アミラーゼは、デンプンやグリコーゲンなどの多糖類を分解する消化酵素で、主に膵臓と唾液腺から分泌されます。血清アミラーゼの基準値は測定方法や医療機関により若干異なりますが、JSCC標準化対応法による酵素法(Et-G7-PNP法)では、一般的に39〜134U/L(37℃)とされています。国立がん研究センターでは44〜132IU/Lを基準値としており、一部の施設では30〜120U/Lや42〜190単位といった範囲を採用しています。
参考)アミラーゼ(AMY)
測定方法には可視吸光光度法やJSCC標準化対応法、ドライケミストリー法などがあり、現在の主流はEt-G7-PNP基質を用いた酵素法です。この方法では、4,6-エチリデン-4-ニトロフェニルマルトヘプタオシド(Et-G7-α-PNP)を基質として用い、アミラーゼによって加水分解されて生成するp-ニトロフェノールの吸光度増加速度を405nm付近で測定します。検体は血清または尿を使用し、血液検査では1〜2日で結果が得られます。
参考)アミラーゼ(AMY)
尿中アミラーゼの基準値は血清よりも幅が広く、随時尿で57〜813U/L(37℃)、一部の基準では130〜1200単位や700未満U/Lとされています。尿中アミラーゼは血清中アミラーゼより膵特異性が高く、比較的持続性の傾向があるため、膵疾患の診断において血清アミラーゼの補助検査として有用です。
参考)仙台産業医科診療所|肝機能・膵機能をみるデータ
血清アミラーゼが基準値を超えて高値を示す場合、最も重要な鑑別疾患は急性膵炎です。急性膵炎では発症後数時間以内にアミラーゼが上昇し、基準値の3倍以上(一般的には300〜400U/L以上)に達することが診断基準の一つとされています。膵臓で産生されたアミラーゼが膵細胞の破壊により血液中に漏れ出すため、著しい高値を示します。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11298970/
慢性膵炎では、病期により異なるパターンを示します。活動期には軽度から中等度の上昇が見られますが、末期の慢性膵炎では膵組織の荒廃により膵細胞が破壊され、逆にアミラーゼ値が低下することがあります。このため、アミラーゼ低値が認められた場合も、進行した慢性膵炎や膵臓がん、膵臓全摘術後などの可能性を考慮する必要があります。
参考)アミラーゼが高いと言われました。 - 広島市で内視鏡検査(胃…
膵臓がんでは必ずしも高値を示すわけではありませんが、膵管の閉塞や膵実質の破壊により軽度から中等度の上昇が見られることがあります。膵嚢胞や膵偽嚢胞でも同様に上昇が認められます。ただし、アミラーゼ高値のみでは急性膵炎と確定診断できず、上腹部痛などの臨床症状と、腹部超音波検査(US)やCT、MRCPなどの画像検査を組み合わせた総合的な評価が必要です。
参考)https://nittobo-nmd.co.jp/product/p-amy.html
血清中のアミラーゼには、膵臓由来のP型(膵型、Pancreas)と唾液腺由来のS型(唾液腺型、Saliva)という2種類のアイソザイムが存在します。P型アミラーゼは分子量約54,000〜60,000、S型アミラーゼは分子量約56,000〜65,000と、わずかに分子構造が異なります。総アミラーゼが高値を示した場合、このアイソザイム分画を測定することで異常の由来臓器を特定できます。
参考)https://www.rakuten.ne.jp/gold/pycno/special/about_amylase.html
P型アミラーゼが主に上昇している場合は、急性膵炎、慢性膵炎、膵臓がん、膵嚢胞などの膵疾患が疑われます。特に急性膵炎や慢性活動性膵炎ではP型が著増します。一方、S型アミラーゼが主に上昇している場合は、流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)、唾石症、その他の唾液腺疾患が考えられます。健康診断などで総アミラーゼ高値を指摘された場合、P型アミラーゼが正常値であれば膵臓の病気とは関連がなく、過度な心配は不要です。
参考)P型アミラーゼ(アミラーゼアイソザイム(膵型))
アイソザイムの測定方法には、電気泳動法と免疫化学法があります。電気泳動法では各アイソザイムの割合を知ることができ、正常人血中では陽極側(fast-γ位)のP型と陰極側(pre-γ位)のS型活性帯が主に認められます。免疫化学法では目的の分画を蛋白として定量化することが可能で、S型アミラーゼを阻害する抗体を用いて検体中のS型アミラーゼを阻害し、残存しているP型アミラーゼ活性を測定します。
