変形性股関節症患者で抗凝固薬を服用している場合、特に人工股関節置換術を予定している際には細心の注意が必要です。ワルファリン、ダビガトラン、リバーロキサバンなどの抗凝固薬は、手術時の出血リスクを著しく増大させるため、術前の適切な中止期間の設定が重要となります。
ただし、心房細動や血栓症の既往がある患者では、抗凝固薬の中止により血栓塞栓症のリスクが高まるため、ヘパリンブリッジなどの代替療法を検討する必要があります。最近の研究では、抗凝固薬を継続したままでも出血量に大きな差がないという報告もあり、患者の背景リスクを総合的に評価した個別の判断が求められています。
心血管疾患のリスクが高い患者では、整形外科医と循環器内科医の連携により、最適な周術期管理プロトコルを策定することが重要です。
デュロキセチン塩酸塩(サインバルタ)は2016年に変形性関節症に伴う疼痛への適応が追加されましたが、精神神経系の副作用リスクから慎重な投与が求められています。厚生労働省は特に以下の点に注意するよう通知を発出しています。
絶対禁忌
慎重投与が必要な場合
デュロキセチンの特徴的な副作用として、セロトニン症候群、自殺念慮の増加、離脱症候群があります。特に抗凝固薬との併用では出血リスクが増大するため、INR値や血小板機能の定期的な監視が必要です。
漫然とした投与を避けるため、投与開始後は定期的な効果判定と副作用評価を行い、必要に応じて減量・中止を検討することが重要です。
関節リウマチや他の自己免疫疾患を併発している変形性股関節症患者では、免疫抑制剤の使用により感染症リスクが高まるため、特に手術を予定している場合は慎重な管理が必要です。
主な免疫抑制剤と中止期間
免疫抑制剤の中止により基礎疾患の活動性が亢進するリスクもあるため、リウマチ専門医との連携が不可欠です。術後感染症の予防として、適切な抗菌薬の予防投与プロトコルを策定し、創部の厳重な観察を継続する必要があります。
特に生物学的製剤を使用している患者では、術後の創傷治癒遅延や深部感染症のリスクが高いため、十分な説明と同意を得た上で治療方針を決定することが重要です。
人工股関節置換術を予定している変形性股関節症患者では、術前の総合的な薬剤評価と調整が手術成功の鍵となります。以下の薬剤カテゴリーについて、それぞれ個別の対応が必要です。
糖尿病治療薬の調整
抗血小板薬の管理
その他の注意薬剤
術前評価では、患者の全身状態、併存疾患、服薬歴を包括的に評価し、麻酔科医、内科医との連携により個別化された薬剤調整プランを策定することが重要です。また、患者・家族への十分な説明と、術前外来での薬剤指導を徹底することで、安全な周術期管理を実現できます。
変形性股関節症患者の多くは高齢者であり、多剤併用による薬物相互作用のリスクが高いため、処方時には綿密な検討が必要です。特に、NSAIDsとの相互作用は臨床上重要な問題となります。
主要な薬物相互作用パターン
NSAIDsと併用注意薬剤。
デュロキセチンとの相互作用。
ポリファーマシー対策
高齢の変形性股関節症患者では、以下のアプローチでポリファーマシーを解決します。
個別化医療の観点から、患者の腎機能、肝機能、心機能を定期的に評価し、薬物動態の変化に応じた用量調整を行うことが重要です。また、服薬アドヒアランスの向上のため、簡素化された服薬スケジュールの提案や、患者教育の充実も欠かせません。
薬剤師との連携により、処方薬と市販薬・健康食品との相互作用についても注意深く監視し、患者の安全性を最優先とした薬物療法を実践することが、変形性股関節症の良好な治療成果につながります。