胆石症または胆石の既往歴がある患者において、フィブラート系薬剤は絶対禁忌とされています。具体的な薬剤名として、デリバ(ベザフィブラート)、アルフィブレート(クリノフィブラート)、コレソルビン(コレスチラミン)などが挙げられます。
フィブラート系薬剤が禁忌とされる主な理由は以下の通りです。
特に、既存の胆石が存在する患者では、これらの薬剤により胆石の増大や新たな胆石形成が促進される可能性があります。また、胆嚢収縮能の低下も報告されており、胆汁うっ滞のリスクも増加します。
臨床現場では、脂質異常症の治療が必要な胆石症患者に対しては、スタチン系薬剤やエゼチミブなどの代替薬を選択することが推奨されています。
胆石症患者において、麻薬性鎮痛薬は慎重投与が求められます。これには以下の薬剤が含まれます。
麻薬性鎮痛薬が胆石症患者に与える影響は複数の機序によるものです。
オッディ括約筋への影響
麻薬性鎮痛薬、特にモルヒネやコデインは、オッディ括約筋の収縮を引き起こします。この作用により胆管内圧が上昇し、既存の胆石が胆管に嵌頓するリスクが高まります。また、胆汁の流出が阻害されることで、胆汁うっ滞や胆管炎のリスクも増加します。
胆嚢収縮能への影響
オピオイド受容体を介した作用により、胆嚢の収縮能が低下します。これにより胆汁の停滞が生じ、胆石の形成や既存胆石の増大を促進する可能性があります。
疼痛マスキング効果
麻薬性鎮痛薬の強力な鎮痛効果により、胆石発作の典型的な疼痛がマスクされる可能性があります。これにより診断が遅れ、重篤な合併症を見逃すリスクがあります。
胆石症患者の疼痛管理においては、NSAIDsやアセトアミノフェンなどの非オピオイド系鎮痛薬を第一選択とし、やむを得ずオピオイドを使用する場合は、最小有効量での短期間使用に留めることが重要です。
2023年2月、厚生労働省はGLP-1受容体作動薬およびGIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチドの添付文書改訂を指示しました。この改訂により、胆道系副作用に関する注意事項が大幅に強化されています。
対象薬剤
新たに追加された重大な副作用
添付文書の「重大な副作用」の項に以下が新設されました。
国内症例の集積状況
厚生労働省の報告によると、急性胆道系疾患関連症例として、医薬品と事象との因果関係が否定できない症例が複数確認されています。幸い死亡例は報告されていませんが、重篤な症例も含まれており注意が必要です。
臨床的注意点
GLP-1受容体作動薬使用患者において腹痛等の腹部症状が認められた場合は、必要に応じて画像検査(腹部超音波検査、CT検査など)による原因精査を考慮することが重要です。特に、既存の胆石症患者では定期的なモニタリングが推奨されます。
この副作用は、GLP-1受容体作動薬の胃排出遅延作用や胆嚢収縮能への影響が関与していると考えられています。
ウルソデオキシコール酸(ウルソ)は胆石症治療の基本的な薬剤ですが、適正使用のためには厳格な適応基準と相互作用への注意が必要です。
ウルソの適応基準
胆石溶解療法が効果的とされる条件は以下の通りです。
これらの条件を満たさない場合、ウルソによる溶解療法は効果が期待できません。CT値が200以下の結石では、より新しい溶解剤(GS-100など)の適応も検討されます。
重要な相互作用
ウルソは以下の薬剤との相互作用に注意が必要です。
糖尿病治療薬
コレスチラミン(クエストラン)
制酸剤
ウルソの作用機序
長期投与においても重篤な副作用は少ないとされていますが、下痢、軟便、便秘、吐き気などの消化器症状や、かゆみ、蕁麻疹などの過敏症状が報告されています。
胆石症患者の薬物治療においては、単純な禁忌・慎重投与の判断だけでなく、個々の患者の病態や合併症を総合的に評価した臨床判断が重要です。
胆管結石の特別な注意
胆管に胆石がある患者では、胆石溶解薬でさえも慎重投与とされています。これは、胆管結石により胆汁のうっ滞が引き起こされる可能性があるためです。シャルコーの3徴(疼痛・黄疸・発熱)が揃った場合は、緊急性の高い胆管結石を疑い、即座に適切な処置が必要です。
肝機能障害合併例での注意
胆石症患者が肝機能障害を合併している場合、薬剤選択はさらに複雑になります。多くの薬剤で肝機能障害時の禁忌・慎重投与の記載があり、胆石症の禁忌薬と肝機能障害の禁忌薬の両方を考慮する必要があります。
代替療法の検討
禁忌薬が第一選択となる疾患を合併している場合は、以下の代替アプローチを検討します。
モニタリング体制の構築
やむを得ず慎重投与薬を使用する場合は、以下のモニタリング体制を構築します。
多職種連携の重要性
胆石症患者の薬物治療では、医師、薬剤師、看護師の連携が不可欠です。薬剤師による服薬指導では、禁忌薬の説明だけでなく、市販薬との相互作用や症状変化時の対応についても詳細に説明することが重要です。
また、患者自身が複数の医療機関を受診する場合は、お薬手帳を活用し、胆石症の既往と使用禁忌薬について確実に情報共有を行う体制の構築が求められます。
胆石症患者の薬物治療は、単純な禁忌薬の回避だけでは不十分であり、病態の理解に基づいた総合的な治療戦略の立案が必要です。個々の患者の病状、合併症、生活背景を総合的に評価し、最適な薬物治療を提供することが、安全で効果的な医療につながります。