オキシコドンは、アヘンに含まれるアルカロイドのテバインから合成される半合成麻薬で、強力な鎮痛作用を持つオピオイド系鎮痛薬です 。WHO方式がん疼痛治療法において、第3段階で使用される強オピオイドに分類され、モルヒネ、フェンタニルと並んでがん性疼痛治療の中心的役割を担っています 。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AA%E3%82%AD%E3%82%B7%E3%82%B3%E3%83%89%E3%83%B3
商品名としてはオキシコンチン(OxyContin)やパーコセット(Percocet)などが有名で、麻薬及び向精神薬取締法における麻薬として厳格に管理されています 。経口投与でのモルヒネに対する鎮痛効果は約1.5倍とされ、硬膜外投与では1/10程度の効果を示します 。
日本における使用は主にがん性疼痛に限定されており、処方する医師は都道府県単位での登録が必要で、使用量の逐一記録・管理が義務付けられています 。この厳格な管理体制により、欧米と比較してオピオイド関連の問題が抑制されているのが現状です 。
参考)https://www.com-info.org/medical.php?ima_20150730_oonishi
オキシコドンの鎮痛作用は、主にμオピオイド受容体、および一部のκオピオイド受容体への結合によって発現します 。この受容体結合により、脊髄の一次感覚神経終末からの神経伝達物質遊離が抑制され、シナプス後の脊髄後角神経の活動が抑制されて痛みの興奮伝達が阻害されます 。
参考)https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00068636
薬物動態の面では、主として肝臓の代謝酵素CYP3A4で代謝され、一部はCYP2D6で代謝される特徴があります 。血中半減期は約222分(約3.7時間)で、分布容積は2.60 l/kgとなっており、体内からの消失は比較的速やかです 。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC1368617/
モルヒネと同様に、延髄咳中枢の抑制による鎮咳作用、延髄の化学受容器引金帯(CTZ)に存在するD2受容体への作用による催吐作用、μオピオイド受容体刺激による止瀉作用などの付随的な薬理作用も有しています 。
参考)https://data.medience.co.jp/guide/guide-02160002.html
オキシコドンの投与は、速放製剤と徐放製剤の2種類の形態で行われます。速放製剤(オキノーム散)は突出痛に対するレスキュードーズとして使用され、1日量の1/8~1/4を目安とし、15分以内に鎮痛効果が発現します 。
参考)http://www.keio-palliative-care-team.org/medical/medical/handbook_pdf/manual02_03.pdf
徐放製剤(オキシコンチン錠)は通常1日2回の投与で、投与後10~15分程度で吸収が開始され、速やかな鎮痛効果発現が特徴です 。5mg錠の低用量規格が利用可能で、WHO3段階鎮痛ラダーの第2段階からも使用できる利便性があります 。
注射剤による持続静脈内投与や持続皮下投与も可能で、通常成人では1日7.5~250mgの範囲で、年齢や症状により適宜増減して使用されます 。投与開始前のオピオイド治療歴を考慮して初回投与量を設定し、副作用の発現に注意しながら適切に調節することが重要です 。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00060338.pdf
オキシコドンの代表的な副作用として、悪心・嘔吐、便秘、眠気、せん妄などが挙げられます 。しかし、がん患者ではオピオイド以外の多くの原因でこれらの症状が生じる可能性があるため、本当にオキシコドンが原因なのかを慎重に判断することが重要です 。
参考)https://med.m-review.co.jp/article/detail/J0004_2301_0021-0027
過剰投与による中毒症状では、呼吸抑制、意識不明、痙攣、錯乱、血圧低下などの重篤な症状が現れます 。高用量では痙攣発作の副作用があるため、痙攣発作の既往がある場合や高用量投与時には特に注意が必要です 。
参考)https://www.mhlw.go.jp/bunya/iyakuhin/yakubuturanyou/dl/iryo_tekisei_guide2017_03.pdf
セロトニン作用薬(SSRI等)との併用時には、セロトニン症候群を引き起こす可能性があるため、筋緊張亢進、振戦、反射亢進、発汗、激越などの症状に注意深く監視する必要があります 。薬物相互作用の観点から、併用薬剤の慎重な選択と管理が求められます。
アメリカではオキシコドンがオピオイドクライシスの主要原因として問題となっていますが、日本での状況は大きく異なります 。日本における2012年の1人当たり年間オキシコドン消費量は、世界71カ国中32位と比較的少ない状況です 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjspc/28/12/28_21-0059/_html/-char/ja
日本では麻薬及び向精神薬取締法による厳格な規制により、オピオイド鎮痛薬を簡単に処方できない仕組みが確立されています 。非がん性慢性疼痛への処方時には、e-learning受講と医師・患者双方の署名入りの確認書発行が義務化されており、これらの安全管理策が評価されています 。
しかし、偽造オキシコドン錠剤による中毒事例も報告されており、特に若年層での曝露例が増加傾向にあります 。適切な医療管理下での使用の重要性と、未使用薬剤の適切な処理についての患者・家族教育が不可欠です 。依存の既往がある患者では、オピオイド誘発性せん妄のリスクが高まる可能性も指摘されています 。
参考)https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/jja2.12722