KL分類グレード3でも「まったく痛みを感じない患者」が実際に存在します。
Kellgren-Lawrence分類(以下、KL分類)は、1957年にKellgrenとLawrenceが提唱した変形性関節症の重症度を評価する国際的な基準です。もともとは膝関節を対象に開発されましたが、現在では股関節の変形性関節症(Hip OA)の重症度評価にも広く使用されています。X線(レントゲン)画像から、①関節裂隙の狭小化、②骨棘形成、③軟骨下骨硬化、④骨嚢胞形成の4つの所見を組み合わせてグレード0〜4に分類します。
つまり、KL分類はX線所見をもとにした重症度分類です。
以下に各グレードのX線所見と典型的な臨床像をまとめます。
| グレード | X線所見の特徴 | 臨床的な目安 |
|---|---|---|
| Grade 0 | 正常。変化なし | 無症状が多い |
| Grade 1 | 疑わしい骨棘(ごく小さな突起)。関節裂隙は保たれる | 違和感程度。自覚症状は少ない |
| Grade 2 | 明らかな骨棘形成。関節裂隙狭小化の疑い | 動き始めや長歩きで痛みが出始める |
| Grade 3 | 中等度の骨棘。関節裂隙が明らかに狭小化。骨硬化が中程度 | 階段や日常生活で痛みや可動域制限 |
| Grade 4 | 著明な骨棘。関節裂隙の高度狭小化。骨硬化顕著。関節輪郭の変形明確 | 安静時痛・夜間痛も出現することがある |
骨棘は、関節が不安定になったときに体が補強しようとして生まれる「防御反応」とも言えます。骨棘の大きさはちょうど爪の先端ほどの突起(数mmから1cm前後)が典型的で、関節の縁や臼蓋部に形成されます。関節裂隙は、X線で確認できる骨と骨の間のすき間のことで、本来は軟骨がクッションの役割を担っています。この裂隙が狭まるほど、OAが進行していると判断されます。
なお、KL分類は変形性「股関節症」の評価ツールであり、股関節に生じる他の疾患(大腿骨頭壊死、関節リウマチなど)には適用されません。他疾患と混同しないようにしてください。
参考:変形性股関節症の病期分類と運動戦略について詳しく解説されているページ
変形性股関節症の病期分類でみる症状変化と運動戦略|フィジオセンター
X線読影の実務において、KL分類を股関節に正確に適用するには、撮影条件と計測の手順を理解しておくことが大切です。股関節KL分類の評価では一般的に「骨盤正面立位像」が基準となります。臥位では体重がかからないため、関節裂隙の幅が実際より広く見える可能性があるためです。立位での撮影と臥位での撮影では、関節裂隙の幅が数mm単位で変わるケースもあります。撮影体位は要確認です。
関節裂隙の狭小化を評価する際、まず「最も狭い部位」を特定します。股関節では上外側(superior-lateral)の関節裂隙が最も早期に狭小化しやすい部位とされており、ここに注目して計測します。骨棘については、大腿骨頭の頸部・臼蓋縁・骨頭頸部移行部など複数箇所を丁寧に確認します。
また、骨硬化(Sclerosis)はX線画像で白くはっきりとしたラインとして映ります。軟骨下骨に過剰な負荷がかかり続けることで骨密度が上昇した状態で、関節軟骨がほぼ消耗したサインとも言えます。骨嚢胞は骨の内部に液体がたまった袋状の空洞で、X線では白く抜けたように見えます(透亮像)。これが見えたらGrade 3〜4を念頭に置く必要があります。
評価の精度という点では、2026年2月に発表された後ろ向き研究(J Orthop Surg Res誌)が注目されます。2016年から2023年の576例を対象とした研究で、放射線科医と整形外科医の間のKL分類評価一致率は、股関節OAでκ=0.552(中等度の一致)にとどまりました。つまり、同じ画像を見ても、専門家によってグレード判定が異なることがある、ということです。
これは臨床現場でも重要な示唆を持ちます。特にGrade 2と3の境界、Grade 3と4の境界付近は、評価者間のばらつきが生じやすい場所です。治療方針に直結するグレードについては、複数の読影者による合意形成を検討する価値があります。
参考:放射線科医と整形外科医のKL分類評価一致率に関する最新研究
変形性股関節・膝関節症の画像診断、放射線科医と整形外科医の評価一致率|CareNet Academia(2026年2月)
KL分類を使う上で、多くの医療従事者が最初に直面する問題があります。それが「画像所見と臨床症状の乖離」です。
日本リウマチ学会の変形性関節症に関する情報でも明記されているように、「K-L分類グレードが高い=疼痛が強い」というわけではありません。実際の臨床では、Grade 4と判定されながら日常生活をほぼ支障なく送っている患者も存在する一方で、Grade 2で強い痛みを訴える患者も少なくありません。これが原則です。
