コデインは、モルヒネと類似した構造を持つオピオイド系アルカロイドです。アヘン(ケシ)から抽出されるか、モルヒネをメチル化することで製造されます。モルヒネと同様にベンゼン環とピペリジン環を持つモルヒナン骨格を基本構造としていますが、3位のヒドロキシ基がメトキシ基に置換されている点が特徴です。pmc.ncbi.nlm.nih+2
コデインは麻薬性鎮咳薬として分類されますが、医療用医薬品としては各種呼吸器疾患における鎮咳・鎮静、疼痛時における鎮痛、激しい下痢症状の改善に使用されます。体内では主に肝代謝酵素UGT2B7、UGT2B4、およびCYP3A4、CYP2D6で代謝され、約10%がモルヒネに変換されることで薬効を発揮します。wikipedia+1
コデインの鎮痛作用はモルヒネの半分以下とされていますが、咳中枢に対する作用は相対的に強力です。通常、成人には1回2g、1日6gを経口投与することが推奨されており、年齢や症状により適宜増減されます。pharmacist.m3+1
ジヒドロコデインは、コデインのC7、C8位を還元した構造を持つ誘導体で、1911年にA.skita、H.H.Franckによって初めて合成されました。1913年にA.Fraenkelにより咳止めとして臨床応用が開始され、日本やドイツでは特に長年にわたり使用され続けています。h-ohp+2
ジヒドロコデインの最大の特徴は、コデインより強い鎮咳作用を持つことです。具体的には、コデインの約1.4倍の鎮咳作用があるとされています。鎮痛作用については、モルヒネの約1/3、コデインの約2倍の強さを示します。また、精神機能抑制作用、催眠作用、呼吸抑制作用はモルヒネの約1/4で、コデインとほぼ同等とされています。rikunabi-yakuzaishi+2
通常、成人には1回1g、1日3gを経口投与することが推奨されており、これはコデインの約半分の用量です。比較的血中濃度の上昇が穏やかで、即効性と持続性のバランスが良好という特性も臨床上のメリットとなっています。rikunabi-yakuzaishi+1
コデインとジヒドロコデインの力価には明確な違いがあり、臨床現場では正確な換算が重要です。両薬剤とも1%散剤として使用可能ですが、規格単位の1%が同じであっても、力価が異なることに注意が必要です。6yaku+1
具体的な力価関係は以下の通りです。鎮痛作用の強さはモルヒネ>ジヒドロコデイン>コデインの順となります。ジヒドロコデインリン酸塩散1%の3gは、コデインリン酸塩散1%の6gに相当するため、薬剤変更時には1日量を2倍に調整する必要があります。38-8931+1
医療現場では、ジヒドロコデインリン酸塩散1%の在庫がない場合、コデインリン酸塩散1%に変更することがありますが、この際には処方医への疑義照会が必須です。例えば「ジヒドロコデインリン酸塩散1% 3g 分3 毎食後」を「コデインリン酸塩散1% 6g 分3 毎食後」に変更する必要があります。6yaku
| 薬剤名 | 1回用量(成人) | 1日用量(成人) | 鎮咳作用の相対的強さ | 鎮痛作用の相対的強さ |
|---|---|---|---|---|
| ジヒドロコデインリン酸塩散1% | 1g | 3g | 1.4倍 | 2倍 |
| コデインリン酸塩散1% | 2g | 6g | 基準 |
コデインとジヒドロコデインは両方とも、体内で活性代謝産物に変換されることで薬効を発揮します。コデインは主に肝代謝酵素CYP2D6によってO-脱メチル化され、モルヒネに変換されます。このモルヒネがさらにグルクロン酸抱合を受けてmorphine-6-glucuronide(M-6-G)になることで、オピオイド受容体に作用し鎮痛・鎮咳作用を発揮します。yakuzaishi+1
ジヒドロコデインもコデインと同様の代謝経路をたどり、CYP2D6によってジヒドロモルヒネに代謝されます。肝臓で代謝され、投与量の約40%がグルクロン酸抱合されると推定されています。image.packageinsert+2
CYP2D6には遺伝的多型が存在し、酵素活性に個人差があることが知られています。日本人における遺伝子変異の割合は以下の通りです:UM(Ultrarapid Metabolizer、酵素活性が高い)約1%、EM(Extensive Metabolizer、酵素活性が普通)約55%、IM(Intermediate Metabolizer、酵素活性が半分)約40%、PM(Poor Metabolizer、酵素活性がほぼない)約1~2%。yakuzaishi