参考)アミラーゼアイソザイム
マクロアミラーゼ血症という特殊な病態も存在します。これはアミラーゼが免疫グロブリンなどと結合して高分子複合体を形成し、腎臓から排泄されにくくなることで血清アミラーゼが持続的に高値を示す良性の状態です。電気泳動法ではP型、S型と異なる泳動パターンを認めるため鑑別が可能です。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10098064/
アミラーゼ値の上昇には、膵臓や唾液腺以外の様々な要因が関与します。急性膵炎の主要な原因として、過度のアルコール摂取が挙げられます。アルコールや脂肪の摂り過ぎにより膵細胞の負担が増加し、膵細胞が破壊されると膵液中のアミラーゼが血液中に漏れ出します。胆石症による胆道閉塞も重要な原因で、胆石が総胆管に嵌頓すると膵液の排泄が障害され、急性膵炎を引き起こします。
参考)急性膵炎とは?|ドクターコラム|新百合ヶ丘総合病院
高トリグリセリド血症(高脂血症)も膵炎の原因となり、血清トリグリセリド値が1,000mg/dL以上になると急性膵炎のリスクが高まります。糖尿病性ケトアシドーシスでもアミラーゼ上昇が認められることがあります。さらに、開腹術後、腹部外傷、十二指腸潰瘍穿孔、腸閉塞、腹膜炎などの急性腹症でも血清アミラーゼが上昇します。
参考)【FP監修】アミラーゼが多い人の特徴は?基準値や数値が高くな…
慢性腎不全では腎臓からのアミラーゼ排泄が低下するため、血清アミラーゼが上昇する一方で尿中アミラーゼは低下します。また、体質的に正常値より高値を示す方もおり、Body Mass Index(BMI)が高いほどアミラーゼ値が高くなる傾向があります。同一人物でも体重減少によりアミラーゼの低下を認めることが報告されています。ストレスや暴飲暴食も一時的なアミラーゼ上昇の要因となります。
参考)アミラーゼ[ラボ NO.545(2024.6.発行)より]
妊娠に伴う急性脂肪肝に合併した急性膵炎の症例報告(日本外科学会雑誌)
※妊娠中の急性膵炎など特殊な病態におけるアミラーゼ変動についての参考文献
アミラーゼ検査には血液検査(血清アミラーゼ)と尿検査(尿中アミラーゼ)があり、それぞれ異なる臨床的意義を持ちます。血清アミラーゼは膵臓や唾液腺の急性障害を鋭敏に反映し、急性膵炎では発症後数時間以内に上昇し始め、24〜48時間でピークに達します。その後は比較的速やかに正常化しますが、膵炎の重症度によっては数日間高値が持続することもあります。
参考)アミラーゼ(AMY) 尿|臨床検査項目の検索結果|臨床検査案…
尿中アミラーゼは血清アミラーゼより膵特異性が高く、比較的持続性があるため、血清アミラーゼが正常化した後も高値が続くことがあります。急性膵炎の診断において、血清アミラーゼが既に正常化している時期でも、尿中アミラーゼが高値を示すことで診断の手がかりとなります。ただし、尿中アミラーゼは尿量による変動があるため、単独での評価には限界があります。
参考)尿中アミラーゼ検査
アミラーゼクリアランスとクレアチニンクリアランスの比(ACCR:Amylase/Creatinine Clearance Ratio)を求めることで、腎機能の影響を除外した評価が可能になります。ACCRは通常1〜4%ですが、急性膵炎では6%以上に上昇し、マクロアミラーゼ血症では1%未満に低下します。この指標により、膵障害の診断精度を高めることができます。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10667079/
急性膵炎においては、血清アミラーゼと尿中アミラーゼの両方を測定することで、診断の感度と特異度が向上します。また、膵液の産生、分泌、代謝、排泄のどこに障害があるかによって、血清と尿中のアミラーゼ値のパターンが異なるため、両者を比較することで病態の理解が深まります。ただし、急性膵炎の約19%では血清アミラーゼが正常範囲内(normoamylasemic pancreatitis)であることも報告されており、アミラーゼ値のみに依存した診断は避けるべきです。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11531651/
BML総合検査案内:血清アミラーゼ検査の詳細
※アミラーゼ検査の基準値、測定方法、臨床的意義についての詳細情報
BML総合検査案内:尿中アミラーゼ検査の詳細
※尿中アミラーゼ検査の基準値と血清アミラーゼとの比較に関する情報