髄液の機能と検査の重要性

髄液とは脳と脊髄を保護する重要な体液で、その検査により多くの疾患を診断できます。髄液圧や成分の変化から、どのような病気が見つかるのでしょうか?

髄液の基本機能と検査意義

髄液の重要な働き
🧠
脳・脊髄の保護機能

外部衝撃から脳を守る液体クッションとしての役割

⚖️
頭蓋内圧調整

髄液圧の維持により脳の形状と機能を保持

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老廃物除去システム

脳の代謝産物を効率的に排出する循環機構

髄液とは、脳室内にある脈絡叢で産生される無色透明の体液で、脳と脊髄の周囲を循環しながら重要な生理機能を担っています 。正常成人では約140mLの髄液が頭蓋内に存在し、1日約500mLが産生されて約3回完全に入れ替わる活発な循環を行っています 。
参考)https://www.juntendo-neurology.com/n-gairaitokusyu3.html

 

髄液の主要機能として、外部衝撃からの脳保護、頭蓋内圧のコントロール、脳・脊髄への栄養供給、老廃物の除去、ホルモンや生理活性物質の運搬があげられます 。特に浮力効果により、約1.3kgの脳の重量を約50gまで軽減し、脳が自重でつぶれることを防いでいます 。
参考)https://www.kango-roo.com/learning/2158/

 

髄液検査(腰椎穿刺)は、髄膜炎や脳炎などの中枢神経系感染症、くも膜下出血、脳腫瘍の診断において必要不可欠な検査です 。通常第3-4腰椎間から専用針を挿入し、髄液圧測定と髄液採取を行います 。

髄液の産生と循環メカニズム

髄液は主に脳室内の脈絡叢で産生され、脳室系を通って第四脳室の外側口・正中口からクモ膜下腔に流出します 。その後、クモ膜顆粒を通って静脈系に吸収される循環システムを形成しています 。
参考)https://yamada-seikotsu.com/blog/nousekizuieki

 

この循環は1分間に6-12回のリズムで生成・吸収が繰り返され、頭蓋骨も同調して膨張・収縮を行っています 。髄液の正常産生量は0.35mL/分で、一日約500mLが新たに作られ、常に新鮮な髄液環境が維持されています 。
髄液循環の異常は水頭症の原因となり、髄液の過剰蓄積により脳圧亢進症状(頭痛、嘔吐、意識障害)が生じます 。急性期では生命に関わる重篤な状態となるため、早期診断と治療が重要です 。
参考)https://smartdock.jp/contents/symptoms/sy072/

 

髄液検査による疾患診断

髄液検査では細胞数、蛋白濃度、糖濃度の測定により様々な疾患を診断できます 。正常髄液では細胞数0-3個/mm³、リンパ球60-70%、単球様細胞20-30%、多形核細胞2-3%の構成比を示します 。
参考)https://data.medience.co.jp/guide/guide-12050002.html

 

細胞数の著明増加は髄膜炎や脳炎を示唆し、蛋白濃度上昇は血液髄液関門の破綻、糖濃度低下は細菌性感染や悪性腫瘍の可能性を示します 。検査結果は単独ではなく、臨床症状や画像所見と組み合わせて総合的に判断することが重要です 。
参考)https://kobe-kishida-clinic.com/medical-device/cerebrospinal-fluid-examination-csf/

 

異常値の程度により疾患の重症度や進行度を評価でき、軽度異常でも長期症状が続く場合は慢性炎症の可能性があるため継続的な観察が必要です 。特に髄液細胞は採取後3時間以内の迅速検査が推奨されています 。

髄液圧測定の臨床意義

正常髄液圧は70-200mmH₂Oで、髄液圧測定により頭蓋内圧亢進や低髄液圧症候群の診断が可能です 。低髄液圧症候群では60mmH₂O以下の髄液圧低下と起立性頭痛が特徴的な所見となります 。
参考)https://fuelcells.org/topics/54865/

 

髄液漏出による低髄液圧では、立位や座位で頭痛が増強し、臥位で軽快する特徴的な体位性頭痛を呈します 。MRIでびまん性硬膜肥厚増強所見も重要な診断指標です 。
参考)https://www.fukui-saiseikai.com/info/hospital/entry-450.html

 

治療として安静臥床、水分摂取に加え、難治例では硬膜外自家血注入療法(ブラッドパッチ)が有効です 。この治療法は患者自身の血液を硬膜外腔に注入し、髄液漏出部位を閉鎖する効果的な方法です 。
参考)https://hatano-clinic.site/csf/

 

髄液検査の合併症とリスク管理

腰椎穿刺の合併症として硬膜穿刺後頭痛が最も頻度が高く、5-40%の患者に発生します 。この頭痛は若年者、女性、やせ型患者で発症リスクが高い傾向があります 。
参考)https://www.premedi.co.jp/%E3%81%8A%E5%8C%BB%E8%80%85%E3%81%95%E3%82%93%E3%82%AA%E3%83%B3%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%B3/h00572/

 

その他の合併症として、硬膜外出血、脊髄血腫、一過性の腰痛、稀に脳ヘルニアや感染症のリスクがあります 。細い非切開型針(noncutting needle)の使用により合併症リスクを軽減できます 。
参考)https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/07-%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E7%96%BE%E6%82%A3/%E8%85%B0%E6%A4%8E%E7%A9%BF%E5%88%BA/%E8%85%B0%E6%A4%8E%E7%A9%BF%E5%88%BA

 

血液凝固異常患者では硬膜外血腫のリスクが高く、穿刺部感染や免疫機能低下患者では髄膜炎発症の可能性があるため、適応を慎重に検討する必要があります 。穿刺後の髄液漏出が持続する場合は感染予防のため穿刺部の適切な閉創処置が重要です 。
参考)https://kango-oshigoto.jp/hatenurse/article/890/

 

髄液異常から発見される特殊疾患

髄液検査により発見される興味深い疾患として、双極性障害患者で脳内・髄液中乳酸値の有意な上昇が報告されています 。これはミトコンドリア機能障害の関与を示唆する重要な所見です 。
参考)https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/pcn.12590

 

睡眠恒常性維持機構においても髄液は重要な役割を果たし、睡眠物質であるプロスタグランジンD2やアデノシンの脳内運搬に関与しています 。断眠動物の髄液抽出物が他の動物に睡眠を誘発することから、髄液中の睡眠調節物質の存在が古くから知られています 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/numa/79/6/79_327/_article/-char/ja/

 

また、脳脊髄液と間質液の密接な交換により、中枢神経系のホメオスタシス維持に髄液が重要な役割を担っていることが近年の研究で明らかになっています 。これらの発見により、髄液は単なる保護液ではなく、脳機能調節における活発な生理的媒体であることが理解されています 。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4945600/