なぜこのような乖離が生じるのでしょうか? 痛みの感じ方は人それぞれですが、要因としては以下が複合的に関与していると考えられています。
- 🧠 中枢感作(Central Sensitization):痛みの閾値が下がり、通常なら痛みを感じない程度の刺激でも疼痛を感じる状態
- 💪 股関節周囲筋の筋力:中殿筋・大殿筋などが十分に機能していれば、関節への負荷が分散される
- 🔥 炎症の有無:画像で変形があっても、炎症が活動していなければ疼痛が少ないケースがある
- 🤝 滑膜・関節包・関節唇の状態:軟部組織の損傷は、X線では直接見えない
KL分類はあくまで「骨・軟骨の変化」を評価するツールです。周囲の軟部組織・神経感受性・筋機能などは評価の対象外になります。そのため、KL分類の結果だけで疼痛の程度や機能制限を予測しようとすると、臨床判断を誤るリスクがあります。
特にリハビリテーション計画を立てる際には注意が必要です。KL分類グレードが低いからといって疼痛管理を軽視すると、患者の主観的な苦痛を見落とす可能性があります。反対に、KL分類グレードが高くても機能的に自立できている患者には、不必要な制限を課してしまうリスクがあります。
KL分類と合わせて、患者立脚型のアウトカム指標(Harris Hip Score、HOOSなど)を使うことが、より精度の高い評価につながります。数値だけで判断されない理由がここにあります。
参考:KL分類と臨床症状の関係について詳しく解説している日本リウマチ学会の情報ページ
変形性関節症|一般社団法人 日本リウマチ学会(JCR)
日本の股関節OAの病態は、欧米と根本的に異なります。これを知っているかどうかで、KL分類の解釈の精度が大きく変わります。
2025年に発表された日本の12病院・1,197例(股関節1,515例)を対象とした多施設横断研究(Journal of Orthopaedic Science誌)によると、日本における股関節OAの原因の74.4%は「臼蓋形成不全(Hip dysplasia)」でした。女性に限定するとその割合は78.2%にのぼります。
一方、欧米の疫学研究では臼蓋形成不全は股関節OAの原因の3.4〜8.4%に過ぎず、日本と比較すると1桁以上の頻度差があります。欧米では加齢による一次性OAが主体です。これは意外ですね。
臼蓋形成不全とは、骨盤の臼蓋(寛骨臼)が浅く、大腿骨頭を十分に覆えていない状態を指します。これを評価する指標の一つがCE角(Center-Edge角)で、正常は25°以上とされており、20°以下で臼蓋形成不全と診断されます。臼蓋が浅いと大腿骨頭が外にはみ出しやすくなり(骨頭被覆率が低下)、荷重が関節の特定部位に集中します。これが慢性的な軟骨摩耗・関節唇損傷につながり、比較的若い年齢(30〜50代)でKL分類グレードが上昇することがあります。
臼蓋形成不全由来の股関節OAでは、KL分類のX線変化が「上外側」に偏った形で進行する傾向があります。つまり、関節全体ではなく一部が先に傷むパターンです。これに対して一次性OAでは関節全体が均一に変形していくことが多いとされています。
さらに同研究では、KL分類グレード3以上を呈する割合が、原発性OAで82.0%、臼蓋形成不全で76.7%と高い一方で、FAI(大腿骨寛骨臼インピンジメント)では57.7%でした。日本人の股関節OAはKLグレードが高い段階で受診することが多い、という臨床的な含意もあります。
参考:日本における変形性股関節症の病因・割合に関する最新の多施設研究の解説
日本人における変形性股関節症に至る発症メカニズム(2026年1月,多施設横断研究抄読)
参考:日本理学療法士協会による変形性股関節症ハンドブック(PDF)
理学療法ハンドブック シリーズ17 変形性股関節症|日本理学療法士協会(公式PDF)
KL分類のグレードは、治療方針の選択においても重要な参照指標となります。ただし、グレード単独ではなく疼痛の程度・ADL障害・患者の年齢・BMI・本人の希望などを統合して判断することが基本です。
Grade 1〜2(初期〜軽度)の治療戦略
X線上の変化は軽度ですが、この段階から適切な介入を始めることが、進行を遅らせる上で重要とされています。早めのケアが大切です。主なアプローチは保存療法が中心で、股関節周囲筋(特に中殿筋・大殿筋)の筋力強化、可動域維持のためのストレッチ、BMI管理(目標BMI 25未満)が柱となります。日本理学療法士協会のガイドラインでも、歩行時の荷重は体重の3〜5倍が股関節にかかるとされており、体重管理の効果は数値的に見ても明確です。例えば、体重を5kg減らせると、歩行1歩ごとの股関節負荷が最大25kgも減少する計算になります。
また、この段階では和式生活(正座・床座り・和式トイレ)から洋式生活への転換も有効とされています。床から立ち上がる動作は、股関節の屈曲・内転・内旋が同時に起こるため、変形が進んでいない段階でも軟骨へのインパクトが大きいためです。
