や換気システムの整備が必要です。特にハイリスク業種(建設業、製造業、農業など)では、定期的な健康診断と職場環境のモニタリングが推奨されます。
薬剤性の間質性肺炎を予防するためには、過去に肺障害を起こした薬剤の再投与を避けることが基本です。また、間質性肺炎を引き起こす可能性のある薬剤(抗がん剤、免疫抑制剤、一部の抗リウマチ薬、漢方薬など)を使用する際には、定期的な胸部X線検査やCT検査、呼吸機能検査などによるモニタリングが重要です。患者自身も、予期せぬ咳や息切れなどの症状が現れた場合は早急に医師に相談するよう指導されるべきです。
感染予防も間質性肺炎患者にとって重要な要素です。特にステロイドや免疫抑制剤による治療を受けている患者では、感染症に対する抵抗力が低下しているため、インフルエンザやニューモニア球菌などのワクチン接種が推奨されます。また、手洗いの徹底や人混みを避けるなどの基本的な感染予防策も重要です。
間質性肺炎患者の栄養管理においては、適正体重の維持と栄養バランスの取れた食事が基本となります。特に抗酸化物質(ビタミンA、C、E)や抗炎症作用を持つ食品(オメガ3脂肪酸を含む魚など)の摂取が推奨されます。また、水分摂取を適切に行うことで、気道分泌物の粘度を下げ、排痰を容易にする効果も期待できます。
運動については、過度な運動は避けつつも、個々の患者の状態に応じた適度な身体活動が推奨されます。定期的な低強度の有酸素運動(ウォーキングなど)は、全身持久力の維持や精神的なストレス軽減に効果的です。ただし、運動中に著しい息切れやめまい、胸痛などが生じた場合は、すぐに中止し医師に相談することが重要です。
心理的サポートも間質性肺炎患者の管理において重要な側面です。慢性進行性疾患として不安や抑うつを伴うことが多いため、患者会やサポートグループへの参加、必要に応じた専門的なカウンセリングなどが有効です。家族の理解と協力も、患者のQOL向上に大きく寄与します。
間質性肺炎の経過中に、突然の呼吸状態の悪化を示す「急性増悪」が発生することがあります。急性増悪は、患者の予後を大きく左右する重大な合併症です。特に特発性肺線維症(IPF)では、年間10~15%の頻度で急性増悪が生じるとされています。
急性増悪の診断基準としては、①従来の間質性肺炎の診断がある、②1か月以内の呼吸困難の急速な悪化、③新たな両側性のスリガラス影やコンソリデーションの出現、④心不全や感染症などの他の原因が除外できる、という条件が挙げられます。急性増悪を早期に認識するためには、患者が「予想外の発熱、息切れ・呼吸困難、乾性咳(空咳)」などを訴えた場合には注意が必要です。
急性増悪の治療としては、ステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロン500~1000mg/日を3日間)が一般的に行われます。その後、経口ステロイドに切り替えて徐々に減量していきます。また、シクロホスファミドなどの免疫抑制剤を併用することもあります。重症例では人工呼吸器管理や体外式膜型人工肺(ECMO)などの高度な呼吸管理が必要となることがあります。
急性増悪の予後は一般的に不良で、特にIPFの急性増悪では入院死亡率が40~50%に達するとの報告もあります。急性増悪からの回復後も、多くの患者で肺機能がベースラインまで戻らず、長期予後も悪化することが知られています。
予後因子としては、高齢であること、男性であること、重喫煙歴があること、初診時の肺機能が低いこと(特にFVC、DLcoの低下が著しい場合)、画像上の線維化が広範囲にわたること、急性増悪の既往があることなどが、不良な予後と関連しています。また、膠原病関連間質性肺炎や薬剤性間質性肺炎の方が、IPFに比べて予後が良いとされています。
間質性肺炎患者の生命予後を改善するためには、急性増悪の予防が極めて重要です。感染症の予防(インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンの接種、手洗いの徹底など)、急激な気温変化や大気汚染への暴露を避けること、禁煙、適切な薬物療法の継続などが推奨されます。また、肺生検や手術などの侵襲的処置が急性増悪のトリガーになることがあるため、そのようなプロシージャの適応は慎重に判断する必要があります。
日本呼吸器学会による間質性肺炎急性増悪の診断と治療の手引き
早期から緩和ケアを導入することも、間質性肺炎患者のQOL向上に重要です。特に進行性の間質性肺炎患者では、呼吸困難の緩和、不安・抑うつへの対応、栄養サポート、在宅での療養支援などを包括的に行うことが望ましいです。また、あらかじめ急性増悪時の治療方針や延命治療に関する患者の意向を確認しておくアドバンス・ケア・プランニング(ACP)の実施も推奨されます。