現在日本で使用可能なSGLT-2阻害薬配合剤は、主に3種類が承認・販売されています。これらの配合剤は、DPP-4阻害薬とSGLT2阻害薬を組み合わせることで、異なる作用機序による相乗効果を期待できる治療選択肢となっています。
主要な配合剤の一覧:
各配合剤は、含有する成分の組み合わせが異なり、患者の病態や腎機能、併存疾患に応じて使い分けが可能です。2018年11月20日にトラディアンス配合錠が発売されて以降、糖尿病治療における配合剤の選択肢が大幅に拡大しました。
これらの配合剤は、単剤を2錠服用する場合と比較して、患者の服薬負担軽減と医療費削減の両面でメリットがあります。特に多剤併用が必要な2型糖尿病患者において、アドヒアランス向上に寄与する重要な治療選択肢となっています。
トラディアンス配合錠は、DPP-4阻害薬のリナグリプチン(トラゼンタ)とSGLT2阻害薬のエンパグリフロジン(ジャディアンス)を配合した製剤です。AP錠とBP錠の2規格が用意されており、患者の血糖コントロール状況に応じて選択できます。
組成と規格:
リナグリプチンは胆汁排泄型のDPP-4阻害薬であるため、腎機能障害のある患者でも同一用量で投与可能という特徴があります。これは他のDPP-4阻害薬と大きく異なる点で、慢性腎臓病を併存する糖尿病患者には特に有用です。
エンパグリフロジンは、腎臓における血液中から尿中への糖の排出を促進することで血糖値を下げる作用があります。さらに、心血管疾患の既往がある2型糖尿病患者において、心血管死亡リスクの減少効果も報告されており、包括的な糖尿病管理において重要な役割を果たします。
用法・用量:
通常1日1回1錠を朝食前または朝食後に経口投与します。食事のタイミングに関係なく効果を発揮するため、患者のライフスタイルに合わせた柔軟な服薬が可能です。
カナリア配合錠は、田辺三菱製薬が開発したシタグリプチンとイプラグリフロジンの配合剤です。通常の錠剤に加えて、OD錠(口腔内崩壊錠)も用意されており、嚥下困難のある患者や水なしでの服薬を希望する患者にも対応できる製剤設計となっています。
適応症:
2型糖尿病が主な適応となっており、食事療法・運動療法のみでは十分な血糖コントロールが得られない患者、または他の経口血糖降下薬との併用療法が適応となります。
主な副作用:
シタグリプチンは国内外で豊富な使用実績があるDPP-4阻害薬で、安全性プロファイルが確立されています。一方、イプラグリフロジンは日本で開発されたSGLT2阻害薬で、日本人患者における有効性と安全性データが蓄積されています。
カナリア配合錠の薬価は208.5円/錠と、主要な配合剤の中では中間的な価格設定となっています。OD錠の選択肢があることで、様々な患者ニーズに対応できる柔軟性の高い製剤として位置付けられています。
注意事項:
腎機能低下患者では、シタグリプチンの用量調整が必要な場合があります。また、SGLT2阻害薬の特性として、尿路性器感染症のリスクがあるため、特に女性患者では注意深い観察が必要です。
スージャヌ配合錠は、MSDが販売するシタグリプチンとエルツグリフロジンの配合剤で、主要な配合剤の中で最も薬価が低く設定されています。薬価は178.8円/錠と、経済性を重視する治療選択において重要な選択肢となっています。
成分の特徴:
シタグリプチンは世界初のDPP-4阻害薬として開発され、豊富な臨床データと長期安全性の実績があります。エルツグリフロジンは比較的新しいSGLT2阻害薬で、選択的なSGLT2阻害作用により効果的な血糖降下を実現します。
選択基準:
スージャヌ配合錠は、2型糖尿病の標準的な治療において、費用対効果に優れた選択肢として位置付けられます。特に、長期間の治療継続が予想される患者において、薬剤費の負担軽減は患者のアドヒアランス向上に寄与する重要な要素です。
臨床的な位置付け:
シタグリプチンは腎機能に応じた用量調整が必要ですが、軽度から中等度の腎機能低下患者でも使用可能です。エルツグリフロジンとの組み合わせにより、インスリン非依存的な血糖降下作用と、軽度の体重減少効果を期待できます。
SGLT-2阻害薬配合剤の臨床使用においては、単剤使用とは異なる特別な注意点があります。配合剤特有の課題として、個々の成分の用量調整ができないことが挙げられ、患者の病態変化に応じた柔軟な対応が制限される場合があります。
重要な併用注意:
特別な患者群での考慮事項:
高齢者では脱水リスクが高く、SGLT2阻害薬による利尿作用により、さらに脱水が進行する可能性があります。また、尿路性器感染症の既往がある患者では、感染症の再発リスクを十分に評価した上で使用を検討する必要があります。
モニタリングのポイント:
定期的な腎機能検査、血糖値測定に加えて、体重変化、血圧変動、感染症の徴候についても継続的な観察が必要です。特に治療開始初期には、患者への十分な説明と頻回のフォローアップが重要となります。
メトホルミンとの三剤併用を考慮する場合は、乳酸アシドーシスのリスクや、ヨード造影剤使用時の休薬についても事前に患者教育を行う必要があります。
薬剤選択の最適化:
患者の腎機能、心血管疾患の既往、併存疾患、経済状況を総合的に評価し、最も適切な配合剤を選択することが重要です。また、治療目標の達成状況に応じて、配合剤から単剤への変更も検討し、個別化医療の実現を目指すべきです。
日本糖尿病学会のガイドラインや各種エビデンスを参考にしながら、患者中心の治療選択を行うことで、より良い糖尿病管理が実現できます。