Grade 3(中等度)の治療戦略
関節裂隙が明らかに狭小化し、骨棘も顕著になるこの段階では、保存療法に加えて補装具療法や薬物療法(NSAIDs、ヒアルロン酸関節内注射など)を組み合わせるケースが増えます。T字杖などの歩行補助具は股関節への負荷を有意に低下させる効果があり、積極的な活用が推奨されます。
理学療法では「動作の工夫」と「日常生活負担の調整」が優先事項になります。痛みが強い日には水中ウォーキングへの切り替えが有効です。水中では浮力により股関節への荷重が陸上の約60〜80%軽減されるとされており、陸上でウォーキングが困難な患者でも継続して運動療法を実施できます。ただし平泳ぎは股関節を大きく外転・外旋させるため避ける必要があります。
Grade 4(重度・末期)の治療戦略
関節裂隙がほぼ消失し、安静時痛・夜間痛が出現するケースでは、人工股関節全置換術(THA:Total Hip Arthroplasty)の手術適応が検討されます。日本国内での人工股関節置換術の件数は年間約9万件にのぼり、手術の成熟度・安全性は高い水準にあります。手術後の早期離床・術後リハビリが重要で、術前から筋力・体力を保っておくことが術後回復のスムーズさに直結します。術後の「脱臼姿勢の禁忌」は手術アプローチにより異なるため、担当医・理学療法士への確認が必須です。
一方、重度でも患者の年齢・全身状態・本人の意向によっては保存療法継続を選ぶ場合もあります。KL分類グレード4=即手術ではない、ということが原則です。
| KLグレード | 主な治療の方向性 | 代表的な介入 |
|---|---|---|
| Grade 0〜1 | 予防・進行抑制 | 筋力強化、生活習慣改善、体重管理 |
| Grade 2 | 保存療法(積極的) | 理学療法、NSAIDs、ヒアルロン酸注射 |
| Grade 3 | 保存療法+補助的治療 | T字杖、水中運動、補装具、薬物療法 |
| Grade 4 | 手術適応を検討 | THA(人工股関節全置換術)、術前・術後リハ |
参考:変形性股関節症の診療ガイドライン(改訂第3版)および治療適応に関する解説
変形性股関節症診療ガイドライン(改訂第3版)案|日本整形外科学会(PDF)
KL分類は変形性股関節症の世界標準の評価ツールですが、臨床現場で「KL分類だけで評価が完結する」と考えることには注意が必要です。これが条件です。
まず、KL分類はレントゲン撮影の時点での「静的な骨・軟骨変化」しか評価しません。一方で、変形性股関節症の病態は「動的な機能障害」と切り離せません。たとえば、トレンデレンブルグ徴候(片脚立ちで健側の骨盤が下がる)は中殿筋弱化のサインで、KL分類グレードが低くても中等度以上の機能障害を示すことがあります。この徴候を見逃すと、リハビリの優先課題をミスジャッジしてしまう可能性があります。
次に、FAI(大腿骨寛骨臼インピンジメント)の視点も重要です。FAIは大腿骨頭頸部の形態異常(Cam type)や臼蓋の過覆蓋(Pincer type)によって起こり、特に若年者・男性に多い病因です。前述の多施設研究では、日本の股関節OAの17.9%はFAIが原因でした。FAIの段階では、KL分類グレードが0〜1でも関節唇損傷・軟骨損傷が進行していることがあり、「レントゲン上は正常なのに痛い」という状況が生じます。このような場合はMRI評価が不可欠となります。
さらに、KL分類は撮影者・読影者・撮影条件(立位vs臥位)によっても結果がブレます。先述の研究では専門家間のκ係数が0.552と中等度にとどまっており、グレードの境界ライン付近では特に一致率が低下します。臨床的に判断が難しいグレード2〜3の患者に対しては、複数の評価指標を組み合わせることが求められます。
具体的には、以下のような多角的評価の組み合わせが推奨されます。
- 📐 CE角の計測:臼蓋形成不全の程度を定量評価(20°未満で形成不全)
- 🏃 機能的評価(Harris Hip Score、HOOS):患者の主観的疼痛・ADLの質を数値化
- 🩻 MRI:X線で見えない軟骨・関節唇・骨髄浮腫・骨嚢胞の詳細評価
- 🦵 筋力評価(中殿筋・腸腰筋):KLグレードと独立した機能低下を把握
これらのツールを組み合わせることで、KL分類単体では拾いきれない患者の全体像が浮き上がってきます。KL分類はあくまで入口に過ぎません。
特に理学療法士・作業療法士が臨床で患者を担当する際には、KL分類のグレードを起点としつつ、筋機能・歩行能力・患者の生活背景まで包括的に評価することが、より有効なリハビリテーション計画の立案につながります。KL分類を正しく活用することが、結果的に患者アウトカムの向上に直結するということですね。
参考:変形性股関節症の評価・リハビリに関する包括的な情報(日本整形外科学会)
変形性関節症|一般社団法人 日本リウマチ学会(JCR)