VASスコア3以上でも、患者の約4割は「痛くない」と日常行動を続けています。

VAS(Visual Analogue Scale)は、痛みの強度を0〜100mmまたは0〜10点の数値で患者自身が評価するツールです。医療現場ではシンプルかつ再現性が高いため、痛みの重症度評価における標準的な指標として世界中で使用されています。
一般的な重症度区分は以下のとおりです。
この3段階区分が基本です。
ただし、数値の境界線は絶対ではありません。たとえば、同じVAS 7でも、慢性疼痛患者と術後急性痛患者とでは求められる介入の速度と種類が異なります。つまり「数値+背景」で重症度を判断することが原則です。
WHO疼痛ラダーとの対応でいえば、VAS 1〜3がステップ1(非オピオイド)、VAS 4〜6がステップ2(弱オピオイド)、VAS 7〜10がステップ3(強オピオイド)に概ね対応します。これは使えそうです。
参考:WHO方式がん疼痛治療法と鎮痛薬のラダー構造について
日本疼痛学会:疼痛管理ガイドライン関連資料
VASスコアを使い慣れているほど、陥りやすい誤解があります。最も多いのが「スコアが低ければ問題なし」という判断です。
研究によると、VAS 3以下でも機能障害(ADL制限)が明確に存在する患者が約30〜40%いることが報告されています。意外ですね。スコアは痛みの「強度」しか測定できず、「苦痛の質」や「機能への影響」は別途評価が必要です。
また、高齢者・認知症患者・小児では自己申告の精度が下がりやすいため、VAS単独での重症度判定は信頼性が低下します。この場合はFACES痛みスケールやNRS(Numerical Rating Scale)、あるいは行動観察型のFLACC尺度(小児・ICU患者向け)を組み合わせることが推奨されています。
VAS単独に頼らないことが条件です。
さらに、同一患者でもVASの数値は測定タイミングで大きくブレます。たとえば、朝の安静時と理学療法後の運動時では2〜3点の差が出ることも珍しくありません。経過評価に使う際は、必ず「測定条件(安静時・体動時・処置時)」を記録と一緒に残す習慣が重要です。
重症度ごとの鎮痛薬選択は、VASの区分を起点に構造化して考えると判断ミスが減ります。
以下は急性痛を想定した実践フローの目安です。
| VAS値 | 重症度 | 第一選択薬 | 追加対応 |
|---|---|---|---|
| 0〜3 | 軽症 | アセトアミノフェン、NSAIDs | 非薬物療法(冷却・安静) |
| 4〜6 | 中等症 | NSAIDs定期投与 ± コデイン | 30分後に再評価 |
| 7〜10 | 重症 | モルヒネ・オキシコドン等の強オピオイド | 専門科コンサルト・モニタリング強化 |
再評価のタイミングも重要です。一般的には鎮痛薬投与後30〜60分でVASを再測定し、2点以上の改善がなければ治療変更を検討します。これが原則です。
術後疼痛管理においては、VAS 4を「治療介入の閾値(トリガーポイント)」として設定しているガイドラインが複数あります。特に日本麻酔科学会の術後疼痛管理ガイドライン(2023年版)でも、VAS/NRS 4以上を追加鎮痛の明確な基準としています。
参考:術後疼痛管理における評価と薬物療法の詳細
日本麻酔科学会:術後疼痛管理ガイドライン
慢性疼痛の場合は少し異なります。慢性痛ではVAS値そのものよりも「過去1週間の平均値の推移」「睡眠への影響」「就労・ADLスコアの変化」を組み合わせた多角的評価が推奨されます。つまり慢性痛はトレンド重視が基本です。
VASはシンプルで強力なツールですが、単独では捉えられない側面があります。他の痛み評価スケールと組み合わせることで、重症度の精度が格段に上がります。
主な補完スケールを比較します。
どれを選ぶかは患者属性次第です。
成人の急性痛ではVASまたはNRS、小児・高齢認知症ではFACESまたはFLACC、ICU管理下ではCPOT、がん性慢性痛ではBPIという使い分けが臨床的に妥当とされています。
これらを電子カルテ上にテンプレートとして登録しておくと、忙しい病棟でも評価の抜け漏れが減ります。記録の統一化だけで重症度見落としのリスクを下げることができます。これは使えそうです。
VASスコアの真の強みは、「1回の測定」より「経時的な変化の追跡」にあります。この視点を持てている医療従事者は、意外と少数派です。
たとえば、介入前VAS 8→介入後3日目VAS 5というデータがあれば、絶対値としては中等症ですが、「3点の改善(37.5%減)」という変化率でみると、治療が効いている可能性が高いと判断できます。臨床的に意味のある最小変化量(MCID:Minimal Clinically Important Difference)は、急性痛で約1.3〜2.0点、慢性痛で約1.0点程度とされています。
MCIDを知っておくことが大事です。
「VAS 7→6になった」は1点の改善ですが、MCIDに満たないため治療変更を検討すべきラインです。一方「VAS 7→5になった」は2点改善でMCIDを超えており、「有効な介入が続いている」と判断できます。この違いを意識するだけで、無駄な薬剤変更や不必要な増量を防げる可能性があります。
経時記録はリスク管理にも直結します。VASの急上昇は新たな病態(骨折・感染・深部静脈血栓症など)のサインである可能性があり、見逃すと重大な転帰につながることがあります。「スコアが上がった=患者が訴えている」という事実を軽視しないことが、医療安全の観点からも不可欠です。
定期的なVAS記録と変化率の評価を習慣化することで、治療効果の客観的な根拠として上司や他職種への説明にも使えるようになります。記録が自分を守ります。
参考:慢性疼痛のMCIDと疼痛評価の継続的活用について
日本脊髄外科学会誌(J-STAGE):疼痛評価関連論文一覧
| スケール | 特徴 | 対象患者 |
| ------------------ | ------------------------- | --------- |
| FPS(フェイス・ペイン・スケール) | 顔の表情絵で痛みを選ぶ | 小児、軽度認知症 |
| VRS(言語的評価スケール) | 「なし・軽度・中等度・高度」で選ぶ | 数字が苦手な高齢者 |
| Abbey Pain Scale | 声・表情・ボディランゲージなど6項目を観察者が評価 | 中〜重度認知症 |
| PACSLAC | 60項目のチェックリスト式観察評価 | 重度認知症 |