CYP2D6の活性が高いUM型の患者では、コデインやジヒドロコデインが超迅速に代謝され、モルヒネやジヒドロモルヒネの血中濃度が上昇しすぎるため、呼吸抑制などの重篤な副作用が出現しやすくなります。一方、PM型の患者ではほとんど代謝されないため、鎮痛・鎮咳効果をほとんど得られません。otc-spf+2
コデインの薬物動態と代謝についての詳細な論文(英文)
2017年4月、米国食品医薬品局(FDA)がコデイン類及びトラマドール塩酸塩を含む医療用医薬品の12歳未満の小児等への使用を禁忌とすることを発表しました。EUでは2015年4月にすでに12歳未満の小児への使用が禁忌となっていました。kusurinomadoguchi
禁忌とされた主な理由は、重篤な副作用である「呼吸抑制」のリスクが12歳未満の小児で高くなるためです。特に小児においては、CYP2D6の活性が遺伝的に高いUM型の場合、コデインやジヒドロコデインから生成されるモルヒネやジヒドロモルヒネの血中濃度が危険なレベルまで上昇し、致命的な呼吸抑制を引き起こす可能性があります。otc-spf+2
日本でもこれを踏まえ、厚生労働省の医薬品医療機器総合機構(PMDA)において検討が行われ、2019年より12歳未満の小児に対してコデイン類の使用が禁忌とされました。ただし、日本ではコデイン類の副作用だと疑われる呼吸抑制による死亡例の報告はなく、また日本人のUM型の割合は欧米人よりも低い(日本人約1%、欧米人3.6~6.5%)ことが特徴です。asgen+3
さらに、12歳から18歳の患者であっても、肥満、閉塞性睡眠時無呼吸症候群、または重篤な肺疾患を有する場合には、重篤な呼吸抑制のリスクが増加するため投与しないこととされています。扁桃やアデノイドの手術を受けた18歳未満の患者も使用禁忌となっています。h-ohp+1
コデインとジヒドロコデインは両方とも、「濫用などの恐れのある医薬品」に指定されています。これらの薬剤はオピオイド作用を持つため、ドラッグ代わりとして注目されやすく、1980年代には大きな社会問題となりました。pharmacist.m3
風邪薬や咳止めといった身近で安価な商品に配合されていて入手しやすかったこと、シロップ剤として販売されていたため一気飲みができたことなどが、濫用を助長する要因となりました。現在でも日本では最も濫用されている薬として、コデイン類の名前が挙がっています。pharmacist.m3
オーバードーズによる影響として、連用により薬物依存、呼吸抑制、錯乱などを生じることがあります。コデイン製剤およびジヒドロコデイン製剤は、オーバードーズの原因となる市販薬の約7割を占めているという報告もあります。38-8931
長期使用により、薬効が弱くなる耐性や、やめづらくなる依存性が形成される可能性があります。ジヒドロコデインはコデインより強い鎮咳作用を持つため、より少ない量で効果を得られる反面、依存形成のリスクにも注意が必要です。h-ohp+2
医療従事者は、これらの薬剤を処方する際には、患者に対して適切な使用方法を指導し、長期連用を避け、依存性のリスクについて十分に説明する必要があります。pharmacist.m3
コデインとジヒドロコデインは、臨床現場において使い分けが重要です。ジヒドロコデインは鎮咳作用がコデインの約1.4倍強力であるため、より強い咳症状に対して効果的です。一方、コデインは比較的マイルドな鎮咳作用を持ち、軽度から中等度の咳症状に使用されます。38-8931+2
両薬剤とも効能効果は「各種呼吸器疾患における鎮咳・鎮静」「疼痛時における鎮痛」「激しい下痢症状の改善」と同様です。しかし、実際に効果が確認されているのは痰の絡まない乾いた慢性の咳であり、風邪のときに出る痰の絡む湿った咳にはほとんど効果を期待できないとされています。6yaku+1
処方時の重要な注意点として、以下の禁忌事項が挙げられます。
また、副作用として眠気やめまいが出ることがあるため、車の運転や機械操作を避けるよう患者に指導する必要があります。光に弱いため、直射日光を避けて保管し、使い残しは薬局や医療機関へ返却するよう指示することも重要です。h-ohp
コデインリン酸塩等の12歳未満の小児への使用制限に関する厚生労働省資料(PDF)
処方変更時には力価の違いを考慮し、必ず処方医に確認することが医療安全上不可欠です。6yaku+1
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【第(2)類医薬品】アリナミン製薬(旧武田薬品・武田コンシューマヘルスケア)アネトンせき止め液 100ml<リン酸コデイン配合。咳中枢に効く>【北海道・沖縄は別途送料必要】【CPT】【濫用】